ブラジルの綿花産業 麻生 悌三さんの寄稿です。
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『私たちの40年!!』寄稿集に今年一番沢山原稿を送って呉れたのは文句なく麻生悌三さんです。ブラジルの農業産品に付いての豊富な資料と実際にブラジル三菱商事食糧部長としての経験と実績に裏打ちされた麻生レポートは、ブラジルで語学研修をする若い企業研修生の間でも評判になっており『何々に付いての麻生レポートはありませんか?』との問い合わせが来る次第です。まだ出ていない農業関係のリポートは少なくなり『来年は、話題の選択、資料集めも難しくなると思う』とのコメントが今年最後の原稿と共に届いています。ブラジルの綿花栽培がアメリカ南部より古い歴史があったとは知りませんでした。今後耕作面積の増加と共にイールドの改善等によりまだまだ伸びる部門であり裾野の広がる産業でもあり期待したい。
麻生さんご苦労さまでした。
写真は、GOOGLEで探したら綺麗な綿花の写真が見つかりましたのでお借りしました。
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ブラジルで綿花栽培が本格的に始まったのは、16世紀からで、マラニヨン州、ピアウイ州、バイヤ州等で栽培され、1825年には、ブラジルの輸出品の30%を占めていた。
1880年には、北米の綿花栽培が隆盛をしめるようになり、ブラジルの栽培は衰退した。
綿花は多年草の一種で、蕾はコットンボール(ブラジルではマッサンーリンゴの意)と呼び3−5のカプセルを持ち、一つのカプセルに6−8粒の綿実がある。綿花はその綿実に生えた繊維である。一つのコットンボールの重さは約5グラムで、56%が綿実、40%が綿花繊維、4%が拠雑物である。生産物は、原綿、りンター(綿実に付着した短い繊維)、
綿実油、綿実粕の4つである。綿織物は今日でも単一繊維としては、全体の繊維の40%を占め、繊維の王様である事には変わりは無い。
―世界の綿花栽培(2006年)
世界の綿花の生産量は約2500万トンで栽培面積は約3500万Ha。生産量の29%が中国、21%がインド、16%がアメリカ、7%がパキスタン、6%がブラジルである。
一方、国内生産(シャツ等に占める消費)では40%が中国(アメリカ綿の大輸入国)、13%がインド、9%がパキスタン、アメリカとブラジルが各々4%である。綿製品の2大アイテムはTシャツとジーンズであり、中国が最大の生産国(輸出国)であり、原料の綿花はアメリカが最大の生産国(輸出国)である。上位5カ国の栽培状況は次の通り。
国 栽培面積 原綿の生産量 Ha当たり生産量
中国 5062千Ha 5744千トン 1128kg―Ha
インド 8900 3332 374
アメリカ 5580 5201 931
パキスタン 8900 2244 375
ブラジル 1157 1195 1124
Ha当たりのイールドではブラジルが高く、主力生産地のマットグロッソ州では、無灌漑栽培で1Ha当たり3400kgの収穫を上げている。この高イールドの要因は徹底した機械化農業、品種改良、栽培技術の進歩に集約出来る。
―ブラジルの綿花栽培
ブラジルの綿花栽培地域の65%は中西部(Centro-Oeste)でMato Grosso,Minas Gerais,Goias州)で中でもMT(Mato Grosso)州のシェアーはブラジル全体の50%を占める。2005年に於けるブラジルの原綿の生産量は、1298千トンで、816千トンが
中西部(MT州は643千トン)。バイャ州(BA)の生産の伸びも著しく、2001年の生産量68千トンから2005年には317千トンと5倍近く増えている。2004年における主要州の栽培状況は下記の通り。
州 栽培面積 実綿つき綿花収穫量 イールド
MT 334千Ha 1240千トン 3712kg−Ha
BA 74 187 2576
GO〔ゴヤス州〕 100 300 3000
Brasil 764 2282 2526
ブラジルに於いて、1995年の1Ha当たりの生産(実綿付き原綿)は722kgであった。2000年より生産性は飛躍的に向上し2000年2855kg−Haから2005年は3300kgs−Haである。
―世界の綿花の需給
2004 2005 2006
生産 26,3百万トン 25,0 25,3
需要 23,48 25,0 25,0
輸出 7,74 8,8 8,6
在庫 16,42 11,2 11,5
―ブラジルの綿花の需給 2008
生産 848千トン 1233 1037 1800
輸入 110 115 37 60
消費 770 850 927 1050
輸出 175 120 391 320
在庫 145 241 422 400
注=2008年は予想
―ブラジルの綿花の輸出入
年度 輸出量 輸入量
2000 28554トン 29897トン
2001 19962 81355
2002 109627 67569
2003 175435 118951
2004 331041 105187
2005 390963 37020
2006 104503 82868
2007 419392 96780
輸出の主たる仕向国は2007年度はインドネシア 81000トン、パキスタン76000トン、韓国58000トン、日本28000トン。
