山下晃明の【ブラジルで損せぬ法】(188)及び(189)一挙公開(実業のブラジル誌より転載)。
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『実業のブラジル』誌のコラムにブラジル政治経済の硬いコメントを16年以上継続して書き続けているリオ在住の山下日彬さんは、唯一の神戸高校在伯の同級生です。バーチャル座談会企画では、ブラジルの政治経済、サッカー、カーニバル何でも来いの論客で随分助けて貰った。このバーチャル座談会は、ピッチを落として年間数回テーマを決めて継続する事になっているが、ブラジル側の欠かせないコメンテターである。
彼の発想は、大きな国ブラジルで培われたと言うより神戸育ちの根っからのコスモポリタン的発想がブラジルで花開いている感じで心地良い。おおいなる無駄のすすめでは、『ピラミッドや万里の長城以上のスケールで5000年先にも残るハイテクで、無駄なことに打ち込むようにすれば良いと思う。』MADA IM JAPANの【平成の月】をぶち上げたらと提唱する。
写真は、45年前の神戸高校卒業アルバムから見つけ出した若かりし頃の放送委員会の責任者山下君です。後列左側から三人目の丸刈りの美青年?がご本人です。
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山下晃明のブラジルで損せぬ法(188)
『実業のブラジル』誌に好評連載中(2003年3月号)
インフレの足音が聞こえ始めた
リオ暴動
カーニバルも来週に迫った24日月曜日早朝より、リオと近郊の5都市の23地区に一斉暴動が起き、その週に49台のバスや車が焼かれて、機銃や手投げ弾などで商店は閉鎖、道路も閉鎖されついに死者3名も出て無法状態となってリオは麻痺した。
首班は拘留中の麻薬マフィアのボス、ベイラ・マールで独房内部から携帯電話で指示したとのことである。
警察が逮捕した暴徒は、商店襲撃、略奪、市内バスに放火するなどの騒乱を市内に一斉に起こすよう、麻薬団の上層部から命令を受けたと供述している。
すでにホテルにいたカーニバル客で急遽引き上げる人も出て、政府は27日朝4時、このボスをサンパウロの地方へ移すことと、カーニバル期間中は軍隊から兵士3000人を警備に出すことになった。
同日リオの2留置所で持ち物検査をしたところ無数の武器の他に、113個の携帯電話と3台の送信機とパソコンが1台見つかったとのことである。
新政府
例年カーニバル開けまで、政府は何もしないのであるが、今回はかなり真面目なようである。
22日政府はグランジャ・ド・トルト宣言で25州知事と税制改革と年金改革を行う基本協定の合意を発表した。
ブラジルでは国会に対する州知事の影響力はかなり強いから非常に重要な政治的根回しとなる。骨子はICMS(流通税)を無くしてIVA(付加税)にすることと、年金の上限額を設定することであるが、大いに納得できる説明として、蔵相の言う「税制を簡潔にするべき、ICMSの法令は各州に1000ページもあり、27州で27000ページになるが、チリのそれは80ページである」はまったく同感である。
ブラジルの税法は不正発見の度にそれを防ぐための追加令が補則され、それが新たにフィスカルとの不正取引の温床になることの繰り返しを断ち切るには非常に意義がある。
ブラジルの法令は作文の好きな人が作るので、やたらと長文で、補足令に補足令で各法律は電話帳のごときであり、納税者もフィスカルも誰も正確に理解できないのである。
通貨引き締め
2月25日発表の1月の支払い手段(M1)は14.4%減で11月末水準となり過去12ヵ月24.1%増となった。
前月号で20%減が達成できたら30点をさしあげると書いたが、パロッチ蔵相に20点を差し上げたい。
19日政府はSelic金利を25.5%から26.5%に上げ、対中銀強制供託金を45%から60%に上げると発表した。実際にはもう8%追加供託があるが、理論的には、これで通貨回転相乗効果が発行高の2.22倍から1.67倍に下がるから約25%の流通通貨量の引き下げをねらったものと思われる。
理論通りの効果が出れば、金融引き締めになり貸し渋りなどで、インフレ抑制効果が出るだろうが、市場はすでに値上げの方が先行していて、例えばフェイラで現金売りR$3のものがR$4になっているのを下げるのは極めて困難だろう。 他の値上げ圧力も依然強いから、今後のM1の推移を注意して見守る必要がある。
インフレへの足音が聞こえ始めた
