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第4回バーチャル座談会 ブラジルの政治経済を語る!!(前編) 
第4回バーチャル座談会は、1月1日にブラジリアでブラジルの歴史始まって以来の初等教育しか受けていないもと金属工、11歳まで靴を履くことができなかった東北伯出身でサンパウロ州知事、大統領選挙と連続4回敗退の不死身の労働党員で決戦投票で5200万票を獲得1億7千万人の希望と不安を背に第36代大統領に就任した56歳の若き指導者へ掛ける期待と現実をブラジル40年になる戦後移住者の我々の日常生活の経験を通じて語るブラジルの政治と経済に付き日本の皆さんの興味深い質問等を頂きながら話を進めて行きたいと思います。談論風発面白いブラジルの過去、現在、将来を語り合いましょう。写真は1月3日に閣僚を集めて5時間に渡り政策討議をする初閣議の写真です。


和田:今回は、日本の皆さんからのどのような質問が寄せられても的確に答えて頂ける講師?メイン・コメンテターとしてリオにお住まいの山下日彬(テルアキ)さんの参加を仰ぎました。山下さんは、寄稿集111番目と112番目に掲載している城島学校 あるブラジル日系異色企業の足跡(1)(2)に紹介しておりますが同書の編集者で雑誌《実業のブラジル》に【ブラジルで損せぬ法】との題でブラジルの政治経済に付いてのコメントを16年間休まずに掲載して来ておられるその筋の権威者です。顔に似合わぬシャイな所もありますがユーモアと辛辣さを兼ね備えたこの座談会には打って付けの人選だと自負しております。
紹介が長くなりましたが早速、話題に入りたいと思いますが、最初は、はやり2003年の1月1日に大統領に就任したルーラ大統領の生い立ちから大統領就任までの経緯と世界の投資家があれ程まで忌諱していたルーラが今回は、大統領まで駆け上がったのでしょうか?その背景と今後の展望等に付いてイントロダクションとしてご説明ください。

山下:ブラジルで軍政後始めての労働党の大統領が出現ということで、世界的に注目されています。
1月1日にブラジリアで就任式が行われましたが、15万人の労働党員が赤旗を持って参加、新大統領は数人の歩行護衛つき特別車で、カバロ・デ・ドラゴン(龍馬)と呼ばれる騎馬儀じょう隊が囲んで粛々入場の予定でしたが、党員により防衛線は突破され、入り乱れて車にかけあがって抱擁する人まで出ました。先導の白馬は驚いて騎馬兵は落馬、また骨董的大統領車ロールスロイスが戻りにエンストするなどのハブニングがありました。国会の就任式ではORE!OLA!のルーラ応援歌が歌われるなどお祭りのような異色の就任式でした。
ルーラ新大統領は1945年生まれ、1963年SENAIという政府の職業訓練所にて旋盤の訓練を受け1963卒業、1967年労組に参加、1975年には組合長になっています。1978年軍事政権で最初のストを指揮し、1980年にPT(労働党)の全国大会で党首に選ばれました。その年、金属労組のリーダーになり、DOPS(政治治安警察)に拘留されています。このころのルーラはひげも今より濃く、チェ・ゲバラ・ブラジル版みたいな男でした。実際にキューバのカストロを尊崇する演説が多く大変過激な男でした。就任式にはカストロ議長とチャベス・ベネズエラ大統領が駈け付けました。
1982年サンパウロ州知事選に出馬4位
1989年大統領選に立候補、二次戦でコーロルに敗退
1993年再度大統領選に立候補、一次戦でカルドーゾに敗退
1995年PTの名誉党首となり、
1998年に再々度大統領選に立候補、一次選でカルドーゾに敗退
2002年4度目の挑戦で二次戦で勝ち取りました。
この選挙戦の歴史が彼の成長の記録になっているかもしれません。最初1980年代は過激なだけの行政経験のまったくない37歳のヒゲだらけの男でした。大統領に立候補すると色々な集会に呼び出され、抱負や公約を問われます。サンパウロの日本商工会議所でも昼食会に招待したことがありましたが、そのいう場の質問が彼を教育(洗脳?)したことは間違いありません。彼は余り教育はないが、新しいことを受け入れる能力がありどんどん吸収してブレーンも揃え、最後の選挙ではどちらが与党かわからないようなこともありました。組閣も財政関係は納得できる人材の登用でPT一色にならなかったのが好感されています。政権引継ぎも、事前にIMFの融資条件をそのまま継承する約束をして、選挙前ブラジリアの米国大使もルーラ大統領を容認していたような感までありました。
さて今後どうなるかですが、非常に楽観的なシナリオとしては、今までの政権では出来なかった社会保険年金制度の改革、労働法の改革を断行し、農地改革や貧富の差を縮めて税制改革に成功しブラジルの新発展の救世主になる。
さし当たってのシナリオは本年いっぱいはカルドーゾ政権の踏襲模倣を試みるがうまくいかず、党内部からの不安も高まり、来年から彼本来の持ち味が出てくると見ていますが如何なものでしょう。

