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『ブラジルで損せぬ法』が復活! 山下日彬さんの経済評論
もう5年以上前に廃刊になった経済誌『実業のブラジル』に300回(25年近く)長期掲載していた『ブラジルで損せぬ法』が日本ブラジル中央協会のブラジルを理解するためにと云う連載記事のブラジル駐在経験者のリレーエッセイに登場、復活した。山下さんのブラジル経済評論は、定評があり多くの読者を魅了するに違いない。今回は、財務諸表では見えない巨額損を「見える化」のすすめと云う少し専門知識を要する難しいテーマを取り上げている。3回までを纏めて掲載して置くことにする。
写真は、少し変わった山下さんの実際の77才より若作りの漫画的挿絵を使う事にしました。


連載63:ブラジルで損せぬ法 財務諸表ではみえない巨額損「見える化」のすすめ(1)
     執筆者:山下日彬氏(ヤコン・インターナショナル社)

キリン・ビールが撤退したが、過去の、多くのブラジル買収事業の失敗の分析では、M&A相手の調査不足、想定できないブラジルの特別事態などが原因にあがり、失敗は、毎回くりかえされている。
近年は、本社側の、コンプライアンス株主訴訟などへの対応で、役員会の決定が、慎重になるという時代の傾向もあるが、ブラジル側も、脱税対策の税務連帯電子化、汚職対策の不正連帯責任などで、懲罰的罰則が想像以上に進んでおり、なんでもアミーゴ関係で解決できた、むかしの「良き」ブラジルではなくなっている。
M&Aに、毛頭、水をさす意図はないが、これからの進出企業の経営者は、法律と経理知識をプロ並みに持って、それなりの経営者責任を負う覚悟が必要な時代に変わったと思う。さらに、外国資本に対しては、どうしても、罰則が厳格に適用されると思われるので、M&Aでは、従来以上に、順法経営の精神で、税金を、すべて規則通りに納税しても、採算がとれる業種を選ぶ必要があるだろう。

ブラジル・コストと呼ばれる経営リスクがあるが、財務諸表ではみえない、想定外の巨額損失が発生することがある。払えなければ継続不能の事態に陥るし、本社の重役会が追加投融資を拒絶したときは撤退となるだろう。M&Aには、通常、経理会社、監査法人が、財務諸表を作成しているだろうが、財務諸表は、いかに正確に作成しても、所詮、国が決めた、税務会計処理の範疇を出ない。進出前の、現地側から上げる情報で、最悪事態が、数字で見えるようにして、本社と現地の共通認識にしておけば、かなりのケースの破綻撤退が防げるのではないだろうか。今までは、例えば、労働裁判訴訟費用などは、裁判官などの裁量によるところが多く、予想困難とされてきたが、コンピュータ技術も進んだことで、事態の見える化は可能と思う。判決文のデータは膨大だが、所詮、起業家の雇用思想と、相手弁護士、職業シンジケート、裁判官などの、人との思考対決であるから、今の技術なら、過去数年の判決内容を入力して、パターン化が可能と思う。

ブラジルで注意すべき特殊事情
1)不動産価格が、簿価や市価の半分以下でも売却できないことが起きる。
(例)資金ショートし、不動産の売却で対処しようとしたが、簿価では換金できず、赤字が急増した。
<対策>不動産登記書類を入手して、譲渡契約の専門家により納税情報、所有者情報など、十分に事前チェックをして推定入金額を試算する。

登記所の書記も試算してくれるが、実際に売買契約を開始しないと、事前には、わからないことが多い。提出項目を決定は、登記所の書記の裁量によるところが多く、特に地方の登記所には注意である。滞納税、未払いプロテスト、労裁訴訟中、遺産相続、場所によっては軍の許可が必要などで、売買契約のできないことがある。

所有者が企業名の時は、不動産売買契約予定日に有効な、20種ちかくの無債務証明書の提出を義務付けられることがある。契約時、登記所で、未納金など問題が指摘されるごとに、逐次対応することになる。例えば、すでに納税したものでもFGTSなどは市中銀行で納税しても、CAIXA ECONOMICAの本人口座に入金していないこともある。調査払戻し手続きを通常に行うと、何か月もかかることがあるので、登記所推薦の専門乙仲などに、費用を払って、即時清算処置をしてもらうことになる。清算額と手数料は通常、不動産の売り値から引かれるが、過去の高インフレの価値修正と、罰金や利子が計上され、これが思わぬ高額になることがある。また偶発トラブルで、署名日までに、無債務証明書が期限切れとなったら、すべて取りなおしである。

