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【希望大国ブラジル】 産経ニュースWEB版より(第3部)
『私たちの40年!!』関連BLOGにも転載させて頂いている産経ニュースWEB版の【希望大国ブラジル】の第3部です。
もの買う中間層「C層」との表現があるが、これまで具体的な各層の区分けが分からなかったのですが、A層からE層までを円で示して呉れている。
カードの普及、月賦販売等と共に国民の半数が空を飛ぶ格安航空切符でブラジル国内市場で伸び続けるAZUL社の紹介も面白い。ブラジルの日常生活の消費志向の説明、小型JET機で世界を席巻するEMBRAERの紹介、地デジテレビ日伯方式の拡大等を取り上げて分かり易くブラジルを紹介して呉れています。
ブラジル市場では後発の韓国、中国の力の入れようにも触れて技術力だけを売り物にしても負けてしまうと警告する。
写真は、EMBRAEL社紹介欄からお借りする事にしました。


第3部(1)モノ買う中間層「C層」 牛丼も「カードで」
缶ビールが詰められた茶色い段ボール箱にバター、洗剤、長女の靴、リビングのスピーカー…。セルジオ・シルバさん(37)は週末でにぎわうブラジル・サンパウロの巨大ショッピングセンター「イビラプエラ」で、大量の荷物を運びながらにこやかに話した。
 「娘がモノをたくさんねだるし、家族のために買いたいものがたくさんある。毎週のように来ている」
 レンタカー会社に勤め、月収は3千レアル(約15万円)。世帯月収が15万〜38万円の中間所得層に相当し、ブラジルでは「Cクラス(C層)」と呼ばれる。政府機関である地理統計院は自国民を世帯収入によってA層からE層まで5分類している。A層は76万円以上▽B層76万〜38万円▽D層15万〜5万円▽E層5万円以下。
 シルバさんは飲食店から転職し、C層の仲間入りを果たした。「買えなかったものが今は手に入る。次は車、その次は家を買うのが夢」と話し、バスで郊外の自宅へ帰っていった。
 新興国「BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ共和国)」の一つ、ブラジルの成長を「内需」が引っ張っている。2010年のGDP(国内総生産)に占める個人消費の割合は60%。わが国の57%を上回り、5〜7割とされる先進国の水準に達している。
 民間研究機関バルガス財団によると、総人口1億9325万人のブラジルで、03年に国民の38%だったC層は09年、50%に拡大した。C層がモノを買い始めたことで新車販売数は世界4位、パソコンも4位。ビール消費量は3位にまで伸びた。
 新興市場へ世界中の企業が押し寄せる。中でもサムスン電子やLG電子、現代自動車の韓国勢の躍進が目立ち日本企業は出遅れた。ジェトロ(日本貿易振興機構)サンパウロセンターの沢田吉啓所長(56)は「韓国は価格競争力とデザイン性豊かな製品で、ブラジルを本気で攻めている。背後では中国も続々と進出している」と指摘する。
 世界最大の食品飲料メーカー「ネスレ」(スイス)のブラジルでの売上高は09年、米国に次ぎ世界で2番目に多かった。ネスレ・ブラジルのイバン・ズリタ社長はこう述べている。
 「中国には10億人以上の住民がいるが、ブラジルには2億人の消費者がいる」
秘密は「クレジット経済」
 ×、×、×…。巨大ショッピングセンターに「×」と数字が躍っていた。勃興する中間所得層「C層」で活気づくサンパウロ中心部の「サンタクルス」。家電や家具、衣料、靴とあらゆる値札に書かれた「5×」「8×」などの表記は分割払いの月数を示している。
 入り口のそば、ブラジル全土に560店を展開する国内最大のC層向け家電量販店「カザス・バイア」。日本メーカーのLED搭載の46型液晶テレビは399レアル(約2万円)で横に「10×」とあった。399レアルで10カ月払い(計3990レアル、約20万円)の意味だ。
 一括払いなら3355レアル(約17万円)だが、日本と異なり値札に小さく書かれるだけで気にする人はいない。他にも「12×」「18×」「24×」といった選択肢が用意されていた。
 家族と来店した会社員、セルジ・コンテインチさん(53)は液晶テレビを眺め「月々の支払額を見て、買えそうと思ったら購入する。クレジットカードがあるので買いたいときが買うときになる」と話す。
