ブラジルのジャガイモ 麻生 悌三さんの11月の寄稿です。
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毎月欠かさずにブラジルの農作物の一つを選び統計数字等を駆使した興味深いレポートを寄稿して頂いていますが、11月は「ブラジルのジャガイモ」です。アンデスのペルー、チチカカ湖周辺が原産地との事ですが、ジャガイモ程世界に広がった植物は少ないと思います。ブラジルには原産地から直接伝わったのかと思っていたら何とヨーロッパ経由、ポルトガル人が持ち込んだそうです。ヨーロッパの国々ではジャガイモが主食に成っている国もあるようで特にドイツを旅行された方が毎日ジャガイモを食べていたとコメントされていました。ブラジルでももっとジャガイモを食べても良さそうですが、マンジョカ(タピオカ芋)等も結構北の方では主食並みに食べており世界の4大作物の米、小麦、トウモロコシ、ジャガイモが順当なのでしょうか?
麻生さんは、新年度からは、新しい企画として「ブラジルの不思議」(仮題)として書き続けて下さるそうです。
写真は、今日スーパーに行った時に山のように積んでいたジャガイモの写真を撮って来ました。1kgR$2.15=1ドル20セント=110円の表札が上がっていました。
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ジャガイモの原産地はペルーのチチカカ湖周辺と云われている。BC5千年位いから、栽培が行われて来たらしい。標高3800メーター、昼の気温15度C、夜の気温はマイナス10度Cぐらいに下がり、1年中、昼夜12時間、降雨は殆ど無い、そんな厳しい気候
でジャガイモはインカの主食だった。1532年スペイン人ピサロが率いる、僅か168名のナラズ者部隊が侵入し、インカの皇帝を奸計で捕らえ、8ヶ月間人質とし 部屋いっぱいの黄金を要求する。黄金を差し出させた後、1533年皇帝アタワルバを処刑。こうして、インカ帝国は事実上滅亡した。当時、インカの兵力は8万あり、鉄器は無かったが、青銅器の槍、刀は持っており、本気で戦えば負ける筈はなかった。インカが始めて見る鉄の刀、鉄砲、32頭の馬、等の新兵器はインカを圧倒するが、インカは戦う前に戦意を喪失していた。ピサロを伝説の神の再来と信じた、インカの迷信が戦意喪失の真実らしい。それに加え、インカ民族内部の内紛をスペイン人は利用した。又、スペイン人が持ち込んだ、天然痘(最大の被害を与えたらしい)、インフルエンザ、ジフテリヤ等が免疫の無い、インカの民に襲いかかり、人口を減らした。スペイン人侵攻の当時のインカの人口は約1600万と見積もられていたが、滅亡した1579年当時の人口は約200万。人口の殆んどが犠牲となった。インカ道と呼ばれた、総距離5千キロにわたる交通網が伝染病の伝播を早めた。スペイン人がジャガイモを欧州に持ち帰ったのは、1570年頃らしい。その後、200年間にジャガイモは、欧州各地、その他の地域に伝わり、1590年にはイギリスで栽培された記録がある。日本には、1610年頃、インドネシヤから長崎にオランダ船で持ち込まれたらしいい。当時、ジャカルタをジャガタラと呼んでおり、ジャガタライモがジャガイモの語源となった。ブラジルに本格的に入ったのは、1800年代に欧州移民が持ち込んだのが、始まりと云われている。
―ジャガイモの特性
ジャガイモは世界の4大作物の一つであり、米、小麦、とうもろこし、ジャガイモの順にランクされている。ジャガイモの特性は1)栽培圏が広い事。熱帯圏から北極圏まで栽培されている。2)小麦や米よりも栄養価が高く、しかも収量が多いい。小麦の5倍、水田米の3倍位の収量がある。3)穀物ではなく、野菜であり、壊血病の予防食であり、大航海時代の食糧に不可欠。4)保存性に優れ、水分を完全に出したアンデス地帯の保存食
