ブラジルのトウモロコシ栽培と飼料産業 麻生 悌三さんの寄稿です。
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アメリカのエタノール生産原料として一躍有名になりエタノール生産原料として使用されることにより世界的に飼料用原料としてのトウモロコシが不足して大きな問題に発展していますが、ブラジルにおけるトウモロコシ栽培と飼料産業の現状はどうなっているのか東京農大卒の学究派の麻生さんから時宜を得た寄稿が寄せられていますので収録して置きたいと思います。
夏の海浜で食べる塩の良く効いたトウモロコシは、夏の風物詩を飾りますが、真冬の6月末にスーパーで立派なトウモロコシが店頭に並んでおり何時が季節か分からなくなっていますが食用には1年中やわらかいトウモロコシが出ているようです。こんな美味しいトウモロコシが自動車を走らせるためのエタノールになってしまうのは味気ない気がします。飼料作物としてならそんなに抵抗はないのですが。。。
写真は、トウモロコシ畑に行って自分で撮って来たいと思いますが、手っ取り早くGOOGLEで見つけた写真をお借りしました。
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トウモロコシはアンデス山系のペルー当たりが原産地らしいが、本格的栽培を最初に行ったのは、メキシコのアステカ帝国らしい。原住民からマイズと言う名称を聞き、それが
英語のmaizeの語源になったらしい。今、トウモロコシの世界の需給に大きな変動が起きている。元来、トウモロコシは65−70%が飼料用の用途であり、残りが食品用であった。そこに、1995年位いから、世界のトウモロコシ生産(768百万トン―2008年)の40%を占める最大手生産国のアメリカ(316百万トン―2008年)が自動車燃料の原料たるエタノールをトウモロコシを原料に生産開始した。ブッシュ大統領は石油依存から脱却し、再生可能なエネルギーに換える転換政策を示した。2012年までに、エタノールを75億ガロン/年間(2839万キロリッター)を生産する目標を掲げた。この原料の95%はトウモロコシであり(5%はコウリャン)、7500万トンのトウモロコシが原料となる。世界一のトウモロコシ輸入国の日本の年間輸入量が1600万トンであり、その巨大な量は、世界の食品用、産業用トウモロコシに与える影響は計り知れない。メキシコの主食のトルテイーヤが不足したり、世界中で値上げが起こり、畜産にも深刻な影響を与えている。(今、トウモロコシとは別に石油、食量、資源、全てに値上げ旋風が起こっている)
アメリカのエタノール工場は建設中のものも含めて130工場があり、コーンベルト地帯に集中している。エタノールの生産量は目標の75億ガロンを超えて、110億ガロン(トウモロコシ原料使用量推定1億トン)に達する予想もある。 日本は産業用トウモロコシの100%を輸入に依存しており、量の確保と価格は日本の畜産の存亡に関わる問題である。当面、自給飼料をどうするか、エネルギー問題をも含めた、ダイナミックな議論は殆ど聞かれない。トウモロコシはアメリカの穀物とエネルギーの両面を睨んだ、国家戦略であり、その国家戦略は日本の食糧を保障してくれない。食糧確保だけでなく、再生エネルギー利用もにらんだ、大胆な戦略を農業から打ち出さなくてはならない。
―世界のトウモロコシ生産。(主要生産国はアメリカ、中国、南半球(アルゼンチン、ブラジル、南アフリカ)に分かれる)−07.08農年度予想
アメリカ 中国 南半球 世界合計
生産量(百万トン) 316,5 146,0 84,5 768,5
シェアー 41% 19% 11%
貿易量 50,2 3,0 23,2 83,1
アメリカの輸出は年間5千万トンであり日本の輸入量の95%1520万トンはアメリカからの輸入である。エタノール原料に7500万トン消費し輸出余力が無くなったら日本及び消費国は苦境を味あう破目になるだろう。
―主要5カ国の生産量と輸出余力は次の通り。(07−08農年度予想)
国 生産量 輸出量
アメリカ (百万トン) 316,50 50,2
アルゼンチン 24,00 16,0
ブラジル 50,00 6,5
南アフリカ 10,50 不明
中国 146,00 3,0
世界合計 767、96 83,1
アメリカのみならず中国もエタノール生産に進んでいる。中国は人口15億以上であり、自国消費だけで輸出余力は無いと見る。
―ブラジルのトウモロコシ栽培
1) 2005年―2008年(予想)生産と栽培面積。
