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ブラジル在住のサッカージャーナリスト沢田啓明さんのコラム一斉公開。
バチャル座談会『ブラジルサッカーを語る!!』でコメンテターとして協力頂いたブラジル在住のサッカージャーナリスト沢田啓明さん(1955年山口県防府市生まれ。上智大学外国語学部フランス語学科卒業。1986年来伯、サンパウロ在住)は、現在報知新聞のスポーツ報知に毎週ブラジルのサッカー情報を【カーニバルの熱狂】との題でコラムを掲載しておられます。今回、スポーツ報知からも掲載後2-3日後であればご本人の同意があれば掲載可能とのご許可を頂きましたので当HPでも今年1月以後の9回分を今回一挙掲載させて頂く事にしました。これからも毎回掲載コーナを作り掲載して行きます。寄稿集の125番目に「情熱のブラジルサッカー 華麗・独創・興奮」また211番目に「ジーコ 新たなる挑戦」の著書2冊を紹介させて頂いております。ご参考下さい。写真は、沢田さんの愛娘ニーナさん13歳との近影を送って頂きました。有難う御座います。


<1月5日>
年100試合こなす勤勉ブラジル代表
 ブラジルでは、一年中ほとんど休みなしにサッカーの試合が行われている。通常、
年の前半は州選手権やいくつかの州にまたがる地域選手権が行われ、これと並行して
コッパ・ド・ブラジル(ブラジル・カップ)、南米クラブ一を争うリベルタドーレス
杯が行われる。そして、年の後半はブラジル一を決める全国選手権。
 これにブラジル代表の試合が加わるから、強豪クラブのスター選手ともなると年に
90から100近い試合をこなすことになる。一般のブラジル人は「必要最小限の仕
事をできるだけ少ないエネルギーでこなす」ことを心に決めているかのような仕事ぶ
りなのだが、サッカー選手に限っては本当に勤勉だ。
 こんなに試合数が多いのは、全国リーグとは別に州選手権や地域選手権を行ってい
るからである。ブラジル全土には500を超えるプロのクラブがあり、これらのクラ
ブを存続させるためには州選手権や地域選手権を廃止するわけにはいかない。その一
方で、これだけのクラブが全国に散らばっていることが、ブラジルの選手層の厚さの
秘密でもある。
 クリスマスから新年にかけては、さすがに試合がない。それでも、5日にはユース
世代のカップ戦で、プロ選手への登竜門となるコッパ・サンパウロが始まった。今月
末には各地で州選手権が始まるため、ほとんどのクラブはすでに2日から練習を再開
した。今年の全国選手権は例年より早く3月末に始まるが、これまでの変則的な方法
が廃止されて、総当たりのリーグ戦方式となるので、例年以上に盛り上がりそうだ。
 昨年のサントスのように、今年も予想外の躍進を遂げるチームが出てくるのか。カ
カ(サンパウロ)、ジエゴ、ロビーニョ(いずれもサントス)らの将来性豊かな若手
が、今年はどんなプレーを見せてくれるのか。その一方で、今月末に37歳となるロ
マリオも健在だ。ブラジルのサッカーファンは、シーズンの始まりを心待ちにしてい
る。

