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ブラジルの国民酒カシャサ(ピンガ) 麻生 悌三さんの寄稿です
毎月ブラジルの農業関係の話題を中心に統計資料を駆使した報告を麻生 悌三さんから送って頂いていますが、今月も我々ブラジルに住む者にとってはほんとにお馴染みのブラジルの国民酒と云えるカシャサ(ピンガ)に付いての寄稿を送って頂きました。
ブラジルに来られると必ず飲むのが清涼飲料水のグアラナとカイピリニアです。カイピリニアは、砂糖黍を原料とした焼酎をライム(レモン)を入れて氷で割った飲みやすいカクテルですが、アルコール度数が強く3杯以上飲むと足を取られるので要注意です。このブラジルの焼酎(アグアルデンテ)の生産方法が2種類あり工業用製造から出て来るものがピンガと呼ばれ昔風に銅のアランビッキ(蒸留機)を使用して家内工業式に生産されるのがカシャサと呼ばれるそうです。ブラジルからこのカシャサ(ピンガ)が世界に輸出されており日本でもブラジル食店、シュラスカリアではこのカイピリニアが出されます。1杯1000円もする所もあるようです。
写真は昨年アナポリスの河野農場を同船者の皆さんと訪問した時に自家製のカシャサをお土産に頂きましたがそのFAZENDA PAIOL VELHOで作られた2005年製造のカシャサを使用しました。


カシャサは砂糖キビの絞り汁を醗酵、蒸留したラム酒の一種である。カシャとは、房を意味する言葉で、醗酵液の泡が房のようになった状態を表し、アサとは肥大、膨らんだ状態を表す。つまり、膨らんだ房の状態の泡であり、それを、ポルトガル人がカシャサ(cashaca)
と呼んだ。ピンガとは俗称で蒸留器から、酒が滴り落ちる状態から、ピンガと呼んだ。本レポートでは便宜的に、工業的に大規模で造られる酒をピンガと呼び、手工業式で地酒的に作られる小規模酒造をカシャサと称する。俗称で最も使われるのが、アグアルデンチ(aguardente)、カニーニャ(caninha)であり、ピンガ(pinga)と同様、一般的呼称である。ほかにも、白いコーヒー、気違い水、白い聖女、万能薬、可愛い聖女、等俗称は無数にある。1997年に政府機関により正式名をカシャサと定められ、ブラジル産のサトウキビを原料とし、20度Cの温度下で、アルコール濃度38−54度の蒸留酒である事が定められた。又、大規模工業は、醗酵を6時間で行い、化学物質の醗酵促進剤の使用を許され、蒸留装置はステンレス製である事、小規模醸造業者はアランビッケ(蒸留器)と呼ばれ、蒸留器は銅製であること、醗酵促進剤は穀物を添加すること又、醗酵時間は15−30時間等が義務付けられた。カシャサの醸造は16世紀に砂糖栽培が始まると開始されたらしいが、本格的醸造は1622年にオランダがセアラ州を中心とした東北伯を占領し、砂糖キビ栽培を始めた頃、オランダ人が始めたらしい。ブラジルの年間の生産量は13−15億リッターと云われ、売上高は年間約5億ドル。ピンガの生産が10億リッターでカシャサの生産は3−5億リッターと見積もられている。ピンガの工場は主要企業5社を中心に数社であるが、カシャサの生産者は数千軒の家内工業(農家の裏庭で製造)でブランドの数も3万あると云われている。カシャサのアランビッケの90−95%は無登録の業者で(税金は納めない)闇で販売している。5−10%のアランビッケが正規に営業している。アランビッケの数の最も多いい地域はミナス州で、その数は約5千。正規に登録している業者は4−5百軒。カシャサを州で年間2、4千万リッター位い生産している模様。正規に営業している業者でも闇のブランドを別に持っている業者もいる。

―生産地域
州別生産量は、サンパウロ45%、ペルナンブコ12%、セアラ11%、ミナス、リオ、ゴヤス各8%、パラナ4%、バイヤ、パライーバ各2%の比率である。サンパウロにはピンガのメーカーが集中している。代表的ブランドは51とPituだが、両方ともMuller Groupが所有しており、Muller(1959年創立)だけでブラジルのピンガの生産の35%を占める。2002年及び2003年の生産、輸出、消費は次の通り。
              2002年      2003年
アランビッケの生産量    3億リッター     5億リッター
ピンガの生産量       10億リッター    10億リッター
合計            13億リッター    15億リッター
輸出
アランビッケーカシャサ    3百万リッター     5百万リッター
工業―ピンガ       14,5百万リッター   20,0百万リッター
合計           14,8百万リッター   20,5百万リッター
国内消費量        12,85億リッター   14,85億リッター
ブラジルで消費されている2005年のアルコール飲料はトップがビールで年間消費は約97億リッター(一人当たり年間消費は48リッター)、次が ピンガ(カシャサ)で約15億リッター(一人当たり年間消費は、7,6リッター)3位がウイスキーとコニャクで3,5億リッター、4位がワインで3,9億リッター(一人当たり年間消費は2リッター弱)

