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【日本人が礎を築いたブラジルのリンゴ栽培】 麻生 悌三さんの寄稿です。
東京農業大学を卒業されブラジルに農業移住された麻生 悌三さんは、自らもアマゾンの農業に挑戦されその後サンパウロで日本の大手商社三菱商事に現地でジョインされ食料部門長としてブラジルからの食料の輸出を手広く手がけられ定年退職後も日本向け鶏肉輸出のエイジエントとして活躍されています。これまでのブラジルのオレンジ・ジュース、ブロイラー、砂糖、その他について纏めて頂いていますが今回日本人が開拓し広めたりんご栽培について統計資料等も駆使した報告書を送って頂きました。
ブラジルに置けるりんごの主生産地であるサンタカタリーナ州は、りんごが取り持つ縁で青森県と姉妹県提携を結んでおり日本からの技術指導だけでなしにブラジルからも多くの研修生が日本に出向いておりりんごの取り持つ縁は深い。
写真は、りんごの里、サンジョアキンを訪ねたときに撮った美味しそうなブラジルのりんごです。


ブラジルに於けるリンゴ栽培は、此処30年のほどのことであり、80年代に入って急速に拡大した。リンゴの主要産地はサンタカタr−ナ州(SC)サンジョアキン、フライブルグ、リオグランデドスール州(RG)ヴァッカリア、パラナ州(PR)パルマスの3地域である.とりわけ,サンジョアキンに於ける,コチア産業組合のリンゴ栽培団地の造成と、JICAによる栽培技術支援は、ブラジルのリンゴ栽培勃興に大きく貢献した。ブラジルに於いて日系人の農業分野での評価は極めて高いが、リンゴ栽培の成功は,さらに、その評価を高めている。
リンゴ栽培は1970年初頭に始まり、当時のブラジルのリンゴの消費は、略、100%をアルゼンチン等からの輸入に仰いでいた。毎年数億ドルの外貨を輸入に充当していた。政府もリンゴの栽培に注力し、1977年度に国産リンゴ14000トン輸入量19万トンであったが1985年には生産量24,2万トン。輸出も開始され640トンを欧州に輸出した。
―ブラジルに於けるリンゴの生産量、輸出量、輸入量。消費量
年代   当時の人口   総生産量     輸出量    輸入量  消費量
1985 134百万  242千トン   640トン  90千トン 332千トン 
1990 143     330      5,5千t  112  437
1995 153    544      12      245  777
2000 169    630      64       43  609
2003        701      76       42  667
2004 180       988   52       42  878
2005        759      99       67  726
2006        700      57       77  720
2007 183       850   112    68  806
2008 191   850 (予想)
本格的栽培が行われて、30年後には、日本と生産量に於いて肩を並べる世界の生産国
ランクの13位ぐらいに伸張した。ブラジルに於ける農業の潜在力には驚嘆させられる。
― ブラジルに於けるリンゴの栽培面積の推移
年代     SC州      RG州      其の他    合計 
1985   10092Ha  6389Ha   4494Ha 20975Ha
1990   12788    9470     3536   25794
1995   13403    9232     2691   25826
2000   17200    13814    1863   32877
2003                            31536
2004                            32933
2004年以降の栽培面積は未確認だが2008年は3,5万Haとの臆測もある。
生産農家はSC州で1600軒、RG州で660軒、パラナ州で32軒あり合計2300軒と見られる。労働者数は直接雇用で約3万人、間接雇用で6千人を数える。ブラジルのリンゴ栽培が生み出す生産額は1キロ当たりUS$0、25として、おおよそ、2億ドルであり。流通、貯蔵等の経費を考えると、総額3億ドルー年間の産業である。又、りんご栽培の単位面積あたりの収益は高く、1HA当たり30トン収穫するとして、5Haの小農であっても、1家族を養える。これが他の作物なら30Haの耕地面積が必要とならん。
SC州サンジョアキンは山地で土地もかれ、岩石がごろごろ転がっている地域に農家600軒が三千Haの耕地で栽培しており、農家1軒あたりのこう先面積は5Haである。
そこで年間8万トンの収穫をあげている。
―ブラジルに於ける主要栽培種
品種      栽培比率
ふじ      45% 〔青森の東北農試が開発した品種で世界のトップ栽培品種〕
ガラ      46% (ニュージーランド原産)
其の他      9%
リンゴ栽培は冬季の休眠期間の低温期が7,2度C以下の低温がどのくらいの時間あるかと年間の降水量により決定される。3地域に於ける低温時間と降水量は以下の通り。
