ブラジルの鶏卵 麻生 悌三さんの寄稿です。
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東京農大卒業後アマゾンでの農業経験とサンパウロに移ってからは、敏腕商社マンとして三菱商事のブラジル会社で食糧部の部長を長く勤められ定年退職後も日本向け鶏肉輸出のブローカとして活躍されている農業関連のエキスパートであり『私たちの40年!!』寄稿集向けに書き下ろしのブラジル農業関係に付いて色々纏めて呉れています。
今回は、「ブラジル鶏卵」と題して面白い記事を送って呉れています。
鶏卵の世界一の年間一人あ当たりの消費量は、なんとメキシコで341個、日本は第2位で年間330個の卵を食しているそうです。ブラジルは僅か?130個とのこと。生産では中国がダントツで41%、2500万トンを生産、アメリカ、インド等に次いで世界で第7位のブラジルは、世界の生産量の2.6%に当たる156万トンを生産しているそうです。卵は赤玉の方が白い卵より価格が良いとのこと。勉強になりました。麻生さん有難う。
写真は、GOOGLEでブラジルの鶏卵で検索して見つけたものをお借りしました。
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鶏の祖先は東南アジアに分布生息している、雉科の鳥、セキショクヤケイを飼いならし7千年前から飼育されていたらしい。卵を7−8個産むと、抱卵する習性があり、卵を取り上げると、産み足す、補卵性もある。それを利用して、改良を重ねたのが、今日での、採卵鶏の始まりである。日本でも中国から輸入した鶏を愛玩用,闘鶏用として飼育していたが、本格的な養鶏が始まったのは、大正時代(1912−1925年)にアメリカから、採卵用として輸入したのが最初である。採卵鶏はホワイトレグホーン、肉卵兼用種はロードアイランドレッド、ニューハンプシャー、ブリマスロック等があり、鶏の種類は120種ぐらいある。世界での鶏卵の生産量は約年間6千万トンと見積もられており、生産の41%を占めるのが中国(2,5千万トン)、次がアメリカ 9%(533万トン)、インド
4,2%(250万トン)、7位にブラジル 2,6%(156万トン)である。鶏の飼育
羽数に就いては、総数 1486億羽と云われているが、大部分はブロイラーであり、採卵鶏の成鶏の雌鶏だけの統計はなく、推定する処、ブラジルの鶏の総数約52億羽、その内、採卵鶏の雌の成鶏は7千万羽ではなかろうか。2004年の鶏卵の年間の一人当たりの消費量はトップがメキシコ 341個、日本 330個、中国 320個、アメリカ 226個、ブラジル 130個である。
―ブラジルの採卵養鶏
2007年の統計では、ブラジルは6,7千万箱(1箱は30ダース)の鶏卵を生産しており,州別の生産量では、サンパウロ 35%、ミナス 14%、パラナ 6%、南リオグランデ 6%のシェアーでリオ以南の南部ブラジルの生産が60%を占める。企業養鶏
の規模は1万羽以上―1戸の養鶏場の生産が総量の70%を占める。鶏卵は大きく分けて、白色卵(オワイトレグホーン系の鶏卵)と赤色卵(ロードアイランドレッド系の赤色鶏)があり、生産の75−80%は白色卵で20−25%が赤色卵である。両者の栄養価は全く同じであるが、好みの問題と、又、赤色卵は白色よりもサイズも大きく(鶏体も白色鶏より大きく、餌の摂取も多いい)価格は、白色卵よりも5−10%高く売られている。尚、鶏卵の小売のサイズは卵1個当たりの重量で分けられ,pequeno 45-50gram, medio 51-55 gram,grande 56-60 gram, extra grande 61-65 gram,jumbo 65 gram以上となっている。
―採卵鶏のライフサイクル
孵化は温度38度Cで21日間暖められ、孵化したヒヨコの体重は40グラム。
孵化―2日後初生雛−30日後幼雛(体重310グラム)−60日後中雛(体重790グラム)−150日後大雛(体重1700グラム)初卵があり、卵重は48グラム、産卵率
は50%−210日後成鶏。体重1750グラム。産卵のピークで産卵率90%。卵重は
58グラム)−560日後体重2000グラム。産卵率65%。卵重66グラム)−廃鶏
として淘汰開始。年平均産卵率75−80%(270−290個)が標準。
ブラジルは廃鶏の価格が良く(ブロイラーの60−80%の価格。日本では逆に屠殺業者
に廃鶏処理料を支払うケースもあり、売れてもキロ10−20円。)生きた鶏で流通し、各地に在るAVICOLAと呼ばれる多くは非合法(衛生上)の屠殺解体業者が買い、小売する。
肉質は硬いが、圧力鍋等で煮て食べる。水っぽくなく、こくのある味があり、根強い人気がある。
―ブラジルの鶏卵の概要(2005年度)
雛の育雛羽数= 72456千羽
鶏卵生産量= 62022千箱(1箱―30ダース)
加工卵生産= 液卵 2786トン
卵粉 670トン
鶏卵の一人当たり年間消費= 130個
加工卵の一人当たり消費= 7個(生卵換算)
生卵の輸出= 229千箱(主としてアラブ向け)
加工卵の輸出=液卵 494トン
卵粉 313トン
卵1個当たりの平均重量 57グラム
平均生産者渡し卵価 US$ 0、50−ダース
平均卸うり価格 1,05 ダース
アメリカとの比較だが、ブラジルは加工卵の生産が低く、アメリカの場合生産量14万トン、輸出量4万トンー年間あり。