2005 2006 2007 2008年
収穫量(百万トン) 35007 42514 51370 53586
栽培面積(千Ha) 12208 12963 14055 14309
イールド(kg−Ha)2867 3279 3655 3745
栽培面積はさほど増えていないが、収穫量は増えている。これはイールドの向上である。
栽培技術の向上もあるが、品種改良種の導入が寄与していることは間違いない。
ハイブリッド(一代雑種―F1)及び一代雑種間を交配させた、ダブルハイブリッド(F2)の導入が生産性向上の要因である。(メンデルの法則=優劣の法則。第一代目雑種は親の優性の形質が個体に表れ、劣勢形質は潜在する。)この法則を利用して優性形質を作る。
1922年にアメリカでトウモロコシの一代雑種を開発された。1930−1965年のアメリカのトウモロコシの生産量は6倍になった。ブラジルに於いても、F1の種子は大手
化学会社Bayer,Monsanto等に握られており農家は勝手に種子を採れない。F1を種子に保存し、播いても(F2)も劣性の形質である事が多く効率が悪いケースが多いい。
(大豆は一代雑種(F1)が作れない特質がある。自家農園の種子を翌年播種可能)
2) イールドと品種改良
年度 収穫量 栽培面積 イールド
1990 21348千トン 11394Ha 1874kg−Ha
1997 32948 12562 2633
2004 41806 12423 3370
F1の導入により、イールドは1,8倍になった。最近、政府が許可した遺伝子組み換え
トウモロコシ(GMO―特に害虫耐性トウモロコシ)の導入により、イールドは更に向上すると予想する。F!の種子は大手化学メーカー(Monsanto,Bayer,Dupon,Basf,etc)に握られており、自社の農薬を使用しないと耐性が生かされない種子を農家に販売する、これは、農業(栽培)が特定会社に牛耳られる現象である。又、GMOにしても、昆虫(害虫)を
殺す(防除)する遺伝子(毒性)の作物を人間が摂取して、本当に健康に害がないかと言う議論に対してはまだ結論が出ていない。
3) ブラジルの2008年のトウモロコシ需給予想
期首在庫 976万トン
収穫量 54785
輸入量 1150
合計 56911
国内消費
―食品用 760 (粉末,ピポカ、等)
―工業用 4888 (澱粉、食用油、等)
―飼料 36982
―種子 447
輸出 11000
合計 56911
期末在庫 3281
アメリカのエタノール政策により、トウモロコシの市場価格は上がり、1年前の輸出価格はFOB US$150,00-トンであった物が今は、US$250,00に上がって下り、国内の飼料価格もそれにスライドして上がり、畜産農家に多大な影響を与えている。それでは生産農家が値上がりで儲かるかと云うとさにあらず。生産コストの値上がりで余り恩恵は受けない。 飼料を農家に配りインテグレーションを行っている鶏肉の輸出パッカーは、レアル高によるマイナスと飼料価格の値上がりのダブルパンチを受けており、かろうじて、製品の値上がりでしのいでいる。
―ブラジルの飼料工業
ブラジルは世界のトップレベルの畜産国で飼料の需要は大きい。(特に、養鶏、養豚、乳牛)
2007年の配合飼料の生産とトウモロコシの使用量は下記の通り。
配合飼料の生産 トウモロコシ 配合比率
養鶏 (千トン) 28889,00 29515 70%
肉用鶏 25029,30 20515
卵用鶏 3859,70
養豚 13799,40 12092 87%
畜牛 5540,60 2374 42%
乳牛 4076,80
肉牛 1563,80
ペットフード 1800,00
この他に養魚、馬、等の配合飼料があるが,本項よりは除外する。又、肉牛の消費量が少ない理由はブラジルの生産が略、放牧による形態によるものである(肉牛の飼育頭数は1,9億頭で世界一)。
トウモロコシの消費が大きいのはブロイラーであり、年間生産量1千万トン、輸出量300万トン。輸出量はアメリカを抜いて世界一となった。ブラジルのトウモロコシは韓国には輸出していたが、日本は殆ど買わなかった。アメリカ一辺倒は何時切り捨てにあうかも知れずリスクが大きい。サプライソースを広げる必要が急務である。昨年の輸出統計には日本向けに12000トンの輸出が掲載されている。今後の拡大を期待する。
以上
麻生
2008年6月19日
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