「ポケットの中」見て消費
 ブラジルの好調な内需を支えるのは「クレジット経済」だ。クレジットカードの取引額は2010年、5年前の3.5倍に増え185億ドル(約1兆5千億円)。発行枚数は5億8660万枚で日本の1.8倍に上る。
 どの店にもカード決済の端末が置かれ、裏通りの薬局では老婦人が便秘薬をカードで買っていた。10年に進出した牛丼チェーン「すき家」ではカードで支払う人々の行列ができていた。
 旺盛な消費の背景に「カベ・ノ・ボルソ」と呼ばれるブラジル人気質もある。「今、ポケットの中身に見合うかどうか」を意味し、将来を考えずに手持ち資金だけで購入する消費行動を表す。
 ブラジルは1980年代後半からハイパーインフレに見舞われ、同じ日の朝と夜でも物価が上昇した。少しでも安く買おうと給料日のスーパーに人々が群がった。サンパウロの会社員、エドアルド・ヒラノさん(29)は「靴代に小遣いをためても翌週には手が届かない。誰も現金など信用せず一刻も早くモノに代えたがった」と振り返る。
 ブラジル東京銀行元頭取の鈴木孝憲氏(75)は「94年にインフレが収束し、物価が安定して分割払いが可能になったことで、カードが普及し始めた。さらに労働党政権の低所得層への現金給付と最低賃金引き上げ政策によりC層が急拡大した」と解説する。
 インフレへのトラウマを抱えるC層がクレジットカードを手にしたことで、一気にモノを買い始めた。
ローン残高、GDPの4分の1
 貧困の象徴であるスラム街「ファベーラ」にさえC層が現れた。リオデジャネイロのファベーラに住む主婦、アンジェア・バチスタさん(58)は06年、フォルクスワーゲンを購入した。72回(6年)払いで支払いはまだ続いている。
 バチスタさんは「食べ物も買えなかった私たちが車を持てる時代になった。ただ、これまで払った金利や総額は分からない」と話す。
 ブラジルは盛んな消費に支えられ10年、GDP(国内総生産)成長率が7・5%となる一方、景気過熱への懸念が強まり、ブラジル中央銀行はルセフ大統領が就任した1月以降だけで政策金利を4回引き上げた。
 神戸大学の浜口伸明教授(47)=開発経済学=は「政策金利が上がるとクレジットの金利も上がり支払いが焦げつく人が出てくる。借金による消費には危うさもある」と指摘する。
 消費者ローン残高はGDPの23%に相当する4950億ドル(約39兆円)。延滞率は10年、前年に比べ6%上がった。
     ◇
 ブラジルの実像を伝える連載の第3部は、成長を続けるGDP2兆ドル(約160兆円)の市場に迫る。
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第3部(2)「金ヨナ式」で韓国企業が席巻
ページをいくらめくっても「ヒュンダイ(現代自動車)」が顔を出す。ジェトロ(日本貿易振興機構)サンパウロセンターの原宏次長(48)はブラジルの一流紙誌に連日掲載される韓国最大の自動車メーカー、現代自動車の広告に目を通すのが日課となった。
 「最も多い日で1面から連続11ページ。毎日少しずつ改良が加えられ、読者は次第に現代自動車が一番格好いいと思うようになる」
 ブラジルの玄関口、サンパウロの国際空港では世界最大の電機メーカー、サムスン電子の巨大モニターが出迎え、高速道路沿いはサムスンとLG電子の看板が目立つ。両社は国内の薄型テレビ市場の5割を握る。
 現代自動車はイタリア人デザイナーを起用、中高級車に5年の長期保証をつけ、ブラジルへ進出した2005年に1523台だった販売台数を10年、10万6017台へ伸ばした。シェアは1958年に進出したトヨタを抜き7位に躍り出た。東北部の都市サルバドルにある現代自動車のディーラーで、販売員のファビオ・オリビエリさん(32)は「『5anos(5年)保証』という広告が支持を得ている」と話した。
「後発ゆえ命がけ」
 日本のお家芸であるはずの車と家電分野で、韓国企業がブラジルを席巻している。背景には自国市場が人口4977万人と狭く「輸出立国」を目指さざるを得ない事情がある。貿易依存度は10年、GDP(国内総生産)の87%に達し、日本の2割を大きく上回る。
