「渓流に沿って歩く」 川越 しゅくこ
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2020年2月26日に出石美知子さんに誘われていた裏六甲の逢山峡から奥の仙人谷ダムの近くまで往復4時間半の山歩き、ウォーキング楽しまれたとの事で詩情溢れるしゅくこさん得意の名文で綴られています。前日の雨で水位を増した川、滝、渓流の描写と15枚の写真で臨場感を添えており40年!!ホームページにも残して置ける書きものです。写真は、色々あるのですが、六甲山を背景にした写真を使わせて貰う事にしました。BLOG転載時には残りの写真も貼り付けて置きます。 |
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「渓流に沿って歩く」
川越 しゅくこ
2020年がまさかこんな年の幕開けになろうとは・・・。
新コロナウイルスのニュースの渦にもまれて、この2か月ばかりおぼれそうになっている。息継ぎをして心身のリフレッシュをしたい、無性に新鮮な空気を吸いたい、・・。免疫力もつけておきたい。
そんなとき出石美知子さんから逢(ほう)山峡(ざんきょう)へのお誘いがあった。今回は二度目で、少し足を延ばしてその先の仙人谷ダムの辺りまで行こうという。さっそく「いきまっす!」とお願いした。
2/26日。その日は天気予報通り、あいにくの静かな霧雨が降っていた。今日はダメかな、と電車の窓から空をうかがう。このあたりはちょっとトンネルを抜けてもすぐに天気が違うから、なんとかなるだろう。
逢山峡の仙人谷ダム辺りは初心者のわたしでも歩ける500mあまりの低い山。とはいえ、往復4時間くらいはかかるだろう。途中雨宿りする小屋もトイレもない。傘をリュックに入れ、レインコート、防水加工されたトレーニングパンツに万全を期してでかけた。
美知子さんと待ち合わせの唐櫃台駅で降りる。空はずっとうす曇り。ときおり柔らかい陽射しがふいにお茶目な春顔を見せたりして。昨日の雨の名残りで、北六甲の山すその坂の多い住宅街が湯けむりに包まれて、落ち着いたたたずまいをみせている。有馬温泉も近くだし、唐櫃駅に沿って温泉もある。
このところ、暖房のきいた部屋でテレビの悲惨なニュースばかリ観ていた。わたしの鼻孔も目も喉も、ついでに心までも乾いている。
台所には腐るほど食べるものがあるというのに、わたしの体は日頃それほど口にしないアイスクリームやケーキを求めた。なにか落ち着かない潜在的なイライラが棲みついている。
けれども、いま、こうしたしっとりした肌ざわりの環境に身を置くと、細胞が息を吹き返してくることに気づく。風や雨と無縁なこんな日は絶好のウォーキング日和。いつもこうなるから日頃の行いがいいに違いない(?)
林道へ
わたしたちは舗装された林道の入口からスタートした。足元がしっかり安定しているのは初心者にはありがたい。ゆるい上り下りの道は人っ子ひとり歩いていない。
やがて左手はからみあった樹の枝や老齢樹の幹でおおわれた急な斜面が続き、足元には湧き水の出る小さな壺もある。だれかが小枝にかけていってくれた黄色い小さなプラスチックのコップが鮮やかだ。でも、わたしたちは手ですくってそれを一口飲む。これぞ清涼飲料水。
滝
しばらくいくと少し離れた前方の樹々の合間に、急に滝のある風景がいくつか現れた。滝は昨夜溜めた重い雨の塊を間断なく激しい音で底に叩きつけている。その音を背景に、銀色のしぶきが樹々の合間にキラキラ光る。舞台も音響もすべて申し分ない演出だ。
渓流
林道の右側を見ると、急な下り斜面で、水分をたっぷり吸った伸び放題の枝や苔の張り付いた倒木が斜面をおおい、その下の石や岩で囲われた渓流まで続いている。
夏の沢登りというのがあるらしいが、わたしたちが踏み込んでいけるような斜面ではない。
なにもかも息づいている饒舌な自然。視界はしっとりした樹肌、聞こえるのは滝と渓流の調べ、その中にウグイスの鳴き声。
とりとめもないおしゃべりをしながら、ねじれた結び目のある樹々、その幹や枝についた瘤などに目が離せない。どれひとつ同じものはない。でっかいシュークリーム、歌う鳥、牛の横顔だったりとか、その発見にいちいち驚きの声をあげる。この自然の造形の美は、いったい何年かかって造られるのか。
渓流は昨夜の雨で、恐ろしいほど激しく、石や岩を越えたりぶつかったりして流れていく。ふと、去年の秋の台風による水の破壊力を思い出した。その魔物のような不気味さには、人間なんて飲み込まれたら一瞬で命を奪われる。それでも、いま目の前にある渓流は溢れて周りを破壊することもなく、ただ荒々しい音をたて、わたしを丸ごとひっつかんで、心地よいリズムで下流に運んでいく。わたしの心の中に潜んでいるさまざまな欲望を,良いも悪いもすべてひとからげにして飲みこむ生き物のように。川からたち登る湿ったオゾンが細胞の一つ一つまでしみわたり、わたしはこれが必要だったんだと泣いてもいい気分になる。アー自然よ、自然。(だれかこんなセリフを言ったっけ?)
いろんな種類の苔、きのこ、水の音、水の味、木漏れ日、湿った土の匂い、「山登りなんてなにが楽しいの?」 と見向きもしなかった若い頃のわたしが、この自然の世界の魅力に惹かれている。初心者には初心者用の神秘的な発見、驚き、驚嘆が用意されている。人生なんて分からないものだ。
岩に座っておにぎり食べた。
美知子さんはおにぎり一つ。わたしは二つ。温かいコーヒーをサービスされる。わたしは持ってきたみかんをわける。
登りと下りで4時間半くらい。その間、美知子さんのブログ投稿にあった、ケルンにあちこちで出会う。中でもお気に入りのケルンを寄り道して見に行った。けれども、それはもうそこにはなく、だれかにバラされて、そばのBQ の囲いに使われていた。わざわざ回り道をしてみにいったのに、ひどいな〜
帰りの下り坂
私たちは大声で歌を歌いながら下りた。美知子さんが19才のときに書きためた、136曲の歌集の中のいくつかをまるで女学生のような気持ちになって。途中、出会った人は2人くらい。でも平気で歌った。だって途中でやめるのはかえって変でしょ?
美知子さん、楽しい逢山峡〜仙人谷ダムのwalking、のろいわたしの足に合わせてくださって ありがとうございました。
帰りにジムのお風呂に寄ったらガラガラ。新コロナが千葉のあるジムでたくさん患者が出たってニュースがあったから、みんな控えているんだろうか? 現実にもどる前に、もう少し楽しませて、とお風呂もゆっくり浸かって筋肉をリラックスさせた。
それ以来、また現実に戻り、ふと気の付いた変化がある。
いつもなにかをしながら聴いていたのは癒し系のフジコ・ヘミングさんのピアノ曲。でも、その日以来なぜか辻井伸行さんの若わかしい激しいタッチのピアノ曲を好んで聴いている。あれから一週間たったいまでも、あの奔流がわたしのなかに水しぶきを跳ねながら陽気なダンスをしているように生きている。
ありがとうございました。またご一緒してくださいね。
いただいたネコヤナギを前にしてこれを書いています。
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