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『ブラジルの小麦』 麻生 悌三さんの寄稿です。
2009年度最初の麻生悌三さんの寄稿『ブラジルの小麦』が届きました。昨年一番の寄稿数を誇った麻生さんの筆は今年も健在でまだまだ原稿を送ってくれそうです。麻生さんの寄稿だけの欄を新設しても良いのですが、もう暫くは、あるぜんちな丸の同船者(移住者)関係の書き込み欄に掲載して置くことにします。
小麦は、日常生活に欠かせない穀物ですが、ブラジルでは、気候風土が小麦に合わずイールドが世界平均より低く今後の品種改良等によりイールドが1ヘクタール当たり4トンは採れるものが開発されなければ実収入の大きな大豆、砂糖黍、玉蜀黍、畜産等との競合関係にあり増産の期待は持てないのではないか?とのご意見です。
以前日本の島田屋がブラジルのそば粉輸入の為にリオグランデドルース州の高原地帯に調査に来られましたが、RS州の小麦粉は、温度がロシア、カナダ、オーストラリア、アルゼンチン等と比べ気温がそれ程下がらずマイルドな小麦が採れこれが日本のうどんを作るのに最適との判断で日本に持ち帰った経緯がありますが、ブラジルには小麦の輸出余力等は、ないとの判断から継続性のある輸出産品に育つまでは行きませんでした。
写真はGOOGLEでブラジルの小麦として出ていた代表的なものを1枚お借りしてUPして置きます。


ブラジルに小麦が初めてポルトガルより移入されたのは、1534年にマルチン アフォンソがサントス港に隣接する、サンヴィセンチに植えたのが最初と云われている。しかし、
本格的栽培が始まったのは、その200年位後の、1737年にアゾーレス群島から、ポルトガル人がリオグランデドスール州に入植してからだと云われている。小麦は寒冷(年間平均気温が15度C前後)で乾燥地(年間雨量500mm前後)の作物であり、ブラジル南部の気候(高温多雨)には適していない。アルゼンチンのパンパスは小麦の適作地であり、フランスより移入した小麦が見事に根付き、世界屈指の小麦輸出国に育っている。
ラプラタ河を越えて、リオグランデドスール州に入ると、同じ種子でも適合しないのが現実である。過去300年間、サビ病の蔓延で小麦が全滅したり、1975年の大霜害で、
壊滅的被害を受け、種子すら採れなかった事もあった。 EMBRAPA(ブラジル農牧公社―日本の農試にあたる機関)は今までに、数十種の品種改良種を出しているが、まだ、ブラジル南部に適した、決定的品種の輩出に至っていない。ブラジルは世界屈指の穀物生産国であるが、小麦に関しては、これに相違して、世界屈指の大輸入国であり、年間国内消費量1千万トンに国産の不足分を輸入しており、外貨20−30億ドルをそれに費やしている。外貨が不足していた、7−8年前までは、外貨を節約する為、国内流通の小麦粉は、
15%を上限として,マンジョカ(キャッサバ)澱粉を混ぜていた。その為、当時のブラジルのパンや麺類は味が不味いので有名であった。外貨事情が好転した今日では、100%
小麦粉が流通しており、味も改善された。

―小麦とは。
小麦は稲と同じ、イネ科の植物で紀元前7千年前から、チグリス、ユーフラテス流域で栽培が始まる。小麦は外皮が強く、皮が胚乳に食い込んでおり、剥がれにくく、米、大麦のように、皮を剥き、食用とすることが出来ない.従って、粉末にして、皮を分離して使用する。BC4千年には小麦を挽く、石臼が使用され、出土している。製粉が人類最古の工業であったらしい。小麦粉に水を加えると、粘着性のある、弾力性に富んだ、蛋白質グルテンに変わる。これは米、トウモロコシ等に無い、小麦の特徴で、パン、麺類等に加工出来る小麦の特徴です。塩を加えると、弾力が強くなり,コシが強くなる。逆に、アルコール、油,酢を加えると、グルテンは柔らかくなり、生地が伸びる。播種から収穫までの日数は120日で、冬小麦(秋播種、春収穫―色は白く軟質)と夏小麦(春播種、秋収穫―色は赤っぽく、硬質)の2シーズンあり。、

―小麦の世界生産(2006年)
国        生産量         シェアー
中国       1億4千万トン     17,2%
インド       6935万トン    11,2%
アメリカ      5730        9,5
ロシア       4501        7,4
フランス      3537        5,8
カナダ       2720        4,5
世界生産量は6億5千万トンであり、世界の小麦の用途は、パン 41%、麺類 32%、ビスケット類 12%、家庭用 8%である。小麦は小麦粉が75%、小麦粕(フスマ)が25%であり、小麦とは普通、製粉する前の粒を指す。
一方、小麦の輸出国はトップはアメリカで06年度は2740万トン、次がフランス 1602万トン、カナダ 1398万トン、オーストラリア 1302万トン、アルゼンチン 1042万トンと続く。
主要輸入国は、トップが中国 800万トン、エジプト 700万トン、日本 560万トン、イタリア、ブラジル 550万トン。ブラジルは粒とは別に、小麦粉を年間60万トンぐらい輸入している。中国は1億トン以上を生産する大生産国でありながら、輸入もトップであり、(米の生産も世界一であり年間1億8千万トンー世界シェアーの30%)人口の巨大さが覗われる。(中国の人口は公称13億。然し,人口抑制の一人っ子政策の為
子供を一人しか登記せず、助成金をせしめる輩もあり、正確な人口は不明) 