チューニョは10年間保存が効くと云う。5)収穫量は種芋の15倍。最短50日で収穫できる。ジャガイモ100g中の栄養価は蛋白質 1,5g 炭水化物 19,7g ビタミンC 15mg。寒冷地、やせた土地でも育つ。一方、負の特徴は1)有毒アロカロイド ソラニンを外皮、芽に含み、皮を剥いて調理する必要有り。ソラニンは水溶性であり、水に漬けておけば、毒抜きできる 2)ジャガイモは栄養価が高く、病害の感染度が高い 3)連作すると収量が落ちる連作障害あり。
―食糧危機とジャガイモ
2008年を国際ジャガイモ年とFAO(国連農業食糧機構)が定めた。来るべき、食糧危機にジャガイモで乗り切ろうとののろしの第一弾である。世界人口は現在67億人、次の20年間に毎年1億人増加すると見られ、2050年の推定人口は91億人。これまでに人類は、度重なる、飢饉をジャガイモで乗り越えた経験を持つ。
1600年―1800年の200年間の欧州は、戦争に次ぐ戦争で、17世紀で戦争の無かった年は僅か4年間ぐらいであった。加えて、この間、気候が異常で、小氷河期と呼んでいる、冷涼な時代で、1650年―1850年の200年間に数十回の飢饉があった。日本でも江戸時代、寛永(1642−1643)、亮保(1732年)、天明(1732−1787)、天保(1833−1839)の4大飢饉があり、中でも天保の飢饉の犠牲者が被害地で最も多く、秋田藩の人口40万が10万に減少した記録がある。
この時期、欧州ではジャガイモの栽培が奨励され、ふっきゅうした。最初に、主食として、ジャガイモを受け入れたのは、アイルランドで、1780年の人口400万人がジャガイモのふっきゅうで1841年には、800万人に増加している。フランス革命(1789)の原因は凶作による飢饉も背景としてあった。その後アイルランドは1845年にメキシコが発生地と云われている、ジャガイモの疫病が蔓延し1848年までに、ジャガイモが全滅している。150万人が餓死し、100万人が移民として、アメリカに渡った。1845年の人口800万人が、1851年には655万人に減少している。(通常なら900万人に増えている筈)この時の移民の子孫から、ケネデイー、リーガンの二人の大統領が輩出している。
―世界のジャガイモの生産量(2007年)
生産国 生産量(2007年) 栽培面積(2004年) イールド/Ha
中国 72040千トン 4302千Ha 16,2トン
ロシヤ 36784 3134 11,4
インド 26280 1370 17,8
ウクライナ 19102 1585 11,8
アメリカ 17654 472 43,7
ドイツ 11605 295 13,9
ポーランド 11221 766 19,2
ベラルーシ 8744 − −
ブラジル 3259 144 22,6
世界合計 321736 18630 17,5
世界生産4,2億トンの内、中国、ロシヤ、インドで約40%を占める。ブラジルの生産は世界の約1%。因みに、日本は生産量2750千トンで栽培面積90千Ha、イールドは31トンと高い。
―世界のジャガイモ消費量(2002年)
ベラルーシ 174kg/年間/一人
ポーランド 132
ポルトガル 127
ロシヤ 125
イギリス 120
アメリカ、ドイツ、フランス 60−80
中国 35
日本 22
ブラジル 16
ジャガイモを主食としている国が消費は大きい。ブラジルはまだジャガイモは野菜の範疇である。尚、南米ではペルー70kg ボリヴィア 58kg、コロンビア48kg アルゼンチン45kgと世界平均より多い。
―ブラジルのジャガイモ栽培
ブラジルでの栽培地帯は、バイヤ、ミナス、サンパウロ、パラナ、サンタカタリーナ、リオグランデドスールの6州である。中でも、ミナス州の生産が約30%を占める。栽培シーズンはアグア(雨季2月)、セッカ(乾季 6月)、インヴェルノ(冬 8月)の3季に分かれる。雨季の生産が50%、乾季が30%、冬季が20%位の比率である。
