頭と腹の問題? 大砲と竹槍? 顔写真と指紋の波紋!!
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1月5日(月)からアメリカに入国査証を持って入国(トランジットも含む)する全員に顔写真と指紋を登録させる新しいテロ防止対策が莫大な金を注ぎ込んで実施された。これに先立ち国際法の互恵主義の原理をかざしマットグロッソ州の連邦裁判官の判決に基きブラジルではいち早く1月2日(金)から国際空港におけるアメリカ人の入国に対して写真と指紋徴収記録の手続きが開始されており、面と向かっての報復手段ではないとの冷静な対応と裏腹に外交問題にも発展、ブラジルとアメリカの間でギクシャクした局面も出てきている。1月4日付けで私の参加しているMLにこの問題提起として事実関係を書き込んだところ早速、サンパウロの赤嶺さん、リオの山下さん、インドネシアの永岩さんからコメントが入っております。寄稿集にこれらを纏めて掲載して置きます。
写真は、適当なものが見つかりませんのでポルトアレグレ空港の写真を使用しました。
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このお正月は如何お過ごしでしたでしょうか。明日から新しい年の仕事が始まりますね。今年も宜しくお願いします。
ご存知と思いますが、アメリカに入国するブラジル人は、昨年8月よりブラジルで入国査証(訪日の途中のトランジトの場合も)が必要となり更にこの1月5日からは全員の顔写真と指紋が取られる事になっております。(年間アメリカ通過するトランジット者は60万人と言われておりその内の9万人がブラジル人と言われている)このアメリカのテロ対策の防備手段は、USの115箇所の飛行場、港等の窓口で実施されるとの事でこの新しいシステムを構築するのに何と7億1千万ドルの経費を費やしたとの事です。
ブラジルのマットグロッソ州の連邦裁判官Julier Sebastiao da Silvaが国際法の外交原則に基くレシプロシテイ(Reciprocidade)の取り扱い原則に基いて「ブラジル市民の権利を擁護する目的で決して報復手段ではない」との説明付きで下した判決でブラジル領土内に入国する全アメリカ人は、入国時に写真と指紋を取り連邦警察に登録すると言う義務付けを発表し官報にも掲載、既に一部飛行場では1月2日から実施されておりサンパウロのグアルリョス国際空港、ポルトアレグレのサルガード・フィリオ空港でも実施している。
ブラジルは、アメリカと違って7億ドルの資金を投入して導入したシステムでなくインクを使用した指紋表を持ってデジタルカメラの前で一人一人撮る方法を使用しており、当地でもブエノス・アイレスから到着したVARIGに搭乗していたアメリカ人が数人この新しいシステムの対象となりその手続きに30分程掛かったとの事でサンパウロへの乗り継ぎに間に合わせるのに苦労したとの事。
アメリカは、この新しいシステムは、査証を持ってトランジト又は入国する全旅行者を対象としているとの事(因みに2004年度だけで2400万人が対象となると言われている)ですが、日本を含むヨーロッパを中心とした27ヶ国の市民に対しては、入国査証を免除しておりこの免除対象者は、この新しいシステムによる写真、指紋登録も免除されている事からブラジル人は、テロ人材供給国的な扱いを受けるのであれば全アメリカからのブラジル入国者の写真と指紋を取るべきであるとの連邦裁判官の判決である。これに対してブラジル政府は、連邦裁判官の判決に対する判決取り消しの訴えをするとの事で連邦検事局、弁護士がその措置を検討中と伝えられるが、報復手段としてよりブラジル市民の権利を保護するとの大義名分が全面に出されている事から誰も面と向かって意義を申し立て辛い面もあると共に拍手喝采、同意をする人も多く今後の成行が興味深い。
