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≪蝶々と花の匂い≫ 五十嵐 司さんの回想記
東京農大卒の1955年来泊の大先輩五十嵐さんにお願いして人生を振り返り思い出す事々を是非書き残して欲しいとお願いしてしていますが、前回の≪一羽の雀 一技術移住者のブラジル生活48年≫に続いて≪蝶々と花の匂い≫と云う香料一筋のお仕事の製造現場で出くわした青春の思い出、ヘリオトロープの香りとそれを遠くから嗅ぎ付けて飛んでくる無数の蝶のお話を送って呉れました。ホームページ掲載が遅れてしまいましたが、その間の交信を含めて残して置くことにしました。
写真は、五十嵐さんご自身が選ばれたものを使う事にしました。


  蝶々と花の匂い 香料会社の製造現場に勤めていたころのお話です。
 ある日の午後、所用があって合成化合香料の仕上げをする精密蒸留室に入りました。約10台並んだ、200キロ、500キロそして1トンの蒸留釜の奥の方にある一台の前に置かれた蒸留物を受け入れるアルミニュウム製の大きなバット(受け皿)の少し上に何と数百匹の白い蝶々が群がっているのです。釜から出る熱いヘリオトロピンという香料が冷めるのを待ちきれないように踊り狂っているところでした。それを見て、そのころでも約40年も香料製造に携わっていた私も驚き感歎して、思わず蒸留課長やその部下たちを呼んで感激を伝えました。それは|この精製されたヘリオトロピンは温和で上品な花の匂いだけれど、今これを作っている出発原料は虫たちの大嫌いなサフロールで、昔はトイレやゴミ捨て場などで防臭防虫剤に使われた片脳油の主成分だ。そんなものを中間体のイソサフロールを経て、ヘリオトロピンに至るまで何度も化学変化の反応と蒸留操作を繰り返して作り上げたもの。途中で手を抜いたら、このような嗅覚の敏感な蝶たちなど集まってこなかった」と言って、各工程の担当者たちの精励を讃え、それぞれに与えれられた任務への誇りを語りました。この蝶々たちは何と工場の前の約200メートル先にある河畔の土手に続く草むらから集まってきたのです。そんな遠くから、しかも蒸留部の部屋に着く前には他の花や果物の匂いの化合物を作る色々な大部屋が何棟も並んでいるのにそれらを通り越して奥の部屋のまた奥にあるヘリオトロピンを目指して押し寄せてきたのです。これを目の当たりにして判ったことは、蝶は人間などより遥かに嗅覚が鋭いこと、そして、花の色や蜜に惹かれるものでもなく、花香の天然精油の主香分に最も魅力を感ずるということです。     
 明治の文豪夏目漱石の代表作の一つである小説|三四郎」でヒロインの美禰子がヘリオトロープの香水を浸みこませたハンケチを三四郎青年の前でそよがせて何となく気を引く場面があります。私は神奈川県の江ノ島にある植物園で初めてこの可憐な紫色の花を見て、そっとその匂いを嗅ぎ、明治のロマンを偲びました。へリオトロープ香水の原料の天然花精油は明治時代、漱石のころまでは細々と花から採られていましたが、余りにも収率が悪いので、いろいろ工夫した結果、初めは胡椒の油を分解して作られてピペロナール(ペッパー=こしょうのアルデヒド)と名付けられたものの匂いがあまりにも似ているので更に製法も改良してヘリオトロピンという名前が付けられて盛んに使われるようになりました。その後ずっと経ってから精密分析で花精油の主香分(主成分)と全く同一ということが証明されました。蝶々たちは初めからそのことを知っていたのです。


(コメント集)
五十嵐:和田好司兄 15年前に農大校友会のために書いた手記がありました。小生の移住初期のことなどを詳しく書いありますので、ご高覧頂ければ幸いです。これにその折々の面白いエピソードなどを付け加えたら、読めるものになるかもしれません。

和田:五十嵐さん 素晴らしい原稿を送って頂き有難う。全文5556字ですのでこれを私たちの40年‼のホームページに収録させて頂きます。有難う御座います。続編と云うか、各編と云うか派生した思い出、詳細説明等これからも書き続けて頂けると有難いです。それにしても香料関係のお仕事一筋で幸せな人生だったようですね。読ませて頂き感激、感動しました。

五十嵐:和田好司兄 早速のご好評恐縮です。現役時代のエピソードですが、最近熟連の機関誌「老壮の友」に書いたものを一つお送りします。何ならW-50の諸氏にご披露下さっても結構です。