―製造工程と小売価格
カシャサの原料の砂糖キビは、成長期に降雨があり、収穫期の1ヶ月前は全く降雨がない条件が望ましく、収穫前の降雨は糖度を下げ、品質が落ちる。気候的にはミナス州の気候がカシャサには好適である。又、砂糖キビは収穫時、枝葉を落とすために、火を入れて畑を焼くが、カシャサの原料には不適であり、畑を焼かない。製造工程の概略は、
1) 刈りり取り − 2)キビを摩り潰す(収穫後36時間以内に行う)− 3)エキスを醗酵させる(加水せず、アルコール度を48度位に醗酵させる) − 蒸留(アルコール度を39度位にコントロールして蒸留する。アルコールの沸点は79度Cであり、水よりも先に沸騰する。そのアルコールを回収するのが蒸留器である) − 熟成保管(ピンガでは殆ど行わない。カシャサのみ大型木樽で熟成させる。熟成年数は10年以上のカシャサもある)ピンガの小売価格(2009年4月)は51、velho barreiroの 960ml アルコール39度が4レアル(1,73ドル)ピンガの高級酒ypioka
600ml 39度が10レアル(4,30ドル)−日本での小売価格は1500円と広告に掲載されていた(15ドル)一方、カシャサはピンキリで安いものは10レアル(4,30ドルー1本)から高いものは285レアル(124ドルー1本)まである。有名ブランドのsalinas Santiago 600ml 44,8度の物は1本、155レアル(67ドル)、salinas Santiago special 12 year は285レアル(124ドル)、高級品の
Sapucaia real 18 year750mlは379レアル(165ドル)等であり、無登録業者の闇の販売は、量り売り、無印壜、レッテル偽造等諸形態あり。カシャサの殆どが未登録で販売伝票が無いため、正確な生産量の把握が難しく、推定数値にならざるを得ない。ピンガの主要5社のマーケットシェアーは下記の通り。
ブランド       所在州       シェアー
Caninha 51 Sao Paulo 30%
Velho Barreiro Sao Paulo 19
Caninha Jamel Parana 5
Pitu Pernanbuco 5
Ypioka Ceara 4
上記5社でブラジルのピンガの63%を占める。Caninha 51とPituはMuller Group
であり又、Velho Barreiroと上には無いがTatuzinho と3−-Fazendaは同じグループであり3社を合せると、ブラジルの25%を占める。MullerとFazendaの2大グループのブラジルのシェアーは約60%になる。Mullerは恐らく、全世界の蒸留酒のメーカーではトップの生産規模と見られている。

―カシャサ(ピンガ)の輸出
2004年度の輸出では、輸入のトップはドイツ17%、ポルトガル11%、アメリカ9%、イタリー、アルゼンチン、パラガイ各7%、オランダ、ウルガイ、イギリスは各5%等である。一時ドイツのシェアーが30%あった。2002−2005年の輸出は下記の通り(登録業者)。
      ブラジルの輸出  サンパウロ州の輸出 比率   FOB平均価格
2000    13429千リッター 7084千リッター  52%  US 0,61-liter
2001    19156      3227 32 0,83
2002 14535 5708 40 0,60
2003 8648 3698 43 1,04
2004 8604 3129 36 1,29
2005 8603 3956 45 1,20
輸出の場合は免税措置があり、国内価格よりもはるかに安い。ドイツ人はピンガを好み、ピンガのカクテル、カイピリーニャ(ライムを皮ごと切り刻み、砂糖を加え、潰したものをピンガで割る)を好み、ライムの生果実を毎年5千トンぐらい、ブラジルより輸入している。普通のレモンだと味、香りが良くなく、ライムでないとぴったりしない。カイピリーニャ(小さな田舎者の意味)は欧州各地で人気が出てきており、ライムの生果実の輸出も年間1万トンを超えている。尚ライムの世界の主産地はブラジルとメキシコである。サンパウロ州はライムとレモンの両方が収穫でき、両方栽培される場所は恐らく、世界でサンパウロ州だけであろう。サンパウロ州以北はライム、以南はレモンと栽培地域が大きく別れる。