―世界の小麦の消費
07の世界消費は6億2千万トン。一人当たりの年間消費量は85kg。国別ではトップがフランス 100kg 次がアメリカ 72kg、中国 67kg、インド 60kg
ブラジルは 51kg。
パンの年間の一人当たり消費は、チリ 93kg デンマーク 74kg アルゼンチン
73kg ブラジルは26kg。
麺類の年間の一人当たりの消費は、イタリア 28kg ヴェネズエラ 12kg アメリカ 9kg ブラジルは 5,7kg
ビスケット類の年間の一人当たり消費は、オランダ 14kg アイルランド 11kg
アルゼンチン 8kg ブラジルは 6kg。
ブラジルの小麦消費はパン 50%、麺類 15%、ビスケット類 8%、家庭用 10%
其の他 17%。  

―ブラジルの小麦栽培
年度       生産量        栽培面積      イールド
1990     300万トン     280万Ha    1,2トンーHa
1997     320        200       1,7
2002     320        190       1,6
2004     600         250       2,4
2005     580         290       2,0
2006     240         250       0,9
2007     400         190       2,1
2008(予想) 580         240       2,4
南米の小麦生産(2007年)
アルゼンチン  15400 千トン    5685千Ha   2,8トンーHa
ブラジル     3830        1818      2,1
パラグアイ     760         379      2,0
ウルグアイ     740         267      2,7
メルコスール  20740        8149      2,5
世界のイールド(2006年)
アイルランド                         8,76
オランダ                           8,54
イギリス                           8,03
グリーンランド                        7,34
フランス                           6,74
エジプト                           6,45
ザンビア                           6,20
世界の生産   60594〔2007年〕 315000    2,8
ブラジルのイールドは世界平均以下であり、南米でも下のクラスである。欧州の1/3
以下であり、品種改良が進んでいない表れである。この生産性の低さが、コストアップの
要因であり、大豆栽培の裏作としての地位を確立していない主因である。栽培収益が低い事から、裏作をトウモロコシ等の他作物を植える結果になる。せめて、1Ha当たり4トン採れて呉れれば、輸入依存度が大分、少なくなる。

―ブラジルの小麦栽培地(2007年)
地域       栽培面積       イールド
中西部      41千Ha       2,08トンーHa
南西部      58          2,67
南部     1719          2,08
合計     1818千Ha       2,10
ブラジルの栽培面積の約95%はパラナ、サンタカタリーナ、リオグランデドスール州の3州で栽培されており。殆ど、パラナとリオグランデドスール両州の栽培である。一方、中西部ではマットグロっソ州が32千Ha栽培しており、約80%を占める。パラナ、リオグランデドスール両州の栽培比率は略各50%で、パラナ州が若干多いい。
―ブラジルの小麦の需給状態(2007年)
期首在庫         695千トン
生産          3815
輸入          7085
(小麦粒)6985千トン
(小麦粉)1000
供給量        11595千トン
消費量        10250
製粉工場処理量    10000
翌年播種用種子      400
輸出           250
期末在庫         695
ブラジルの輸入の90%がアルゼンチンからで、10%がアメリカ及びカナダからである。
一方、アルゼンチンの輸出の60%がブラジル向けである。輸入量は国産小麦を消費量
1千万トンより差し引いた数量を輸入しており、2005年 6,26百万トン、2006年 7,64百万トン、2007年 6百万トン 2008年(予想)4,2百万トン。

―ブラジルの製粉能力
年間1千万トンを製粉する。製粉工場はブラジルに213工場ある。州別の工場数はリオグランデドスール 83工場、パラナ 51工場、サンタカタリーナ 29工場の合計
163工場が南部に在る。サンパウロ、ミナス、リオ、エスピリットサントス州合計で25工場在り。残り25工場は東北及び北ブラジルの港に点在する(輸送は船舶が主体)。
製粉は、サイロー拠雑物除去―外皮と胚乳の分離―荒挽きーフスマ分離―小麦粉―金属探知機―袋詰め、の工程を経て商品化される。小麦粉は75%、フスマは25%の歩留まりが標準。

―小麦粕(フスマ=Farelo de Trigo)
フスマは蛋白質の多くが外皮に付着しており、含有量も多く、飼料として重用されている。
フスマの用途は2002年の統計では、養豚用105万トン、乳牛用50万トン、産卵鶏用23万トン、ブロイラー用21,5万トン、で合計194,5万トンで、残り45,5万トンが其の他の家畜用である。(フスマ総生産量240万トンー小麦製粉960万トン)
02年の配合飼料の総生産量は4,1千万トンであった故、5%がフスマが原料である。
今日でも、フスマの使用比率は変わっていないと思料する。

―ブラジルの小麦の将来性は品種改良の進展如何である。最近EMBRAPAが開発した新品種 BR254及びBR264はセラード地域(中西部の旱魃地帯)で灌漑による栽培で
1Ha当たり6トンの収穫をあげた。公社では試験栽培面積を1万Haに拡張して試験栽培を行うことになった。
無灌漑でも1Haにつき4トンの収穫のある品種の開発に期待したい。近い将来には、遺伝子組み換え小麦が導入されることも必定と考える。
以上
麻生

2009年1月10日    



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