 韓国のジェトロに相当する「コトラ(大韓貿易投資振興公社)」サンパウロ局の金斗寧局長(51)は「韓国企業は00年前後、日本が先進国市場に固執している間に、新興国へ優秀な社員を次々に送り込んだ。日本と比べ後発だったがゆえに命がけでリスクを取ってきた」と説明する。ブラジルの輸入相手国で韓国は10年に5位となり初めて日本を抜き去った。
 マーケティング戦略も徹底している。多摩大学の金美徳教授(48)=韓国経済=は「日本が『いいものを作れば売れる』と技術にこだわる一方、韓国は各国の好みに合わせた製品を開発した。バンクーバー五輪で3回転半ジャンプという技術にこだわった浅田真央選手に、カナダへ移住してまで現地化を貫いた金ヨナ選手が勝利したことと構図は同じだ」と指摘する。
中国は「6年保証」
 現代自動車の本社があるソウルへ飛んだ。
 米国人広報部長に案内された役員室で、米州担当の韓昌煥常務(50)は「ブラジルはグローバル戦略で最も重要な市場の一つだ。広告費は年間約2億ドル(約160億円)。後発組だからこそ、車を知ってもらい、愛してもらうため広告を徹底した」と話した。
 2月には6億ドル(約480億円)を投じサンパウロ州に初の自社工場を着工した。BRICSでインド、中国、ロシアに続き4カ国目となる。韓氏は「今後は中間所得層『C層』へ小型車を売り込む。相手はトヨタやホンダでなく上位3社の欧米勢だ。2年後に現在のシェア3%を10%へ伸ばすのが目標だ」と語った。
 韓国からブラジルへの進出企業は現代自動車とサムスン、LGを含め17社にとどまり、日本からの350社と比べても圧倒的に少ない。3月には中国の自動車メーカー「江淮汽車(JAC)」が参入し、「6anos(6年)保証」をうたう新聞広告を打ってきた。
 コトラの金氏は「背後に中国が迫っている。中国が本格的に上陸する前にビジネス手法が似ている韓日が組みブラジル市場へ向かうべきだ」と提案するが、そうした動きはほとんどない。
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第3部(3)「国民の半分が空を飛ぶ」 世界の企業「C層」に照準
米国のカリスマ経営者が次なるターゲットに選んだのはブラジルの中間所得層「C層」(世帯月収15万〜38万円)だった。2008年に設立された新興格安航空「アズール」。初めて飛行機に乗るC層に人気を博し、シェアを2年でゼロから7・4%へ伸ばした。
 週末の夕方、リオデジャネイロからサンパウロへ向かった。客室乗務員が「右下に見えますのがアイルトン・セナ通りです」とアナウンスを始め、満員の乗客は一斉に窓へ額を寄せる。
 飛行機はサンパウロでなく北西80キロの地方空港へ着陸した。ここで同社の無料バスが待っており、1時間でサンパウロへ。運賃は大手の半値の約300レアル(約1万5千円)程度だった。
 創業者のデビッド・ニールマン氏(51)は1998年、米国で「ジェットブルー」を設立した。大手が乗り入れず使用料の安い地方空港を拠点とし、インターネットで発券する手法で全米7位へ育て上げた。07年に失脚し、5歳まで育ったブラジルで「青」を意味するアズールを興した。
 同社のジアンフランコ・ベチン取締役(47)は「ある日、米国人の来客があり、ドアが開いたらデビッドがいた。彼の構想通りとなり、わが社の参入で飛行機を利用する人口が年間20%増えた。じきに国民の半分が空を飛ぶ」と話す。
新旧進出企業が活力
 ブラジルはポルトガルの植民地だった歴史的経緯や地理的な近さから欧米との結びつきが深い。国内売上高の上位500社のうち米企業が56社を占め、仏、英、独、伊…と続く。車やビールなど消費財が多い。
 独フォルクスワーゲンは53年から進出し売上高3位を誇る。一方でアズールは新興企業の代表格であり、新旧の進出企業が相まって経済へ活力を与えている。
 日本勢では、世界で販売台数1位のトヨタが40位で最高位。同社は58年に進出しながら、市場の7割を占める低価格の小型車が製品群になく、シェア8位にとどまる。10年に現地へ新工場を着工しインド市場へ投入した小型車と同じ車種を生産するが、稼働は12年後半で出遅れ感は否めない。
 トヨタブラジルの中西俊一社長(54)は「品質と顧客満足度の高さを訴えたい」と話す。サンパウロにあるディーラーでは壁に「カイゼン」とローマ字で書かれていた。受注から納車までを最適化するため、わが国製造業のおはこである改善活動を取り入れた。
