ブラジルの養豚 麻生 悌三さんの寄稿です
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何時もブラジルの農業関係の話題を選びご自分の得意部門(東京農大卒、アマゾンでの熱帯農業に挑んだのち伯国三菱商事の食糧部長として活躍)での実経験と取材をもとに上手くまとめ挙げておられブラジルの農業関係の話題を知りたいと思えば『私たちの40年!!』にアクセスすれば麻生さんが纏められた統計資料等も含めた情報が得られると云った便利な欄になりました。本来なら麻生さんのブラジル農業欄でも設けて纏めておいた方が見つけやすいのではないかとも思いますがやはり一番力を入れている同船者【移住者】の欄に入れて置きたい方です。
麻生さん有難う。今後の幅広い話題での健筆を期待しております。
写真は、末娘のところで飼っている豚の写真があったのですが、養豚のイメージとはそぐわずまたGOOGLEで検索して美味しそうな白豚の写真が見つかりましたので拝借しました。
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豚の祖先はイノシシである。紀元前4千年頃、南中国の遺跡から、猪を飼った跡が発見されている。又、日本に於いて、弥生時代の紀元前1千年頃、佐賀の吉野ヶ原遺跡からも、猪を飼育した形跡が見つけられており、猪を家畜化した養豚の歴史は古い。(猪も今日の野生の日本猪より小型の、現在の野生の琉球猪に近い猪だったらしい)
ブラジルに豚が導入されたのは、1532年にマルチン アフォンソがサンヴィセンテ(サントスに隣接するポルトガルの初期の植民地)にポルトガルから持ち込んだのが最初の豚だと言われている。1850年代には欧州からバークシャー種、ラージブラック種が輸入され、1930年代には英国から、ハンプシャイアー種やラージホワイト種が輸入された。
ブラジルの本格的な養豚産業は1900年に入ってから勃興した。1950年にサジア社がアメリカの例を参考にした、インテグレーション(子豚,飼料を契約農家に配り、飼育を依託し、屠殺時に精算する方式)を導入したことにより、急速に拡大した。食肉パッカーにとっては、この方式により、原料を一定の価格で、常時、調達可能であり、農家にとっては、販売が保障される。この方式は、ブロイラー産業に於いても今日、主流をなす,生産方式である。養豚産業の勃興以来、品種改良、飼育管理、流通も急速に改善された。
過去40年間に豚の飼育頭数は4,4%増加したが、豚肉の生産は283%増加している。
1900年―2001年の間に飼育頭数は19,7百万頭から28,5百万頭に増加し、
一人当たり年間消費量も7kgから12kgに増加した。輸出も1995年の年間49千
トンから2001年は219千トンに5倍に伸びた.肉質に於いても、過去において皮下脂肪の厚さが6cmあったが、現在は1cm程度に改良されている。
―世界の養豚
世界の飼育頭数は約950百万頭、豚肉生産は約920百万トンと見積もられている。
国別では(2001年)中国が飼育頭数はトップで454,4百万頭、(生産42787千トン)2位がアメリカの59,1百万頭(生産8690千トン)ブラジルが5位で29,4百万頭(生産1968千トン)。一人当たり年間消費ではトップがハンガリー62,3kg、香港 55,8kg、ポーランド 53kg、台湾 41kg、中国 37kgと続く。(香港の輸入の大部分が中国に入る故、香港だけの消費は少ないと見る)
―ブラジルの養豚
A)主要生産地域
ブラジルの主要生産地域は南部(パラナ、サンタカタr−ナ、リオグランデドスール州)であり、生産の45%を占める。南部は欧州系移民が多く豚肉を好む。中でもサンタカタリーナ州は最大で生産の17%を占める。又、増加率の大きい州はミナス、ゴヤス、マットグロッソ州の穀物生産地帯に於いて、養豚も穀物生産に比例して増加中。ブラジル人の一人当たりの年間消費量は12,5kg程度だが、南部は23kg、北、東北部は5kg程度と見積もられ、又、消費の70%は加工品である(枝肉に加工品を換算した量)。
