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私のとっておきの「リオデジャネイロ」よ (前編)/コスモポリタン都市「リオデジャネイロ」 (後編) 朝日新聞『どらく』より。
ミク友でもある同船者の園田さんから朝日新聞の記事紹介を受けた。《朝日新聞に『どらく』という欄がある。この中の『癒のロマン大陸』リオデジャネイロというのが出た》、《ブラジルに縁の深い皆さん、ぜひ下記をクリックして、リオを想像、思いをめぐらせてほしい》とのことで早速覗いてみた。仕事でも関係がありマナウスの在伯商工会議所代表者が集まった船上会議でもご一緒だったリオの日本商工会議所会頭、三菱商事リオ支店長の堤寿彦さんが紹介されていた。写真も豊富でこれは頂きとばかりお借りして寄稿集に収録させて頂く事にした。
この『どらく』の『癒のロマン大陸』に紹介されている堤さんを通じてのリオ取材を石川 静記者が良く撮れた写真と共に紹介している記事は面白い是非皆さんにも読んで頂きたい。
写真も同記事から堤さんの剣道着姿の勇姿をお借りしました。


私のとっておきの「リオデジャネイロ」よ (前編)
「ヤッ!」
「トウー!」
気迫のこもった掛け声が広い体育館に響く。

居合道着に身を包み、木刀を手にした生徒たちが整然と居合の稽古(けいこ)にはげむ様子は、日本で見慣れた道場の風景。様子が違うのは、彼らのばらばらの肌や瞳の色、彫りの深い顔立ち。と、先生が生徒たちを集めて解説を始めた。
ここはリオデジャネイロの日系協会講堂、流ちょうなポルトガル語で指導を行う先生が、堤寿彦さん(54)である。
堤さんがブラジルで居合を教え始めて3年になる。伯国三菱商事リオデジャネイロ支店長として日々を過ごすかたわら、居合道錬士6段・剣道5段の腕を生かし、各所で演武会やセミナー、昇段審査と武道の普及につとめ、2007年9月にリオで開催された世界柔道大会開会式でも居合の演武を行った。今日は地元の2道場の合同練習、20数名の生徒たちに居合と剣道を教えている。
「つばぜり合い」「上段」「下段」……解説の合間にはこんな日本語も聞こえてくる。足さばきを見せながら「サンバ」「ダンス」とブラジル人に馴染み深い言葉を使い笑顔を見せるが、彼らの所作に投げる眼光は鋭く厳しい。
やがて堤さんは生徒たちを向かい合わせ、真剣を持たせた。じりじりと間を詰め、ふたりの息づかいが少し荒くなる。頃合いを見計らって次のペアに交代。緊張感の漂うなか居合道の稽古は締めくくられ、次は剣道。「めーん!」「どーお!」。掛け声が館内に響き、同協会内にある日本語学校の生徒たちが物珍しげにのぞいていく。
窓の外にはからりとした青空が広がる、のどかな南国のお昼どきだ。
稽古のあと、生徒たちと堤さん夫妻のランチパーティにお邪魔した。
「精神的なものを求めて」
「日本の文化に興味があって」
武道を始めたきっかけは、日本のアニメ「るろうに剣心」や、映画「ラスト・サムライ」などで抱いたあこがれから、という人は多いという。居合は勝負というより精神性を重視する世界、とっつきにくくはないだろうか?
「最初は不思議でしたが、今は理解できたように思います。敵は自分のなかにいるんです」
「武道をはじめてからすべてが変わり、迷うことが少なくなりました。刀を持つようになったことで、ミスすることの大きさに気がついたからかもしれません」
皆、熱心に語る。今日の稽古は、真剣を使ったことでさらに印象深いものになったようだ。
「真剣で対峙(たいじ)すると、あるところまで近づくと怖くて足が止まってしまう。そこからの間合いをどうするか考えるのが重要です。そんな経験を通じ、人間関係の距離が測れる人になってほしいですね」
