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≪命の尊さを知って≫ 早川 清貴
これまでに何度か紹介させて頂いている早川 清貴さんの不治の病と直面し心の揺れ動きを詠んだ赤裸々な叫びと苦渋の思いを短歌に託し送って呉れました。自分の思いを5,7,5,7,7の単語で表現する短歌を嗜む早川さんを羨ましく思います。短歌の説明を付けて呉れているのも嬉しいです。
早川さんからのメールには「今回は少し状況を変えて、移民に関する短歌は一寸忘れて、小生がこの一年不治の病を宣告されて8時間の手術した前後の心の揺れ動きを詠んでいます」とあります。
写真は、前回送って頂いた写真を再度使わせて頂きます。


―淡々と腫瘍を告げる医師の声ひとり聞くなり他人ことめき

数年掛かり付けの医者から『悪性の腫瘍があります』と告げられた、突然誰のことか理解出来ず、誰のこと、と問い合わした瞬間己の腫瘍と理解した。頭は真っ白でどうして車を運転して家に辿りついたか覚えがない程である。

―喜寿の来て不治の病かいみじくも生きしと我のきし方おもふ

喜ぶべき喜寿の歳に不治の病に襲われてしまった。77年生きてきた過去をしみじみと振り返る昨今である、もう少し生きたいが、、、。

―行く末を想い眠れず夜の闇に嗚咽に堪ふる妻の声聞く

掛かり付けの医者は血液検査(13項目)の結果を見て余命3か月と宣告した、その結果を女房に伝えた。平然と聞いていたが夜の闇に嗚咽を堪える声がして己も涙を止めることを知らなかった。因みにこの医者サンパウロ大学医学部の元教授で専門は内臓で癌専門医では無い。

―澄みわたる寒月の下独り行く光浴びつつ命を抱きて

血糖値の低減で毎日夕食後一時間程歩くことを習慣としている。不治の病とは別に、寒月の月夜の下を『俺は今生きているんだ』と自問自答して独り歩む。

―生検の結果はよしと二度三度崩れゆく己の心支へむ

生検の結果が判明した、表面的な結果ながら良性と出た崩れゆく己の心の大きな支えとなった。しかしこれには後日談がありこの結果は極一部の部位検査であり全く信用ならないことになった。

―万物の命尊し何故か病みて想へり今生きている

生きる保障が失われた今、生とし生ける万物の命が眩しく羨ましい。

―祖母や父姉妹も同じ病とぞ問へば応えぬ我の定めも

我が家は『癌』一家である、祖母(大腸癌)、父(胃癌)、姉妹(大腸と膵臓癌)伯母(胃癌)全てこの病気で他界している、小生の病は遺伝的なものか、、、と医者に問えば的確な応えがなかった。

―癌病棟待合室に座りをり我ら憂いに満ちたる顔に

癌特効薬の注入を待つ時間である。一回4時間かかる、静脈の洗浄、特効薬500ml の液体を60分で注入して、その後再度静脈の洗浄。特効薬には既製品は無く、当日の体重により製薬会社から直接適量を取り寄せる段取りである。この間2時間の待ち時間。6ヵ月の治療期間で癌病棟の患者の笑顔に出会ったことがない。各個室は寂ばくとして咳一つだけ。

―これもまた宿命なりや不治と聞く病と共に生きゆうかむとす

くよくよしても始まらない、宿命と諦めて何所まで行くか共存しようと決断する。

―再発に人逝きたれば身の細る我の明日のふと思はるる

TV等による再発で著名人等が逝ったニュースに接すると強く生きている積りでも、己の命の限度をふと想う切ない昨今である。

―身の内に特効薬の染みわたるとき至福なり全てわすれて

一番心配の癌の転移問題はこの特効薬が注入されている時間は忘れる、そして副作用にも打ち勝ち心の落ち着く至福の4時間でもある。

―家捨てし我の病めりと父母知れば何と言ふらん空の彼方に

もし父母が健在でこの事実を伝えたなら「長男のくせに、父母を見捨てた罰だ!」と強く叱咤されるであろう。今は空の彼方におわすが、、、。

―さわされど我も人の子心細き日はすがりたし父母の笑顔に

病により、すっかり、心が衰弱している時期でもあるう、今日まで一人で異国に生きて来て独りで家族を築いて来た強がりでも、、、父母の笑顔にすがりたい時もある。

―我が内の心の如く冬枯れて庭は冷たく夜を静もる

百花競い合う夏の饗宴とは裏腹に冬枯れの庭は、我心内の如く、冷たく夜に静もる

(註)上記は時間的に前後が乱れています。



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