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「人に頼るのも、いいことよ」 川越 しゅくこ
しゅくこさんから「人に頼るのも、いいことよ」との格好の散文が送られて来たので40年!!のホームページに残して置くことにします。何時ものように綺麗な写真が9枚も添付されており最初の1枚をホームページに使い残りは、BLOG掲載時に張り付けることにした。最近頻繁に歩く山歩きの成長の過程をしゅくこさんらしい筆力で読ませて呉れる。地元裏六甲の仏谷峠に遊ぶ?しゅくこさんの山歩きも本物になって来たことが伺われる。ベテランのYさんから「足も正しい位置に置いてるし、初めてに比べたらずいぶん進歩してるよ」と合格点を貰いますます山歩きの魅力を感じ「ここを登れたら、だいたいどこでも行けるわよ」とのKさんの思わぬ言葉もいただいたとのこと。その内、地図を頼りに独り歩きを楽しむ日がくるのかな?山はグループでワイワイ話しながら歩くのがたのしいのかな?最初は、ヴェテランに頼り経験を積みながら安心して楽しむのが良いようですね。


谷川に沿って裏六甲の仏谷峠(ほとけだに とうげ)へ登っていた。
3人のうちわたしだけが山歩きの初心者である。
ベテランの2人にとっては散歩道のようになんども来ている峠だった。

急な石の多い上り坂が続く。出発して2時間あまりたっていた。わたしはかなりへたっていた。目の前に流れる川は底まで透き通っている。ここを渡るというのか?

「いつもは浅いのに連日の雨で水の量が多いね。今日は流れが激しいよ」そう言いながら若いK子さんはスパッツに短いスカートをひらっとさせ、ぴょんぴょんと水面に出た岩石を渡っていく。つぎに続く60代の男性Yさんも慣れたもので、「コケの石は滑るから別の石をつたって」と途中で振り返って手を差し伸べてくれる。わたしの足はすくんでしまった。一歩も前に進めない。

先に渡りきったK子さんは注意深くわたしの足元を観察しながら、つぎの踏み石を指示してくれる。かたわらの両手に抱きかかえるほどの石を2〜3個、わたしの足場になるようにドボンと流れの中にころがしてくれた。Yさんは、しっかり握ったわたしの手を迷いなく受け止めて安心感を与えてくれる。わたしは覚悟を決めた。トントンと渡って安心したのか、あと一歩で川岸というところで足が滑って水中にはまってしまった。登山靴の中は水びたしになった。しかし、渡りきった嬉しさから濡れた足など気にならない。「季節外れの海水浴をお見せ出来なくて残念だったわ」と減らず口を叩くわたしを2人はおかまいなくさらにごろ石や倒木の道を登っていく。

 「え? まだ登るの? もう限界。死にそう・・・」と悲鳴をあげる。息苦しいのはマスクのせいだけではたない。山登りっていったいなにが愉しいんだろう?自分の体力を考えずに行きたいと言ったのはわたしだったのに、来たことを後悔し、もう帰りたい、とばかり思っていた。「やっぱり、今回はわたしにはレベルが高すぎたわ」「ここは、初心者のコースですよ」とYさんは笑う。「それにまだ真ん中くらいしかきていません」「えっ〜!」とわたしは声をあげた。
2人の慣れた山歩き姿に比べて、わたしはまるでヒマラヤにでも登らんばかりの大きなリュックを背負い、足の先まで重装備である。そんなわたしのぽかんとたたずむ顔をみて、3人はなぜか爆笑した。
「とにかくもうすこししたら、休みましょう」と地獄の行進が続いた。
急坂の岩場になると、足が前に進まず、ふらふらと後ろに倒れてしまいそうになる。「どこがしんどいの?」とハアハアあえぐわたしにK子さんは訊く。
「ぜんぶ、肺も心臓も」「自分の足元を見ながら、ぼちぼちしゃべりながらでいいよ。がんばらなくていい。」とYさん。「ハイ」「自分のペースで歩いたらいい」
「ハイ」「今日中に山越えするとかそんな目的がないから、急いでいく理由はまったくないから」「ハイ」わたしはハアハアしながら「でも日本人て、人に迷惑かけたくないと思う人種でしょ? マイペースで歩いて迷子になったら、と思うと・・」「だから僕がすぐ後ろにいるじゃないですか!」とのんびりした声。それもそうだ、とわたしは納得する。でも例えば、この親切な2人の一緒ではない、別のグループの山歩きだと、さっさとベテランたちは速いペースでわたしはとり残されていく可能性だってある。それを想うとぞっとする。

