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真砂 睦の「おいやんの熊野便り」(21)【熊野から捕鯨問題を吠える】(その2)
この寄稿集の使用ソフトが1度に1万語までとの制約がある為に2度に分けて掲載することに成り、今回は、その後編です。この真砂さんの論文を読み菅間先輩が下記コメントを送っておられます。『熊野からの大吠感銘を受けました。実に有意義な問題提起ですね。今まで捕鯨問題は知らないわけではありませんでしたが、水産庁にまで踏み込んだものは寡聞でした。この論文は我々だけでなくもっと世に知らしめるべきものだ、というのが私の感想です。』
菅間先輩のおっしゃる通り出来るだけ多くの方に読んで貰いたいとの気持ちから『私たちの40年!!』寄稿集にも収録させて頂いた次第です。
真砂さんからは、写真を一枚しか送って頂いていないので又GOOGLEでシーシェパードで検索して見つけた写真がこれです。


現在、日本では5箇所で沿岸捕鯨が続けられている。和歌山県・太地、宮城県・石巻(鮎川)、千葉県・南房総(和田)、北海道の網走と函館である。沿岸であっても、IWCが定めている13種の鯨を捕ることが禁じられているので、それ以外のツチ鯨やゴンドウ鯨、それにイルカなどの小型の鯨を捕獲対象にして細々と生計をたてている。古来、日本の沿岸捕鯨は大型の鯨種なども自由に捕獲対象としてきた。なかでもミンク鯨はヒゲ鯨なので、肉質が良く、大変おいしい。1988年、そのミンク鯨の捕獲が禁止されたことから、日本の沿岸捕鯨の深刻な衰退が始まった。IWCが決めた13種の禁止鯨種以外の小型のツチ鯨やゴンドウ鯨などを獲るだけでは売り上げが伸びず、漁期も限定されてしまって年間を通して漁ができず、生計がたたない。そこで漁師たちは、(財)日本鯨類研究所のミンク鯨の調査捕鯨用に持ち舟を傭船してもらって、ミンク鯨の捕獲にも従事している。そうすることでなんとか年間を通した操業が確保されている。しかし、調査用として捕ったミンク鯨の肉が市場に出回り、逆に自分たちが捕るゴンドウ鯨やツチ鯨の肉が値下がりして、販売が圧迫されるという深刻な問題がおきている。ミンク鯨の肉のほうが格段においしいからである。
そのうえ、水産庁によってツチ鯨やゴンドウ鯨の捕獲頭数も決められているので、漁民の自由度はまことに狭い。がんじがらめの規制にしばられ、そのうえ調査捕鯨に雇われてやっと生計をたてている漁民たちは「官」に弱い。調査捕鯨を強行するために、世界の反日感情が増幅して、ささやかな沿岸商業捕鯨すら反対されてしまうという逆効果を恐れていても、水産庁に生殺与奪の権を握られている漁民たちが抗議することはない。
そのうえ、今の世界の潮流からして、たとえ沿岸とはいえ近い将来、漁民たちが生計をたてられるだけのイワシ鯨やナガス鯨を捕らせろ、というのはとうてい無理だろう。結局、日本の沿岸捕鯨の生き残りは資源量が豊富でおいしいミンク鯨を一定量捕獲することが認められるか否かにかかっているといえる。日本が大きな外交的な犠牲を払って強引な調査捕鯨を強行しているその目的が、日本の捕鯨産業の保護と継承にあるとすれば、なによりもミンク鯨の沿岸捕獲を国際社会に認めさせることが最大の狙いとならなければおかしい。日本はその一点に外交努力を集中すべきなのである。この先、漁師たちが居なくなったとしたら、なんのための調査捕鯨なのか。

