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【私物化される世界】 ジャン・ジグレール著 渡辺 一男 訳
『私たちの40年!!』HPの掲示板を通じて日本の渡辺 一男さんからの簡単な問合せを受けお答えしたりすることからお知り合いになった渡辺さんから掲題の『私物化される世界』という訳書を送って頂きました。『ネオリベラリズムイデオロギーに基づくグローバリゼーションを具体的に徹底批判し、新しい世界のヴィジョンを描こうとする。』という難しい著作ですが昨年『私たちの40年!!』HPの画像掲示板、バーチャル座談会でも取り上げて話題となったポルトアレグレで開催された世界社会フォーラムについても言及しており興味深い。著者の日本語版への序文には、『世界社会フォーラムが、2004年1月にはじめてアジアの地で開催される。そこには、世界の五大陸で世界規模のジャングル資本主義に抵抗する数千の労働組合、社会運動、農業者連盟、学生運動団体、その他が集結する。過去三回のフォーラムはいずれもブラジル南部のポルト・アレグレで開かれて、中心的な役割を担ったのは、南米、USA、ヨーロッパからの抵抗運動の諸団体だった。ボンベイ(訳注:ムンバイ)で開催される世界社会フォーラム(2004年1月16日−22日)には、日本、インド、マレーシア、フィリピン、タイ、韓国からの活動家たちが集い、農民、学生、労働組合の抵抗運動の分析と組織形態がテーマになる。ボンベイは南アジアおよび極東の人民の新しい地球規模の市民社会の抵抗戦線への参入を意味する。』との記載がある。2005年には再度ポルトアレグレに戻って来る第5回世界社会フォーラムの重要性を理論付ける書として紹介して置きたい。


日本語版への序文
アメリカ帝国は揺らいでいる。
ジョージ・W.ブッシュによってしかけられた「テロリズムに対する戦争」は、アメリカの石油および金融コンツェルンの純粋な侵略戦争であることがますますはっきりしてきた。ブッシュは、この戦争を「神の命令」だという。遠い12世紀の歴史的範例が示すように、この十字軍は傲慢にも他国の資源と人民を略奪するための出兵である。
残りの世界は、アメリカの民主主義が崩壊するさまを、そしてホワイトハウス内の金融と石油業界の寡頭制に奉仕する傭兵たちの小グループが地上随一の軍事力を強奪へと煽り立てるさまを唖然としてみている。
まさにイスラエルの「尋問スペシャリスト」の流儀で、FBI やCIAの専門家集団は捕虜たちを拷問する―クウェートで、アフガニスタンで、またグアンタナモ(キューバ)で、モスール(イラク)で。アメリカ国内でも、多くの人々の人身保護の基本権が現実に侵犯されている。FBIは図書館利用者の読書傾向を監視する。通信と信書の秘密はもはや存在しない。公式の検閲、恐喝、さらに自己検閲によって、いかなる批判的報告も妨害される。反抗的なジャーナリストは職場を失い、心理的に破滅させられる。(Edited by Kristina Borjesson: Into the buzzsaw, the myth of a free press, New York, Prometheus-Books, 2002, Foreword by Gore Vidal.)
帝国は国際法を軽視する。国防長官はたえず国連を罵り、国連憲章を笑いものにする。
ブッシュの側近たちがたえず現実を歪めたその結果は?『大量ペテン兵器』(Weapons of mass deception)の著者、シェルドン・ランプトンとジョン・スタウバーはこう答える。「権力者がたえず嘘を繰り返しても、メディアがこれに異議を唱えなければ、その嘘は真実になるという戦術である。... この戦術を頻繁に用いたのはナチスの宣伝相ヨーゼフ・ゲッベルスである」
 アメリカ人たちはうろたえ、混乱し、途方にくれる。