通貨量よりみたとき24%の圧力だが、1月のインフレ率(IGP/FGV)は2.17%となって、7ヵ月連続の2%超である。過去12ヵ月は28.92%であるが、未来のそれも単純に2%が1年続くと年率で26.8%になる。IMFと2月26日の取り決めで9月までの年間目標インフレを年率9.5%から10%に上げると公表されたが、IGPだと昨年8月から1月までのインフレが21.6%だから意味不明である。
インフレも消費者物価指数(FIPE)で見れば年間12%程度なのだが、本当に大丈夫か数字の遊びではないだろうか。
数字から見た1月末の状況では年間25%程度のインフレ街道を直進していると言える。
一部業種シンジケートは2月に12%弱の昇給を義務付けたし、FGV/IGPで修正がある家賃契約は25%値上げしている。薬品も値上げするとの報道があるし、それよりも国会議員助手のお手盛りは40%を平気で上げている。
外貨収支より見たとき
外資の直接投資額が2001年200億ドルから2002年187億ドルに減っている、2003年は前年より減る可能性が高い。その場合必要外貨を貿易収支の黒字でカバーする必要がある。
貿易収支は今は黒字だが、もしアルゼンチンの輸出が復活して、赤字になる動きでも出ると、為替を切り下げて輸入を減らし、輸出を増やす政策をとられると考えられる。
これは為替インフレと輸入インフレを誘発する。政府にしてみれば外債の支払い負担が増えるから為替は切り下げたくないだろうが、資本収支が赤字になれば貿易収支の黒字で埋めるしか他に方法がないのである。
もうひとつのブラジルのジレンマは未来インフレを上乗せした金利を設定したとき、その期間の為替に未来インフレ分の切り下げがなかったら、外資は外貨で丸々インフレ上乗せ分も儲けて持ち出してしまうので、どうしても通貨を予定通り切り下げる必要が出てくるのである。
米国の不安、この戦争はどちらも勝たぬ
イラク攻撃が今にも始まりそうだが、今回はフセインも戦争を避けようと神妙で、国連の査察も無条件で受け入れるし、中距離ミサイルも表向き放棄を受諾している。 飛行禁止地域の国境のレーダーは既に米英に爆撃され、国連の検査を受け入れて国内をすべて見せて、ミサイルの射程外に陣を張られて、周囲全部を包囲されてから開戦するのはどう考えても分が悪い。
しかし米国はフセインの追い出しに本気であり、彼の命運は、時間稼ぎをしても長くは続かない。 米国が戦費の出費と暑さに耐え兼ねて撤退する奇跡が起きないかぎり勝ち目は無く、絶対優位な敵に包囲されたまま時間が経過すると、内部に恐怖感が芽生え、フセインさえいなければ壊滅は防げると考える人が出てくる。すなわち攻撃されなくても包囲が長く続けば内外からの圧力で引退に追い込まれることになるだろう。
一方、全能世界警察主義の米国が、優れたハイテク軍事力で仮にイラク攻撃で短期戦に勝ったとしよう。また北朝鮮も制圧できたとしよう。その後アメリカはアフガンと同じように戦後米軍を駐兵させて守らなければ民主主義新政府は倒れてしまう。
現代の戦争は、過去のように敵地の占領はできないし、戦利品もなく労働力に使える捕虜もなく、勝った後も、テロは減るどころか逆に増える恐れがあり、復興や兵力駐屯に出費ばかりかかる拠点を増やしていくことになる。米国家財政はただでさえ赤字であるのに、これを続けると大変な事態になるのではなかろうか?
石油ショック
前の石油ショックはバレル$2.50の原油をまず$8に上げ最終的に$25まで値上げする動きであったと思う。その後ドル自体がかなり目減りし、実質石油価格は少なくとも半減しているので産油国か誰かがまたも値上げを狙っている。そのとき産油国は濡れ手に粟で儲かるから、フセインやシャーヴェスを喜ばせてなるものか。その前に親米政権に変えておこうが最近の一連の動きの底辺にあるように思われる。穿った考えかもしれないが戦争が起きたら確実に儲かる武器産業体と、世界の石油を牛耳ることを希望する連中がたくらんだシナリオをブッシュなどの表舞台の役者が演じているだけのように思えるのである。
大いなる無駄のすすめ
イビラプエラの中国古代展を見に行った。西安兵馬傭(よう)坑博物館の兵隊と馬などが10体ほど展示してあり実物を始めて見た。7000もの兵隊の表情が全部違うとのことで、写真で見たときは民芸品のような土人形かと思ったが、実物はすべてが焼き物で表面に色彩をほどこして当時のハイテク製品らしいのには驚いた。
秦の始皇帝の陵は生存中に70万の人によって建造され、7000の兵馬はその陵墓を守るための秘密の副葬品とのことだが、この等身大の兵隊や馬の焼き物を作るのは今の技術でも大変だろうと思われる。炉の燃料はマキであろうか。
万里の長城といい、中国の建造物はスケールが大きく、現代の目で見ると、非常に無駄な投資のようだが、その職人は中国の焼き物技術の元祖になったかも知れないし、土木や運送技術などの向上に寄与し、また同時に失業対策にもなったのではなかろうか。
