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【飢餓(超貧困)と飽食(富裕)が同居するブラジル】 麻生 悌三さんの寄稿。
麻生 悌三さん(東京農業大学卒)は、農業移住者としてブラジルに移住、アマゾン開発から始まりサンパウロに移動後は、貿易関係の仕事に携わり最後は伯国三菱商事の食糧部長として定年退職し現在も対日鶏肉輸出業務に携わっておられます。これまでに『私たちの40年!!』寄稿集に食糧関係の話題で寄稿して頂いていますが、今回はブラジルの一つの特徴としての貧富の差の大きさに焦点を当ててその実態を纏めて呉れています。飢餓と飽食、正にブラジルの異なる2面が共存している姿は、グロバリゼシオンが進む2極化が進む現代社会の特徴ともいえるものでしょう。
適当な写真がないとの事でFABERA【スラム街】で検索したところリオのファベラとして出て来た写真をお借りしました。


ブラジルの貧富の格差は世界のトップレベルで人口の16%の富裕層が富の80%を占め、20%の貧困層の富に対する割合は2%でしかない。人口の約1割の2千万人が飢餓
状態と言われている。ブラジルは世界有数の食糧資源国であり、輸出国でもある。問題は
その有り余った食糧にアクセスできない階層があり、富める者は益々富み、貧困層は益々
貧困になると言う不合理な現実が支配している。しかも,下層からの脱出は容易ではない。
ブラジルの一人当たりの年間のGDP(所得)はUS$4320,00(2005年度)である。しかし、1日当たりの1ドル未満の低所得層が人口の8%あり、(現在のブラジルの人口は約1億9千万人)この指数は80年代から余り変わっていない。生後1年未満の
乳幼児が1日当たり、280人が栄養失調で死亡している。一方、富裕層の生活の内容と食物
摂取の量とカロリーは際立っており、まさにメタボの大群である。この所得の不均衡が問題である。2003年よりルーラ大統領の提唱で(労働党の選挙基盤は貧困層)Fome Zero
(飢餓ゼロ)運動を開始し、貧困層に基本食糧の無料配布、子供の数に応じた養育費の助成等も行われているが、根本的解決には程遠いい。マイナス効果としては、農村季節労務者の不足があげられる(食えれば働かない)。貧困を生み出す要因は多様であるが、その一つとして、比較的近年まで、300年近く行われてきた、奴隷制の問題もある。1888年の奴隷解放の時点でブラジルに75万人の奴隷がいたらしい。アフリカから運ばれた奴隷の総数はブラジルだけで300万人と言われており、奴隷時代からの伝統である、怠惰、無気力、享楽指向等も貧困の原因と無関係ではない。ブラジルの貧困の象徴である、下記の事例に就いて述べてみる。
―南北格差=2004年の統計では,州別の一人当たり年間所得は、公務員の多いいブラジリヤが約9535ドル、2位がリオの7318ドル、3位がサンパウロで6962ドル、4位がリオグランデドスール州で6660ドル、4位がパラナ州で5362ドル。あとは、中西部,北伯、東北伯が続き所得の最下位意はマラニョン州の1474ドルである。南北の貧困の格差は歴然であり、文盲率も北伯20%に対し南伯5%と低い。
―ファヴェーラ(スラム)=主として農村部から都市に流入した貧困層が都市部の土地を不法占領しバラックを建て、居住区としているスラム地区であり、リオとサンパウロのファヴェーラが名高い。リオ市は600万人の人口に対し、564箇所のファヴェーラがあり、200万人が暮らす。麻薬、武器,犯罪の巣窟であり、しばし、警官隊と銃撃戦がある。
(流れ弾で一般住人が巻き添えで死亡するのもまれではない)サンパウロ市は人口1100万人に対し、ファヴェーラ人口は150万人と見積もられている。私生児の数も多く、貧困、無教育、医療の不在等は犯罪の温床であり、貧困の再生産の土壌でもある。
すさんだ社会は事件を生み出し、社会問題となる。次にブラジルの社会相に就いて記述する。
―殺人事件=1997−2006年の10年間で殺人事件の犠牲者数は462000件。
年間平均4,6万人であり、日本に於ける殺人事件の実に30倍である。2005年にブラジルは世界に類を見ない、銃器規制の国民投票を行った。結果はノーであり、国民の総意が銃器に依る自衛を正当化している。この殺人件数の中には、警官による、犯人の射殺も多数、含まれる。死刑制度のないブラジルでは射殺による非合法の死刑執行が行われる。
ヴェトナム戦争の米軍の戦死者は3年間で4万名で年間1,3万人の死者で反戦運動が起こった。
又、第二次湾岸戦での米軍死者3千名でイラク撤退が騒がれている。この程度ではブラジルでは問題となる数ではない。正に、ブラジルの治安は内戦状態と云えよう。
―交通事故死=ブラジル人一般の自動車の運転マナーはよろしくない。1933−2003年
の過去10年間で交通事故の死亡者(即死)は325000人である。日本に於ける交通事故死は年間6千人程度ゆえ、5倍である。アメリカも年間39000人の交通事故死が記録されているが、人口比(アメリカは3億人)でみるとブラジルの方が多い。
―自殺=ブラジル人の一般的国民性は陽気と無責任が共存しており、カトリックの教義もあり、自殺とは、無縁の国民性と理解していたが、80年代から急速に増加し、2004年度で
8千人が自殺している。(日本は34000人―2004年で世界の上位)日本の自殺者は高齢者が多いいが、ブラジルでは若年層が多い。又、地域別自殺者数ではリオグランデドスール州が目立って多いい。
―エイズ(HIV)の蔓延=1980−2007年の間で約474千人の罹病者が記録されており、アフリカを除いてUSAに次ぐ世界第2位のランクである。エイズの発生は近年で発生地のアフリカからハイチに移り、1981年にアメリカで発病を見て世界的に拡大した。伝染はフリーセックス、ゲイ、麻薬の注射の廻し打ち、輸血、母子伝染等が主な原因である。罹病者は男314千、女154千の比率だが,女性が増加している。
―ブラジルコスト=ブラジル独特の経済的コストで、その中には、税金(74種類の税金あり)と税制の複雑性、高率の税金(小売価格の48%が各種税金)。銀行金利(サラ金並みの金利もあり)、社会福祉費負担額(GNPの36%)、行政機関の非効率性等があげられる。
―公務員の優遇策=ブラジルの公務員の優遇策は際立っており、歴代大統領が改革を取り上げるが、改善されていない。その理由は、国会議員も立法院の職員(裁判官等)も公務員であり、自分たちの不利になる法案は与野党こぞって廃案にするからである。
連邦、州、市の公務員の総数は凡そ300万人。(国民60人で一人の公務員を養っている)
この年金額は486億レアル(2000年)。公務員が社会福祉費を払うようになったのは
1991年からで、それまでは免除されていた。公務員の年金受給年齢は男53歳、女48歳であり、一方、民間は男60歳、女55歳である(しかも受給額の上限がある)。公務員
の上の方の年金は国会議員で約5500ドルー月間で裁判官は9500ドルー月間である。

