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「Xmas Bouquet (クリスマスのブーケ)」2021. 12. 18 川越 しゅくこ
久し振りに三田にお住みのしゅくこさんからのクリスマスに寄せての暖かい短編を送って貰いました。ご自宅の庭の草花を使って作られるクリスマスのブーケを貰ったすみれさんと散歩時に会う愛犬ひかりさんの飼い主が庭の草花で作ったクリスマスのブーケを通じてその作り主を発見し合うお話は、しゅくこさんならではの読み物です。40年!!寄稿集に残して置きます。写真は、都合5枚あるのですが、その内の1枚、クリスマスのブーケを使わせて貰います。


毎年、クリスマス会には10個以上のブーケを作る。すべて小さな我が家の庭に咲いた季節の草花で。
30数年来の付き合いになる英語仲間が月一度我が家に集う。その時の、わたしから仲間へのささやかなクリスマス プレゼントである。
ブーケといっても庭の草花だけで作る素人作そのもの。もしかして、独りよがりのチャチでけち臭いプレゼントかもしれない。そんなものを、もらって迷惑な人がいたら? と ふと思うと、気後れがして弱気になる。

ときおり、花屋のショーウィンドウに並んだブーケの前でたたずんでいることがある。たいてい1個1000円以上はする。わたしの作るブーケは、オアシス(スポンジのようなもの)代とアルミホイルで材料費が1個50円くらいしかついていない。でも、店頭に並んでいるものとそう引けを取らない、と思う。あれでいいんだと密かにほくそ笑みながらその場を離れていく。そしてまたつつましい草花のブーケをせっせと作り続けるのだった。

いつごろ、だれから作り方を教えてもらったのか思い出せない。たぶん70才近くなっても手先の器用な母が家業の保育園で子供たちと牛乳パックの底を使って、色とりどりの折り紙を貼り付けて小物入れなどを作っていたから、その影響かもしれない。

作り方は牛乳パックの底部分を10cmくらい箱型に残して切り取り、そこにオアシスを詰めて水で浸す。これで即席の花瓶ができる。赤いアップルセージ、白いカスミソウ、黄の小菊、香りのいいローズマリーを挿し、最後に緑のアイビーで回りを囲む。文字通りただの草花。花が枯れたら、それごと燃えるゴミの日にポイと棄てればいいし、その中の一部をさし芽にして育ててくれている友もいる。もらわれていった後のことは分からない。人には人の運命があるように花にも花の運命があると割り切っている。

実は、20本ほどのバラの花束をサプライズで旧友からもらったことがある。胸に抱いて顔を埋めると、香水とは縁のなかったわたしは、エキゾチックで妖しい魅惑的な香りにひきこまれて、一日になんどうっとりしたことだろう。それは50日間、誇り高く長生きし、いまはドライフラワーになって西洋人形の腕のなかにいる。

花にもそれぞれの舞台があり出番がある。
わたしの草花たちは、日頃、仲良くしてくださっている友人や、お世話になっている方たちにちょっとしたお手軽な感謝の気持ちを伝える役割を果たしてくれる。まあ、言ってみれば脇役の存在である。

ニュータウンに越してきた当時はママ友だったわたしたちは、30年たってそれぞれの生活にずいぶん変移があった。両親を亡くした人、子供たちが結婚して孫が6人もできた人、ヨガをはじめて70を目前にますますきれいになった人、仕事を変えた人、N・Yやドイツにご主人の転勤で数年過ごし、いまは帰国している友人たち。コロナの時代が拍車をかけてさらに生活が変わっていった。

1)すみれさんのこと

なかにはもっと厳しい現実に見舞われ、体調を崩してしまった友人もいる。

そのうちの1人、すみれさんはわたしの弟と同じ脳内出血という試練にあった。現在リハビリ中だが、杖をついて毎回集まりに出席してくださる。
着物の似合う彼女は、自分の意見を通すのに躍起にならないで場をなごませてくれる静かな友人である。肝心なところで自分の意見を伝えるので、わたしたちは自然に耳をかたむける、そんな存在だった。

「入院以来、ずっと世話になっているケア・マネさんが、とても頼りになる存在なの」と微笑む。「ケア・マネさん?」「そう、ケアー・マネージャーさんよ。実際の介護を行う介護士さんとは別に、保険のことや総合的なサポートをしてくれる人なの」なるほど、彼女が落ち着いて過ごしているように思えるのは、そんなケア・マネさんたちの存在が基盤にあったのだ、と頷けた。
そういえば、高齢化社会になり、わたしのまわりでもデイサービスや介護施設の看板をたくさん目にするようになった。そこで働く友も多くなった。