<1月12日>
再び「大統領よりも重要」な職に挑むパレイラ
 ブラジルでは「代表監督の職務は大統領職よりも重要で、しかもより困難だ」と言
われる。そのブラジル代表の新監督に、パレイラが就任した。
 パレイラは94年のW杯アメリカ大会の優勝監督である。しかし、この大会の南米
予選で苦戦してメディア、国民から手厳しく非難され、おまけに本大会で優勝したに
もかかわらず「守備的でブラジルらしくなかった」と批判された。以来8年間、「も
う2度と代表の監督はやらない」と言い続けてきた。「代表の監督になると、メディ
ア、国民から常軌を逸したプレッシャーをかけられて苦しむ。あんな思いをするのは
もうゴメンだから」というのがその理由だった。
 しかし、昨年、コリンチャンスを率いてコッパ・ド・ブラジル(ブラジル・カッ
プ)で優勝するなどの実績を残し、フェリペの退任が決まってからは次期監督の最右
翼と目されるようになった。そして、ブラジルサッカー協会のテイシェイラ会長に
「94年のW杯の時と同じパレイラ監督、ザガロTC(テクニカル・コーディネー
ター)の体制で、次のW杯でも優勝を目指したい。ぜひ協力してほしい」と要請さ
れ、ザガロからも「もう一度一緒にやって、また優勝しよう」と口説かれ、ついに首
を縦に振ったのである。
 パレイラは、以前より攻撃的なサッカーを目指すようになっている。また、94年
W杯では17歳のロナウドを全く起用しなかったことで非難を浴びたが、現在は「若
いタレントを積極的に活用してゆくつもりだ。長い目で見守ってほしい」と語ってい
る。
 とはいえ、ブラジル国民はことサッカーに関しては完璧主義だ。すべてのW杯で優
勝するつもりでいる。2006年W杯の南米予選は今年9月に始まるが、ここで取り
こぼすようなことがあれば、以前と同様に厳しい非難を浴びるにちがいない。手腕が
見ものである。

<1月19日>
次世代も層厚いブラジル 悲願の五輪金へ今度こそ
現在、ブラジルのU―20(20歳以下)代表がウルグアイで行われている南米ユー
ス選手権に、U―22(22歳以下)代表がカタール国際大会に出場している。
 南米ユース選手権は、参加10か国が5か国ずつ2グループに分かれて総当たりで
戦い、各グループの上位3か国が決勝リーグに進んで、上位4か国に世界ユース選手
権への出場権が与えられる。ブラジルはグループリーグを4戦全勝で通過したが、決
勝リーグ初戦はパラグアイと引き分けた。
 U―20代表には、当初サントスの17歳のMFジエゴと18歳のFWロビーニョ
も招集されていた。しかし、この2人は、昨年末までブラジル全国選手権にフル出場
して疲れがたまっていることから、サントスが仮病を使って2人の招集を断った。そ
れでも、この成績。ジエゴ、ロビーニョ抜きでも、世界ユース選手権の出場権獲得は
問題なさそうだ。
 カタール国際大会でもブラジルはグループリーグ初戦でノルウェーと引き分けた
が、チェコには2―0で快勝した。
 実はこの大会のメンバーは、ベストにはほど遠い。この年代の選手のうちサントス
のレギュラー5人が休養のため、出場を辞退しているほか、欧州でプレーしている数
人も招集に応じなかった。しかし、そんなに選手が抜けていてもそこそこ戦えるのだ
から、ブラジルの選手層の厚さと個人能力の高さには舌を巻くほかない。
 アテネ五輪の南米予選が行われるのは来年の初めだから、まだ1年ある。強化はこ
れからなのだが、ベストメンバーを選んで、それにオーバーエージの選手も加えれ
ば、かなり強力なチームになる。もっともブラジルの場合、最近の五輪には、いつも
それなりのチームをつくって臨んでいるにもかかわらず、どうしても優勝に手が届か
ない。アテネでは金メダルを、というのが国民の願いなのだが…。

