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雨を降らせる奇跡の男(1) (2)(3)(4)  サンパウロ新聞上岡弥生記者レポート
体は小さいがファイト満々、体当たりの取材が定評の上岡弥生記者の『雨を降らせる奇跡の男』と云う連載記事を『私たちの40年!!』のメーリングリストで流しましたが、連載が終了しましたので4回分を纏めて寄稿集に収録させて頂く事にしました。
今井威さんを取材して自ら古いセスナ機に乗り込み棉菓子のような雲に触れ飛行機酔いで死にそうに成りながらの体験記事立派だと思いました。
最近の邦字新聞には、上岡弥生記者のような短期研修生と云うかブラジル体験の場として記者として自分の目線でものを見て書かせて貰うチャンスを与えられる事は、指導、校正するプロの編集員にとっては大変でしょうが本人達にとっては得難い経験になると思います。今後とも若い元気な記者さんの感受性と観察力、足を使っての記事が増える事を期待して行きたいと思います。
先般、サンパウロで同船者の園田昭憲さんの61歳の誕生日を祝う席で上岡弥生記者にお会いする機会があり撮らせて頂いた写真を使用させて頂くことにしました。


雨を降らせる奇跡の男(1)  サンパウロ新聞WEB版より
大聖市圏の水甕守る 研究熱心な今井威さん

 ブラガンサ・パウリスタで人工雨を降らしている日系二世がいる―。最近、テレビや新聞が相次いで報道したため、すでにご存知の読者諸兄も多いだろう。その人は今井威(たけし)さん(六七、聖市出身)。サンパウロ州水道局(SABESP)の依頼を受けて、人口千四百万人の大サンパウロ圏の水源を確保するため人工的に雨を降らしている。その仕組みはどうなっているのか。今井さんとはいったい何者なのか。降雨用軽飛行機搭乗体験も含めて、その素顔と信念をレポートした。(ブラガンサ・パウリスタ上岡弥生記者)

器用な実用品発明家 週2、3回は試験飛行で実験

 取材は五日。「飛行機はだいたい毎日飛ばしてるから明日にでもどうぞ」。前日電話をすると、あっけないほど簡単にアポが取れた。「ぜひ飛行機に乗って、実際雨が降るところを見てください」とあっさり承諾の返事だった。

 翌日、半分不安の入り混じった、はやる心を抑えてブラガンサへ。付け焼刃で調べた、「雲が出来るには」「雨が降るには」といった資料を手に、迎えの車に乗り込む。環境開発研究社(MODCLIMA)のスタッフ、玉根丈之(たけし)さん(六七、東京都出身)が案内してくれるという。

 サンパウロ市内から約一時間半、車はブラガンサ・パウリスタ・アエロクラブ敷地内に入り停車した。真っ白な壁に緑の字で「MOSCLIMA」と書かれた建物が目に入る。これが今井さんらの事務所兼研究所だ。

 玉根さんについて中に入る。すぐ左手には格納庫が併設されていて、二機の小型軽飛行機が目に飛び込んで来た。これが雨を降らす専用機だ。

 「こんにちは」。眼鏡をかけた、Tシャツにジーンズ姿の男性が入ってきた。この人こそが人工雨を降らす主人公、今井さんだ。 

 「ちょっとこれを見てくれる?」。挨拶もそこそこに今井さんは、研究開発中の『矢印型苗植え機』を指した。「五十ヘクタールの土地に一時間で五万苗を植えられるように実験を重ねているんだ。仕組みはね・・・」と続ける。

 いきなりの展開に頭がついていかない。「はぁ、なるほど・・・」と耳を傾ける。えくぼのある笑顔をたたえ、熱中して話す様子はまるで少年のよう。年齢不詳、といったほうがいいかもしれない。二世ながら日本語の流暢さに驚かされる。

 格納庫には苗植え機のほか、モーター式自転車、紫外線研究用具などがずらりと並んでいる。全て今井さんの考案で作ったもので、研究者というより「インベントール(発明家)」といってもおかしくない。

