【ブラジルの養殖エビ】 麻生 悌三さんの寄稿が届きました。
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今年第2弾の麻生さんの寄稿は、【ブラジルの養殖エビ】です。そろそろ取り上げる話題が枯渇して来ているのではないかと心配していますが、色々と趣味の域を超えた経験に裏打ちされたブラジル食糧関係の話題を豊富な統計資料と共に纏めて呉れています。
海老と云えばRS州でもパットス湖で育った海老が大西洋に出て行く時に捉える網漁がリオグランデ港付近で盛んで丸紅勤務当時は日本に向けにリオグランデのブラウンの海老として海老天用の原料として根強い人気があり喜ばれていたが近年では価格的に養殖海老に追われ国内での消費に向けられている。ブラジルでは人口が多く結構高値で海老が売れる市場に成長しており海面漁業の天然海老は、輸出に回らない傾向が強い。ブラジルの養殖海老が世界でもイールド(歩留まり)が良いとは知らなかったがまだまだ伸びる産業かも知れないですね。麻生さん貴重な寄稿有難う御座いました。
写真は、昔のRS州から日本に輸出されていた海老の写真を探してみましたが見当たらず手っ取り早いGOOGLEで美味しそうな丸焼き海老の写真をお借りしました。
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エビはいずれの民族でも食し、宗教的戒律のない水産物である。エビは外食産業の食材の王様であり,洋の東西を問わず、レストランでの消費が家庭での消費より大きい。エビが好まれる理由は、先ず、味が美味である事、それに魚臭さが少なく、脂肪分も少なく、ヘルシーである上に、高級感がある。エビの種類は300種位いあるらしいが、食材として,重用されているエビは車海老属で、20種類ぐらいある。エビは体色によって分けられ、
ピンク(ギアナピンク、ブラジルピンク等)、ブラウン(メキシコブラウン等)、ホワイト
(ヴァナメイ種等)、ブラック(ブラックタイガー等)等体色で呼ばれる。エビは増大する需要に供給が追いつかず、今では、供給の主力は海面漁業よりも養殖エビに移っている。
ブラジルでも年間生産量(2007年)の65%が養殖エビで海面漁業は35%である。
養殖エビの主力種は、ブラックタイガーとヴァナメイであり、世界的にはヴァナメイの方が多いい傾向にある。世界のエビの消費は年間で約600万トンであり、エビの種類の好みは、国によって異なり、アメリカではホワイトを好み、日本ではボイルした後の赤色がより鮮明に出る、ピンク系が好まれる。ブラジル沿岸のサンタカタリーナ州沖合いから、アマパのアマゾン沖漁場にかけて広く分布するカマロン ローザと呼ばれるピンクエビは、味、肉質、サイズ、ボイル後の発色等、いずれを取っても、世界のエビの品質ランクで1級品である。この種のエビは漁獲量も少なく、国内消費も旺盛で、高価であり、輸出は殆ど行われていない。アマゾン河口のべレンを基地とする、エビトロール船がアマゾン沖漁場で漁獲するピンクを輸出しており、ニチレイがべレンに漁業、加工会社、AMASA社を持ち、日本向けに年間1500トン程度、輸出している。このエビは関西の寿司屋で根強い、
人気がある。
―A) 世界のエビの主要生産国(2004年)
生産国 生産量総計 養殖エビの生産量
中国 241万トン 94万トン(147万トンが海面漁業)
インド 55 13
インドネシア 49 24
タイ 47 39
ヴェトナム 38 28
カナダ 18 0
アメリカ 14 3
ブラジル 10 7,5
世界のエビの生産量の67%が海面漁業(芝エビ等全ての種類のエビ)であるが、車エビでは殆どが養殖エビである。
―B)世界の主要エビ消費国(2002年)
消費国 年間消費量
中国 64,2万トン
アメリカ 60,2
欧州全体 45,4
日本 29,5
日本、中国以外のアジア 36,8
合計250万トンのエビ(殆ど車エビ)が消費されている。中国以外は輸入エビである。
―C) 世界の一人当たりのエビの年間消費量
エビの一人当たり年間消費量が最も大きいのがスペイン、年間一人当たり3、57kg、
次が日本 2,77kg、3位がアメリカ 2,29kg。ブラジルは 0,37kg。