―ブラジルの富裕層=富裕層(人口の約10%)の一般的生活は、別荘を持ち、女中がいて、年収10万ドル以上の階級ではなかろうか。その階層は、高級官僚,大農場主、大企業
の管理職、企業のオーナー、医者、弁護士等が主たる構成者と思われる。社会の貧富を表す数値にジニ係数と言うのがあり、社会の所得の不均衡を0から100までの数値で計算し、40−50の数値になると社会不安が起きると云う学説がある。USAの係数は40.
―ジニ係数に依る、日本とブラジルの貧富の比較(2005年度の指数)
所得を5段階に分けて所得の多いい順にその配分率を比較すると。(分け方は概略)
ランク        日本        ブラジル
A          35%        59,3%
B          22         18
C          15         14
D          14         0,5
E          11         0,2
―日本の場合 (2005年のGNPはUS$35756、−)
A 35756 x 5 x 35% = 約US$62000.−
B             22    =     39000
C             15    =     26000、−
D             14   =     25000、−
E             11    =     19000、−
ジニ係数は24,9.極めて所得の配分が良い。
―ブラジルの場合(2005年のGNPはUS$4320、−)
A 4320 x 5   x 59,8%=約US$  12916、−
B              18  =        3888、−
C              14  =        3024、−
D              0,5 =         108、−
E              0,2 =          43、− 
ジニ係数は59,3(社会不安が起きなければ不思議な数値)両国の所得配分率は歴然。
―飽食(ブラジルの一人当たりの年間の動物蛋白摂取量)
品目         生産量        輸出量       摂取量
牛肉         8,8百万トン    50万トン     36,7kg
豚肉         2,1百万トン    26万トン     12,8kg
鶏肉         1千万トン      300万トン    36,8kg
鶏卵           −         −        80個
魚介類          −         −        6 kg
(アマゾン流域での魚の消費は年間一人当たり50kgと見積もられている)
動物蛋白の摂取が充分でない貧困層の存在を考えると、一般の数値は上よりあがる。
主要国の牛肉消費
アルゼンチン,ウルガイ       66,4kg一人、年間
USA               43,8kg
カナダ               31,1
欧州                17,9
オウストラリア           37,5
日本                 9,7
アメリカの牛肉、豚肉、鶏肉の総数は92kg位といわれているがブラジルは88,4kgあり、動物蛋白の消費では飽食国家アメリカと大した差がない。

貧富の格差がこれだけあって、治安もゲリラ、テロは皆無だが,よくはない。社会一般は悪さを、それほど、感じさせないほど、平穏なのはブラジルの風土、国民性よるものだろうか。それとも、社会全体が無関心になってしまったのだろうか。
以上
麻生
2008年2月15日 



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