 今井さんの任務は、人工雨を降らし、聖州とミナス州にまたがるカンタレラ貯水池周辺三千平方キロメートルと、モジ、スザノなどの聖州東部二千平方キロメートルの水源を確保することだ。

 両地域の人口は約千四百万人。その七割近くの水を供給する水源池を潤すという重要な任務。そのほか、タウバテ工科大学(ITA)との関連共同研究開発に従事している。

 人工降雨に使うのは、四人乗りの軽飛行機と三百リットルの水。高度六千フィート(約十キロ)の雲間まで飛び上がり、水を噴射する。十五分ほどすると雨が降り始め、雨は二、三時間にわたって地表に降り注ぐ。

 実に簡単に聞こえるが、いったいどのような仕組みで雨が降るのだろうか。  (つづく)

2008年12月16日付

雨を降らせる奇跡の男(2) サンパウロ新聞WEB版より
人工雨をつくるメカニズム 目が詰っている入道雲が決め手

 人工雨の前に、自然雨の仕組みについて、雲の形成から降雨まで、過程を述べておきたい。

 水蒸気を含む空気が太陽熱などによって上昇し、上空で膨張して温度が下がる。水蒸気は飽和し、その限界量を超えたものは氷の結晶(氷晶)となる。海から吹き上げられた塩の核や、陸からの砂塵、煤煙などがそれにくっつき、雲の粒となる。

 粒は非常に小さく落下速度が遅いため、空中に浮かんでいるように見える。その集合体が雲だ。雲の粒同士が衝突吸収して大きくなると、落下速度が速くなり、やがて雨(または雪)となって地表まで落ちてくる。

 この自然条件を利用して、氷晶を作る物質を雲間に散布すると、人工的に雨を降らすことが可能となる。

 散布物質には通常、ヨウ化銀やドライアイス(または液体炭酸ガス)を使用する。人工雨を頻繁に実施する中国は、ヨウ化銀を使う。しかし、ヨウ化銀は微小ながらも環境や人体への悪影響があるとされている。

 今井さんが使う散布物質は、「一〇〇%」純粋な水だ。この方法は例がなく、世界特許をとった。その仕組みを紹介する。

 三百リットルの飲料水をセスナに積載し、雲の底辺まで飛ぶ。雲間に突入し、両翼と胴体に設置した回転式噴水装置から、直径六十〜八十ミクロンの水の粒子を撒く。

 粒子は、より小さい(直径十〜五十ミクロン)雲の粒を吸収し、上昇しながら成長を続ける。直径二〜五.五ミリまで成長すると、雨となって落ちる。

 水一リットルにつき、八十〜九十億個の粒子が噴射されるため、全て雨に変わった場合、単純計算で五十万リットルにもなる。ところが、落ちる速度によって雨が地表に届かないこともある。そのため雨量の計測は難しいが、貯水量の四分の一が人工雨によるとの報告も受けたという。

 人工降雨には雲が決め手となる。厚さ二〜三キロメートルの入道雲が理想的で、目が詰まっていることが大切だ。散水開始後、雲は成長を始め、厚さ六キロメートル程になると雨が降り始める。

 今井さんらは毎日、屋上に設置したレーダーで雲の発生状況を確認し、週に三、四回、契約地域の上空にセスナを飛ばす。実験レベルを超えて実用化しているのに感嘆する。

 聖州東部は海岸山脈で雲が低いため雨が地上に到達しやすく、「飛べば百%」の降雨がある。そうは言っても、降雨地点も計算に入れないといけないので難しそうだ。

 カンタレラ地方では、地表で降雨現象が見られるのは、飛行回数の半分程度。うまくいけば散水開始後十五分程度で雨が降り始め、その雨は二〜三時間降り続く。

 雨を降らすのは貯水池の真上ではなく、そこに流れ込む川の流域。土壌や木々が水を吸収し表れる小川や、既存の川の水量を増やすのが狙いだ。

 四十年前と現代、二枚の地図を見せてもらった。一九七〇年代の地図にある無数の川は、今では大きなものしか残っていない。当時と比べて、川の水量は半減しているという。

 「植林の必要がある」。ModClimaで開発中の『矢印型苗植え機』はそのためだ。土地が荒れていると雨で表土が流れ、いくら降らしても根本解決にはならない。「自然環境の再生」。それが今井さんらModClimaが掲げている理念だ。