<1月26日>
ブラジル個人技の陰にフットサルあり
 ブラジルのサッカー選手や元サッカー選手にインタビューすると、「子供のころに
フットサルをやってテクニックを磨いた」という話が頻繁に出てくる。ジーコしか
り、リベリーノしかり。ワールドカップ準決勝のトルコ戦でフットサルの技術である
トーキックで決勝点をあげたロナウドも、もちろんフットサル経験者だ。
 ブラジルのサッカー関係者によれば「ブラジルのサッカー選手でフットサルをやっ
たことがない者はいない」という。
 こういう話を聞くうち「ブラジル選手が高いテクニックを持っている理由の1つ
は、子供のころにフットサルをやったことにあるのではないか」と考えるようになっ
た。
 そんな折、フットサルの日本代表がブラジルに遠征してきて19日にブラジル代表
と対戦した。ブラジルはフットサル大国でもあり、これまで7回行われた世界選手権
で5回優勝している。日本はブラジルと過去3回対戦し、いずれも10点以上の大差
で敗れていた。
 試合開始と同時に、ブラジルのゴールラッシュが始まった。前半1分、左サイドの
角度のないところからシュートを決め、その1分後にも右からのクロスを中央で合わ
せる。その後も、ヒールシュートが日本のGKの股間(こかん)を抜いたりして前半
10分で早くも5対0。この調子では何点取られることかと背筋が寒くなったが、こ
こでブラジルが小休止してくれたおかげで前半はこのまま終了した。
 後半、ブラジルはトリッキーなボールキープやドリブルを披露して観衆を喜ばせる
ことに専念したようで、得点は3点だけ。日本も終了間際にシュートがバーに当たっ
て跳ね返ったところを押し込み、試合は8対1で終了した。正直なところ、「8対1
で勘弁していただいた」といった試合内容だった。
 ブラジルでは、フットサルはサッカー選手が技術を高めるためのトレーニングであ
り、同時に独立したスポーツでもある。日本のサッカー指導者たちも、子供たちに
フットサルをやらせてみたらどうだろうか。

<2月2日>
“優等生”カカのマラドーナ級ゴール
 1月30日に行われたサンパウロ州選手権の試合で、サンパウロFCの20歳のM
Fカカが驚異的なゴールを決めた。自陣のセンターサークルの中でボールを受ける
と、体を当ててきた相手選手をかわしてドリブルで独走。ゴール前で別のDFをかわ
すと、相手GKの動きを見極めてゴール左隅にボールを流し込んだのである。距離に
して約60メートル。86年メキシコW杯のアルゼンチン対イングランド戦のマラ
ドーナの5人抜きゴールやバルセロナ時代のロナウドのゴールをほうふつとさせる
スーパープレーだった。
 カカはサンパウロFCの下部チーム育ちで、2年前にプロデビューした。優雅に
ボールを操り、スペースを見つけて長短のパスを配給するかと思えば積極的に前線に
飛び出してゴールを狙う。デビュー当時はまだ体が華奢(きゃしゃ)で、敵のDFに
激しく当たられるとすぐに倒れていた。将来性を見込まれてフル代表にも選ばれた
が、去年のワールドカップではコスタリカ戦に途中出場しただけ。しかし、その後、
筋肉を増強してからスピードとパワーがついて急成長した。昨年のブラジル全国選手
権では、サンパウロFCの主力選手として大活躍。U―22(22歳以下)代表の一
員として先月のカタール国際大会にも出場し、4得点をあげた。
 カカのプロフィルは、ブラジルのサッカー選手の大半のそれとはまるで異なる。裕
福な家庭の出身で、教養があり、上品でハンサム。熱狂的な女性ファンが急増してお
り、昨年、あるサッカー雑誌の読者投票で「ブラジルで最もセクシーなサッカー選
手」に選ばれた。しかし、本人は「外見ではなくて、僕のプレーを見て騒いでほし
い」といたって冷静だ。
 優等生過ぎるのが少しばかり面白くないとも言えるが、大変な才能の持ち主である
ことは間違いない。ブラジルのメディアは絶対に選手を甘やかさないのだが、カカに
ついては「近い将来、必ず世界のスーパースターになる」と絶賛している。

