ブラジルも揺らす「サブプライム旋風」 2007年8月16日 渡邉裕司
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グロバリゼション下の世界の経済の動きは、『風が吹けば桶屋が儲かる』とか中国の上海の株式市場がくっちゃみすれば世界中の株式市場が影響を受けると言われていますが、今世界的な金融恐慌をもたらしかねないアメリカの『サブプライム旋風』に付いてbatepapoのメンバーである渡邉裕司さんにお願いして書き下ろしの時局解説をお願いしました。分かり易くブラジル経済の現状、特に今後はどうなるかと言った点も含めて纏めて頂きました。今後も大きなうねりの時期には適宜、渡邉さんに時局解説をお願いして皆さんにもご披露して行きたいと思います。
写真は、渡邉 裕司さんの近影です。
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ブラジルにも米サブプライムの旋風が吹き荒れ、市場を揺さぶっています。
サンパウロ株式市場Bovespaの下げが今週明けも止まらない。8月15日も前日比3.2%の下げを記録し16日は7%を超す暴落が続いています。ドルは2レアル/ドルを超す急騰(レアル暴落)です。投資家が資金を市場から引き上げています。外国機関投資家が本格的に引上げ始めたら要注意でしょう。
中銀統計で見ると2007年上半期に対内直接投資(事業投資)が209億ドルの流入に対し、間接投資(株、債券投資)流入が241億ドル。つまり短期資金が長期資金を大きく上回っており、利ざや稼ぎの投機資金ホットマネーがどっと入っていることになる。こういうカネは何かあると直ぐに引上げ市場のかく乱要因になるが、問題は実需を伴わない期待値によるマネーゲームが上海並み、とは言わないが、堅実ぶりを誰しも疑わないブラジル市場でも展開されているということである。要は程度の差こそあれ「まだら的バブル」つまり全部じゃないが部分的に既にバブルなのです。ここは甘く見てはいけません。
今年2月末の中国上海市場暴落の余波が対中輸出わずか6%台(大豆、鉄鉱石)のブラジルを震撼させた(株暴落)ことでも分りますが、本来、関係ないはずのブラジルも中国特需崩壊によるコモディティー市況悪化は大きなダメージになることを正直な市場が示唆しています。
背景は言うまでもなくアメリカのサブプライム・ローン(低所得向け住宅金融)こげつき問題です。これが米国の消費を冷やし景気減速が加速し、世界経済に影響を及ぼす。次はどこだ、と投資家は不安になる。当然、バブルの本丸・上海だ、となる。すると株式市場創設まだ15年そこそこの中国の素人個人投資家1億人の狼狽売りが始まり、これがまたパニックを呼ぶ。暴落の連鎖が世界を駈け巡り商品市況、続いて海運市況が暴落する・・・・・・・・考えると恐ろしい。
これは実はあまり知られていませんが、サブプライムは想像以上に深刻なのです。米ベアースターンズ推計では融資残高は1兆4,500億ドル(170兆円)。米GDP12.4兆ドルの12%もの金額です。日本は500兆円ですから、日本なら60兆円の残高に相当します。半端な額ではありません。先ずここを頭に入れて下さい。日本のサブプライム関連投資残高はたかだか1兆円です(米UBS証券推計)。
しかも今後は更に厳しい状況が待っています。ここがポイントです。米抵当銀行協会によれば2007年1-3月期の米サブプライム・ローン返済延滞率は13.77%と2005年以降上昇を続けています。米国の場合、90日以上滞納すると「債務不履行」デフォールトと看做され抵当の住宅が取り上げられ競売に付されます。競売物件がこのまま増えると住宅価格は更に下落し担保価値も目減りします。
特に2004年以降のローンは当初返済軽減期間(殆ど返さなくていいも同然のものもある)が終了すると、途端に返済の重圧が始まる。低所得者達の、今後更に延滞、債務不履行が増加するはずです。
バーナンキFRB議長(米中銀総裁)はシリアスだが克服できない問題ではない、と言っていますが、不安を徒に煽らないように取り繕っているだけ、としか見えません。このローン債権は証券化され市場で売買されますが、当然ながらリスクの高い人達が借りている債務なので高金利です、高利目当てにヘッジファンドなどがこれに投資し高利益を上げていたのが、一発でしぼんでしまった。
米大手証券系ファンドは軒並み損失を抱え、破産状態もあり、これに連座する金融機関も大きな損失を蒙っていると見られます。ローンの借入者は今まで抵当の住宅時価の上昇分を更に銀行が貸してくれるのをいいことに消費を謳歌していましたが、このツケが二重の債務となって問題を複雑化しています。こうなるとアメリカは景気対策に金利を下げようにもユーロへの資金シフトが恐くて出来ない、あげようにも景気が下降するのにこれもできない、八方ふさがりと相成ります。本件は暫く世界市場の頭痛の種でしょう。
原油輸入はもうしなくていいのだからブラジルは磐石で揺るがない、と思うのは少し甘いと思います。
ブラジル政府はあれはアメリカの出来事でブラジルでは関係がない、と言って沈静化しようとしていますが、キーボードひとつで日本のGDPの数倍のカネ、何兆ドル、十兆ドルという巨額資金が世界を駆け巡るシステム化の時代です。国境なきグロバール化市場の恐ろしさは昔の市場の比ではありません。
マンテイガ蔵相はお立場上、市場への影響を考えてブラジルの負の面を言わないだけです。各国中央銀行の資金緊急放出(短期市場への供給やベースマネー増強)の狼狽振りをみれば事態の深刻さがわかります。物凄い量のカネを金融機関に出しました。ドルが急騰(レアル急落)を続けるブラジル市場でも中銀はコール市場に介入してカネを出しているはずです。
(注)
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