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加算法と消去法の狭間で (下) 赤嶺 尚由さんの寄稿です。
赤嶺さんの書かれる記事(新聞に掲載されるのであるから敢えてこう呼ばして頂く)は、これまでにも『私たちの40年!!』寄稿集を飾っていますが、日常茶飯事を取り上げたさりげない記事も捨て難い魅力がありますが矢張り際立っているのは今回のような政治記者ともいえるブラジルの政界の動きを探りそれを上手く解説、予測する記事といえます。30年前に帰化し帰化ブラジル人としての義務を果たす毎回の選挙の度に加算法と消去法との狭間での苦悶ともいえる赤嶺さんの思索を取り上げさせて頂けたのは嬉しい限りです。史上最高の支持率を誇るルーラ大統領とその後継者としてのジルマ ルウセフ女史次期大統領候補との間では既に2010年ジルマ大統領、2014年ルーラ大統領の復帰の盟約が出来ていると予言される赤嶺さんの予想が当たるかどうか?まだ生きて結果を見る事が出来そうですので楽しみにしています。その頃までこのホームページが存続しておれば結構話題に上がる寄稿となるかも知れませんね。
写真は、次期大統領候補の一人ジルマ ルウセフ官房長官をGOOGLEで探したものです。もう少しましな写真を探し差し替えます。


加算法と消去法の狭間で (下)
サンパウロ市長選挙に参加して
                   サンパウロ    赤嶺 尚由
ここで、二○一○年の次期大統領選挙を中心とした情勢を直近の話題順に俯瞰しながら、併せてその可能性の先読みも試みてみたい。ルーラ大統領自身は、ひと頃、盛んに噂されたことのある自分の三選続投を問題にしなくなり、ちっとも色気を見せないような感じに変化してきている。
大統領自身は、記者会見や公式の演説の中でも、フットボールの話題や技術用語を比喩として盛んに持ち出し、時々、勇み足も見せるが、<三選出馬は、ナシ>というのがひとまずその真意と見て、先ず間違いないのではないか。
肝心の二○一○年の次期大統領選挙の与党候補には、秘蔵っ子扱いを自他共に許しているジルマ ルウセフ官房長官を全面的に後押しする構えを国の内外で公言して憚らない。最近、ローマ法王を公式訪問した際にも、ルウセフ長官を同行させ、その旨の発言をしてお披露目式みたいなものを済ませた。
現大統領が自分の三選連投に否定的に傾いてきた原因は、国の最高指導者の三選には、プレビシット(国民投票)の実施や国会での憲法改正案の承認が不可欠であり、自陣営のリベイロ下院議員あたりの積極的な根回し工作も、国会内を中心に政界では既に始まっていた。
しかし、そういった長い多くの手間隙を掛けても、なかなか国民の同意を得にくいこと、FHC前大統領が再選を画策した際、反対の急先鋒として煽り立てたのが当時自分の膝下に置いていた労働党陣営だったという経緯とその辺の事情、等が挙げられる。まかり間違うと、未曾有の支持率と多分歴史に特記される筈の自分の名声もフイにしてしまいかねない。
連投をこの段階で、ここぞとばかり泡を食うようにして目指すよりも、一旦、権力の座から降板して置いて、もし次の時代と国民の要請があれば、カムバック(レトルノ)を狙った方がより現実的だという結論に達したのではないか、と推測される。元々、理想論よりも、現実論を遥かに重んじる現職の大統領である。
ジルマ ルウセフ長官は、自分で火器を実際に手にして、東北伯地方のアラグワイア河流域で展開された反軍事政権活動にも果敢に参加した挙げ句の果て、下級兵士らに女性として大変な辱めを受けても、尚、我が信じる道を辞さずの構えを貫き通したと伝えられる。そういった数奇な女性の体験が今はやや足りないようにも見えるが、どの国の大統領の座にも欠かせない筈のカリスマ性を育み、やがて発揮させて行きそうな気がする。
要するに、それ位の固い意志を備えている鋼鉄(はがね)タイプでいて、酸いも甘いも充分に噛みしめたそろそろ五十代後半に達する実践向きの女性だ。まだカリスマ性に乏しい彼女が現在の左翼寄りの政権をずっと踏襲していけるかどうかの鍵は、一重にルーラ大統領の実に八十%の水準に達しそうな個人的な高い支持率を自分にそっくりそのまま乗り移らせ、転嫁して貰えるか否かにあると見たい。