<2月9日>
敵も魅了するサントスの19歳ロビーニョ
 ひいきチームがボロボロに負けている試合で、地元観衆がビジターチームの選手に
拍手を送る―。ひいきチームを熱烈に応援する一方でビジターチームの選手を徹底的
にやじるのが当たり前の南米では、普通まず目にすることのない光景である。それ
が、南米のクラブレベルで最も重要な大会であるリベルタドーレス杯の試合で見られ
た。5日にコロンビアで行われたアメリカ・デ・カリ対サントスの試合で、サントス
の19歳のドリブラー、ロビーニョがコロンビアの観衆から喝さいを浴びたのであ
る。
 この試合はリベルタドーレス杯のグループリーグの初戦で、ビジターのサントスが
5対1で大勝した。サントスは新加入のFWリカルド・オリベイラが2得点を挙げ、
MFジエゴもミドルシュートを決めたのだが、ロビーニョは得点こそなかったものの
ペドラーダ(何回もボールをまたいで相手を幻惑する)、シャペウ(頭越しにボール
を跳ね上げて相手をかわす)、エラスチコ(足の外側でボールを押し出して前へ出る
と見せかけておいて、すぐに足の内側でボールを反対側に押し出して相手を抜き去
る)といった得意のプレーでアメリカ・デ・カリの守備陣をキリキリ舞いさせて決定
的なチャンスを何度となく作り、あろうことか敵のファンまで魅了してしまった。コ
ロンビアのメディアも「ロス・ディアボス・ロホス(赤い悪魔たち。アメリカ・デ・
カリのニックネーム)の守備陣を完全に崩壊させた」「ペレと同レベルのテクニック
を持ち、スピードではペレをしのぐ」とロビーニョを褒めちぎった。
 今年のリベルタドーレス杯にはブラジルからサントス、コリンチャンス、グレミ
オ、パイサンドゥーが参加しており、サントス、コリンチャンス、グレミオがいずれ
も初戦を勝利で飾った。この中で、サントスとコリンチャンス、とりわけサントスに
期待が集まる。昨年のブラジル全国選手権で吹き荒れたサントス旋風が、今年は南米
を席巻するかもしれない。

<2月16日>
金目当ての中国遠征では必然のブラジル苦戦
 12日に広州で行われた中国対ブラジルの親善マッチは、0対0の引き分けに終
わった。オランダ人のハーン新監督率いる中国は細かいパスワークでブラジルに対抗
したのだが、中国が良かったというよりはブラジルの出来がひどすぎた。
 何しろ、エースのロナウドが全く試合に参加しようとしない。前半、ブラジルの
シュートはリバウドがFKから放った1本だけ。一方、中国はカフーのサイドを崩し
てクロスを上げ、フリーでヘディングシュートを放つ決定機が2回あった。
 後半、ロナウドが下がってアモローゾが入り、ロナウジーニョ、リバウドとの連携
からようやくチャンスが生まれる。ロナウジーニョからのスルーパスを受けてアモ
ローゾがシュートしたり、アモローゾが出したスルーパスにリバウドが走り込んだり
といった得点機があったが、結局、ゴールを割ることができなかった。中国も後半は
足が止まって受け身に回った。
 ブラジルの選手が広州に着いたのが、試合の2日前。長旅の疲れ、時差、そしてモ
チベーションの低さ―ブラジルの出来が悪かった理由はいくつもある。中国にもう少
し技術があれば、間違いなく負けていた。
 CBF(ブラジルサッカー協会)がこの試合を組んだ理由は、はっきりしている。
お金。税別で100万ドルという報酬を得るための、純然たる「興行」だった。選手
たちも、そんなことは百も承知している。クラブの試合で疲れ、さらに長旅で疲れて
いるのに、ベストを尽くすわけがない。
 今後、ブラジルは3月末にフェリペ前監督率いるポルトガルと対戦し、4月末には
アメリカと対戦して6月のコンフェデレーションズ杯に挑む。
 中国戦に出場した選手の大半は2002年W杯のメンバーだが、パレイラ監督は
「これから徐々に若手を融合してゆく」と語っている。
 この中国戦よりひどい試合はありえないから、次のポルトガル戦ではもう少しまし
な試合が見られるに違いない。