だがしかし、レジスタンスが生じる。
 2003年9月にメキシコのカンクンで世界貿易会議が開催された。148カ国の代表は2001年11月のドーハでの決議にしたがって、カンクンでは「ミレニアム・ラウンド」を、すなわち最後通牒的な自由化に決着をつける手はずになっていた。だが、世界の貿易大国とそれらの国々を操作する多国籍企業は手痛い敗北を喫する。
EUとUSAだけでも2001年には3490億ドル以上の生産と輸出のための補助金が農民に支払われた。欧州の乳牛は、EUの共通農業政策によって一頭あたり年間約3600ユーロ助成されている。これは、世界でもっとも貧しいひとびと12億人の年間平均収入よりも多い。
輸出国のダンピング価格は第三世界の国内農業を破壊する。フランスから輸出される野菜の値段は、ダカールではセネガル産の同品質のもののほぼ3分の2である。特にひどいのはプランテーションの作物だ。一例をあげれば、アメリカ政府は6千人足らずの綿花栽培農家に毎年約510億ドルを助成している。世界市場での綿花価格は下落する。アフリカのいくつかの国々の経済は―マリ、ブルキナファソ、チャド、ベニンなど―ほとんどもっぱら綿花輸出に依存している。これらの国のひとびとはアメリカのダンピング価格によって飢餓と悲惨へと追い込まれる。
反乱はカンクンで起きた。先頭に立ったのは、南アフリカ、ブラジル、インド、中国である。WTOに加盟する第三世界の諸国は、あらかじめ北の工業国の農産物・輸出助成金が大幅に削減されなければ、新たな自由化措置に関するいかなる交渉にも応じないと主張したのだ。9月14日の朝、メキシコの通商大臣は会議が最終的に失敗したことを告げた。
もう一つ重要な最新のニュースがある。世界社会フォーラムが、2004年1月にはじめてアジアの地で開催される。そこには、世界の五大陸で世界規模のジャングル資本主義に抵抗する数千の労働組合、社会運動、農業者連盟、学生運動団体、その他が集結する。過去三回のフォーラムはいずれもブラジル南部のポルト・アレグレで開かれて、中心的な役割を担ったのは、南米、USA、ヨーロッパからの抵抗運動の諸団体だった。ボンベイ(訳注:ムンバイ)で開催される世界社会フォーラム(2004年1月16日−22日)には、日本、インド、マレーシア、フィリピン、タイ、韓国からの活動家たちが集い、農民、学生、労働組合の抵抗運動の分析と組織形態がテーマになる。ボンベイは南アジアおよび極東の人民の新しい地球規模の市民社会の抵抗戦線への参入を意味する。
ジャン・ジグレール
2004年1月