和田:日本ではそれ程話題にも上らなかったルーラ大統領の就任だけに山下さんの分かりやすい説明に日本側の皆さんに取ってはある意味で新鮮な驚きと疑問が生じたのではないかと思いますが、ルーラ大統領に対する印象というかルーラを選んだブラジル人の国民性、政治感覚と云ったものに付いてご感想等をお願いします。

香西:誠に不勉強で申し訳ありません。
ブラジルの大統領選挙のことは、日本の新聞に載って居たかも知れませんが、私は読んでいませんでした。
日本での国際ニュースは、北朝鮮の拉致問題・核問題、韓国大統領選挙、中国共産党指導部の交代、イラク攻撃に対する欧米・国連の動きと日本政府の対応に関するものです。
それに、イスラエルとパレスチナの問題、インドネシアのテロ事件は、比較的に多いです。
地域的、経済的、軍事的に影響の大きい問題が中心になるのは仕方がないことですが、多くの日系人のいらっしゃるブラジルのことが、日本で報道されないのは残念ですね。
労働党政権が生まれ、ブラジルの政策に大きな変化があれば、日本でも注目されると思います。
もっとブラジルの社会構造などを、知りたいと思います。
日本の新聞を賑わす前に、この座談会で取り挙げられる意義は大きいですね。

MASAYO:私も香西さまのおっしゃるとおりこのような座談会のテーマになるまでブラジルの政治経済事情はまったく知りませんでした。
今から勉強しないといけませんが、幸いにして山下さま、和田さまにお聞きする機会を得ました。
昨年、和田様が居られるポルトアレグレで「第二回、世界社会フォーラム」が開かれたとか、これは同時期にニューヨークで開かれていた「世界経済フォーラム」がグロバリーゼーション推進の大会であるのに対してグロバリーゼーションがもたらす弊害を説いた反グロバリーゼーションの大会であったとあります。急速なブラジル社会でのグロバリーゼーションの推進によってブラジル国内に外国資本が流入しその結果ブラジル国内の中小企業が多く倒産し失業者が増え、貧富の格差が拡大。それに反発する低所得層の多くの支持がルーラー大統領を誕生させた、とこういう理解でよろしいでしょうか。
デノミも私たちは話でしか聞いたことがなくそのような大変な経済状態の社会に皆さんが立ち向かわれてきたということを聞き、非常に驚いております。
そして何も知らないと苦笑されるでしょうが「クルゼイロ、クルザード、クルゼイロ・ノーボ、またまたクルゼイロと云った日本では信じられないインフレの洗礼」この言葉を少し説明していただけないでしょうか。

桐井:先ず私よりも10歳もお若い57歳大統領就任を歓迎します。
我が日本ではかつての社会党はなくなり、目下、社民党が何とか生き延びている状態です。本来の政治は保守と革新の2大政党であるべきだと考えます。その点今の日本では革新の勢力が弱くなっていて残念です。
今度の新大統領は教育はないが、いろいろなものを受容する能力があり、また、組閣も一色に片寄らず国民に好感をもたれているとのこと大変結構だと思います。
世界にはたとえ学歴はなくても立派な政治をされた政治家たちは数多くいます。言わば政治にかける情熱と如何に国や国民を愛する気持があるかということです。自分の私利私欲や「俺が、俺が」という気持ちの強い政治家は国民から直ぐ見放されます。
次に日本でも目下問題になっている「年金制度改革」は必要でしょう。日本とは少し状態も違うのでどのような改革か分かりませんが、将来を見通した改革が必要でしょう。
農地改革についても是非行なうべきでしょう。日本も第2次大戦後、アメリカの力を借りて農地改革を実施しました。そのお蔭でそれまで小作をしていた人々にやる気が起き農業が発展した事実があります。同時に貧富の差も少し縮んだと思います。
累進課税制度など税制改革も大いに必要でしょう。日本の青色申告制度などとても優れていると感じています。
資本主義社会はややもすると「弱肉強食」になる傾向にあります。
弱者救済のため、ある程度社会主義的政策を取り入れることも必要でしょう。
どうか新大統領がブラジルの救世主になることを心から祈念いたします。