B)飼料穀物との関係
豚肉の生産コストの70%は飼料費である。従い、安価で輸送コストの低い穀物生産地帯
に養豚は指向する。中西部のセラード地帯が急ピッチで養豚地帯として開発されており、
Perdigao社(Goias州 Rio Verde)及びSadia社(Minas州 Ubelandia)の代表的食肉パッカー2社が進出している。養豚にとって、とりわけ、トウモロコシが重要であり、2007年に於けるブラジルのトウモロコシ生産量は約5,5千万トン。そのうち、養豚用配合飼料の生産は1400万トンだが、トウモロコシはその内、の87%の1200万トンを占める。サンタカタリ−ナ州のトウモロコシの総需要量470万トンー年間に対し生産量
は400万トンで70万トンは他州からの供給である。ブラジルに於けるトウモロコシの生産は南部54%、ミナス20%,ゴヤス 18%、北部、東北部は6%である。
C)飼育品種
主要飼育品種は大ヨークシャー、ランドレース、デユロック、ピエトレッジ及びそれらの雑種が多く、飼育内訳は大ヨークシャー 15%、ランドレース 10%、ピエトレッジ
2%、デュロック 1%、交雑したハイブリッド 70%、其の他 2%である。品種改良に就いては、90年代に於いて、英国のPIC(Agroceresと合弁)、オランダのTopic,
ベルギーのSeghers等の企業進出もあり改良に貢献した。USAのスミスフィールドもマットグロッソ州ドラードスで種豚事業に乗り出している。
D)豚の繁殖
1) 豚は半年余りで、生まれた時の体重の80倍に成長する、極めて、工業的生産効率の良い家畜である。豚の排卵期は生後、256日、体重76kg位でで始まる。然し、若すぎるので、この時期をはずし、生後300日位で、体重115kgになってから種付けする。(若いと産子数も少なく、子豚の成長も良くない)種雄豚もしかり。
2) 妊娠期間は114日間であり、年間2回の分娩は可能。1回の分娩で10頭を出産する。哺乳期間は60日位いで、離乳後7−10日で親雌豚に発情が来る。
3) 分娩=交配後、3週間経っても、次の発情が来なければ、受胎したものと判断する。年間2回受胎し1腹当たり10頭の子豚を出産するが離乳頭数は9,5頭が標準である。デンマークに於ける出産回数は年間2,25回で、離乳頭数は10,8頭と高い。管理次第では10回ぐらいの出産は可能だが、普通は5−6回で屠殺に廻す。
4)ライフサークル=出生時体重 1,4kg −哺乳期 60日 体重7kg −肥育期間 10ヶ月 体重 115−120kg−交配 −妊娠期間 114日 −出産。雌豚が生まれてから、第一回出産までは、約16ヶ月である。
E)2004年―2008年/予想の生産、輸出、消費の概略
2004 2005 2006 2007 2008
屠殺頭数(百万頭 ) 32,98 34,10 36,44 36,80 38,28
豚肉生産量(千トン) 2620 2707,9 2869,9 2735 2900
輸出量(千トン) 508 625 504 570 590
国内消費(千トン) 2197 2083 2171 2157 2280
一人当たり年間消費 10,7kg 10,4 11,8 11,6 12,5
総人口数(百万人) 181,6 183,6 185 187 190
F)豚肉の生産コストの見積もり(2003年)
固定コスト(設備,機械、繁殖豚、運転資金、償却費等)生豚1kgに就きUS$ 0,15
変動コスト(飼料―70%、人件費、輸送、燃料、薬品等) 0,40
合計 US$0,55−kg
ブラジルの生産コストは生きた豚1kgにつき55セントと言われている。因みに、他国のコストは次の通り。
メキシコ US$ 85 セント
チリ 75