それにしても一連邦裁判官の判決が金のないブラジル飛行場で即時実施されデジタルカメラを操作しての俄か飛行場内刑事室?らしきものの出現は、スキャナーを使い指を指定箇所に置くだけでインクによる汚れ等もなく瞬時に指紋採集できる7億ドル以上を次ぎ込んだアメリカのシステムの向こうを張って対抗手段(報復手段ではない?)を実施するブラジルらいし無謀?と思い切り?には長年住み着いており慣れているとは云え驚かされる正月早々の事件です。
皆さんはどう思われますか。
サンパウロの赤嶺さんの1月6日付けコメントです。
限りなく南の方の和田さんへ
「頭と腹の問題」
今年もよろしくお願い申し上げます。本欄への貴信、昨日、拝見致しましたが、昨年末から先週までずっと身辺の雑事(主として依頼原稿の仕上げと締め切り日の履行のことです。極めて長文ですが、できれば新聞社への送稿前に本欄のOs Colegasの皆様方に小生の勘違い等を指摘していただこうかな、とも考えておりますが、さて?)に悪戦苦闘の最中でした。しかし、折角の和田さんの大作にコメントを求められている以上、それにお答えするのも小生のノルマの一つというふうに理解し、以下、私見を徒然なるままに書いてみました。雑事に追われていて、本件をそれほど注意深く見ていたわけではありません。
和田さん、帰化ブラジル人の小生は、今みたいに10年間有効の米国への入国ビザを取得していなかった数年前、日本行きの途中、マイアミからロサンゼルスにAA航空便でビザなしトランジットの形でのまま、旅行したことがありましたが、両空港での扱われ方で大変な屈辱感を味わいましたね。小生を含め、ブラジルから20人内外のビザなしトランジット客(?)がいましたが、いずれも、コンフィナメント(幽閉)とかイゾラメント(隔離)といった厳しい表現の方がよりぴったりする、まるで、ブラジル人を動物以下の胡散臭い目で見ているようなひどい扱いを受けたことがあります。それまでは、米国を相当に人権の尊重されている国と見ていましたが、それ以来、自分たちに都合の良い場合は、やはり、すぐに例のユニラテラリズム(一国主義)を振りかざすようになって、思えて仕方ありません。あの扱いを受けた外国人なら、いっぺんで米国嫌いになるような気もします。
年末年始を特別な状況の中で過ごしたため、小生は、本件に関する報道等をそれほど詳しく見たわけでは、ございませんが、昨日のNHKの「おはよう日本」でも本件が確か準トップでも報じられていたように、今回のブラジル側の出方(写真を撮り、指紋も採り、必要とあらば尋問までもする)には、人権問題が微妙に絡んでいるように思えてなりません。Folhaのロッシ記者も、3日付けの紙面で、ほぼそのような視点でコラムを書いていましたが、その中で「ブラジル人は、少し恨みを晴らしたような気分でいることも確かだ」と指摘していました。きっといけないことでしょうが、小生も、正直なところ、江戸の恨みを長崎で晴らすといった諺通り、数年前のマイアミでの恨みをサンパウロで晴らさせてもらったような「ざまを見ろ」の、一瞬すかっとした思いを禁じえませんでした。
しかし、悲しいかな(?)、やがて冷静(酷)な現実の世界に戻った後は、一時的に恨みを晴らす気分でいては、何の解決にもならない、リオにはもっと米国の観光客が来てもらわなければならない(セーザル・マイヤ同市長の話)という現実の世界に連れ戻されてしまいました。巷間よく言われるように、ひょっとすると、腹の問題は、頭の問題よりもっと深刻だから、かもしれませんね。
サンパウロの赤嶺さんの1月8日付けコメントです。
大砲に竹槍
米国とブラジルの間で入国審査の際に顔写真や指紋をとる件を巡って発生したトラブルは、まあ、私見ですが、ブラジル側が先に降りる形で、急速に熱が冷めてしまうか、うやむやの形で立ち消えになってしまいそうですね。事実、ブラジルの法務省あたりからその筋へ圧力を掛け、取り下げさせる可能性も云々されている模様です。