グローバル資本主義の最大の欠点は無駄を排除することで、大量の失業者と貧富の差ばかり拡大するが、現代も長大スケールの無駄な投資をすることが出来れば、デフレや失業対策はすぐ解決するのではなかろうか。
人間はもっと無駄な時間を使って、ピラミッドや万里の長城以上のスケールで5000年先にも残るハイテクで、無駄なことに打ち込むようにすれば良いと思うのである。国際宇宙基地は22年前に製造したシヤトルで大事故を起こしたが、もっと本格的に投資して、もう一つ月を作って平成の月 MADE IN JAPANの札を付けておくのはどうだろう。
山下晃明のブラジルで損せぬ法(189)
『実業のブラジル』誌に好評連載中(2003年4/5月号)
バグダットの盗賊の子孫
「2004年からすべてが変わる」
バクダッドの盗賊の子孫
少し情報が古くなった嫌いはあるが、我慢してください。ブッシュ大統領は喜々として勝利宣言をしているが、イラクはサダムが行方不明、大量破壊兵器がみつからないでは、まだ戦争が終わった実感がわかない。バグダッド陥落の日のテレビでは、イラクは国中で略奪、男も女も小さい子供まで、椅子でも壺でも何でも、海兵隊の目の前を平気で担いで持って行ってしまう。こんなすさまじい光景は見たことがない。リオのファーベラのガキどもでも選挙や国際会議で重装備の兵隊が警戒している日はおとなしくしている。
米国はとんでもない解放をしてしまったかも知れない。解放したのは良いが、民主主義で国の代表を選んでも、それで国が治まるような単純な国民構成ではないから、民族、宗教抗争がからまって誰が選ばれてもすぐ暗殺されるような混乱が続き、米英が思ったようにはならない可能性がある。
ひょっとすると、この国には民主主義以前に「盗んだら手を切るぞ」の指導の方が向いているように思われる。ここの治安の役割は、平和な国に育った日本人には到底手に負えるものではないだろうし、安定作業に日本や国連などが人を派遣し援助するにしても、国際社会にとっては大変な金のかかる状況になるのではないだろうか。
現状は、謎だらけだ。米英軍は本格的な戦闘もなく首都バクダッドまで攻め込んだが、フセイン大統領はじめ40〜50人もの閣僚が家族ともども消えてしまった。30万人といわれた兵力の機械化歩兵師団や、首都にいる筈の最新装備の4万人の共和国防衛隊もいない。大量の化学兵器の貯蔵もみつからぬ。CIAが報道した化学兵器処理移動車はどこへ行った。サダムの巨大な地下壕はどこにある。大量のミサイルはどこにある。
もし始めから何もなかったところにハイテク装備で大挙して攻め込んだのであれば、ブッシュの諜報機関の大失策で、今回の戦争は単なる侵略で茶番劇になってしまうが、これもフセインの作戦の内なのか、謎の多いイラクだ。
ルーラ政権好調の出だし
1月号でルーラ政権が、「もし1-2月に支払い手段を対前年20%ほど削減し30%インフレへの危険を排除したら30点、5月の最低給料の賃上げを15%以下に抑えたらもう30点、年金支払い上限を一律にする法案を通したら満点を差し上げたい」と書いたが、1月の支払い手段の削減率は15%、5月の最賃は20%賃上げ、年金支払い法案はまだだが、最初の国会審議は、4月2日の金融システム関連の憲法改正を伴う法案の国会採択で、賛成442票、反対13票および17票の棄権によってパスさせたお手並みは評価できる、総合点60点! ルーラがPT内部の過激派を懐柔できる政治力があることを内外に示したことで、構造改革に楽観的見通しをする向きが出てきた。
注目の社会保障年金制度改革に必要な憲法改正を実現するにはどうしてもPMDBなど野党の支持が不可欠であることには変わりはないが可能性に向かって一歩前進した。
インフレの可能性を20%以下にとどめる努力をしていることを評価しよう。1-3月の外貨直接投資額は昨年同期の半分で、まだ海外の投資家は様子を見守っているようであるが、国際金融筋の信頼度は高まっている。
貿易収支は1-3月で37億ドルの黒字、外貨準備高も45億ドル増えた。本日現在、株は上がり、為替は3.00に近づき、ブラジルリスク指数は900まで下がりと出来過ぎである。
「2004年からすべてが変わる」
「2004年から世界は激変する、これまで護衛 船団システムで国家権力と金融力主導の時代であったのが終わり、土と水の基本に戻り、すべての分野で世紀の大改革が行われる」と10数年前から提唱される自然法則学会の飯田亨先生を案内してニューヨーク、セラードとマナウスに行ってきた。
輝いていないマンハッタン
初めてニューヨークへ行ったのは1970年ごろだったが、5番街やエンパイヤステートビルも輝いていたし、道は広く、自動車はすべて大型で、すばらしいリムジンが走り、豪華な大型店には見たこともない新商品が安く売られており、見るものすべてが素晴らしく、ブラジルから行くとまるで別世界の印象であった。