和田:日本側の主要発言者としてお願いしている御三方の発言を頂きましたがMASAYOさんのデノミ、ハイパーインフレのご質問は、中編のブラジル経済の部に回しルーラ大統領就任と政治面に付いての御質問に対して山下さんからのご回答をお願いします。

山下:MASAYOさんの発言にある「外国資本が流入しその結果ブラジル企業が倒産し失業者が増え、貧富の格差が拡大。それに反発する低所得層の多くの支持がルーラー大統領を誕生させた」と言ってしまうとフォーラムのテーマに色が付くので避けたいところでありまして、実際は庶民の生活が少しも良くならなかったのが一番の原因と見るのが良いと思います。
FHC大統領のREAL計画は対ドル1対1で高インフレ完全抑制の鳴り物入りで、リストラなど多くの犠牲を払ってスタートしたのですが、現在3.50でアルゼンチンと変らない。その間給料は3.5倍も上がっていないので生活は日毎に苦しくなる。どうして良いかわからないから政府でも変えてみるかが本音だと思います。その意味ではルーラがもし何も出来なかったときの反動も怖いのです。
貧富の格差の最大の原因は業種別のシンジケートが給料を一律調整してしまい下げさせないのが問題です。労働党自らが是正しなければならないのです。
なぜ通貨の目減りがあるかと言いますと、社会資本が不足していて外資を借りるか輸出を増やすかまたは外国資本を目減りさせて取り込むシステムになっています。借金の方は金利も付くし既に外債世界一で通貨を目減りさせる以外の方法がないのでしょう。
次に桐井さんのご発言に付いてですがブラジルの保険年金制度ですが、一口にいいますと、予算額はそこらの国の国家予算より大きいのに慢性大赤字で機能しない。給料の額以上100-150%も付帯費を払い込むのに国の病院は長蛇の列でサービスは悪い。企業は従業員に義務保険の上に民間の医療保険をかけてやらねばならないのが実態です。二重三重に取得したり、すでに死亡した人に払うなど普通で、全国的に組織的な不正の温床となっていると言えると思います。
中でも問題は軍人、公務員、とりわけ司法関係者の年金額が異常に高いことで、ルーラ大統領は公務員個人の年金支払い額の上限を設けると発言していますが、成功すれば画期的な改革になります。
司法関係者の年金額が異常に高くなったのは、昇給の規定によるもので、法律の問題は和田さんが専門ですが、ブラジル労働法は60年前にゼツリオ・バルガスという大統領時代に制定されたイタリアのムッソリーニの労働者保護色の強い法律をモデルにしています。実態はこれほど無登録労働者が多いのに、登録された部分では俄然法治国家になり、インフレやドルにスライドしての昇給や、下げるのは禁止の規定が各部門にあり、違反すると裁判問題になるのです。
今まで何度も改正が試みられましたが、PTの反対で実施できなかった経緯があり、今回ルーラ政権は労働法も改正すると言っていますので非常に期待されています。
もう一つブラジルの農地改革に付いてですがカルドーゾ政権の農地改革は2001年までに2000万ヘクタールの土地が接収されており、入植者には10年低金利の融資を行っていますが、農業技術の知識が無く、物流のインフラを有せずに、自身が住む家の建設も含めて行うため農産物の利益が出ず融資額の返済に困るようになるのが一般的パターンとなっています。
ややこしいのはここにPTが後ろで関係しているというMST(土地無し農村労働者運動)というのがあり、カルドーゾ前大統領の農場を不法占拠したりした過激組織があり、本当の農民の運動ではなくこの極めて政治的なの運動に対しルーラ大統領がどう対応するかも問題です。