USA 75
欧州15カ国平均 1,00
日本(推定) 1,65
ブラジルの強みはなんと言っても生産コストが安い点である。貿易障害(疫病管理も含め)をコストで乗り越えている
G)ブラジルの養豚農家(企業)の規模
農家〔企業〕の規模は、1)インテグレーション、2)繁殖農家 3)肥育農家 4)小規模裏庭養豚等に分かれる。養豚農家(企業)の内、飼養頭数20頭未満の農家のシェアーは37%、200頭以上飼養の大規模農家の飼養頭数全般に占める飼養頭数は32%、その中間が31%の割合である
―豚肉の輸出と消費
A)豚肉の輸出ランキング
大手パッカー(と殺、加工、輸出)5社がシェアーの65%を占めており,トップはPerdigaoとSadiaのどちらかが占める。2004年―2006年の大手の輸出量(枝肉―トン)
2004 2005 2006
Perdigao 88070 118401 105996
Sadia 97834 106200 75418
Seara 87170 100804 54572
Aurora 41658 44830 36855
Frangosul 22717 11729 44529
Total 250189 404964 317341
大手5社のシェアー 49% 64% 62%
B)豚肉の消費
ブラジルの一人当たり年間消費12,5kgの内、3kgは生肉消費だが、残り9,5kgは加工品(ハム、ソーセージ、等)で消費される。南部、中西部の消費の7割は加工品であるが、北、東北部では生が7割、加工品3割の比率である。
C)豚肉の内訳
生きた豚は大体体重110−115kgの時に屠殺される。
―血液、頭,尾、手足、内臓を取り除いた肉豚の重量は平均79kgこれを2分した肉を枝肉と呼ぶ。枝肉1個の重量は約40kgと見積もられる。ブラジルでは豚皮を食するため、皮付きの枝肉であるが、日本等では皮を食しない為、皮を剥いだ重量の枝肉となっている
―頭、手足、内臓、尾、血液を除去した1頭の重量= 約80kg−枝肉=40kg
―体内脂肪=23kg
―皮及び皮下脂肪=15kg
―筋肉=約40kg(2つに縦に割ると枝肉一本は20kg)
D)日本での豚肉の年間消費は2383千トンで国産が1249千トン、輸入が1100千トン。500千トンが加工用(ハムー50%、ソーセージー25%)で1883千トンが生肉消費(家庭用―65%、外食―35%)で一人当たりの年間消費量は10kg。
―ブラジルの豚肉輸出の問題点
ブラジルの輸出の仕向国はロシアがトップで香港、と続く。今後の輸出を左右する問題に
疫病問題がある.上記両国は疫病問題に余り制限をつけない国であり、USA、日本、欧州
の数カ国は下記疫病問題から.ブラジルからの輸入は禁止されている。
A)口てい病(Hoof &Mouth Disease=Febre Aftosa)ひずめが割れた家畜(牛、豚、羊,山羊等)に伝染する強力な疫病で口、ひずめに潰瘍ができ、食欲が無くなり,死亡する。
ワクチンによる予防接種が義務ずけられえおり、ブラジル南部では余り見られないが、北部にはあり、1箇所でも出ると,国単位で汚染地域に指定される。パラガイで発病した牛からブラジルに伝染するケースも多く、この撲滅は全体で撲滅しないと地域だけでは無理である。ブラジルの牛、豚の輸出の最大の問題である。
B)豚コレラ=急性の熱性伝染病で農務省はブラジルを汚染区域(セルジッペ州からマットグロッソ州境のボリビアまで斜め直線にした上の北、東北地域全域)と非汚染地域(斜め直線より以南の地域)にブラジルを2分して分ける。汚染地域はワクチンの接種が義務つけられており、生産は地場消費とされており,非汚染地域への搬入はない。又1998年より公式な発生の記録はない。(撲滅された証拠もない)
以上
麻生
2008年10月1日
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