―国内マーケットでのブランド評価(登録業者)
2003年4月にPlay Boy誌が行った人気十傑アンケートでは下記の結果が出ている。
A) ピンガの人気順位は1)Oncinha 2) Caninha 51 3) Ypioka 4)Vila Velha 5)Pitu 6)
Caninha da Raca 7)Jamel 8)Velho Barreiro 9)Caninha 61 10) Caninha Artesanal
B) カシャサの順位は 1)Vale Verde(産地Salinas-MG州) アルコール濃度40度
熟成期間3年 2)Antonio Santiago(Salinas-MG) 39度 6−8年 3)Caninha Salinas(Salinas-MG) 44度 3年 4)Geruana (Nova Uniao-MG) 40度 2年 5)
Cladinor (Januari-MG) 44,8度 6−8年 6)Boazinha (Salinas-MG) 7)Casa Eucco (Passo Velho—RJ)40度 2年 8)Azmazer Vieira (Florianopolis-SC)44度 4年 9)Magnifica (Miguel Ferreira-RJ) 45度 3年 10)Piragibana (Salinas-MG) 47度 1−4年カシャサは殆ど熟成期間があり、それがないピンガとの味、芳香の差は歴然としている。熟成期間の長い旨いカシャサはスコッチウイスキーよりも旨い。勿論、ピンガとの価格差は歴然としている。

―カシャサとピンガの直接税
ブラジルは世界に冠たる税金大国である。税金の種類も60数種類あるが、次にあげる税金は小売価格にかけられた直接税(IPI=工業製品税)、ICMS=販売税 PIS/CONFIN=社会統合税によって構成される。)であり、特にピンガ、カシャサは国税からも目の敵にされて高税金を課せられている。カシャサ、ピンガ 74,4%
タバコ 74,5% ビール(缶)58% ワイン 46% アルコール 43%
ガソリン 53% 清涼飲料 47% ミネラルウオーター 45,1% チョコレート 32% 塩 28,4% 電気 31% 電話 37% ガス 20%等である。今、国内総生産(GNP)の40%が税金である。1999年はGNPの27,4%であり、2000年はGNPの32%、2004年はGNPの38,1%と税率は右肩上がりの上げである。
ピンガの小売価格を4レアル(1リッター)とすると、3,32レアルが税金。残りは0,68レアル、この半部は流通経費とすると、工場の取り分は、0,34レアル/リッター である。この30%を原料代とすると、原料代は0,10レアル(約4セント=4円)であり、市売の鉱泉水よりに安い。このしわ寄せは、結局、生産者(農家)が被る。それだけに、無登録で脱税するのは小農において死活問題であり、必要悪である。カシャサの90%の(約3億リッター)生産者が脱税で成り立っているのが現実である。ピンガの大メーカーでも最近はTatuzinhoが脱税で摘発され大問題となり、新聞をにぎわした。国税とヒッチの絶えない業界であり、アランビッケと国税との鬼ごっこは200年以上も前から、ポルトガル帝政時代より続いている。  

―、酒ピリーニャ(Saquepirinha)
かって、ブラジル人は日本酒に馴染みは無かった。1934年に東山農場(三菱の創始者岩崎家が1927年にサンパウロ州カンピナスに開いた農場)が日本酒東麒麟の醸造を開始したが、消費はかぎられた日系人だけであり、品質も決して良い物ではなく、飲むと、頭痛がするケースが多いいので別名アタマキリンと呼ばれた。1975年にキリンビールが東山農産加工社に資本参加し、改良した結果(秋田の太平山の技術指導)、アタマの痛いのは無くなり、別名も消えた。それが2002年位から、突然、サンパウロに日本酒ブームが起こった。きっかけは、ピンガ(カシャサ)にライム、砂糖を加え、潰して割ったカクテル、カイピリーニャをもじって、日本酒で割った、サケピリーニャがバーベキューハウウス、寿司バー等で飲まれ始め、味もピンガに比べマイルドで、女性を中心に広がり始めた。元々、日本酒は甘口なので、砂糖を添加しなくても、結構イケルのでブームが起こった。今、サンパウロのバーベキュー屋で最も飲まれるカクテルは潰したライム、砂糖をウオッカで割った、カイピロスカ、次がサケピリーニャ、3番目がカイピリーニャで伝統のカクテルを凌駕している。(場所を限定しての話しだが)当然、東麒麟の生産量も他のブランドの消費も上がった。推定すると東山の酒の年間生産量は130万リッター。醤油メーカーのサクラ食品がアメリカより月桂冠をバルクで輸入し、壜詰めにして大地ブランドで販売している分と最近開始した現地醸造の日本酒の分を加えると大地の推定生産量は年間40万リッター、合計すると年間170万リッターと推定する。ブーム前の東麒麟の醸造は年間25万リッター程度と思われる故、ブームにより、ブラジルの消費量は7−8倍(日本、アメリカより他ブランド、大関。両関、白鹿、松竹梅、日本盛等の日本酒と焼酎いいちご、薩摩白波、等の輸入もある)に増えたと考える。キリンは東山に資本参加して以来、第4回目の工場の増築の準備中である。数年前まで日本酒をブラジルで醸造していた事も、日本酒の味を知らなかった、ブラジル人が大関は辛口だの、東麒麟は甘口だのと、うんちくを語るのを聞くと、世の変遷を感じます。
以上
2009年9月1日
麻生



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