訳者あとがき
本書は、Jean Ziegler著Les nouveaux Maîtres du Monde et ceux qui leur résistent (Fayard, Paris 2002)のドイツ語版Die neuen Herrscher der Welt und ihre globalen Widersacher (Bertelsman, München 2003) 「世界の新しい支配者とグローバルな敵対者たち」からの全訳である。
 ジャン・ジグレール(ドイツ語圏ではツィーグラー)の名はヨーロッパでは広く知られているが、日本ではすでに数点の邦訳があるにもかかわらずほとんど無名に近いように思われる(従来は、ジーグラー、ジーグレルなどとも表記されている)。最近では、岩波書店の『世界』(2003年1月号)に『世界銀行グループの肖像』(フランスの『ル・モンド・ディプロマティーク』への寄稿)が訳出紹介され、また「飢餓」に関する著作が『世界の半分が飢えるのはなぜ?―ジグレール教授がわが子に語る飢餓の真実』合同出版、2003年)として翻訳紹介されている。著者略歴をもあわせてご覧いただきたい。
 ジュネーブの住人である著者は、第二次大戦中スイス政府および銀行が中立政策の裏でナチスに協力していたこと(ユダヤ人からの略奪金塊と知りつつこれをスイスフランに替えた)、戦後は銀行の守秘義務を盾にユダヤ人遺族の返還請求に応じなかったこと、さらに軍事独裁者の不正蓄財金やマフィアの略奪資金の隠匿および洗浄(マネー・ロンダリング)に加担していることなどを仮借なく暴いた。このために、スイスでは「祖国の裏切り者」扱いを受け、幾多の訴訟にも巻き込まれた。
 さて本書において、著者はネオリベラリズムイデオロギーに基づくグローバリゼーションを具体的に徹底批判し、新しい世界のヴィジョンを描こうとする。著者によれば、現在の国民国家は多国籍企業を筆頭とする資本の寡頭制(新しい世界の支配者)とその傭兵たち(WTO、IMF、世界銀行)に牛耳られており、もはや国家としての主権を保持しているとはいえない。新しい世界の支配者たちによる「世界の私物化」、すなわち「国家なき世界統治」によって人民の生活は脅かされ、人権は踏みにじられる。国連に全面的な希望を託すこともできない。残された第三の道は「新しい地球規模の市民社会」を目指す以外にはありえず、著者はその根拠を18世紀の啓蒙哲学、すなわちフランス革命の人権思想に求める。ただし、この「新しい地球規模の市民社会」に至る確固たるプログラムが存在するわけではない。本書の本文が黙示録的な引用で終わっているのもそのためである。著者も認めるように、「新しい地球規模の市民社会」は成立途上にある。すべては拒絶から始まる。ネオリベラリズムを「自然の法則」だとするイデオロギーに洗脳されてはならない、ローカルなたたかいの積み重ねがグローバルな人間の連帯と広い意味での人権の実現につながると、著者は説く。本書は一言で言えば、グローバリゼーションによる経済の専横に対して政治の復権を呼びかけるものといってよいだろう。
 著者は訳者の求めに応じて日本語版の序文を書くことを快諾してくれたが、その折に昨年秋に出版された仏語版ペーパーバックの「あとがき」の掲載をつよく望んだので、これを「追記」として訳出した。「追記」には、すべての不正に人権(世界人権宣言)を対置することによって、たたかいの突破口を開こうとする著者の強い意志がにじみ出ている。つまり、人権は実現されるべき到達目標であると同時に出発点でもある。この人権の回路はひとえに行動によってのみ可能になるだろう。本書で言及される多くの国際的なNGOは日本にもたいてい支部があるし、日本独自の団体も少なくない。ただし活動はここ10年間は停滞気味だという(杉下恒夫編著、『現代用語の基礎知識』2001年版別冊付録『NPO NGOガイド』、自由国民社)。
ジグレール(ツィーグラー)はエネルギッシュに語る。それが本書でもいかんなく発揮されていると思う。本書は啓蒙の書ではない。読者を行動へと駆り立てる檄文である。少なくとも訳者は、著者の怒りをばねにして翻訳作業を進めた。本書で著者が依拠するのはもっぱらフランス啓蒙思想であるが、別の著作のなかで、自身の精神的基盤はドイツ古典作家に負っているとして、ゲーテ、トーマス・マン、ベルトルト・ブレヒトの名をあげている。本書に限らず、他の著作においても頻繁にブレヒトが引用されているのを目にすると、かつてブレヒト研究者のはしくれであった訳者としては感慨深いものがある。

翻訳に際しては、随時フランス語版を参照した。その際に、仏独両版にみられる固有名の誤りを可能な限り訂正したほか、著者の了解を得て本文の数箇所に変更を加えた。ただし、数字に関しては手を加えていない。本書で言及される具体例については、いずれもインターネット上で最新情報を入手することができると思う。
本書にはおびただしい数の固有名が出てくる。特にアフリカに関する訳者の無知に救いの手を差し伸べてくださったのは、アフリカ現地と深いかかわりをもつ方々である。アフリカの多様な文化と言語に関して貴重な情報をお寄せくださったことに対してここに深甚なる感謝を捧げる。それでもなお、訳者の非力ゆえの誤りがあることを恐れる。ご教示いただければ、まことにありがたい。izieglerwatanabe@yahoo.co.jp)
 訳語についてひとこと。ドイツ語のVolk(フランス語のpeuple)を原則として「人民」と訳そうと努めたが、全体としては首尾一貫していない。前後の関係から「国民」、「民族」、「民衆」などとせざるを得なかった場合もある。
本書中の引用について。ブレヒトの戯曲からの引用は『ブレヒト戯曲全集』(岩淵達治訳、未来社)から、ルソーの『社会契約論』は岩波文庫版(桑原武夫共訳)から該当箇所をそのままつかわせていただいた。また、マルクスの『資本論』は岩波文庫版(向坂逸郎訳)を、ルソーの『人間不平等起源論』は岩波文庫版(平岡昇訳)を、ルネ・シャールについては『ルネ・シャール全詩集』(吉本素子訳、青土社)をつかわせていただいたが、その際に一部改変せざるをえなかったことをお断りして、ご了解を請いたい。これ以外は拙訳した。





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