2)労裁負担金:給料の数倍とか常識的に考えていたら、払えぬほど巨額になることが起きる。
(例)新体制の経営者が、旧社員を、大幅に解雇したら、不当解雇の労裁で敗訴になり、巨額な退職金を課せられた。
<対策>
従業員を一覧表にして、勤続年数、登録職と実務、時間外労働時間、性格、過去の訴訟記録、給料の正規登録率、健康状態、家族構成などと、通常計算値と、最悪事態の解雇費用予想額を、裁判官や、相手弁護士の思考も推測して作成する。判決データベースをパターン分析する。

労裁訴訟件数世界一、労働者に有利な労働法で、弁護士数OAB登録が100万人を超えるブラジルでは、訴訟され敗訴になる可能性が極めて大と認識しておくべきである。それも、裁判官の主観に影響され、最近は、先進国例にならって、モラル・ハラスメント訴訟
も増え始めているから要注意だ。

M&A後の経営者は、旧社員の活用方針、給料登録方針、などを変更するときは、この表により、前後の必要資金や外国人1/3法などをにらみながら、判断すればよいわけである。対立解雇になった場合、労使間の直接和解合意は、再訴訟されるおそれがある。和解合意を希望なら、労働裁判開始後に、何回目かの法定で、相手弁護士も裁判官も立ち合いのもとに、裁判所内で合意協定(acordo)し、支払い条件まで決めるのが最良である。ただし、裁判日即決であるので、事前に本社重役会の白紙委任状が必要となる。
また、旧社員を解雇時、新体制でも、買収前の分の、差額請求が当然行われ、過去の高インフレの価値修正、高率の罰金、世界一の高利などで、解雇費用がおどろくほど高額になることがある。M&A後の経営者は、まずは、労働訴訟件数を最小にするように留意するべきである。欧米系の企業で、3年以上の長期雇用契約を、行わない方針にしている例を、聞いたことがあるが、労裁訴訟発生を、原因から防止する手段としては、一考に値いする。


連載66:ブラジルで損せぬ法(2)
財務諸表ではみえない巨額損「見える化」のすすめ
執筆者:山下日彬 氏(ヤコン・インターナショナル社)
財務諸表に未計上の損金が、突如発生し、本社重役会の想定外の巨額だと、新規投融資は許可されず、継続不能になるだろう。現地側から上げる情報で、本社側が、正しく判断ができるほどに、実態が数字で「見える」ようにする必要があるのではないか。前回、想定外の巨大損失例として、1)不動産価格と2)労裁負担金を挙げたが、さらに、3) 滞納税未納税:と想像以上に厳しい4)懲罰的罰則がある。
3) 滞納税未納税:税務監査などで、未納税が発見されると、過去のハイパー・インフレ時代の価値修正、罰金、延滞利子などで未納税が巨額になることが起きる。
(例)買収後の経営者が、税金の払い方を変更したら、過去の未納分が浮かび上がり、巨額の税金を払うことになった。また他の税の納税額が級数的に増え、価格競争力を失って、赤字に転落した。
<対策>
すべての税金の課金規則を調べて、何に何%課税されるのかを計算式に変換し、すべての税金を完納時の、末端価格までの価格建てを、例えばエキセルのような、自動計算フォームで準備する。この際、税金を何時払うかは重要でなく、合計何%払うか、原材料から最終価格まで、一目で見えるようにすることが重要。

買収前に、この会社は 自己事業に、どれくらい納税してきたかを調べ、買収後、納税思想を変更する場合は、売価がどう変化するか、このフォームで、何度もシミュレーションをする。重役会でも、「それを決行するとこうなりますが、良いですね」と数字で確認が可能となる。
50数種類も税金があり、販売比例税数と、税率世界一で、全部納税すると、他との競争力を失うので、必然的節税をしてきた業種も存在するだろう。また、全部納税していても、それぞれの税金に、常に改定される法令規則と、税務監督の自己判定もあるので、未納税が突然発見され、過去に遡って請求されることがある。税金の上にも税金がかかる課税システムは、一つの税の納税額を増やすと、他の複数の税の納税額が、級数効果の連鎖増になるので注意である。特に、新経営者が、今まで、払っていなかった納税を開始すると、当局によって、過去の不足分が脱税とされ、高インフレ時代の巨額の価値修正、滞納の罰金と、懲罰利子が発生することまで起きる。
先進国では販売税は、売値プラス税金で、増税があっても売値は変わらないが、ブラジルでは、売値に含まれる税金が多いので、増税分以上に値上げしないと赤字となる。
したがって、ブラジルの税金は、どのように課金するのか、確かめる必要がある。例えば卸値の場合で、流通税(ICMS)は卸値に含むが、工業商品税(IPI)は加算される。
社会基金(PISと Cofins)の税率は、1.65%と 7.6%で合計9.25%だが、最終値から課金されるので 10.19%の売上げ税とおなじだ。
法人所得税は、本来、利益に課税される税だが、多くの中小企業は、推定利益企業に登録しており、推定粗利32%に15%が課税される、すなわち4.8%の売上げ税と同じだ。
純益の社会基金(CSLL)も、同じく32%の9%で、2.88%の売上げ税とおなじだ。
日本では8%の消費税で大騒ぎになっているが、ブラジルには、この程度の販売税が複数に存在すると理解しておく必要がある。煩雑極まりない税制を改革するため、統一付加価値税(IVA)法案が、8月22日PSDB-PR党のLuiz Carlos Hauly下院議員より提出された。将来、多数の売値比例税が一本化されて、重税が見えるようになり、ブラジル国内企業から、減税の圧力がかかるようになれば、すばらしいことである。