日本人もエビ好きで、一人当たり年間,エビを70匹ぐらい食べている。寿司,てんぷら
が2大料理である。
―養殖エビ
世界のエビの養殖はブラックタイガー種の養殖が、1980年代に台湾で本格的に開始された。その後、台湾がビールス菌の発生で、養殖が壊滅的打撃を受け、養殖はマレーシャ、
インドネシア、タイ、フィリッピン、エクアドル等諸国に広がった。南米太平洋岸ペルーから中米にかけて広く分布する、ホワイト系のヴァナメイ種が耐病性、に優れ、又、同一
容積の池でブラックタイガー種の2倍以上の飼育が可能なことが分かり、養殖の主流はブラックタイガーからヴァナメイに移ってきた。ブラジルでは1980年代にエビの養殖が開始されたが、当初は日本より車エビの種エビを輸入して養殖したり、ブラジルピンクの養殖を行ったりした。1995年にヴァナメイ種をエクアドルより輸入して養殖を開始した。順調に進み、2003年には、養殖エビの生産量が9万トンになり、養殖池の総面積も1,4万Haに達した。順調に進展した背景には,環境が良い事が挙げられるが、病気が入らなかった事、池の汚染等が少なく、致死率が低かった事、等があり、ブラジルのイールドは、世界最高の1Ha当たり6トンを超える高い生産性を示した。
―A) 世界の養殖エビのヴァナメイ種の割合(2004年)
生産国 養殖エビ生産量 ヴァナメイ種生産量
中国 600千トン 426千トン
ヴェトナム 450 320
インドネシア 205 30
インド 150 1
ブラジル 75 75
―B) ブラジルの養殖エビ
1995年にヴァナメイ種を導入してから、養殖は軌道に乗り出し、輸出エビの主力となり、年間3億ドルの外貨を稼いでいる。エビは水温の高い、亜熱帯、熱帯に適し、成長も早く、生産効率も高い。従い、エスピリットサント州以北の東北伯地方に養殖場の97%が点在する。。
―C) 養殖エビの生産工程
エビは1回の産卵で20−30万個の卵を放卵する。孵化水槽に種エビを入れ、産卵させ、−孵化したエビを植物プランクトンと動物プランクトン(アルテミア)を培養したタンクに移すーエビは変態,脱皮を繰り返しながら稚エビに成長するー孵化の1ヶ月後稚エビは
池に放たれるー人口飼料(魚粉、イカの粉末、ミネラル、ビタミン、酵母等のペレット)を与えられ、― 3−4ヶ月後体長8cm、体重10グラムの大きさの半成エビで冷凍され出荷される。成エビは体長15cmに成長するが、飼料効率、採算性、年2回の出荷が可能、等の理由により、半成エビで出荷する方が有利な為である。尚、重量10グラム程度の芝エビ(sea bob, sete barba)に毛の生えた程度のサイズでは、寿司ネタ、天ぷら、の食材には小さすぎ、ブラジルの養殖エビの日本向けの輸出は無い。養殖池の水深は平均1m。
孵化及び稚エビの生産設備を持たない、養殖業者は大手業者が持つ孵化場より稚エビを購入して養殖池に放流する。ブラジルには現在、孵化場が42箇所ある。
―ブラジルの養殖場の概要(2003年)
所在州 生産者数 池の面積 年間生産量 イールド
R.Norte 381 6281 Ha 30807ton 4905kg/Ha
Ceara 191 3804 19406 5101
Bahia 51 1850 7577 4090
Pernanbuco 68 1108 4531 4703
Piaui 16 630 2903 3383
Total 987 16508 75904 4573
ブラジルのイールドは世界一高い水準であり、東南アジアで最高のタイのイールドが
4,3トンである。この要因はビールス菌(mancha branca—白斑病)がブラジルに入っていなかったことと、1平米当たり50匹飼育という高密度養殖が可能だった事である。
2003年をピークにビールス病の浸入もあり、養殖密度の低下もあり、生産量もイールドも低下して来ている模様。
A) 生産者の規模(2004年)
規模 割合 養殖池の総面積
10 Ha以下 15% 2475 Ha
10−50Ha 30 5025
50Ha以上 55 9000
Total 16500
B) 主要国の養殖池の概要(2003年)
国 生産量 養殖池面積 イールド