すみれさんは英語の仲間と話すと気分転換ができた。その日は山の話がでた。
若い頃登った数えきれないくらいの山々がよみがえる。とくに八ヶ岳が好きだった。
背中に大きなリュックを背負って、ストックを両手でつきながら、コケの多い湿った森林の中を歩いたこと、渓流の中の石をつたって渡った時の、登山靴から直接感じる足裏の地球の鼓動。
草原に出ると青い空に入道雲がいっぱいに広がっていたこと。
もういちどそこにいくのは難しいことだろう。でもあのときの感動はいまでも体の細胞に生きている。

そしていま、それ以上に伝えたいことがあった。それは自分を支えてくれているケア・マネさんはじめ、なによりも家族の愛情であった。 あらためて、もう一つのすばらしい世界があったことをみんなに知ってほしい。

彼女の言葉はクリスマスにふさわしい温かいメッセージとなって、わたしたちの心にしみていった。

帰りがけにわたしは彼女にもクリスマス ブーケを差し上げた。生の草花に触れたり香りを喜んでくださればいいな、と思いつつ。

2)ひかりさんのこと

森のトンネルのむこうから、柴犬のひかりちゃんが身もだえしそうな勢いでわたしに尻尾を振っている。このこんもりした静かな散歩道はわたしたちくらいしか歩いていない。いつも同じ時間に会って話しているうちにひかりちゃんのリードを持たせてもらって一緒に散歩する仲になった。

そのうち、互いの名を名乗りあったかもしれない。しかし、わたしは彼女を愛犬のひかりさんの名にしたままだつた。
介護関係の仕事をしているらしい40才くらいの、いかにも体力のありそうな明るいオーラを発散させている。でも私的な仕事の話はしたことがない。
それは個人情報の関係で不文律としてお互いにわきまえていたからだ。

「どうしたの? きのう見なかったから、何かあったのかしらって心配してたのよ」とわたし。「仕事がメッチャ忙しくてね。ダウンしてた」「ごくろうさま」「でも、この仕事がホントに好きなのよね。だから苦にならないの」大きな目が輝いている。
「はい、これ」といって小さなビニール袋を渡してくれた。実家から届いたたまねぎ、トマトなどをときどきおすそわけしてくれる。「いつもありがとう」
その日の夕食は、新鮮な野菜で一流のレストラン以上のスープができた。

翌日、わたしは庭の草花を摘んでひかりさんにブーケを作っていた。彼女がいかに必要とされている人であるか、あらためてその仕事の大きさに思いを馳せながら。

「きれいね。花は癒されるわ」彼女は指で花びらをそっと愛撫し、顔を近づけて香りをかいだ。
その横顔にどこか一瞬の小さな寂しそうなかげがよぎったのは気のせいだったろうか。

ひかりさんは長いおつきあいの訪問先に車を走らせていた。少し遠いが会うと心が和む人だった。
街はクリスマスツリーやリースで賑わっている。カーステレオからマライア キャリーの歌が流れてきた。「♫ クリスマスのプレセントはなにもいらない。♬欲しいものはただひとつ。それはあなた、あなただけ ♫ 」 🎵all I want for Christmas is you 〜 ♬」
しばらく付き合っていた彼の胸のぬくもりがよみがえる。サンバとサッカーに熱狂的だった、愛の表現がいっぱいの年下のブラジル青年だった。コロナの時代を迎えて、彼はサンパウロに1人残した母親の介護に帰ってしまった。

洋館建ての門の前に車を停めて、もういちどバックミラーをのぞく。ひかりさんはそっと目をぬぐつた。鏡の中のもう一人の彼女が微笑んでいる。「あなたには大好きな仕事があってよかったね、元気をだしなよ」と。
人はだれしも傷つき弱る時がある。それでも、一粒の癒しの妙薬はどこかに必ず用意されている。人生はそんなことの繰り返しなのかもしれない。

ドアのベルを鳴らして中に入った。
リビングに入ったとき、何かいい花の香りがした。彼女の足が突然止まった。ほの暗い部屋の中央にがっちりしたアンティークのテーブル。その真ん中にたった一つの鮮やかな色彩のクリスマス ブーケ。「あれ? すみれさん、これ、そっくり。もしかして・・、カワゴエさんという方からもらったブーケ?」「えっ? そうですよ。シュッキーさん、いえ、そのカワゴエさんからですよ」 2人は同時に声をそろえ「お友達だったの?」と相手をまじまじとみた。そして、驚きの笑い声が部屋にあふれた。

さっそくこの話を別々に聞かされたわたしもその偶然に、あら〜と声をあげた。

カーテンを背景に影のような2人のシルエット。健康な笑声が弾けて温かい空気が満ちている。その真ん中にはやさしい香りを放ち、2人のやりとりに誇らしげに耳をかたむけている庭の草花たちが見えてくる。
それはまぎれもなく30年にしてはじめてドラマの主役を演じた、わたしの愛しい草花のブーケであった。

Merry Xmas to you all

from Shuky



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