値域          低温時間        降水量
サンジョアキン     600−800時間   1400ミリ
フライブルゴ      400−600     1500
ヴァッカリア      400−600     1400−2000
一般的に云って、ブラジルの栽培地は低温時間が短く、そのため,酸度が上がらず,糖度が上がるために酸味に乏しい味になる。アルゼンチンのアンデスの麓のリンゴが酸度1,5−3,0に対しサンジョアキンのリンゴは1,2−2,0の酸度である。これがブラジルの
リンゴの品質に対する最大の泣き所である。
―ブラジルの産地のリンゴの貯蔵能力
産地            CA貯蔵庫      冷蔵庫      合計
SC州           132千トン     90千トン    222千トン
RG             64        130      194
PR              3        120      123
合計            199        340      539
CA貯蔵庫とは大気調整の貯蔵庫で貯蔵庫にチッゾガスを充満させて、酸素を通常の2%、温度2度Cに調整し休眠状態に置き、最大9ヶ月間の貯蔵を行う。一般の冷蔵庫は温度を
凍結寸前のー1度C(リンゴはー2度で凍結する)湿度95%に調整し、最大2ヶ月間の
貯蔵を行う。
―ブラジルのリンゴジュース(濃縮)工場
ブラジルは年間2万トンの濃縮ジュースを USA欧州,日本等に輸出している。
主要メーカー           所在地        年間の生産キャパ推定
Fischer Videira (SC) 30,000トン
Yakult Lajes (SC) 10,000
Tecnovin Vacaria (RG)     20.〇〇〇
原料は生食に適しない等外品を使用するが生産能力をカヴァーするには原料不足の状態。
―コチア産業組合とJICAの貢献
1960年に当時南米最大の農協であった日系組合コチア産組は日本政府に対して、サンパウロ州及びその周辺の日系農家の果樹栽培の指導員の派遣を要請した。農林省は1961年に金戸技官を6ヶ月間派遣した。SC州の標高の高いサンジョアキン地域(標高
1400m、平均気温13,9度C,冬季の低温期600−800時間)に於いてリンゴ
栽培が有望である旨の報告書を日本政府に提出した。1970年初頭コチアはブラジル政府を動かし、政府案件として日本政府にリンゴ栽培の専門家の派遣を要請した。それにより日本政府は後沢技官(元長野県果樹農試場長)を1971年3月に派遣した。後沢技官はSC州の農事試験場に席を置き、組合の技師、リンゴ栽培に夢を託した農業者数名(西村、清水、平上,細井等)等とリンゴ栽培の敵地選びの作業を開始した。その結果、SC州サンジョアキン地方に好適地を見出し、コチア産組に対して、リンゴ栽培団地の造成を進言した。当時最大の問題は土地の購入代金で、関係者の奔走の結果、ブラジルで最初の
農地購入代金の農業融資が認められた。1974年に第一回営農団地の区分が行われ、8家族が入植した。1974−77年にかけて、3箇所の営農団地が造成され、農地面積
560Haに44家族の日系農家が入植した。栽培に当たり、後沢技官の強い信念でふじ種の栽培を基幹とすると決定された。その理由は、ブラジルの広大な国土を考え、日持ちが長く,輸送中のダメージの少ない品種を選定した。この選定が以後のブラジルのリンゴ栽培に多大な影響を与えることになる。後沢技官は5年間に亘る滞伯でブラジルのリンゴ栽培の礎を築き、その後、JICAより7名の専門家が25年の長きにわたって技術支援を行った。この技術支援は他州にも波及し2000年には栽培面積3万Haにも及び70年初頭の30倍に拡大した。サンジョアキンの農事試験場EPAGRIの正面入り口の庭に、後沢博士の遺徳と功績をしのび、リンゴの形の大石の上に後沢農博の頭部を乗せた石像が安置されている。コチア産業組合は1994年に崩壊解散した。リンゴ栽培を始めた組合員の農家はSanjo-Cooperativa Agricola Sao Joaquimの名称の組合を創設しコチアの事業の
後継ぎを立派に行っている(現在組合員の栽培面積768Ha、生産量年間2万トンのSC州で7番目の生産団体である。又、ヤクルトも1978年にリンゴ園を買収しりんご事業に参入した。現在ではジュース工場、貯蔵能力3千トン、を保有する、ブラジルのリンゴ産業の中核企業になっている。
―今後の課題
ブラジルのリンゴの年間消費量は一人当たり4キロ程度で、生産国で最も消費が少ない
(主要国の一人当たり消費量はオーストリアが33kg、USAが9,1kg、アルゼンチンが11kg、日本が6,3kg)この消費をあげる努力はしなければなるまい。
又、急激な生産の増加はインフラ整備が追いつかなくなっており量の拡大から、品質面の向上に転換期に来ているかも知れない。
以上
麻生
2008年3月10日



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