その後何回かニューヨークを通過はしたが、今回改めて見て感じた印象は異なる。グランド・ゼロにも慰霊に行った。気温が氷点下で寒々としていたせいもあるが、なんとなく空しく、ここに新たに高層建築を建ててみてもアメリカにとって今更何の意儀があるのだろうと感じた。
すぐ横のウオール街は世界の金融、証券取引のシンボルであったが、いまやなんとなく古ぼけて見える。サンパウロの15 de novembro街と大差はない。
良く見るとマンハッタン全体が古ぼけて見える、自由の女神を含めモニュメント化しているのかも知れない。それもそのはず1970に存在した建物はあれから30年以上も古くなっているのである。
2003年で金権主義の時代が終焉するという飯田先生の説がマンハッタンに象徴されそうな気がしてくるのである。
「土」のセラードに行ってきた
商工会議所のセラード視察に参加した。以前、山勝さん(故山本勝造氏)から「ここに投資するのは男の冥利、ぜひ見にいくべし」と何度もいわれて、その後チャンスがなかったものであるが、今回やっと実現した。感想は「すばらしい」の一言である。あの広大な潅木地帯が巨大な農地に変貌していた。
半径500メートルから大きいのは800メートルの灌漑装置を日に一回転させるとのことで、上空から見ると宇宙人が麦畑に描いたかのような円状になっている。この装置で電気を使って水をまき、作物は平均1200キロメートルの陸路をトラックで運び出すとのことで、関係者の皆さんには悪いが、アルゼンチンの小麦などにくらべて、ずいぶん分の悪い農業である。素人目に、採算性は悪いと思われた。
しかしながら、米国農務省の1月のレポートではブラジルの耕地は、現在の42百万ヘクタールからさらに165百万ヘクタールの比較的平坦で機械農業が可能の耕地を拡大する可能性があり、(そのうちセラードが95百万ヘクタール)その場合ブラジルが米国の現耕地面積の175百万ヘクタールを超えることになるとのことである。
将来世界的な天候異変が起きたとき、短期間に農産品の増産対応できる巨大な予備耕地をブラジルは抱えていることになる。今後、この巨大な耕地に植えるものを研究、改良し、作物の安価な輸送方法を合わせて開発すれば確かにアメリカ農業に脅威をあたえることにもなろう。
穀物以外に軽くて重量あたりの価格が高いもの、例えば薬草や特殊植物油などの大量作付けにも成功すればよいと思われる。本誌の昨年の10月号でも書いたが、今までの経験だけでなく、大学の研究所、実験農場など世界中から専門家を多く招聘して新種の開発や根本的な貯蔵や輸送手段に本格投資を行えば、将来地球レベルの大有望農地になると思われた。
「水」のアマゾンへも行った。
この前行ったのはかなり前だが、前回訪問時に無かったものとして、大型はしけを連結した水上貨物列船が走行していた。船舶用の一番大きいコンテナーを10連結の長さの「はしけ」で、まだ便数は多くはないが、これぞまさにこれからのブラジルの大量輸送手段と感じた。
現在のマナウスは税制の特典を利用したフリーゾーンの加工業がメインで、いまや南部の電子工業はマナウスなしには存続できなくなっているが、2005年以後米国がFTAAに力を入れ始めると、イラク戦争の戦費補填のためにも米国は真剣に自由貿易に力を入れ始めると思うが、南部の輸入規制がなくなると、もろにアジア製品との競争になり、マナウスの免税主導の加工工業だけでは中国を中心としたアジアの輸出品との競争に絶対に勝てない。
やはりアマゾン地区は水を生かした大規模産業に向いている。アマゾン地区は水路で海外輸出は容易であるので、世界一の水量を利用した大規模水産業を農業同様に基礎研究から、原点に戻って見なおして、新技術と本格投資をすると、ブラジルには、すばらしい未来があるように思われた。
アマゾンで開眼
アマゾンで興味ある経験をした。米国の物理学者ジョン・ウイラーが「人間が宇宙を観測するから宇宙がある」と言った。いささかパラドックス的であるが、「人間は情報があるから恐怖を感じている」かもしれない。
アマゾンの電気も電話もないところに行くと得意のインターネットもつながらないし、情報がまったく入らない。イラクがどうなったか誰も知らないのである。
すなわち人間は情報とともに生きているが、過度の情報や報道におびえてもいる嫌いがあり、もし情報がまったく入らなければ、明日原爆戦で死ぬ場合も、その直前まで、すなわちその人の生涯はまったく平和なのである。
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