ところが2009年IWCの席で、日本の捕鯨活動に一定の理解があるIWCホガース議長が「日本に近海での限定的な沿岸商業捕鯨を認めるかわりに、南氷洋での調査捕鯨を段階的に廃止する」という妥協案を提案したが、日本が拒否してしまった。日本は南氷洋の調査捕鯨にこだわったからである。そのあげく、沿岸での限定的な商業捕鯨も拒否される結果に追い込まれてしまったのである。恐れていたことが起こってしまった。
水産庁が調査捕鯨に固執するのは一体なぜなのか。誰の為に何を守ろうとして拒否したのか。調査捕鯨に固執するあまり、わずかに残されている捕鯨漁民たちが生き残って、日本の捕鯨技術が継承されるために沿岸商業捕鯨を認めさせる、その絶好の機会を逸したのではないのか。ホガース議長はこの3月に退任する。日本はますます追い詰められていくだろう。
公海上で、いわんや「鯨のサンクチュアリー」で、かつての捕鯨オリンピックのような商業捕鯨を再開できるなどと考えている時代錯誤の大手水産会社はあるまい。結局、日本の捕鯨を継承できるのは、ひとえに太地や鮎川の漁民たちなのである。調査捕鯨がそうした漁民たちの生活のカテである沿岸捕鯨の実現を阻んでいるとすれば、水産庁のやっていることは本末転倒といわなければならない。ことここまで追い詰められている状況では、日本は調査捕鯨を段階的に廃止することで、是が非でも沿岸商業捕鯨をみとめさせること、それが残された唯一の道である。一説によれば、日本の捕鯨漁民が生きていくために、最低限年間2000頭程度のミンク鯨の捕獲枠の追加が欲しいという。ナガス鯨などの大型種も入れて、年間1200頭以上もの鯨を捕っている現在の調査捕鯨から考えると、日本の沿岸に回遊してくる資源が豊富なミンク鯨を2000頭というのは、決して法外な要求ではあるまい。日本は公海での調査捕鯨から、限定的であっても沿岸商業捕鯨の実現にカジを切り替えるべきである。手遅れにならないうちに。日本が守るべきは沿岸捕鯨を支えている「漁民たち」であって、「官」のための調査捕鯨ではないのである。

イギリス生まれのC.W.ニコルという作家がいる。日本人女性と結婚して日本に住んでいる。ニコルはこれまで、カナダの漁業・環境調査官として原住民イヌイットと一緒に暮らしながら海洋哺乳類の研究をしたり、カナダと日本やノルウェーの合弁捕鯨企業で鯨のサンプリング調査にたずさわったり、日本の南氷洋捕鯨船団に乗り込んでキャッチャーボートにも同乗したり、世界の捕鯨現場に精通している鯨類の専門家である。その彼が、日本最古の捕鯨の町、太地に1年間住んで、日本の沿岸捕鯨の現場でその実態をつぶさに体験した。太地の捕鯨漁師たちの「仲間」となり、親交を結んだ。鮎川など日本の捕鯨基地もすべて訪ねた。
ニコルは日本の沿岸捕鯨に、「武士道」に通じる精神性を見た。古来、日本の漁民は鯨を神から授かる贈り物とあがめて、砲手は神への祈りを込めて引き金をひく。獲った鯨は、肉や内臓すべてを丁寧に解体して、何一つ無駄にすることなく人々の生活に供される。神からの贈り物をむやみに乱獲はしない。そして漁が終わると鯨を祭る神社に感謝をささげる。日本の捕鯨は断じて野蛮ではない。野蛮人とののしりながら「日の丸」にツバをはきかけるような、野蛮な欧米の環境保護を叫ぶ人々に、日本の捕鯨の実態を知らせなければならないと考えたニコルは、「勇魚(イサナ)」という沿岸捕鯨漁師を主人公とする小説を書いて欧米に送り出した。
ニコルは言う。「鯨の数は増え続けている。いつか再びこの国が鯨捕りの男たちを必要とする日がくる。鯨は大丈夫、そこに居るだろう。私の願いはそのとき、私の友人である日本の鯨捕りたちもそこに居てくれたら、ということなのだ」。