<2月23日>
カントナもラモスもいるビーチサッカー
 ブラジルでは、通常のサッカーのほかにもいろいろな種類のサッカーが行われてい
る。室内で行うフットサル(5人制)、サッカーの半分ほどの広さのピッチで行うソ
サエティー(7人制)、手を使わずにバレーボールをするフットバレー(通常4人か
2人)、そしてビーチサッカー(5人制)。いずれもサッカーのトレーニングの一種
であると同時に独立したスポーツとなっており、フットサルとビーチサッカーはプロ
のリーグがある。
 ビーチサッカーではグラウンダーのパスはイレギュラーしてしまうしドリブルも難
しいので、浮き球のパスをつなぐことができるかどうかがカギとなる。このビーチ
サッカーの第9回世界選手権が、今月16日からリオで行われている。
 ブラジルは、ビーチサッカーも強い。過去8回の世界選手権で7回優勝しており、
今回も圧倒的な強さでグループリーグを勝ち抜き、準決勝でもポルトガルに快勝し
た。この原稿を書いている時点ではスペインとの決勝戦が終わっていないが、ブラジ
ルの優勝が濃厚だ。
 今年の大会にはラモス主将率いる日本チームも出場したが、グループリーグで3戦
全敗という成績に終わった。それでも地元リオ出身のラモスは観客から盛んな声援を
浴びていたが、「ラモス、そのむさ苦しい髪の毛を切れ!」とからかわれていたのが
おかしかった。
 フランス・チームには、エリック・カントナの姿があった。カントナは、かつてマ
ンチェスター・ユナイテッドとフランス代表で活躍したストライカー。シャツの襟を
ピンと立ててプレーするのがトレードマークで、ヤジを飛ばしたファンに飛び蹴りを
見舞うなど数々のトラブルを起こしたことでも有名だ。日本との試合にも出場した
が、味方の選手が簡単なシュートを外すと怖い顔でどなり散らしていた。ただ、ビー
チサッカーのシャツには襟がないので、例の「立て襟」は見ることができなかった
が。

<3月2日>
「カーニバル帰国」許されなくなったブラジル勢
 2月28日の夜から3月5日の朝まで、ブラジルはカーニバルの喧騒の真っ只中にあ
る。会社と学校は5日まで休みで、サッカーも2日は試合がなかった。リオでは2日
の夜から3日の朝にかけてと3日の夜から4日の朝にかけての二晩に14のサンバチー
ムの計5万6千人がパレードを行なう予定で、観衆は延べ16万人と見積もられてい
る。そして、リオのみならずブラジル全土の街で、それぞれに特色のあるカーニバル
が繰り広げられている。
 ブラジルのサッカー選手も、カーニバルが大好きだ。サンバチームに加わってパ
レードに参加する選手が少なくないのだが、中には自分が置かれた状況を忘れてカー
ニバルに参加して物議をかもす選手がいる。数年前、足を怪我をして療養中の身であ
りながらパレードに参加して踊りまくった選手がおり、本人は「怪我のリハビリに
ちょうどよかった」とうそぶいていたがクラブから罰金を課されたケースがあった。
 エジムンド(現浦和レッズ)は、フィオレンティーナ(イタリア)在籍中、チーム
が優勝争いをしていてしかも僚友のバティストゥータが怪我で欠場中という非常事態
にありながら無断で帰国してカーニバルを楽しみ、クラブ関係者とサポーターから
轟々たる非難を浴びた。
 また、昨年はロナウドとエジムンドが「怪我で療養中」という大義名分でちょうど
この時期にリオに滞在し、連日カーニバルを見物していて問題になった。とはいえ、
最近ではブラジル選手がカーニバルの時期に帰国したがるのは世界中で知られてお
り、クラブ側も帰国させないための対策を講じている。
 エジムンドはチームのオーストラリア合宿に参加して28日に日本に戻ったばかり
で、今年はリオに帰れなかった。また、ロナウドも「カーニバルのために帰国せず
に、スペインに残って体調を整えろ」とクラブから厳命され、結局、「カーニバル帰
国」を断念した。