中国 370千トン 257千Ha 1440kg−Ha
タイ 280 64 4375
マレーシャ 210 20 1005
ブラジル 90 15 6084
養殖池は真水(近くの川)と海水(浜辺)をポンプでくみ上げ、海水70%、真水30%の汽水度70の水にブレンドして、池に放水する。
C) 2003−2007年のブラジルのエビの漁獲及び養殖
年度 海面漁業漁獲量 養殖エビ生産量 合計
2003 34013トン 90150トン 124163トン
2004 32501 75904 108405
2005 38497 63134 101631
2006 38482 65000 103482
2007 39265 65000 84265
ABCC(ブラジル養殖エビ協会)の公表データーより記載したが、2006年と2007年の養殖エビの生産量は、どうも、暫定値のようである。実際は2005年よりも低下しているのではと予測する。(2003年以来右肩下がりの傾向)
池が古くなると,底にヘドロ(残債物の堆積)も溜まり、汚染し致死率も高くなる。東南アジアのような小規模の面積の池ならば、水を抜いて、ヘドロを取り、底の砂を入れ替える工事も可能だが、ブラジルのような広面積の池になると、砂の入れ替えなどは不可能で定期的に水を抜いて乾燥させる以外、方策は取られていない。単に飼料を播くだけでなく、古タイヤの底に網お張り、飼料を入れて、池に沈める、給餌方式を始めた業者も多く、汚染防止にはある程度は役立っている。一方、海面漁業は、車エビ属のピンクエビだけに限定すると(上記統計は芝エビも含めた量)年間の漁獲は約1,2万トンでべレンが2千トンで南伯が1万トンである。
D) 2002年―2005年の養殖エビの輸出
年度 輸出量 輸出高(FOB)
2002 38960トン US$ 174百万
2003 60814 244
2004 54370 215
2005 45033 194
03年よりアメリカが課徴金(反ダンピング税)を課税したことにより、輸出先はアメリカ主力から、欧州に転換した。05年の輸出先はフランス向け1,7万トン、スペイン
1、 6万トンである。アメリカ向けは僅か3千トンに低下した(2002年ではアメリカ
向けは1,8万トンで輸出の略50%)。アメリカは自国産業の保護を名目に反ダンピング税と称した課税を行い、アメリカの財政赤字補填の一端を担わされる。2004年に各国の猛抗議に税率を引き下げたが、課徴金そのものは撤廃されていない。現在の課徴税率と〔〕内は引き下げ以前の税率は次の通り。 中国 55,27%(112,3%)、エクアドル 3,26%(25,7%)、タイ 6,05%(25,7%)、インド 9,15%
(25,7%)、ヴェトナム 4,38%(25,7%)、ブラジル 67,8%(10,4%)等である。
―エビ養殖と環境問題
養殖池は海岸に隣接しており、多くはマンググローヴを切り開いた土地に、池を造成する。
造成して5−6年経つと、飼料の残債の堆積とか、ヘドロの発生とか、弊害が出てきて、病害の発生、致死率の増加等も加わり、池を放棄して、新しい池を造成する動きも出てくる。その結果、海岸破壊による環境汚染も発生する。病気予防に対する薬剤投与等も環境汚染に影響を及ぼす。エクアドル等もエビ養殖で廃棄された池にチラピア等の養殖に転換する方法を取っており、ブラジルもこのような動きも出てこよう。エビ養殖事業で勃興したエビの飼料の製造メーカーも12社を数え(2002年)、生産量も年間13万トンに達しているが、2008年は飼料の生産は6万トン近くに落ち込んでいる模様で、それから、
逆算推測すると養殖エビの生産はかなり落ち込み、4−5万トンではなかろうか〔ブラジル養殖エビ協会の暫定値6,5万トンを大きく切る結果になる〕。そうなるとかっての、世界最高のイールドもタイ並の1Ha当たり4トンが妥当であろう。
本レポート作成に関して、元サンパウロ大学海洋生物学科教授の岩井元長先生(東京水産大OB、第一次ブラジル南極観測隊隊長)の御指導を頂き、御厚意に深謝申し上げる。
以上
麻生
2009年2月10日
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