(つづく・上岡弥生記者)

2008年12月17日付

雨を降らせる奇跡の男(3)
雲の目粗く試験は失敗 初体験の綿菓子のような雲の感触

 人工雨を降らせやすい雲は、午後遅くから夕方にかけて現れる。時計の針は三時十分、いよいよ体験飛行の時がやってきた。

 整備を終えたセスナが格納庫の前で待機している。四十年前の型で、元・麻薬運搬機を警察から安く払い下げてもらったのだという。三百リットルもの水を積むには、古い型の方が頑丈で好都合らしい。

 「あの雲でやってみましょう」。北方、ミナス州上空に浮かぶ雲を今井さんが指差した。操縦はModClima専属パイロット二人だ。

 搭乗者が四人でいつもより多いため、この日は水を二百リットルに減らし、座席中央備え付けのタンクに積み込んだ。「飲料水ですよ」。乗り込む前、今井さんが飲んでみせる。

 回転噴射機を試作動すると、霧状の水が超高速で発散される。粒としては見えないほどだが、側に立っているとあっという間に濡れる勢いだ。

 「今日は雲が小さいからどうかな」という今井さんと、後部座席に乗り込む。雲の厚さは一・五キロメートルほど。理想の二〜三キロには達していない。

 コンゴニャス空港管制塔からの離陸許可を待って滑走に入る。いよいよ雲に向かう、と思うとやたら緊張してくる。

 人工降雨機「チャーリーとジュリエット」号は五百メートルほど滑走し、宙に舞い上がった。ジェット機ほどの速さではないが、地表がどんどん遠ざかっていく。

 それにしても揺れる。時折くる、あのふわっとした感覚が胃を刺激し、すでに気分が悪い。

 「前方に雲一つ」ー。今井さんが親指を立てる。時速二百五十キロのセスナは、あっという間に雲の底辺にやって来ていた。真横を薄い雲が流れている。機は雲間に入った。

 「開けていいよ」と今井さんが窓を指す。切り抜いて押さえるだけの簡単な窓だ。恐る恐る開けてみるとバッと空気が抜け、危うくカメラがさらわれるところだった。

 雲が触れる。

 そう思うと、怖さよりも好奇心。すでに手が伸びていた。想像上の雲は、ふわふわした綿菓子。しかし実際には何の感触もなく、霧に吹かれたように手が濡れていくだけ。

 その間セスナは、標的を探しながら飛行を続ける。地上からレーダーで確認して飛び立つわけだが、上空ではパイロットたちの目に頼るほかない。経験がものをいう、職人技のようだ。

 「あれでいく」。

 標的を定め、セスナは旋回を始めた。二百キロの範囲内をぐるぐると回りながら水を撒き、雲の目を詰まらすのだ。撒いた水には雲の粒がくっつき、雲がどんどん成長する。厚さ六キロほどになると、雨が降り始める。

 しかしこの日の雲は目が粗く、セスナのフロント・ガラスに水滴がつき始めたもののなかなか雨とならない。

 「あと十分」。タンクのメモリはぐんぐん減っていく。十五分ほどで二百リットルの水を撒ききったが、最後まで降雨現象は見られなかった。

 帰途、今井さんは「せっかく来たのに」と残念がっていたが、揺れですっかり参った者としては、「とにかく早く地上へ」と願うばかり。

 無事着陸しソファーに倒れこんだ隣では、パイロットたちが「十分後に聖州東部へ向けての離陸」を相談していた。「慣れだよ」と言うが、カンタレラ地方で三十分、聖東部は一時間という二度の飛行をこなす彼らに感心する。

 パイロットの一人、アレシャンドレさんは、「(仕事は)面白いよ。航空学校で気象学は勉強するけど、雨を降らすなんて考えつきもしなかったからね」と笑顔だ。

 それにしても、今井さんはいったいなぜ、人口降雨システムを思いつき、実現させたのだろう。

 (つづく・上岡弥生記者)