桐井:私の疑問、指摘に対して山下さんが分かり易く説明してくれましたので幾分でもブラジルの政治経済に付いて理解できるようになった気がしますが、日本のことを述べつつ何かの参考になれば幸いです。
先ず、新大統領がプロレタリア出身ということが良い。社会の底辺の辛酸をイヤという程なめているので労働者や経済的弱者の気持ちがよく分かると思います。
ご存知のように日本では大きな改革が二度行なわれました。一つは明治維新、今一つは第2次世界大戦後です。かつては日本の場合、単一民族に近かったのでいろんな改革がやりやすかったということは考えられます。御地は他民族国家ですからその点難しい面があるでしょう。東南アジア諸国は「日本の明治維新に学べ」と研究しているところもあるようです。
年金制度は国民各層にとって公平であるべきです。日本でも多少不公平が感じられるところがあり、見直しが必要だといわれています。
ストライキに関しては、かつて労働条件の悪かった時代には小林多喜二の小説「蟹工船」のようなこともありました。
しかし、戦後すぐ財閥解体、農地改革、および労働三法の制定など経済民主化がなされ、企業間の競争を活発にし、また労働者の勤労意欲も湧きました。
かつての日本は農業国で農業教育に力を入れていた時代があります。農業教育や公的なインフラ設備設置も国の発展のためには欠かすことはできません。
要はこれらを踏まえて新大統領がどれだけリーダーシップを執れるかにかかっているように感じます。

和田:難しいというより日常生活では関係の薄い地球の反対側のブラジルに付いてのテーマで香西さん、MASAYOさん、桐井さんも発言し難かったと想像しますが、専門家の山下さんの適切な説明でブラジルの新時代を開く可能性のある労働党のルーラ大統領就任とこれから取り組んで行く必要のある諸問題等に付き桐井さんのコメントに答えるといった形で話が進んで来ましたが、ルーラ大統領就任後、為替がレアル通貨高で推移、ブラジルリスクが下がり、国内の株も上向き、外国からの直接投資増大への期待、貿易収支の大幅改善、国内金利低下等年頭のお祝儀相場、期待感も影響していると思いますがブラジルの政治を念頭において次のテーマであるブラジル経済へのイントロダクションも含め山下さんにコメント頂きましょう。

山下:ルーラ大統領就任と新閣僚の発表で閣僚などに過激派の参加はなく、経済閣僚は納得出きる人事で、IMFとの協定も維持できそうだの判断で選挙前の不安で上がっていた為替やブラジルリスクは少し下がりました。しかしながら現実的な見方としましては、外資の直接投資はすぐに活発にならず、今しばらく新政権の議会への影響力を見てからになると思われます。政府は年金上限額の設定など新法案をデルフィン前蔵相を担ぎ出して90日以内に議会に提出と発表しました。また年初より公的支払いの30日間停止など言っておりまが、年初の流通通貨を削減し最低賃金を最低に抑えたらインフレ率もかなり良い線になると思われます。金利は憲法で制定が年12%でこれに本年のインフレ予想12%を加算すると計24%になり、現行金利ではまだ実勢より低いことになり大幅な低下は見込めません。
貿易収支は好転しましたが、為替がアルゼンチンと同じ為替水準の場合、アルゼンチンの4月の選挙後、経済が回復に伴い同国からの輸出が増えブラジルの黒字は減少の傾向が出ると思われます。
もしルーラが5月の最低賃金の上昇を最低に押さえ、年金議案を通すことができたら現政権は国際的に大いに評価されると思います。
そのときのブラジルは前途有望であり、ブラジルのみでなくMERCOSULもALCAもUEもアジアも視野に入れた総合計画で、北半球との気候の差や戦地に遠い地政的見地より、農業関連など、利にあう産業に、インフラ整備も含めて集中投資したら、夢の投資対象国となるでしょう。

和田:山下さんが指摘されている諸条件が整えば『近い将来ブラジルが夢の投資対象国となるでしょう』との明るい見通しが聞けましたがここに住む我々の切実な希望でもあり、ルーラ大統領に掛ける政治経済への夢と期待が実際生活で一つ一つ実現する事を願いながらこの第4部の前編を終わらせて頂きます。中篇は、日本の皆さんには信じられないハイパーインフレ毎回0が3個落ちるデノミ、何度もTRYされた新旧経済政策、奇策等を説明しながら実際にその中で実生活をしてきた仲間達の証言、日本からの質問等を絡ませてブラジル経済を話しあって見たいと思います。後編は、地元ポルトアレグレで1月23日から28日まで開催される『第3回世界社会フォーラム』開会式にルーラ大統領が参加し同時期にスイスのダーボスで開催される『第33回世界経済フォーラム』(昨年だけ変則的に同時多発テロ後のニューヨークで開催された)にも25日、26日の両日参加し南北を繋ぐ掛け橋の役割を果たすと伝えられており南北問題、世界の経済格差、グロバリゼーシオン下のブラジル、日本、世界を話題にこの政治経済編を閉じたいと思います。皆さんのご協力、ご支援をお願いします。



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