「そんなことを話しているうちに、鬱蒼(うっそう)とした森の中の広い藪陰で一休みしてランチになった。足元は一面にすみれの群生。歓声をあげる。「すみれの種類って多いのよ。タネはアリが運ぶって言われてる」とK子さん。

Yさんがとつぜん「おっ」と言ってしゃがみこんだ「マムシ草だ」背丈がほんの20cm くらいの仏の手の平の形をした苗。成長すると1mくらいのマダラ模様の茎の先に真っ赤な実をつける。

「ほら、こんなところに。春蘭だよ」とこんどはK子さん。大木の根元の暗い茂みの中にひっそりと咲いている一本の春蘭。20cmくらいの背丈に白みがかった緑の花一輪。なんという慎ましいたたずまいだろう。「これ料亭で出るのよね。塩漬けしたのを吸い物にだしたり」。「おいしい?」「いや、まあ季節のお遊びね」と笑う。

目の前の巨大な桜の倒木もかろうじて根っこでつながっていて、倒れたままの体から見事な新枝を空に向かって伸ばしている。「えらいっ!」
それから、Yさんは倒木に着いた生のキクラゲも見つけてわたしの手の平にのせてくれた。プルンとした触感だがビジュアル的には少し気味が悪い。しばらくキクラゲ談義が続いた。
豊穣な土の香り。鳥たちのさえずり、しっとりと薄暗い空気と空。持参のおにぎりが美味しい。

「わかったわ。山歩きのなにが愉しいのか。ひっそり咲いてる花たちに出会えることが一番愉しい。品種別に配置されてるわけでもないし、説明もないし、突然びっくりさせられたり、感動させられたり、天然の植物園じゃない! それにいろんな昆虫もいるし、マムシにも会ったね」「無料だし、コロナの心配もないしね」とK子さん。「こんなこと一人では絶対できないことなのに、幸せだわ。でも足手まといになってごめんね」K子さんが一瞬おにぎりを口にもっていった手をとめて微笑んだ。
「人に頼るのもいいですよ。そうじゃないと、いままでやったことのないことを、経験できないし・・・」と言った。

熱いコーヒーを飲みながら山中トークをゆっくり楽しんだ。
「足も正しい位置に置いてるし、初めてに比べたらずいぶん進歩してるよ。
ここを登れたら、だいたいどこでも行けるわよ」と思わぬ言葉もいただいた。

急に遠くでカミナリの音がした。それから空が曇ってきた。
とつぜん、パラパラと音がしてあられも降ってきた。都会で聞きなれた屋根やアスファルトに跳ねる音ではない。森全体の空気を揺さぶっている。その振動がわたしの心も体も揺さぶるように波動する。不安と興奮。あられでこんなに胸騒ぎをしたことが、かつてあっただろか?

どうやら山歩きの楽しさは一言では表現できない、もっともっと深いものがありそうだ。次はどんな発見やら苦しさがあるのだろう

ここまで書いて空に明るい陽が射してきた。待っていたかのように、黄色の二匹の蝶がネギ坊主の間を舞いはじめた。ヒヨドリも二羽、枝から枝に飛んだり止まったり。嬉しそうになにかを喋っている。

しかし、それもつかの間。青空が灰色の雲に。強い風がボトルブラッシュを揺さぶりはじめた。まだ午後の2時半というのに、サンルームの中は夕方のように暗くなる。
「とうぶん山歩きの計画を立てるのは難しいね」と友人からのメール。

気まぐれな空は遠慮ない音をたてて、雨を降らせ始めた。



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