【笠戸丸】 リオの出羽さんの寄稿です。
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リオの出羽 孝史さんからは毎月随筆(ご本人は雑文と謙遜されていますが)を送って頂いており12月・月までの5回分を寄稿集第504番目に掲載しております。今回の5月分は第1回ブラジル移民を乗せた数奇の船史を誇る【笠戸丸】についての記述を寄せていただいており、これは別個に話題別目次5のあるぜんちな丸(移住船)関係の話題に掲載させて頂くことにしました。
写真は、サントスのアルマゼン15(移住船が付いた桟橋)の出た所にあるカフェーを飲ませるお土産やさんと言うか博物館風の建物に立ち寄った時に見つけた笠戸丸の写真です。
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笠戸丸 出羽孝史
日本からブラジルに移民を運んだ最も有名な船。
1908年4月28日神戸を出航、第一回日本移民781人の夢と不安を乗せて6月18日サントス港に到着。在伯日本人、日系人にとって6月18日、「移民の日」は重要な記念日です。
当時のサンパウロの新聞に次の内容の記事がありました。
「笠戸丸=6千トン。
1908年6月18日、午後5時半サントス、第14号岸壁に横付け。翌19日、午前7時から移民たちが上陸。男女ともに洋装。男たちは中折れ、または鳥打帽子。女たちはブラウスにスカートがつながった服、腰まわりにベルト」
日本人、日系人が最も多いサンパウロが、当然ながら記念行事の中心になり、1978年の
「移民の日」には、天皇皇后両陛下(当時皇太子殿下ご夫妻)とガイゼル大統領が主賓の盛大きわまる70周年記念式典がパカエンブ球場で開催されました。日系コロニアの参加人数は8万人以上。ブラジルの日本移民史上前例のない祝賀イベントでした。
1988年、80周年の祝典も同じパカエンブにて。礼宮殿下とサルネイ大統領のご参加でしたが、内容は10年前ほどではなかったようです。
70周年はなぜあのように盛大だったのか。「ブ宴Wル・ブーム」、数々の日本企業の進出、経済交流の頂点時代の影響がかなり大きかったのではないかと思われます。
日伯両国間の交流が下火になったのか、記念行事もあまり目立たなくなりました。「移民の日」90周年。リオでは州の議事堂にてささやかな式典がありましたが、サンパウロでの目玉行事はどのようであったのか、健忘症の私にはこれと言った記憶が残っていません。
さて、100周年はもうすぐです。
話を笠戸丸に戻します。有名な笠戸丸ですが、この船がブラジル移民船第一号であったこと以外、あまり知られていません。
日本海事史学会の山田廸生理事著の「船にみる日本人移民史」に笠戸丸に関する記事があり、その概略は
「英国のニューカッスルで製造され、1900年の6月に進水。その時の船名は「POTOSI=ポトシ」であったが、ロシヤの義勇艦隊協会に売却され、義勇艦「KAZAN=カザン」と改名された。義勇艦とは通常商業航海に従事し、有事には特設巡洋艦に転用できる船のことである。
「カザン」はオデッサ−長崎−ウラジオストック航路に投入された。しかし、数回の航海の後、1904年、日露戦争が勃発、病院船として任務につくことになり、ロシヤ太平洋艦隊がたてこもる旅順港に投錨中主力艦隊の道ずれとなって被爆し、水深の浅い港内に着底。
旅順が陥落したあと、日本海軍がこれを接収浮揚、船名を笠戸丸とし、海軍省の呉鎮守府の所属にした。
なぜ笠戸丸か。元の船名「カザン」の音から「笠戸」の説があるが、これは定かではない。
東洋汽船が日本船となった笠戸丸を海軍省から借り受けたのは1906年の7月。極東−西南米航路に投入した。ところが、この航路は国の助成指定の遅れとメキシコ移民の急減などにより、しばらく休航となった。
その時、たまたま皇国殖民会社の代侮メ、水野龍氏からブラジル移民の話があり、第一回移民の輸送が実現したわけである。
1908年の年の12月、東洋汽船は笠戸丸を海軍省に返却。翌年の12月、大阪商船が海軍省から借用し、神戸の川崎造船所で大改造。そして日本と台湾を結ぶ大動脈の神戸−門司−基隆(キールン)、台湾航路にデビユーした。
次いで第一次大戦中の海運多忙期には台湾航路から引き抜かれ、再び遠洋航路に転じ、大阪商船の西航南米航路に就航。そのあと、再び台湾航路にカムバックした。
1930年、ある大阪の船主に売却され、鰯工船に変身。老化した笠戸丸は船主を転々としつつ、漁業工船として北洋で操業。第二次大戦時の船主は日本水産、船種は蟹工船であった。
終戦直前の1945年8月9日、笠戸丸はカムチャッカ半島のウトカの沖に停泊中、・Aの空爆をうけて沈没したらしい」
大戦末期は記録が充分でなく、著者は「沈没したらしい」と結んでいますが、もしそうであれば、もとロシヤの船舶が日本海軍に接収され、日本船として約40年間活躍、そして・Aの空爆による最後であったことになります。
参考資料=山田廸生著「船に見る日本移民史」
(2005年6月)
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