【ブラジルの紙、パルプ工業と植林】 麻生 悌三さんの寄稿です。
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麻生さん書かれる寄稿は、従来農業関係が中心ですが、今回は近年有望産業として脚光を浴びているブラジルの紙、パルプ工業と植林に付いてお願いして纏めて頂きました。
南米では日本向けのチップ輸出では太平洋側のチリがロジスチック上の問題で有利ですが、ブラジルは、原料としてのチップの輸出もやっていますが矢張り付加価値を付けてパルプまたは紙として輸出することを目指しているようです。
RS州では現在ARACRUZ、VCP、STORA ENZOの各社がいずれも年間100万トン以上(これが経済規模?)の新規パルプ工場建設を打ち出しておりウルグアイ、アルゼンチンとの国境150km以内の植林用の農地購入に憲法問題が引っ掛かっており環境問題と共に植林許可取得が難しい状況を呈している。開発か環境保全かブラジル大型プランテーションも植林、大豆、砂糖きび、トウモロコシ、コヒー等も広い大地を有するだけにロジスチック問題と共に大きな課題となって来ているようです。
ユーカリ、アメリカ松の植林地域に入ったりリオグランデ港の日本向けチップ工場等探せば見つかるのですが、適当な写真が見つかるまでまたGOOGLEで検索した写真をお借りしました。
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紙とは植物繊維(其の他)を高温高圧でボイルし、水中で分解し植物繊維を蜜にからみ合わせ、脱水、乾燥させた物である。基本的に木材パルプと再生紙で造られる。紙の60%は洋紙(印刷、筆記用紙)であり、40%は板紙(包装資材等)である。
ブラジルの製紙工業は1950年代(年間生産25万トン)から勃興し、2007年には
9百万トンになり、実に36倍に生産量は飛躍した。ブラジルの土壌、気候、環境がパルプの原料たる、植林の最適地である事が、要因である。植林は製紙用、建材用、製鉄燃料用等に大別でき、2001年の植林総面積は4,9百万haで、内訳は製紙用 1399千ha、製鉄燃料用 950千ha、建材用 250千ha、其の他 2381千haである。
―世界の紙、パルプ
2006年の世界のパルプの生産量は392百万トン。生産のトップはUSA、次がカナダ、日本は5位、ブラジルは7位である。一方、紙の消費量は9千万トンで、一人当たりの年間消費量はアメリカが312KG、ドイツが253KG、日本が247KGである。ブラジルは40,5KGで世界平均の59KGを下回る。後進地域の近代化と世界人口の増加に比例し、紙の消費は伸びている。
―ブラジルの紙、パルプ
A) 1950―2000年の10年おきのパルプの生産量
年度 長繊維パルプ 短繊維パルプ 合計
1950 8367トン 1592トン 39959トン
1960 80829 119908 200735
1970 27815 385897 413712
1980 755562 2118124 2873686
1990 1174456 3914688 5089144
2000 1349877 5539267 6889144
(注)
長繊維とは長さ3−5ミリの繊維にて、針葉樹(松、杉等)のパルプ。用途は新聞用紙、包装紙等で軽くて、伸張力が強い。
短繊維とは長さ0,5−1,2ミリの繊維にて、広葉樹(ユーカリ、ぶな、等)。用途は
印刷用紙、筆記洋紙等で重いが張力は弱い。
1980年代からパルプの生産は急増し、短繊維パルプの生産では世界生産の半分を占める。1960年より植林に特別税制措置が取られ、植林が旺盛となり特にユーカリが顕著
B) 2006年と2007年の紙とパルプの輸出入
2006 2007 伸び率
輸出 4005千トン 4727千トン 18,5%
パルプ 2484千トン 3074千トン
紙 1521 1702
輸入 1125 1318 17,2%
パルプ 213 232
紙 912 1086
国内市場 2880 3408 18,3%
パルプ 2271 2792
紙 609 610
(注)
2008年度の生産見込み量はパルプ12800千トン、紙9250千トン。
輸出の仕向先は、欧州41%、アジア31%、アメリカ25%である。2007年の輸出高はFOBで47,26億ドル。パルプの生産の40%が輸出で短繊維が圧倒的に多いい。
―パルプと紙の製造工程概略
伐採された材木は、チップと云う約5センチ角の木塊に加工される。
パルプ=チップ ー 蒸解釜でボイル − 木材繊維 − 洗浄 − 漂白 −乾燥
―ロール状に巻く。
紙=パルプ − 液状 − シート化 − ローラーで圧縮して水分除去 − 熱乾燥―
塗料を表面に塗る − ロール状に巻く。
(注)
漂白は塩素を使用するケースとしない処理方法があり。使用しないパルプはECP(ELEMENT呼ばれる。ユーカリはパルプ質を約50%含有し、木材2,2トンから1トンのパルプ生産。
―ブラジルの代表的パルプ、紙メーカーの概略
企業名、A)操業開始時期 B)生産能力(生産量)C)植林面積(土地所有面積D)増産計画
E)株主構成
1) Aracruz
A) 1978年 B) 3,2百万トンー年 C)286千ha D) 2015年までに生産キャパを12百万トンに引き上げるGuaiba(RS)工場とVercel(BA)-Stora(Finland)の両工場に35億ドル投資 E)Votorantim 28%,Lorenzetti 28%, Safra 28%,BNDE 12,5 %
2) Cenibra (日伯紙パルプ)