輸入の主たる国はアメリカ36000トン、パラガイ26000トンである。2002年よりブラジルは輸入国から輸出国に転化した。
―ブラジルの紡績
収穫された綿花(綿実付き)は繰綿工場に運ばれ、綿花と綿実に分けられる。綿花は綿糸に加工され、綿糸は綿布、ニットに加工される。ブラジルには約3万社の紡績及び関連企業があり、2006年の総売上鷹は330億ドル。又06年の綿花の消費量は89万トン。
かってのブラジルは年間に綿花40万トンを輸入する、世界第二位の輸入国であったが、自給自足が可能となり、又輸出国に転換した。05・06農年度(8月から翌年7月まで)ではMT州は1,5百万トンの原綿の収穫を達成し、そのイールドも3600kgs−Haは無灌漑栽培では世界一のイールドである。
―ブラジルの綿糸と綿布の生産(単位千とん)
2001 2002 2003 2004 2005 2006
綿糸 1052 997 945 1012 1054 1097
綿布 744 755 704 798 813 822
綿糸生産の80%は国内消費。20%は主としてメルコスールに輸出。
―2007年度の綿花及び綿糸、綿布の輸出と輸入
輸出 FOBUS$ 数量トン
綿花 510502千ドル 431210トン
綿糸 124124 31884
綿布 287272 54632
輸入
綿花 1217089 99395
綿糸 66581 21369
綿布 81256 15145
―綿実油、りンター、綿実粕について
1) 綿実油
綿実油は美の15,5%が未精製油である。2007年のブラジルの生産は110千トンである。大豆油とともに代表的食用油であり、主要メーカーの処理量は1)Oleo Menu社
が年間200千トンー同社はトーメンが創設し、現在は豊田通商の傘下企業2)前田グループが150千トン。同社は76年の歴史があるブラジル屈指の大農場主でSP,MT,GO,BA
の各州に農場を持ち、総耕作面積は10万Haと云われており、大豆、トウモロコシ、砂糖、綿花を栽培。特に綿作は25000Haの耕作面積と云われ、ブラジル否、世界屈指の綿花栽培者である。3)Dreifus 140千トン。国際穀物メジャーの一角でフランス系ユダヤ。4)Bunge130千トン。国際穀物メジャーの一角でアルゼンチン系ユダヤ。ブラジルでは国際穀物メジャーCargillとシェアー争いが一層、激しくなってきている。
2) りンター
綿実に綿花を取った後にまだ付着していう繊維毛であり,そぎとって、セルローズ、タイヤ、
等に使用する。
3) 綿実粕
綿実の4,9%が油を絞った後の粕であり、家畜の飼料に使用される。
―アメリカの綿花輸出の輸出補助金
ブラジルは2004年にアメリカの綿花の輸出補助金を違法としてWTOに提訴し、勝訴した。アメリカは世界最大の農産物輸出国であり、途上国への食糧援助と輸出補助金制度はアメリカの余剰農産物のはけ口の車の両輪である。世界一高額な労賃と諸経費をカヴァーする為に、アメリカは補助金で埋め合わせて、販売する。(補助金は綿花の輸出高の40%、
米26%、大豆10%等)綿花に関しては、世界の輸出市場の50%を独占し、補助金は06年には21億ドルを支払っている。アメリカ綿花の船舶輸送は75%はアメリカ船の使用が義務ずけられており、運賃もアメリカの匙加減で決められる。補助金により他の生産国の競争力を奪い、市場を独占する。若し補助金が無かったら、アメリカの綿花の輸出は、
半減し、国際価格は20%上昇するだろう。アメリカは1991年から2003年までに、
捕助金の総額は139億ドルに達している。アメリカの国内工業は空洞化したり、国外に
追いやられたり、しているが、何故か、綿花の生産と輸出だけは200年以上も、世界市場を制覇し続けている。
アメリカは自由貿易を建前に、又、グローヴァリゼーションと云う国際分業を振りかざし、
他国の関税の門戸を崩壊させて来たが、自国の農業の保護政策に関しては、誠にえげつない。一例を挙げれば、ブラジルの濃縮オレンジジュースの対米輸出では、フロリダの生産者保護を建前に、反ダンピング税(アメリカ政府の勝手な計算)としてUS$418,00を1トン当たりに支払っている。(アメリカ着価格の略50%の輸入税に相当する)ブラジルは世界のオレンジジュースの70%を牛耳る輸出大国である(2007年の濃縮オレンジジュース生産量は140万トン、輸出量は120万トン)。アメリカのオレンジジュースの生産は年間50万トンぐらいあるが、度重なる、霜害を避けるため、栽培品種は収穫の早い,早生種(ハムりン種)が原料の殆どであり、糖度が不足するため、毎年ブラジルより10万トンぐらい、高糖度のブラジルジュースを輸入して、自国産のジュースとブレンドしないと商品化できない。ブラジルからのジュースの輸入は自国産業にとって不可欠な条件にも係わらず、アメリカは手を替え,品を替え、関税障害を設ける。自国農業は保護するが、他国には輸出補助金を出して、他国産業をぶっ潰すのが、アメリカの戦略である。
若し、アメリカが綿花の補助金を撤廃したら、ブラジルの輸出は年間100万トンを超えることは間違いない。又、今後の展望としては、06年に正式に認可された、遺伝子組み換え綿花の栽培が年を追って拡大するのは間違いないと予想する。
以上 麻生
2008年12月10日
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