日本の食糧自給率が39%。世界人口の激増や新興諸国の所得増にともなって食肉や穀物の需給が逼迫している。主だった魚類の漁獲量も下降線をたどっているうえに、公海での漁業がいっそうやりにくくなっている。その一方で、世界のあちこちの農業地帯で、水資源の枯渇が目立ってきた。食糧危機が進行している。土地が乏しい日本は自国の排他的経済水域を大事にしなければいけない。海は牧場であり鉱山である。熊野では古来、「鯨一頭七浦を潤す」と言われてきた。神の恵み、鯨がもたらしてくれる恩恵は大きい。ニコルが断言したように、いつか再びこの国は鯨獲りの男たちを必要とする日がくるだろう。

(コメント集)
真砂:早大海外移住研究会OB/OG各位
皆さんおげんきですか。
こちら南紀州では、梅の花が咲き、梅園もオープンされました。
ウグイスの初鳴きはまだ聞かれません。
熊野便りをおくりますので、読んで下さい。

菅間:真砂さん 移住研の皆さん
先ず真砂さんへ、
熊野からの大吠感銘を受けました。実に有意義な問題提起ですね。今まで捕鯨問題は知らないわけではありませんでしたが、水産庁にまで踏み込んだものは寡聞でした。この論文は我々だけでなくもっと世に知らしめるべきものだ、というのが私の感想です。
移住研の皆さん
我々の仲間にも崇敬に値する人が沢山いますが、彼は正にその一人ですね。嬉しい限りです。

岡本:眞砂さん ”熊野から捕鯨問題を吠える”読み応えありました。
新宿西口の鯨カツの店は、私も何度か行った事があり、懐かしく思い出し、鯨が食べたくなりました。
昨今のシーシェパードの捕鯨妨害などは、全くもって理解に苦しむ行為でしたが、捕鯨反対の本質がどの辺にあるのかまた、日本にとって沿岸捕鯨と南氷洋捕鯨との損得などよく理解できました。
移住研Blogの眞砂さんコーナーに掲載致しました。
尚、会員各位に配信されるときには、下記メーリングアドレスをご利用下さい。全員に同時配信されます。

富田:真砂さん、菅間さん、岡本さん、メンバーの皆さん
「熊野から捕鯨問題を吠える」、興味深く読みました。捕鯨の町、熊野から捕鯨問題を憂える、真砂さんの気持ちが熱く伝わって来ます。
と共にこのレポートは、日本の官僚の悪しき習癖を鋭く糾弾しています。「省益あって国益なし」と言われる、役人根性のことです。
この件は「省益あって国益なし」の典型的な悪例でしょう。そして、これは政治家の怠慢でもあります。
役所の発表だけを記事にする、マスコミも真砂君の「問題の深層」にメスを入れるセンスも関心もないのです。
菅間君が書くように、多くの人に、このレポートを読んで貰いたいものです。
真砂君の今後の熊野発レポートを楽しみにしています。

和田:菅間 さん 『この論文は我々だけでなくもっと世に知らしめるべきものだ、というのが私の感想です。』に賛同します。現在333名が参加している『私たちの40年!!』のメーリングリストにも2回に分けて全文を流していますが、147万回のアクセスのあるHPの寄稿集にも収録して置きたいと思います。
真砂さん何か適当な関連写真か真砂さんの近影の写真を提供頂けませんか?出来ればDMで送って下さい。よろしくお願いします。

真砂:和田様 いつもなにかとご配慮を頂きありがとうございます。
早速ですが、捕鯨に関連する適当な写真がありませんので、私の写真を添付致します。よろしくお願いします。
尚、私が手に持っているのは、イッペーとジャカランダの苗です。サンパウロ在の友人から送ってもらった種を発芽させたものです。(ただ、日本は寒いので、写真を撮ったのち、霜をさけるのに苦戦をしております)



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