住宅街で訪問調査
 「新興国とひと口に言っても実情は異なる。ブラジルはBRICSの中でも労賃が高く、労働者の権利も強い。中途半端な進出でははね返される」。企業コンサルタントの輿石信男さん(48)はこう指摘する。
 大手家電メーカー、ソニーブラジルのマーケティング統括、所鉄朗さん(45)らはC層のニーズを探るためサンパウロの住宅街で戸別訪問を続けている。
 「勝つためには負けている部分を徹底的に把握しなければならない」
 同社は72年に進出し、薄型テレビは数年前までトップだったが、高級路線がたたり4位へ転落した。所さんはカナダでサムスン電子に勝利した実績を買われ、首位奪還を使命に乗り込んだ。
 市場調査員から紹介されたC層宅で、利用する量販店やよく見る広告媒体、月々の支払額などを1時間以上かけて聴く。10年、薄型テレビを前年の3倍売り、シェアを3位まで戻した。
 深夜の住宅街。所さんはブラジルたばこ「フリー」を深く吸い込み、こう話した。
 「思い通りいかないこともあるが、やった分だけ結果がプラスにもマイナスにも返ってくる。そこがブラジルの面白いところです」
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第3部(4)小型ジェット機で世界席巻 エンブラエル「モノ作りの流儀」
丘を越えると緑の平原に航空産業の「小国家」が広がっていた。ブラジル・サンパウロから東へ80キロ、人口62万人の工業都市サンジョゼ・ドス・カンポス。世界3位の航空機メーカーで、小型ジェット機ではトップを走る「エンブラエル」の本社工場を訪ねた。
 サッカー場60面分の広大な敷地に白い工場が並び、2000メートルの滑走路が延びる。隣接地には空軍の航空宇宙技術総司令部と、米マサチューセッツ工科大学(MIT)に倣って設立された航空技術大学校(ITA)。
 工場内の組み立てラインでは、透明なゴーグルをかけた作業員が機体断面に体ごと入り込んでネジを一つ一つ打ち込み、手作業でエンジンを取りつけていた。
 小型ジェット機は「リージョナルジェット(RJ)」とも呼ばれ、一般的に座席数が99席以下の旅客機を指す。同社は1969年に国営企業として出発し、94年の民営化後に「ERJ」で小型ジェット機市場に参入して急成長した。
 2004年には小型ジェット機の枠を超えて最大120席の「Eジェット」を投入し、わが国を含め40カ国から1000機を受注して「CRJ」で知られるカナダ・ボンバルディアを抜いた。世界シェアは4割を超える。
 同社の広報責任者、カルロス・カマルゴさん(45)は「われわれはもはやリージョナル(地域)を飛び出し、世界の空を担う企業になった」と話した。
ラテン気質も一役
 ほんの10年前まで、世界には米ボーイングと欧州エアバスによる120席以上の大型機と、49席以下の小型ジェット機しかなかった。
 各社は機体を改良し小型ジェット機の座席を増やそうとしたが、「われわれだけが異なるアプローチを取った。乗客の快適性をより重視した」。エンブラエル前副社長で98年の開発最初期から技術者として携わった日系2世、サトシ・ヨコタさん(69)はこう話す。
 機体を輪切りにすると通常は円形だが、同社は2つの円の一部を重ねる「ダブルバブル構造」を採用した。これにより従来の小型ジェット機ではできなかった座席下部の荷物用スペースを確保でき、大型機よりもゆったりした座席を実現した。
 「われわれはアイデアを固定せず徹底的に意見を交わし合うことで、全く新しい飛行機を作り上げた。何でもオープンに話し合うブラジル人のラテン気質も根底で役立った」
 ダブルバブル構造は、同社の独創ではない。既存の技術の徹底した調査と議論を経て「独自」技術を確立した。それは、各国の先端技術を組み合わせることで世界一の深海掘削を実現した国営石油会社ペトロブラスの姿勢とも通じ合う。
 ブラジル流「モノ作り」の象徴ともいえる。
「RJ」続々参入
 大都市の空港と地方空港をつなぐ地域間航空への需要の高まりから、小型ジェット機は10年、世界の空を飛ぶ全旅客機1万7000機のうち2割を占めるまでになった。
 わが国でも三菱航空機が最大92席の「MRJ」の開発を始めた。プロペラ機「YS11」以来半世紀ぶりの国産旅客機であり、主翼にアルミ素材を使って軽量化し燃費を高めることで、これまでに日米、香港3社から130機を受注した。江川豪雄社長(66)は「環境規制が強まる中、長期的には世界で伍していく余地は十分ある」と話す。