<3月10日>
コリンチャンスにタイトルの「前兆」
 「おれたちは結果を出した。今度はお前たちの番だぞ」とサポーターが選手を叱咤
(しった)すれば、「サポーターを見習って、我々も頑張る」と選手が神妙に応え
る。このような「サポーターと選手の逆転現象」が見られるのは、おそらくブラジル
くらいのものだろう。
 ブラジルのカーニバルというのは単なるお祭り騒ぎではなくて、れっきとしたコン
テスト。今年のサンパウロのカーニバルでコリンチャンスのサポーターグループ「ガ
ビオンエス・ダ・フィエル」(「忠実なるサポーターのタカ」の意)が見事なパレー
ドを行なって2年連続4回目の優勝を遂げた。そして、コリンチアーノ(コリンチャ
ンス・ファン)たちが今度はコリンチャンスの選手たちにタイトルを要求していると
いうわけである。
 コリンチャンスには「ガビオンエス・ダ・フィエル」がカーニバルで優勝すると
チームもタイトルを取るという「伝統」がある。95年に「ガビオンエス」が初優勝
したときにブラジル杯とサンパウロ州選手権の2冠に輝いたのが、その始まりだ。9
9年に2度目の優勝を飾ったときには、ブラジル全国選手権を制している。そして昨
年、3度目の優勝を達成したときにはブラジル杯とリオ・サンパウロ選手権で優勝し
た。
 これは、おそらく偶然ではないだろう。コリンチャンスのサポーターは熱狂的なこ
とで定評があるが、カーニバルで優勝した年はとりわけ意気が上がり、「おれたちの
手でチームを優勝させてやる」という気迫をみなぎらせて応援する。そして、この熱
い気持ちが選手に伝わって好成績に結びついているように思える。
 コリンチャンスはサンパウロ州選手権決勝でサンパウロFCと対戦する。戦力的に
はサンパウロFCの方が上と見る向きもあるが、コリンチアーノたちはコリンチャン
スの優勝を信じて疑わない。


<3月17日>
「得点王」にして「反則王」の未来は?
 ブラジルに得点王にして警告王というスリル満点の選手がいる。サンパウロFCの
22歳のストライカー、ルイス・ファビアーノである。ルイス・ファビアーノは、体
が強くてスピードがある。気持ちも強い。一昨年にサンパウロFCのレギュラー・ポ
ジションをつかみ、昨年のブラジル全国選手権で19得点をあげて得点王に輝いた。
 いつブラジル代表に選ばれてもおかしくない逸材なのだが、大きな欠点がある。ふ
だんは温厚な好青年なのにピッチに入ると人が変わる。敵の選手から厳しいタックル
を受けると頭に血が上り、相手を小突いたりラフプレーで仕返しをしたりして実に頻
繁にレッドカードやイエローカードをもらってしまうのだ。今年に入ってからも、敵
の選手に倒されたのにファウルを取ってもらえなかったことに腹を立て、審判をのの
しって退場処分を受けた。このときはクラブから厳しくしかられ罰金を科せられた。
 これで反省したのだろう。以来、ルイス・ファビアーノが変わりつつある。敵の選
手から削られても、以前のようにやり返さない。相手から小突かれたときですら両手
を体の後ろに回して必死に我慢している。こうした努力のかいがあって、最近は退場
や累積警告による欠場が減ってきた。そして、12日に行われたブラジル杯の試合で
5得点の荒稼ぎ。最近の3試合で9得点とゴールを量産しており、ブラジル国内で最
高のゴールゲッターになりつつある。とはいえ、これからも敵のDFから容赦ない反
則タックルを浴び、露骨な挑発を受けることだろう。
 はたして、これに耐え切れるのかどうか。
 ブラジルには、素晴らしい才能の持ち主でありながら、夜遊びが過ぎたり、練習が
嫌いだったり、あるいはピッチ内でのマナーに問題があったりして大成しない選手が
大勢いる。ルイス・ファビアーノが今後ピッチでどんな振る舞いをするのか。ファン
にとっては、ハラハラ、ドキドキが続きそうだ。




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