世界主要都市の鶏卵の小売価格はキロ当たりで、東京310円、ニューヨーク302円、ロンドン444円、パリ363円、ハンブルグ355円、サンパウロ180円。
東京の価格は諸物価は高いが、鶏卵は割安であり、鶏卵が物価の優等生と言われる所以である。日本における鶏卵の各付けは、特級、1級、2級,級外と4段階に分けられ、外観、
透光検査による卵黄、卵白、気室の状態、割卵検査による卵の拡散面積(小さいほど良い)、
卵黄(丸く盛り上がっている程良い)、卵白の盛り上がり状態、水様卵白(少ない程良い)等の検査により等級に分けられる。ブラジルには各付けは無い。
―採卵鶏の改良と一代雑種(F1)
同じ白色レグホーン種の中で、似た特徴を持ったグループをつくり、グループ内で交配を繰り返し、均一性を持たした集団を系統と呼びます。同じグループ内で交配を繰り返すと、
近親交配により,劣性鶏が出てくる(発育不全、耐病性欠如等)。従い異種の系統を交配させ、雑種強勢(1代雑種は親の優性が表れ,2代雑種は親の劣勢が表れる。メンデルの法則の優性と分離の法則)を行い、親の長所を生かした鶏をつくり、能力の改良を図ることを育種改良と呼ぶ.原原種と呼ばれる、大元は育種会社が所有し、厳重な警備と管理下に置かれ、門外不出(写真も撮らせない)である。原原種を交配させ原種を作り、原種間交配により種鶏(F1)をつくり、種鶏(F1)を交配させ、実用鶏(F2)を作る。実用鶏(採卵鶏)を交配させても、F3は劣勢遺伝により、能力の劣る鶏が作出され採算に合わない。
育種企業は毎年、優良系統を選抜し、近親交配の弊害を避けるために一定規模の集団を維持し、系統の組み合わせにより、目的に最も適った鶏を作り出す。種鶏を特定の企業に握られてしまい、生産者(実用鶏の養鶏業者)の生殺与権を握られる弊害もある。
例えば、産卵率重視の原種A、卵重重視の原種B、飼料効率重視の原種C、卵殻良好重視の原種Dを各々の原原種より作成して交配したとすると、
原種系 A B C Dを交配させると
種鶏は AB CDでありこの2系統を交配させると、
実用鶏は ABCDとなり先祖の長所を持った鶏が作出できる。
このABCD間の交配は劣性が出る。
ブラジルに於いて、種鶏の略100%は欧米の種鶏会社より輸入しており、種卵の価格は
1個1ドルで、年間800万ドルの外貨を使っている。種鶏の供給が若し、2年間途絶えたら、ブラジルの養鶏は壊滅する。(種鶏の産卵期間は最高2年間で、種鶏の開発には長年の期間と開発資金とノウハウが必要で一朝一夕には出来ない。)これは、日本に於いても同じ状況である。(鶏インフルエンザの世界的蔓延も種鶏流通の支障になる)
―ブラジルに於ける主要採卵品種
育種企業のブランド名を付けるケースが多いい。
白色卵のホワイトレグホーン系統の鶏では、ハイライン、デカルボ、ボーバンス、ハイセックス等であり、赤色卵のロードアイランドレッド、ニューハンプシャー系統の鶏では、
イザブラウン、ハイセックスベルメーリョ、デカルボベルメーリョ、ハイライインベルメーリョ等である。肉用鶏(ブロイラー)の品種は、ロス、コブの2大品種がシェアーを半分ずつ分け合っている。ブラジルの種卵の輸入は採卵用、ブロイラーを含めて年間約100万個、主な輸出国はイギリス37%、フランス20%、アメリカ16%ドイツ13%である。輸入された種卵は、孵卵場で孵化され、最卵鶏の場合は種オスだけ残しオスは淘汰され、雌のヒヨコは育雛期間が過ぎた後、種鶏場で育てられ、そこで生み出された卵は、実用系として孵化、育雛され、採卵鶏として養鶏場に配布される。
―鶏卵の流通と鮮度
鶏卵の相場は卸売り市場でセリではなく、相対で、需給の状態により決定される。採卵鶏は生後18週目で産卵を開始し、28−30週でピークとなり、70週目で廃鶏となる。
養鶏場で集められた卵は、下記の手順を経て出荷される。
集卵―品質検査―選別ラインー洗浄―検卵―重量検査―包装―出荷となるが、問題は出荷してから流通段階での、鮮度管理である。ブラジルでは大体、2週間を賞味期限として、1ダース入りのパックに包装日、賞味期限日、保存温度を4−8度Cで保管するようにと注意書きが記せられる。然し、流通段階での保管温度による賞味期限は具体的に表示されていない。日本の場合は保管温度30度Cで賞味期限13日間、20度Cで30日、24度Cで22日、10度Cで57日と決められている。日本の場合は生卵で食するケースが多く、生卵の消費の賞味期限である。(生卵を食する習慣のある国は、日本,韓国、台湾のみで戦前の日本と統治圏である)従い、ブラジルの場合は加熱して食するので、賞味期限は日本よりもゆるい。日本の場合も加熱して食すれば、賞味期限を若干オーヴァーしても良い。卵による食中毒の頻度は日本のほうがブラジルより遥かに多いいのは生卵を食するからである。ブラジルの場合、流通段階で賞味期限の切れた卵や賞味期限を全く記さない包装で販売されているケースが多く、消費者は調理寸前に容器に割卵して、鮮度をチェックしないと使用に不安である。
ブラジルの養鶏の将来
何といっても、生産コスト(飼料)は安い。この有利性を生かすには、加工卵の生産拡大と輸出振興である。国内流通では、流通段階での鮮度保持の徹底である。ブロイラーの輸出量ではブラジルは大生産国アメリカを抜いて世界一(2007年の輸出量は300万トン)になった、鶏卵でも、アメリカと肩を並べられる、条件は整っている。
以上
麻生
2008年11月10日
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