米国側が7億ドル強の物量作戦で遠大なテロ防止作戦の一環として打ち出してきたのに対して、ブラジル側は、原始的なインク方式での指紋の採取など、まるで場当たり式に竹槍で大砲に立ち向かうような印象が否めません。ある有力伯字紙の政治漫画欄にブラジル側の使うカメラが壊れたため、米国からの旅行者が首に下げていたものを急いで借りるという滑稽な一コマも出ていました。
外交上のレシプロ(互恵)精神や原則に則って、先にこの種の手段を採用した米国にブラジル側が言わば対抗するため、今回のこういう措置を余儀なくされた(関係者は報復説を否定しているのですが)という事の発端に拍手を送っていたここのマスコミの論調も急速に冷めつつあるようです。
小生は、そもそも、政府対政府の対抗ではなく、米政府対ここの連邦地方裁判所の一判事の裁量で一件が始まっていることに注目しました。ブラジル側がもっと真剣ならば、きっとイタマラチーあたりが先に出てきていたことでしょう。
例えば、フットボール小国が同大国に試合で勝って、一敗地にまみれさせ、仕返し、というか、意趣返しが済んだら、もう急速に敵対熱が冷めてしまう(Folhaのクロービス・ロッシ記者のコメント)ってこともよくあるじゃないですか
しかし、それにしても、数年前、日本に行く途中、マイアミにトランジット客(者)として入国(?)した際に、こちらが米国人のペット(当方、そんなにボニチーニョではないので、それになれるはずもないが)以下の扱いを受けたことを思い出しては、今でも悔しい思いをしています。
天井が高くて、薄暗い薄汚い部屋にコンフィナメント(幽閉)されたと表現して、もし語意が強ければ、イゾラメント(隔離)されたと言ってもいい、あの時の屈辱感は、今尚忘れ難く、せめて、あとしばらく、適当な緊張感を孕んだまま、江戸での仇をここで討ち晴らさせていただきたい気持ちもしますなあ。これは、やはり、意地悪過ぎますかね。
リオの山下さんの1月6日付けコメントです。
リオ国際空港でも、アメリカ人の顔写真と指紋を取るのを昨日より開始。たった一人の係官が行うので長蛇の列になり、観光客は一日無駄にした二度とブラジルには来ないと怒り狂っています。
外交条件対等の原則より、双方同じことを行うわけですが、最も大きな違いは、アメリカはこの電子資料を全米で捜査に活用するが、ブラジルは溜めて棄てるものと思われます。
マットグロッソかの裁判官が決定したことになっていますが、ブラジリアが知らぬ筈はありません。
いつも思うのですが、この種ブラジル式のいやがらせが起こるたびに、日本国がからんで無くて良かったと安堵します。
ブラジル人は極めてプライドの高い人種で、表面上は紳士でも、考え方はコンプレックス報復的です。アメリカ、ドイツ、日本人の言動で、本人はまったくその気が無くても、ブラジル人に嫌われてことが頻繁に起ります。
日本はこのように「うまく」やっている、ブラジルも「そう」すべきといった表現が「威張って、馬鹿にして、何か押しつけている」ことになるのです。
今回はどのように解決するか?利に聡いブラジル人のことですから、最悪の事態まで放置はせず、しかしながら一応法事国家ですから裁判官や連邦警察の顔を立てながら、どこかで、無駄な行為は辞めると思います。
だが、平素FTAAやパテント問題で米国には大変圧力をかけられていますから、ちょっとジャブを出して、「ブラジルは甘くないぞ」と相手に思わせる効果があると思われます。
インドネシアにお住まいの永岩 裕さんの1月5日付けご意見
日本の様に米中の大国にはへっぴり外交で汲々として小国には世界有数のODA金額を振り回して傍若無人な振る舞いと極端すぎますから、ブラジルのように大国に対して毅然として相互主義でやるのは筋が通っていてよろしいんじゃないでしょうか?
ネシアも空港での入国時の課金を諸外国の反対を無視して2月1日から実施するらしいですし。(これは良い事とは思えませんが)
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