1)主要州別生産量(2004年)
州 生産量 栽培面積 イールド/Ha
バイヤ 132千トン 4100 ha 32,1トン
ミナス 949 37000 25,0
サンパウロ 751 30000 25,0
パラナ 575 29000 19,8
サンタカタリーナ 172 8630 19,9
リオグランデドスール292 25494 11,4
ブラジル合計 2837 135511 21,3
ジャガイモの栽培には昼夜の温度差が10度C位いあると良い。発芽温度は10−15度C、生育温度は15−20度Cの冷涼な気候を好む。
2)1996年―2007年のブラジルの生産量、栽培面積、イールド
年度 生産量 栽培面積 イールド/ha
1996 2496千トン 183072ha 14,75トン
1997 2670 174830 15,27
1998 2784 177852 15,64
1999 2904 176481 16,64
2000 2506 151731 17,18
2001 2848 163974 18,60
2002 3726 161124 19,40
2003 3089 151850 20,34
2004 3047 142704 21,35
2005 3128 132111 22,01
2006 3125 140840 22,20
2007 3259 144197 22,61
栽培面積は減少して来ているが、生産量は上がってきており、生産技術の進歩でイールドが上がって来ている。
3)種イモ
ジャガイモは栄養価が高く、芋の中にビールスが増殖しやすく、スーパー等の店頭で購買した芋を種芋として使用する事は出来ない。(収量の減少)従い、栽培されたジャガイモからは、種イモは取れず、無菌栽培された、種いも専用の芋を使用するしかない。無菌苗は成長点培養により母本保存から、試験管培養―網室内増殖―栽培―原原種栽培―原種栽培―一般栽培の順序をとり、数年の期間がかかる。輸入した種イモの原種栽培を行い、更に
増殖させた種イモを一般栽培農家に配布し、収穫栽培を行う。ブラジルは毎年2千―4千トンの種イモを輸入している。輸出国はオランダが略50%、カナダ、フランス、チリ、アルゼンチン等から輸入している。品種は、Bintje(オランダ)、Atlantic(カナダ),Achat(ドイツ)、等である。Embrapa(ブラジル農牧公社)が種イモ作成に注力しているが、まだブラジル独自の種イモは開発されていない。
連作障害―連作すると、土壌のバランスが崩れ生育不良となるだけでなく、病害や寄生虫が発生しやすくなる。とくにジャガイモはセンチュウによる生育障害がある。このセンチュウは宿主(ジャガイモ)が無い状態でも10年以上も土の中で生存し続ける場合もあるので長期の休耕と輪作で防ぐ以外ない。
―付録 ブラジルのマンジョカ芋(キャッサバ、マニオク、タピオカ、ユカ)
マンジョカ芋はブラジル中西部のマットグロッソ州が原産地といわれている(パラガイが原産地と云われる説もある)。1万年以上前へから、アマゾン地帯の原住民の主食であり今日にも続いている。奴隷貿易時代に、アフリカに伝わり、東南アジアにも広まった。2007年の統計では、世界の生産は、1,8億トンあり、トップがナイジェリヤ 4575万トン、次がブラジル 2731万トン、3位がタイ 2541万トン、4位がインドネシヤ 1951万トン、5位がコンゴー 1500万トン。今日でもブラジル北部の主食であり、近年、澱粉の原料にも使用され始め、パラナ州がでんぷん原料の生産のトップでブラジル全体の生産の80%を占める。ブラジルに於いては、マンジョカ芋の生産はジャガイモの略10倍である。生芋には猛毒のシアンが含まれており、流水に漬けて、毒抜きしないと生食できない。
以上
麻生
2009年11月1日
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