そして、一部で伝えられるところによると、二○一四年には<ルーラ再復帰>に向けて、両者の間でかなり突っ込んだ深謀遠慮のシナリオが既に着々と描かれ始めているのかも知れない。全てがその時の情勢の変化や推移次第であろうが、一期置いての再登板には、双方とも、阿吽の呼吸で応じそうな気がする。もし政権を握ったルウセフ大統領が「権力の座を禅譲するのは、もう嫌だ」などと言い出して心変わりするなんて、間違ってもなさそうだ。
ルウセフ大統領を誕生させるための切り札や牽引車となりそうなものが既に指摘されている。官民共同参加の形をとり広大な国土の中で、特に国道や港湾や鉄道等のインフラ面を重点的に開発しようということをうたい文句としたPAC(経済加速計画)である。現官房長官は、かつて南大河州の電力資源局長を勤め上げたその道の大変な専門家だ。
ただ、PAC一本に頼ることは、折からの米国発金融危機の余波のため、外貨の取り込みが極めて困難に陥ってきていることと、政府予算面からの支出も、慢性的に滞ってきている事実などから、決して楽観を許さない筈である。ルウセフ官房長官の好敵手としては、二○○二年の大統領選挙にPSDBから出馬し、決選投票で現大統領と対峙してかなりの実績を残した経験を有するサンパウロ州のセーラ知事が満を持している。
今回のサンパウロ市長選の背後で大きな影響力を行使しながら、現職市長の再選を実現させたのは、早くも二○一○年に向けてのセーラ知事自身の出馬対策と見ても良く、再選市長の所属するDEMや実力者クエルシア氏の意のままに動くPMDBサンパウロ支部との間で画策した実効的な合奏連衡をそのまま更に継続させて行く上でも、大変なプラス材料である。次期大統領選挙の帰趨は、見世物として見ている分にも、大いに面白そうだ。
ルーラ現大統領が初当選の夢を実現し二○○二年の選挙でも、再選の悲願を達成した二○○六年の選挙でも、私は、勿論、帰化ブラジル人としての投票義務をちゃんと履行させてもらった。その時の決選投票で、どの候補に自分の清き(?)一票を投じたかは、やはり、個人の秘密情報なので、敢えてマル秘とさせていただきたい。
 さて、私の投票場は、最初の直接選挙の時からずっと市内の中心部のサンフランシスコ広場に位置する有名なUSP法科大学の三階にある一教室が使われている。投票場に辿り着くまでには、昔の重々しい大理石が敷き詰められた長い階段を上り、赤や青や緑などの原色を基調とした恐らく宗教絵画らしきものの描かれたステンドガラスが各窓に張り巡らされていて、いかにも荘厳な感じのする建造物の一部を仰ぎ見つつ、ちょっと日本国内でもそう簡単にお目にかかれないような立派な投票場だと考えている。
元州上級判事というかなり水準の高い要職に就いた経験のある渡部和夫先生や、又、東大で見事に法学博士号を収めた実績のある二宮正人先生等、この国の法曹界における日系の草分けとしてここの教壇に過去に立ったり、或いは、今現に立っている事実を考えると、親近感もさることながら、身の引き締まる思いを同時に禁じ得ない。
そして、そういう投票場の中に一歩足を踏み入れた途端、取るに足らない帰化ブラジル人の有権者であっても、強く抱く一つの感慨がある。それは、先ず何はともあれ、まだ幼くて純真無垢なこの国の多くの子供たちの未来に幸多かれかし、と、何度もそう願わずにいられなくなるということだ。
「百年河清を俟(ま)つ」というある物事の成就までに必要な息の長さを誇示した中国の諺がある。しかし、その一方で大いに偏屈者である私の頭の中では、果たして百年俟てば、本当にブラジルの政界という大河の支流が水清く澄んでくるのか、今みたいに相変わらず泥の海みたいではないのか、と黒い疑念が頭の中で黒いミミズのように渦巻いているような気がしてならない。
尚、投票権行使の忌避に対する罰金は、確か司法関係当局の手によるコレソン(通貨価値修正)遅れが続いているために、何十年前からの僅か七レアルちょっとのまま据え置かれてきている筈だから、棄権したって大したことはないけれども、いざ、投票場に足を運んで見ると、やはり、来てよかったぞ、といった満足感が先に湧いてくるものなのである。
 ただ、肝心の今年のサンパウロ市長選挙は、今までに負けず劣らず、不漁不作のように思えてならなかった。最後には運良く再選を果たした現市長も、どうもその表向きに看板としてきたシダーデリンパ(清潔な街造り)計画で一応の見るべき得点を記録したものの、しかし、自分の再選を目指して最も力を入れたのは、とっくに掌中にある強力な行政マシーン(行政組織とか機関)をなりふり構わず、縦横にフル活用することだった。
