移民を詠う早川清貴さんからお便りが届きました。
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メーリングリストbatepapoの健筆家で歌人でもある早川清貴さんから下記お便りと共に移民を詠った珠玉の10首を送って頂きました。続きを待ちわびる気持です。
『早川です、お変わり無きご様子何よりです、さて先般来お約束いたしました小生の拙作であるブラジルの日本移民に関する<短歌>を下記にお届けします、日本の同人誌編集責任者へ問い合わせていましたが、『御地の移民の方々の、少しでも、慰めとなるなら喜んで……』と言うことで転載の許可が出ましたので、取り敢えず2006年〜2007年の十首をお送りしました。
小生の尊敬して止まない移民先駆者を想いつつ日々に浮かんだ時点で書き付けたもので日本の雑誌に掲載されたものです、又中には既連で重複しているものもあるやも知れませんその辺は和田さんにお任せします、貴誌益々のご発展を祈念しつつ。』
適当な写真を探すのに苦労しましたが、日本移民発祥の地と言われるグアタパラ移住地のHPよりお借りした移住地の拓魂碑です。
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01)移民史の勝ち組負け組正しくも描くドラマに祖国愛想ふ
橋本寿賀子作の<はるとなつ>のTVドラマで演ずる勝ち組と負け組の葛藤を観ていずれも祖国愛に燃えての結果であろうと想った。
02)生業と浜に網打つ日系の二世逞しく傘寿を過ぎて
サンパウロ州のイグアッペ海岸で懸命に網を打つ赤銅色の日系人に出会った、年齢は90歳を過ぎるといいながら逞しい体躯である、近くの日本人移住地<Registro>で生まれ育ったと云う、この歳にもなって網打つは『幼児からの生業だよ!』といいつつ網を打つ。
03)働けど働けど富みは来たらず鍬握る掌に乾きけり汗と涙
ギラギラと照りつける灼熱の太陽の下懸命にエンシャーダを握り農事に励む、移り来て既に数年一向に楽にならない、それを想うと後悔と虚しさ、己の不運などで涙が流れる汗と共に鍬を握る乾いた掌に染みてゆく。
04)移民史を汗に描きし先駆者は白寿の祝い矍鑠と受く
邦字新聞の地方版に掲載された99歳を祝う誕生日の記事と写真に思った。
05)移り来て百年骨も無き先駆者の土碑に納むると
これも邦字新聞が伝える記事からである、日本人移住地の<グアタパラ>で無縁仏を再祀するべく掘り返したが遺骨は見出せず、その墓の土を棺に納めて葬った、ブラジルをこよなく愛した先駆者はすっかりブラジルの土となった。
06)百年を生きし移民の君死せり今の繁栄黄泉に伝えよ
パラナ州はロンドリーナ近郊に住むと云われた笠戸丸の唯一の生存者(当時は赤子)中川トミエさんの訃報に接して詠んだもの。
07)珈琲の葉陰に潜み時を待つ君は驚く己の影に
沖縄移民の末裔で現在サンパウロの有力新聞の編集主幹者の一人が表した父親の移民史を読破したが、父親は配耕された珈琲園での重労働、最悪の労働条件に耐えられず満月の夜に<夜逃げ>する、銃を携帯した見張りが園内を巡回する捕まるとその場銃殺の可能性あり、珈琲樹の陰から陰を隠れながら脱出を計る、折からの満月に己の影にも怯える。
08)開拓に膨るる足を洗う川水面の月に涙零れぬ
星から星の一日の重労働が終了、掘っ建て小屋に戻って家の前を流れる小川で足を洗う、日中の灼熱の太陽と休む暇も無い重労働で足は浮腫む、ふと夜空を見ると満月が浮かぶ日本で見た月を些かも違いなく郷愁に熱い涙が零れる。
09)老境に入りぬ二世しみじみと故郷無き郷愁我等の運命(さだめ)
長いこと某邦字新聞のアララクワラ支局長を務めた二世の<馬場謙介氏>の著書を読んでの感想である、誠に云い得て妙である。
10)拓人の墓は祖国日の本の東を向きて静かに眠る
上記馬場氏が訪れたカフェーランジャ近くにある日本人墓地の墓標は、心なしか、皆東に向かって立っていると著者は書いている、故郷に錦を飾りたい一心で働いた甲斐なく逝ってしまった移住者せめても墓標だけは祖国を向いて……。
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