「武道は殺生のためでなく、心を高めるためのものだと理解してほしい」
武道の心、日本人の心を伝えることで、ブラジル人と日本人が理解しあえる助けになるといい。武道、そしてブラジルへの熱い思いが堤さんを突き動かしている。
1人の生徒は彼を「idolatrar(イドラタール=最高、素敵、崇拝する)」と称した。武道で彼らの世界を拡げ、あまり交流のなかった2道場の合同練習を実現させ仲間の輪を拡げてくれた堤さんは、彼らが尊敬してやまないサムライである。
「ブラジルのあちこちを回りセミナーも行ってきました。彼らの心は真っ白で、言うことをそのまま信じてくれる。こちらも一生懸命勉強してかからないと。自分を通じて彼らは日本を知り、やがてもっと深くかかわることになるかもしれません。人生を左右することをしているんだ、という自覚をもたねばと思っています」
例えば、生徒の1人・ギマライスさんがそうである。
「強くなって村に道場を作りたい」
そう語る彼の故郷・ ジアマンチーナ村は18世紀のダイヤモンドラッシュで栄えた地。コロニアルな街並みは世界遺産にも認定されている。だが村そのものは貧しく、身寄りのない彼は孤児院で育てられた。働くために出てきたリオで武道、そして堤さんと出会い夢が定まった。いつか故郷に戻って、子供たちに武道を教えるのだ。彼に頼まれ、堤さん夫妻は飛行機で2時間、バスで7時間の道のりを超えて村を訪れ、演武を披露したことがある。
「忙しくて会場に来られない、という人のために、夜になってバーの前で演武をして。大道芸人だね、なんて笑い合いましたよ」
妻の早苗さんはおかしそうに回想する。だがそのときの体験は深く印象に残り、堤さんは今も村と関わり続けている。とりわけ、日本の大学で美術を学ぶ長女への影響は大きかった。
「彼女にその話をしたところ、その次にブラジルにやってきたときはリオに寄らないで直接村に行き、孤児院に泊まり込み子供に工作や絵を教えて過ごしたそうです。自分が学ぶ芸術が、社会とどう関われるかを考えていた時期だったので、彼女の得たものは大きかったのでしょう」
武道はもとより、自然環境保護活動や孤児院への寄付など、今の堤さんは会社人としても私人としても積極的に社会貢献活動に関わっている。2007年には伯国三菱商事創立50周年を迎え、社員で相談し、貧しい公立の50ヶ所の小中学校に500個のサッカーボールを寄付した。そんな活動の大切さを実感したのはギマライスさんがきっかけだったかもしれない、と言う。
取材最後の日、生徒たちと堤さんの姿はイベントの会場にあった。2008年は日本人のブラジル移民百周年。記念行事の一環として、今日は武道に関連した講演と居合道・剣道の演武が行なわれるのだ。迫力の演武を静まり返って見つめていた観客も、最後に体験打ち込みを、と呼びかけられるとがぜんにぎわいだした。渡された竹刀を手にとり、生徒たちの面に打ち込んでいく。盛り上がる場内を見守る堤さんの顔は、柔らかくほころんでいた。
「絶対に、皆さんも次はジアマンチーナに来てくださいね」
別れ際、演武で汗ばんだ顔でギマライスさんは我々を見送ってくれた。
「明るさ、大らかさ、そして人の潜在力」
ブラジルの明るい未来を感じさせるものとして、堤さんはこんなことを挙げた。ただそれを無理して伸ばしていく必要もないと感じるという。
「彼らのテンポで、彼ら自身で伸びていってほしいです」
まな弟子たち、そしてブラジルの未来を信じて、この地で伝えたいことはまだまだ残っている。

(文・写真 山田静)
(更新日:2007年12月01日)