A) 1971年CVRD(51%)とJVを開始したが、2001年に日伯紙パルプがシェアーを買収 B)967千トン C) 23万HA D)B.Horizonte工場に10億ドル投資し増強 E)
王子製紙56%、伊藤忠39%
2) VCP – Votorantim
A) 1992年papel Simonを買収 B) 5,7百万トン C) 260千HA植林済み、他に用地197千HA所有 D) Ripasaを1,6億ドルで買収済み。7億ドルを投資計画あり E)Votorantim Group 主体
3) Klabin
A) 1899年 B)再生紙 1,6百万トン、厚紙 1,2百万トン C)379千HD)国内20工場、アルゼンチン1工場あり、パラナ工場のキャパを70万トンから1,1百万トンに増強 E)Klabin Family主体
4) Suzano
A)1910年B) パルプ 1,1百万トン,紙82万トン C)184千HA植林 D)
Bahia S ulの株式を38,6%取得しグループ化。ピアウイ州に18億ドルを投じ新工場を建設中 E)Suzano Holding 36%, Banco do Brasil年金基金 4,6%
―ブラジルの植林
ブラジルの植林面積4,9百万HAの28%が製紙パルプの企業が原料供給源として植林しており、その面積は1714千HA(2007年)。その内、80%(1366HA)がユーカリ、19%(341HA)がPinus(アメリカ松)、1%が其の他の樹木である。
2008年には、ユーカリと松で154千Hの植林が予定されている。40年前までのブラジルは世界の大手の輸入国であった。それが,今や世界有数のパルプ輸出国に成長している。
2007年のブラジルのパルプ生産は11,4百万トン、(長繊維 1,44百万トン、短繊維9,96百万トン)。輸出は6,5百万トンであった。
A)ユーカリ(Eucalipto)
ユーカリは豪州の原産であり、ブラジルに導入されたのは、1824年と言われている。
1960年の植林税制恩典から植林が盛んになった。1965年当たりから、植林に益々
ドライブがかかった。ユーカリは広葉樹で楢,樫と同じ樹種である。このユーカリはブラジルの気候、土壌に適合し、他国のユーカリより短期間(成木まで7年)で成長し且つ、多収量(HA当たり40−50立方メーター)を得る。他国(同じ南米のチリーでも)の伐採樹齢は平均10年であり収量も1HA当たり20−30立方メーターに過ぎない。
ユーカリ樹は萌芽更新と云って、初年度(新植の後7年)伐採してから、根元から又、発芽し、7年後に第二回の伐採が出来る、又、その後、発芽し7年後に第三回の伐採が出来、合計21年間に3回の収穫(伐採)がある。成木の樹高は35メーターに達し、1HA当たり1000 − 1500本の苗を植え、7年後、150トンの用材が得られる。ユーカリの繊維の長さは、0,65ミリで印刷用紙、筆記用紙に適し、吸水性も良いので、トイレットペーパーにも適する。ブラジルは世界最大のユーカリの植林国であり、アマパ、パラー州から南大河州まで幅広く植林され分布する。
B)アメリカ松(Pinus)
製紙用の植林面積は3411千HAでパラナ,サンタカタリーナ州の植林が84%を占める。アメリカ、南アフリカから導入されたらしいが、植林が盛んになったのは、
1960年頃からである。この木も、ユーカリと同じく、ブラジルの気候、風土に適合し
短期間(成木の採集伐採樹齢は21年。北欧等の寒冷地の針葉樹は30年かかる)で伐採できる。萌芽更新はないが、1HAに1600本の苗を植え、次のスケジュールで伐採する。
樹高 樹齢 伐採率 生産(伐採)
3 メーター 8年 40% 50−70立法メーター
6 12 30 70−120
20 21 40 150
3回に分けて伐採(間伐)し最初と2回目の伐採した用材は、パルプ、燃料に使用され、3回目のは建材に使用されるケースも多いい.短繊維であり、1平方センチの重量は30−42gで軽く(ユーカリは52グラムー平方センチあり)強度もあり新聞用紙、包装紙に使用される。 (無論、全量パルプ用に使用されるケースが大半である)
―ブラジルの紙、パルプの将来性
ブラジルは2008年にはパルプの生産で世界6位のスエーデン追い越し12百万トンの生産を達成するだろう。2009年には世界4位のフィンランドを追い越し13百万トンに多分なる見込み。2012年には世界3位の中国を追い越し18百万トンを予想している.何と云ってもブラジルの樹木の生長が早いことと、収量が多く、コストが安い点は他国より有利な点は云うまでも無い。又、平坦地が多く開墾しやすく、輸送も容易である。
企業の新規投資も総計160億ドルに達する見込みである。具体的にはSUZANOがピアウイ、パラー両州に66億ドルを投じてパルプ600万トン生産の工場建設と植林を行う。
VCP来年から稼動するTrez Lagoa(MG)工場−キャパ1,3百万トンに15億ドル投資。
ARACRUZもGuaiba(RS)工場に28億ドル投資と、Governador Valadares(MG)工場に24億ドルを投じる。スエーデンの巨大企業Stora Ensoもブラジルでの生産を目論んでおり、
中国も企業進出を計画している。ブラジルの紙、パルプの牽引車であったCVRDが撤退する方針だが、植林事業は継続している。世界のユーカリパルプの56%を占めるブラジル企業群、まだまだ発展すると予想する。又、これからの、市場の鍵を握るのは、中国とインドの需要だろう。
以上
麻生
2008年10月10日
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