4)契約当事者が、複数の会社に出資しているとき、そのうち一つでも、滞納連邦税や、労裁訴訟や不正摘発訴訟などがあると、個人の無債務証明がとれなくなり、定款変更や、不動産の売買契約はできなくなる。最近はすべて電子化で、連帯責任制になりつつある。
(例)突発的巨額損失の支払いができず、プロテストされ、Serasaの未払いリストに記録され、CGCや責任者のCPFの無債務証明書が出ず、経営続行不可となった。

<対策>
買収前に、何らかの理由で、定款に旧出資社員を残す場合は、定款に、新民法に準拠した2/3決議の項目を追加し、JUNTAにも登録済にしておく。社名で出資関係のある小会社などがあれば清算する。税金の高い事業は、外資には不向きと考えて、ぜんぶの税金納税で採算割れになる事業には手をつけない。これからの進出企業の経営者は、順法精神と、それなりの経営者責任を負う覚悟が必要な時代になると自覚する。前述1)2)3)が起きないように注意することである。出資側からみると、たいへん厳しいが、転ばぬ先の杖である。

脱税が多いため、懲罰的罰則が強化されたもので、経営者が出資企業を多数保有する場合、その一社でも、労裁訴訟や遅滞連邦税があると、企業名(CGC)や責任者(CPF)の無債務証明が取れず、不動産の売却契約不可、定款の変更登録不可、銀行口座の開設不可となる。これらはコンピュータで連動管理されて免れない。

また遅滞市税州税があると、ノッタ・フィスカル(電子販売伝票)の発行が不可となる。
また最近、政府汚職が多発したので、腐敗防止法(2014-1-29発令)があり、子会社、関連企業などとの連帯責任で、口座凍結などに、巻き込まれることがあるので注意である。敵対買収を行ったとき、Cia.Ltda.やLtda.(有限合資会社)の、例え1%の出資者でも、古い定款で、新民法(2003-1-11発令)に準拠していないと、異議申し立てで、定款変更署名を拒絶されると、その出資者の解任はできなくなる。