コスモポリタン都市「リオデジャネイロ」(後編)
居心地がいいですねえ。
滞在中、何度も取材スタッフといい交わした。たぶんそれは、人々の絶妙な距離の取り方にある。
レストランで生徒たちに混じったとき、武道のイベントで観衆の中で撮影していたとき。どこに行っても言葉が通じないのにあまり困らない。
特に気を使われているわけでもなく、彼らは自分たちの会話を楽しみながら、何気なく料理をとりわけてくれたり、撮影にいい場所を教えてくれたり、緊張した顔をしていると身振り手振りの冗談で笑わせてくれたり。その人懐っこさにずいぶん助けられた。
まちを歩くと別の意味で居心地がいい。あらゆる肌や髪の色の人がいて、自分が異邦人であることを忘れてしまうのだ。それは、ニューヨークにいるときと同じ感覚だ。「人と違うことを気にしませんし、自分と違うことを受け入れる気持ちが強い」堤さんがそう評していたことを何度も思い出した。
ビーチを訪れるとさらにそんな気分が強くなる。
色とりどりの水着姿の老若男女が白砂のビーチに点在するさまは、遠目に見ると、カラフルなビーズが散らばったよう。ビーチバレーに興じる老人たち、サッカーボールを追い回す子供たち、手をつないで海に入る中年夫婦。ビキニ姿の女性たちについ目を奪われるが、これがみごとに年齢も体形もばらばらで、堂々たる着こなしっぷりはむしろ気持ちがいい。
「スタイルがよくないからビキニは着ない、という気持ちはありませんよ」
カリオカ(リオっ子)はそう言った。
ここ数年、日本、とくに女性のファッション業界で注目されているのはブラジル発のファッション。水着や日常着の大胆な色使いや形が人気を集めているのだが、業界の人によれば、「ブラジルの服は、隠すのではなく、女性らしいところを最大限にアピールするように造られているんですよ。前向きなんですね」という。
自分なりのペースで好きなものを着て好きなように時間を過ごす。彼らのテンポは、リオデジャネイロ発祥のボサノバのリズムが確かにしっくりくるように思えた。
もうひとつ、見てみたいものがあった。収容人数11万5千人という巨大なマラカナンサッカー場である。だが、同行したカリオカはあっさり、
「今日は無理ですよ。試合がありますから、近寄れません」
試合時間が近づくと車道も歩道も車で埋まり、みな適当に車を止めてそこから歩いて行くのだという。だから、近寄れないというのだ。短時間だけスタジアムの前で車を止めてもらうと、開始数時間前だがすでにチケットを求める長い行列ができていた。
試合がはじまったころ、車窓から外を見ると、まちのあちこちに人だかりができている。
「サッカーを見ながらビールを飲むんですよ」
テレビを置いたオープンテラスのバーで、一喜一憂しながら大騒ぎするのだという。
「でも、あんまり大きなけんかになりませんね。ちょっと殴ってすぐ忘れます」
カリオカが言ったことに、堤さんの話を思い出した。
「この国の人々は、最大公約数的なところのとりかたを心得ているように思います。いくら話してもけんかにならず、話の落としどころを知っているんです」
人との間合いの取り方に関して言えば、ブラジル人は有段者の域に達しているのかもしれない。
その夜は、ブラジル名物・肉の塊を岩塩で焼き上げたシュラスコを食べに出かけた。と、おそろいのサッカーウエアを着たグループが入ってきて、隣のテーブルについた。観戦帰りなのだろう、乾杯で盛り上がっている。
「地元のサポーターかな?」聞くと、
「みんな静かだから、ブラジル人じゃないよ」
カリオカは涼しい顔で即答した。聞けば確かにデンマークからの観戦ツアー。ブラジル人かどうかは顔だけでは判別がつかないのだが、その見分け方をひとつ学んだ夜だった。
(文・写真 山田静)
(更新日:2007年12月21日)

堤寿彦さん
1978年三菱商事入社の54歳。日本では船舶部、機械総括部、船舶鉄構部などに所属。1991年から1996年にかけてロンドンに駐在、2003年からは伯国三菱商事リオデジャネイロ支店長として駐在。2004年4月から、リオデジャネイロ日本商工会議所会頭も務める。




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