 中国は初の小型ジェット機として最大99席の「ARJ(翔鳳)」を、ロシアは最大105席の「SSJ」を投入してきた。小型ジェット機市場の競争は激しさを増している。
 エンブラエルのカマルゴさんは「われわれはEジェットにより世界のプレーヤーになった。だが、さらに先を見ている」と話した。
 同社はすでに130席以上への研究を進めている。
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第3部(5)「携帯でテレビ」南米で人気 広がる地デジ「日伯方式」
小さな携帯電話に映し出されるテレビ映像は新たな日伯協力の証しだった。ブラジル・サンパウロの空港で会社員、アンナ・カロリーナさん(29)はサッカーのブラジル選手権をワンセグ機能で観戦していた。
 「これが日本の技術とは知らなかったわ。どこでも見られるのはうれしい。応援するチームの試合をやっていないのは残念だけど」
 わが国で7月24日に完全移行する地上デジタル放送には日米欧の主要3方式があり、日本方式のみが携帯電話など「移動体」でテレビが見られる技術を確立した。ブラジルは2006年に日本以外で初めて日本方式を採用した。07年に放送が始まり完全移行は16年。
 ブラジル電気通信庁のホベルト・マルチンス公衆サービス監督局長(55)は「携帯電話でテレビが見られるのは日本方式だけ。全国民が恩恵を受ける世界一のシステムだ」と話す。
 両国は日本方式を「日伯方式」として売り込み、南米を中心に12カ国へ広がっている。それは、日本国内だけで進化する「ガラパゴス携帯」に象徴されるように「世界標準」とかけ離れがちなわが国の技術にとって、歴史的な意味を持つ。
ドミノ式に採用
 06年5月。首都ブラジリアでは地デジ方式をめぐり日米欧の売り込み合戦が大詰めを迎えていた。国会での説明会には欧州企業の幹部らが受信機を持参しデモ実験を繰り広げた。日本側は、サンパウロ在住の電子部品販売会社社長、三好康敦さん(41)がたった一人で資料を手に説明した。日本政府も業界団体も予算をつけなかったため個人的に奔走していたのだ。
 三好さんは「日本の技術は当初から評価が高く、ブラジル側から『なぜ日本政府の担当者は来ないのか』と言われた。日本側で尽力したのは技術者ら個人の方々だった」と振り返る。
 結局、両国が日伯方式として共同で世界へ売り込むという約束で日本方式の採用が決まった。日本の総務省もようやく動きだした。
 総務省の元審議官、寺崎明さん(59)は2年間で南米を24回訪ね各国のトップへ働きかけた。面会の約束を破られ、欧州方式の採用を伝えるテレビニュースをホテルで見つめたこともあった。携帯電話でサッカーの中継を見せたらサッカー好きの大統領が“落ちた”こともあったという。
 09年にペルーが採用を決めると南米諸国はドミノ式に採用した。ウルグアイにいたっては一度は欧州方式に決めながら、近隣諸国の流れを受けて逆転した。
 寺崎さんは「ブラジルの協力により各国で首脳レベルと交渉できた」と話す。
「ともに成長する」
 日伯には造船や鉄鋼、不毛の地を穀倉地帯へ変えたセラード開発など官民協力50年の歴史がある。だが「イシカワジマ」が育てた人材は韓国資本の造船所で働き、セラードで収穫される大豆は中国へ輸出される。
 地デジでも、韓国や欧州企業が日伯方式に対応する薄型テレビやワンセグ携帯を生産しブラジル市場を席巻する。せっかく日伯方式が採用されてもセラード開発などと同様、いまのところ直接の「果実」はない。
 ブラジルは2014年にサッカーW杯、16年にリオ五輪を控える。ルセフ大統領の側近で地デジ普及に携わるアンドレ・バルボザ特別補佐官(59)は大統領府でこう語った。
 「W杯や五輪では世界の70億人へ向けて地デジ放送が配信される。われわれが築いてきた協力関係を他の分野へも生かしていきたい。これからは伯日がともに成長していく時代だ」
 日伯方式は大西洋を越え、2月にアンゴラが採用を表明した。さらに広がる勢いだ。
=第3部おわり
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