2008年12月18日付


雨を降らせる奇跡の男(4) サンパウロ新聞WEB版より
地球環境の再生を使命に 夢は世界の砂漠地帯の緑化

 人工雨の今井威さんは、サンパウロ市の出身。戦前早期移民の父親・繁義氏と、小説家・谷崎潤一郎の姪という母親・エイコさんのもとに一九四七年、生まれた。

 初田工業伯国代理店で、噴霧器の輸入販売をしていた繁義氏は、日本で研修を積み工場を建てて生産に乗り出した。この殺虫剤用噴霧器は、日系農家によく売れた。

 一九六四年、今井さんは繁義氏の後を継いだ。しかし、人体に被害を及ぼす殺虫剤が嫌で、噴霧器からチェーンソーに転向した。生産開発に取り組み、念願の大型を完成。ところが試し切りの日、今井さんに転機が訪れた。

 新製品は性能がよく、樹齢二百五十年の木が三十分足らずで切り倒された。周囲の評価は高かったが、今井さんの心は木の気持ちを感じ取ったかのように乱れ、「こんなものは作りたくない」と頑なな拒否反応を起こした。

 それ以後、モーター式自転車や、飛行機の部品作りに転向。車椅子付き自転車を開発したりしたが、売るのがしのびなくて無償贈呈したりした。そうこうしているうちに会社は行き詰まり、一九九四年にたたんだ。

 一方、発明への情熱はしぼんでしまわなかった。それまで飛行機やヘリのエンジンを作っていたことや、三十年前から雲や雨の仕組みに興味があったことから、ITA(タウバテ工科大学)で気象学の勉強をはじめた。

 博士課程に在籍し、人工降雨システムの研究開発に没頭。ここでは殺虫剤用噴霧器の経験も生かした噴水装置を発明。化学物質を使わないで人工雨を降らすという、世界初の試みに成功したのだ。

 長年、農機具や農家に関わってきたことが「農業に貢献するものを」と考えさせた。大老樹を切り倒して以来、環境破壊に疑問を抱いてきた今井さんの信念によるものだったのかもしれない。

 現在、地球全体で降雨量が減少し、川は枯渇、砂漠化が進んでいる。植林は次の課題だ。雨だけでは根本解決とならない、生態系を再生させる必要があるのだと繰り返す。

 一九九七年の京都議定書では、「地球環境改善のためには人口一人当たりにつき四十本の植林が必要」と明言された。研究開発中の『矢印型苗植え』軽飛行機は、その植林用だ。

 「(植林用の)土地がないなんて言うけど場所はある」。拡大の一途を辿る世界の砂漠地帯で植林し、周縁から緑を再生させるというのが今井さんの構想だ。

 そのほか、有機堆肥用ミミズの培養や、紫外線の研究などにも従事し、頭の中は常時フル回転している。

 「スタッフは多い」と言うものの、本人は昨年、心臓手術を受けたばかり。「体がガタガタで、最近までフラフラしながらやってた。普通の精神力じゃない」と体調を気遣うスタッフたち。「どうしても雨を降らしてほしい」と病床に舞い込んだ依頼に応じたこともあったという。

 今井さんをそこまで駆り立てているのは何なのか。発明家としてのロマンと、地球環境を危惧しての使命感。そういう印象を受けた。

 「世界規模でやればなんとかなる。どこの国でもいい、国家が協力してくれるのならとことんやってみたい」。信念の男、今井威さんの目は世界に向いている。

(おわり・上岡弥生記者)

2008年12月19日付

オランダのあや子さんからのコメントが届いていますのでご紹介して置きます。

今井さんの仕事に対する信念、人間性に心意気えを感じますね。
去年オーストラリアでたくさんの木が水不足で枯れているのを見て、
心を痛めておりましたが、人工的に雨を降らすことが出来れば
これらの木を救うことも可能なのですね。
世界的に広まるのを期待します。




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