和田:五十嵐さん 是非40年!! ホームページにも収録させて頂きますが、写真が1枚無いと掲載できません。そこでヘリオトロピン画像で検索したら下記3点程が見つかりました。五十嵐さんならどれを使用されるか教えて下さい。添付して置きます。

五十嵐:和田好司兄 早速に拙文のご採用、有難く存じます。ご添付の3葉の写真のうち3枚目の小さな薄紫の花が咲いている多数の植物の写真、それこそ、まさに私が江ノ島植物園で見つけて、思わず腰をかがめて匂いを嗅いだものです。学名もムラサキ科ヘリオトロープ。ぜひご使用をお願いします。 ところで、唐突なお願いですが、私が大好きな花で、昔子供のころ育った満州の自宅の庭にあった、やはり薄紫色の花 ライラック(リラ、日本の学名ムラサキハシドイ)は御地リオグランデで栽培は可能でしょうか(北海道やカナダでは公園などで見ました)。

和田:五十嵐さん 4月も終わり明日から(日本では今日の午後から)5月ですね。明日の天気が気に成りますが、当地ポルトアレグレではメイデイの5月1日は、毎年南日伯援護協会主催の運動会が行われます。
五十嵐さんから送って頂いた原稿は、選んで頂いた花と共に40年!!ホームページにも掲載させて頂きますが、5月1日付の麻生さんのブラジル不思議発見5月号、急に穴に火が付いたホームページ490万回アクセス(5月2日更新予定)が入り慌てています。従い少し先になります。今思いついたのですが、ピヨンチャン冬季オリンピックのバーチャル座談会も纏めていなかったので作業をする事になりそうです。日々の更新に時間を取られ落ち着いた作業が疎かになってしまいます。毎日歩きに3時間以上取られるし。。。
ご質問のRS州でライラック(リラの花)が咲くかどうかとの質問ですが、私には答えようがありません。最近しゅくこさんがライラック(リラ)とマロニエ(西洋トチノ木)の写真と葉の違いを教えて呉れましたが何れもポルトアレグレでは、見かけません。唯一ポルトアレグでアトリエ和みの近くに街で1本だけある?ニセアカシアの花を毎年楽しませて貰っている程度です。山岳地方に行くと咲いている地域もあるのではないかと思いますが、次回サンタカタリーナ州のラーモス移住地に行った時に地元の人にライラック、マロニエに付き訪ねてみます。先年、ニュージランドのクライストチャーチでトチノ実を栗と間違え食べて凄い下痢に困りましたがニュージランドにはライラックもあるのではないかと思います。思い付きでの返信で申し訳ありません。

丸木:丸木で~す  ヘリオトロープは漱石の小説に出てくるマドンナが使ってた香水でしょうか?
僕が6年間勤務した全米最古の光学機材メーカーのボシュロム社のあるニューヨーク州ロチェスターでは春にライラック フェスティバル、秋にはオクトーバーフェストがあり楽しい街です。僕の担当は光学グレーティング(回折格子)を応用した分光光度計と工作機械用位置決めリードアウトの製造販売でした。担当当時は、いずれも世界一の市場占拠率でした。

五十嵐:丸木兄  その通り。ヘリオトロープ香水は夏目漱石の代表作の一つ「三四郎」のマドンナの里見美禰子(みねこ)がハンケチにかけて使っている、いわゆるハンケチ香水です。小説「三四郎」は大学生の小川三四郎たち二人の淡い恋愛を中心に明治末期の東京の風俗や知識階級の様相を克明に描いている傑作です。ライラックの方はトルストイなどのロシア文学に出てきますので、寒いロシアでも植えられているのでしょう。なお、今ではこのような単純な花香の香水は流行らず、もっぱらシャネルなどに代表される複雑な香水ばかりですが、男性用にはまだ単純なラベンダーなどが使われています。現在はヘリオは勿論、殆んどすべての匂いが安価な合成香料の巧みな組み合わせで花香でも麝香などの動物香でも作ることが出来ます。 それで、昔は香水.香油の使用は金持ちや権力者の富の象徴であったものが現在では普通の村娘でも自由に香水などを使えるようになりました。またの機会に薔薇香の女王クレオパトラやそれに対する楊貴妃、花の体臭を讃えられた西施(芭蕉の象潟の句で知られる)の物語でもご披露することにしましょう。



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