そこで、そういったものを持たない候補との間では、結果的に選挙のヨードンの出発時点で既に五十歩以上の差を付けて先を走っているような印象も受けた。更に、選挙向けにPMDB支部等との間で、元々異質な者同士の連携を図り、選挙で圧倒的な影響力を及ぼすTV番組に異例の長さの無料宣伝時間を確保した点も、再選に向け大きく奏功した模様だ。
ここで手柄話のような事柄に再びご海容いただいて、サンパウロ市長選挙にまだ六ヵ月位先立つ今年四月頃、商工会議所の異業種交流委員会(委員長には発足以来一貫して阿部勇ブラジル戸田建設社長が就任され、大変惜しまれつつこの年末にご帰国、本社へお戻りになる予定だ)が実にこの三年間、ほぼ一度も欠かさず毎月催してきた勉強会でブラジルの政治事情一般に就いて、講師を務めさせて貰った際のことだった。
私の方は、一応、全てを話し終わったつもりで、切り上げようとしたその矢先、当の阿部勇委員長から「さて、サンパウロ市長選挙の決選投票の最後で勝つ候補は、一体誰ですか!」といった全く抜き打ち的な質問を受けたものだった。うーん、と唸りながらも、咄嗟に「現市長の再選だと思いますよ。そう見ています」と返答させて貰い、その場を何とか切り抜けた。
あの当時の世論調査での支持率は、相対する野党所属で政治家というよりは、とっくに五十の半ばを越したと言い条、まだお色気たったぷりのキワモノ女優みたいな感じの否めない女性候補が断然強味を発揮していて、世論調査での支持率トップの四一、二%をマーク、続いて二位が元州知事の三八%と続き、二人だけで首位を激しく競り合っていた。
そして、三位が最後に再選を果たした形の現職市長のたったの八%程度で、大きく出遅れていた。しかし、私の頭の中には、行政マシーン(マキナ)を握っていて、それを駆使でき、無料TV宣伝時間も他候補の倍以上確保しているという現市長の強味をまだ決して軽視できないぞ、という気持ちの方が依然として強かったのは確かだ。結果的に、何よりも色気の方を発散させた例の女性候補には、自陣営の現大統領の高い支持率が乗り移らなかった。
蛇足みたいになるが、再出馬したこの元市長は、昨年確か七月だったか、コ空港での大型旅客機の墜落事故の際、一九九人の市民の尊い生命が犠牲になった直後、多分遺族に向かってのことだろうが、何と「Relaxe(今は体の力を抜いて) E Gozar(そして、楽しみなさい)」<Folha紙の第二面にある語録欄から>と、あの男女の悦楽行為の真っ最中にむしろ相応しい言葉を口に出し、失笑を買ったり、失点を重ねて行った。
「口が軽くて何でも喋り、しかも薄汚い(感じの)元市長を改めて選ぶよりも、口が重くてよく喋らない現市長を頂いた方が(よほど)よろしい筈だ」<フォリャ紙の二面の語録欄から>とは、当選を果たした現役市長の選挙宣伝参謀を担当した知恵者の話であるが、なかなか言い得て妙である。ただ、勝てば官軍、負ければ賊軍の政界だから、何とでもいえる。

実は、この記事の連載の(上)の部分が掲載された時、移民百周年を記念した質実共に大掛かりな書道展を開催し、大成功を収めた若松如空(本名 孝司)さんから一早く「いろいろと有難う。ただ、あの賢兄愚弟の表現だけは、そっくり逆にしてくれないかなあ」といった冗談とも本音とも付かない電話を頂戴した。しかし、いくら大先輩であっても、聞き容れられることと、そうできない事柄がある。コロニアには各分野に傑出した人材が少なくないが、若松さんも、間違いなくその一人だ。
往時の若松さんの企業経営に合流する形で、一念発起して国籍を取得して帰化ブラジル人になってちょうど三十年。それ以後、何回となく国政選挙で投票義務を果たしてきたが、どの選挙でも、最初に候補者の美点や特質を見るのではなくて、先に欠点に目を向けたいわば後ろ向きの消極的な投票方式を強いられてきたとの思いがある。
去る十月二十六日今年のサンパウロ市長選挙の決選投票での義務を漸く果たした後、相変わらず荘厳な感じを湛えたままの大理石の階段を下りてきながら、もう一度「後ろ向きの消去方式でしか為政者を選べない国民と市民は、やはり、大変に不幸だなぁ」という気がしきりにしてきて仕方なかったのである。(終わり 筆者は、ソールナセンテ人材銀行代表)



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