期待される『ガイジン2』−16日から撮影開始−ロンドリナ市郊外にロケ地【ニッケイ新聞より転載】
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現在NHK朝の連続テレビドラマの番組でハワイから日本に来ている日系3世「さくら」の奮戦記が人気を博しており、私も遅くとも8時過ぎには帰宅してこの番組を見ておりますが、ブラジルと日本で来年世界一斉に封切り予定の日系映画監督、山崎チヅカさんの『ガイジン2』の撮影が行われており大きな話題として取り上げられている。ニッケイ新聞でも3月14日から3月27日迄、小林大祐記者が8回にわたって連載しており好評をえた。
今回この日系ブラジル移民の100年を語る叙事詩『ガイジン2』に付いてニッケイ新聞に掲載されて全8編、全てを3回に分けて転載させて頂きます。写真は山崎チヅカ監督です。
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期待される『ガイジン2』―16日から撮影開始―ロンドリナ市郊外にロケ地
3月14日(木)
国内外の映画祭で四十三もの賞を受賞した「ガイジン、カミニョス・ダ・リベルダデ」から二十三年。その続編となる「ガイジン2」の撮影が二〇〇三年の劇場公開を見据え、十六日から始まる。五月五日には撮影完了の予定だ。監督は前作同様、山崎チズカ。初めて手がけた長編だった「ガイジン」(一九七九)が公開当時に、「処女作ながらブラジル映画史に残る最良の作品の一つ」(オルランド・ファッソーニ、八〇年三月二十七日付フォリャ・デ・サンパウロ紙)と高い評価を受けているだけに、今作にかかる周囲の期待も大きい。十日、日本、キューバ、アメリカからも集まった〃ガイジン〃の出演者らと共にロンドリナ市郊外に建設が進むロケ地を訪ねた。その後行われた共同記者会見、単独インタビュー、出演者披露パーティーの模様などから、〃期待される理由〃を探った。
「ガイジン2、ダイジョウブ、ダイジョウブ」。ドイツ系移民の娘役を演じることになる今を時めくアイドル、マリアーナ・シメネスのキュートな声が飛ぶ。
記者に「何か日本語を話せるか」と問われた共同記者会見の席で一回。夜半まで続いたロンドリナ・ヨット・クラブでのパーティー中にもう一回。二度目のときは壇上の山崎監督から「ほら、マリアーナ」と仕掛けられた。列席者は大受け。監督、にっこりと目尻が下がる。さあ、ようやく準備が整った、もう大丈夫、と監督自身が確認している様子だった。
構想二十年以上。一昨年、リオにある彼女の制作事務所「ポント・フィルミ」で本紙のインタビューに応じた際、「『ガイジン2』を撮る資金のために、不本意な仕事もこなしてきた」と漏らしていた。
募る希望は世紀を越え、ようやく今年、九百万レアル(メインスポンサーはブラジル銀行。日系企業ではジャクト、フルカワなど)もの予算が集まり、制作に臨めるのだから感慨深いものがあるに違いない。
公共のバックアップがまだ厚かった八〇年代は「パライバ、ムリェル・マッチョ」(一九八二)、「パトリアマダ」(一九八四)と立て続けに佳作を世に発表していた彼女も九〇年代に入ると、苦戦を強いられる。フェルナンド・コロル大統領の就任で文化事業への政府支援がストップしてしまったからだ。俗にいう「オ・コラプソ」、映画・冬の時代の始まりである。コロル退陣後もこの後遺症は尾を引いた。
先のインタビューで「不本意」な仕事についての特定こそは避けたものの、恐らくは、この時期に携わったシューシャ主演の商業映画やテレビのノベラを指すと考えていいだろう。
しかし続編を早々に撮っていれば良かったか、と言えばそういうわけでもない。日本への出稼ぎの時代と括ることのできる九〇年代が幕を閉じたからこそ、総括し、かつ、絞り込めるテーマが浮上してくる。二十世紀のブラジルとその移民史を百年のまなざしで捕らえることも今ならば可能だ。加えて、国内映画にもかつての活気が戻ってきている。
山崎監督は記者会見で「(同世代に当たる)エクトル・バベンコ監督も現在新作に取り掛かっているし、ブラジル映画界も新局面にあるので、わたしもこの『ガイジン2』で新たな地平を切り開きたい」と抱負を語っていた。
機は熟した。「ガイジン2」公開予定の来年はシネマ・ノーボ誕生四十年目に当たる。六三年、山崎がかつて師事したグラウベル・ロシャとネルソン・ペレイラ・ドス・サントスの両監督およびルイ・ゲラがそれぞれの視点から東北部の干ばつ地域に生きる人々を克明に描いた。いずれもブラジル映画史における金字塔である。
そのルイ・ゲラの新作「エストルボ」に出演したキューバ人俳優ジョルジ・ペルゴリアが「ガイジン2」の主役の一人を演じる。不思議な縁も「ダイジョウブ」の後押しをしてくれているようだ。(小林大祐記者)
期待される『ガイジン2』(2)−日系女性4世代描くー「各国移民の実像」がテーマ
3月15日(金)
「ガイジン2」は笠戸丸移民のチトエ(「ガイジン」の主役)から、彼女のひ孫で混血のヨウコまで四世代の日系女性の姿を通して、二十世紀のブラジルと日系コロニアの歴史を重層的に描く映画である。前作の回想シーンも随所に交えられるという。
初期コロノでの生活、移住地の形成、勝ち負け抗争、ブラジル社会への同化、そして日本への出稼ぎ、と百年の流れを一気に語り抜くのだから、わずか二時間の作品とはいえ、その登場人物の数(七十人の俳優と二千人を超えるエキストラ=臨時雇いの出演者)を見れば壮大な叙事詩とも言える。
前作を単に「日系移民の映画」と見る向きも多いが、そこに映し出されているのは日系移民史と日系人だけでは決してなかった。
「監督は日本人だけを扱ったのではなく、シンパシー(他国移民にも共通する感情)とヒューマニズムをもってほかのすべての移民も取り上げている。アイデンティティのかっとう、荒野での悲惨な生活、そこでの絶望と屈辱など各国移民が直面したドラマを、レトリックを排したリアリズムとみなぎる活力で描写しきった」とフォリャ・デ・サンパウロ紙(八〇年三月二十七日付)で批評家オルランド・ファッゾニは絶賛。それゆえに「『ガイジン』はブラジル映画初めての叙事詩である」と強調している。
続編でも基本は変わらないだろう。出演者が増え、物語が厚みを増した分だけ、一人一人の人間描写が薄くなるのでは、という危ぐもあるが、その辺は山崎監督がこの二十三年の間に蓄積した経験と手腕にかかっている。
記者会見で前回の主演女優・塚本京子は、チトエのその後(四十から五十代後半まで)を演じるに当たって、「また出演することができてうれしい」と語ったうえで、「手探りで手作りの感が強かった第一作と比べると、チズカも大きく偉くなって、今回は世界に向かっての作品になっている」と率直な感想を漏らした。
山崎監督も「テーマはインターナショナルなもの」とあくまでも普遍的な視野で語りたいという姿勢を崩さなかった。
その目線の先には世界の映画祭がある。前作は処女作ながら、栄えあるカンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞した。しばしば続編は当たらないと言われるが、これを上回るプレミオを期待されていることは本人が一番よく知っている。 (小林大祐記者)
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