連載71:ブラジルで損せぬ法(3)
財務諸表ではみえない巨額損「見える化」のすすめ
執筆者:山下日彬氏
(ヤコン・インターナショナル)
財務諸表に未計上の損金が、突如発生し、それが本社重役会の、想定外の巨額だと、新規投融資は許可されず、継続不能になるだろう。現地側から送情報で、本社側が、正しく判断ができ、実態が「見える」ようにする必要があるのではないか。
前2回で、突発巨大損発生に、1)不動産価格、2)労裁負担金、3) 滞納税未納税、4)懲罰的罰則をあげたが、通常の決算書項目にも、非常にブラジル的な事情がある。これらは、M&Aのプロによって、厳重にチェック済み、想定済みと思うが、念のため、思いつくままに列記する。
借金経営の赤字会社を買収した場合、Cia.Ltda.やLtda.(有限合資会社)の財務諸表は、銀行対策上、赤字隠しは常識的、また業種によっては価格競争のため、必然的節税もありと理解しておく必要がある。
貸借対照表の項目で、
• 現金: 額が不自然に多い場合は、実際には現金がないことがある。領収書のない、多額のウラ人件費やウラ経費などを、記帳していないことがある。また最近は電子決済が主になったが、小切手取り立てで、2回残高不足だとCCFやSCPC・SERASAに記録され、発行人は口座停止、信用取引停止になる規定があっても、1回目が未入の時、銀行は取立て小切手の自主交換を要求する。小切手の有効期間は6か月であるが、未入金の小切手や先付け小切手を保管していることがある。
• 売掛金:売上伝票の写し(ドゥプリカッタ)に裏書をすることで、売掛手形の役割になるのだが、電子販売伝票義務付けで、電子化している。銀行は、通常取立てでは、客が払わねば単に返却する。このときプロテストも可能であるが、顧客維持のため、そのまま払うまで保存していることがある。日本の、厳しい不渡りシステムに較べるとルーズな面があり、金庫に紙クズが溜まっていることがある。
• 在庫: 紛失や不良在庫処分にも、ノッタ・フィスカルを切って、納税義務がある。不良品の廃棄を認めると脱税販売をされる恐れがあるからで、不良在庫処分を一度もしたことがない場合もある。
• 設備機械:不良設備処理や減価償却など、その必要性の思想の違いで、不完全な場合が多い
• 他社の株式:公開株以外は、株価の価値がないことがある。グループ企業への出資だと、連帯責任訴訟に注意、資産ではなく逆に連帯責任負債につながることさえある。例えば、1%の持ち分でも、Cia.Ltda.やLtda.(有限合資会社)の場合、他の出資者が逃避した場合は、資本金全額まで100%の責任が発生する点が、株式保有とは条件が異なるので注意。出資先が、腐敗防止法で摘発されたときは連帯責任になる。出資先が労働訴訟になると、こちらの無債務証明書が出なくなり、不動産売買などの署名ができなくなることも起きる。したがって、子会社、関連会社などへの、社名による出資分があれば、全責任を負うのでなければ、買収前に、全部清算しておくのが望ましい。
• 不動産:借金経営の赤字会社の場合は、なぜ今まで売却処分していないのか、疑ってかかるべき。何らかの理由で、簿価では換金できない可能性がある。
• 外貨債務:帳簿上、発生時の安いレートで、換算記帳したままの場合がある。経理上、為替変動の修正義務はない。
• 資本金:ファミリー企業の場合、名目のみで、払い込まれていない場合がある。
また、敵対買収で、前出資者を、何らかの理由で、定款に残した時、Cia.Ltda.やLtda.(有限合資会社)の、例え1%の出資者でも、2003年以前の定款で、新民法(2003-1-11発令)に準拠していないと、異議申し立てで、定款変更署名の拒否権があり、その出資者の解任もできなくなる。さらに、その出資者が死亡したときは、大家族(フォルタレーザでは子供15人もある)だと、多数の相続人が突如発生することになる。
損益計算書の項目は、M&Aでは経営者が交代するので、問題はないだろうが、過去の経費で、人件費は、ファミリー企業の場合、時間外はもちろん、全額登録していない場合があるとみるべきで、解雇し労働訴訟になったときの、留意点であろう。
税制改革の掛け声は、ルーラ政権の初期からあり、過去に統一ICMS税案もでたが、サンパウロ州の反対で成立しなかった経緯がある。全州の利害を調整するのは極めて難しい。商品流通サービス税ICMSは州税なので、各州が規則を制定し、優先業種の免税、誘致企業への特典などで、内容が変わるわけだが、脱税や、節税、州間輸送など、問題が発見されるたびに訂正規則追加となり、各州のICMS税法は電話帳の厚さがある。毎日のように改正があるので、バインダーにして、変更ページを有料で届ける専門業者があるほどである。
税制改革は、オリンピックやブラジリアの汚職政変で、一時下火になっていたが、ついに、統一付加価値税(IVA)法案が、8月22日PSDB-PR党のLuiz Carlos Hauly下院議員より提出された。現在下院で審議中で、Meirelles蔵相は早ければ10月、最悪でも年内に、票決に持ち込みたい考えだが、実現を期待するものである。
ブラジルの税金の煩雑さは、間違いなく世界一、税金の種類世界一、売値にかかる税率世界一だ。それも、税金の上に税金がかかる課金方式で、何度にも分けて払うので、誰も実体がつかめない。
野党案ではあるが、今回の法案は、ICMSのみでなくIPI、IOF、CSLL、PIS Paesp、Cofins、Salário-Famíliaも廃止するという画期的なものだ。
この法案が通過すると、最大の利点は、
a.どれくらい税金を払っているか見えるようになる。
b.多数の税金別の監督の応対と、毎日変わる膨大な税法をチェックする必要がなくなる。
c.税金の上に税金が課金される、憲法違反のようなことがなくなる。
d.ある税金の納税額が不足していたのが突然発見され、連動する複数の税金も納税額不足で罰せられるという理不尽なことがなくなる。
以上、M&Aに水を差すようなことばかり述べたが、せっかくの投資が無駄にならぬよう注意して、相手先を厳選して、思いきった投資がなされることを歓迎するものである。

ちなみに、現在の、外貨直接投資は、過去1年間で、約600億ドル入っているが、日本は15位(7月)、GDP世界3位の国からは、もっと投資があってもよいと思う。ブラジルは、世界のいかなる紛争地域より遠い自由市場で、日系人も多い、極めて安全な投資先であると強調したい。




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