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山下晃明のブラジルで損せぬ法(198)(199)
『実業のブラジル』誌に好評連載中の山下晃明の超ロングシリーズ、ブラジルで損せぬ法2004年2月号(198)と3月号(199)を掲載します。よくもここまで続いたなという感じのブラジル版雑誌連載記録としてギネスブックに載ってもおかしくない力作でまたまた斬新なアイデアが飛び出すかと思うと真面目な話が続く。このブラジルで損せぬ法を本に纏めるだけで彼のブラジルに置ける人生が語られる域まで到達している。驚異の連載読み物である。最後のサムライの映画評と現代の超一流女性経営者として自他ともに許す大ホテル網を形成するブルートリー社長の青木智栄子氏講演に感動したとのコメントと共に日系コロニアの二つの遺産としてのコチア産業組合と南銀を例にあげその敢無い崩壊プロセスは、次代に引き継ぐ企業フィロゾフィーの欠如から起った自然の帰結として捕らえているのに大きな賛同と興味深さを覚えました。200回以後の健筆を期待したい。
写真は、ブルートリーのHPより青木千栄子社長とマーケチング、販売担当重役のHELOISA PRASSさんのツウショットをお借りしました。


山下晃明のブラジルで損せぬ法(198)
『実業のブラジル』誌に好評連載中(2004年2月号)

新しい技術進化の時代に対処する

 時代の変革

 「ULTIMO SAMURAI」を見た。物語りは歴史事実とは異なるようだが、娯楽映画としては大変面白い。日本の風習や武士道が日本人の眼で表現されているのが良い。戦闘場面は過去に見た時代劇で一番迫力がある。コンピュータ・グラフィックだろうが、時代劇映画では馬が一番多く死んだのではなかろうか。
 陰陽学の飯田亨先生の「2004年からすべてが変わる」の「NAL LIFE GUIDE 2004」が発刊された。時代が変わるという意味では、日本の革命、明治維新が今の時点で、米映画にも出てきたことは興味深い。
 優れた多様な過去の文明が、時代の変革で画一的近代大量破壊兵器に敗れ去るのは、何か現代の出来事を象徴しているようにも思われる。現代なればグローバル経済の波に抵抗する人、またはそれに乗れなかった人の悲劇の話しになるだろうが、IT通信技術など時代の新技術が起因することに違いない。
 時代の改革期には、過去にも、時代の変化に対応できなかった明治維新時の武士や産業革命時代の職人のような、それまでの時代を支えた無数の中心的産業や人物が歴史の犠牲者として消えていったことであろう。
 大きな技術革新は今も加速されつつあり、昨年まで世界有数の大企業が明日は破綻するのもめずらしいことでは無くなった。
 特にIT通信のこの2-3年の急速な普及はデータの共有化を促進し、未来技術のナノテクノロジーや超電導、宇宙無重力などによる新商品は、過去の商品とはまったく異なるもを出現させつつある。
 
 静かに進む新時代技術

 日本で日立が2ミリ角の送信アンテナ付きチップ価格10円を開発して、電子タグとして多くのメーカーが協力し、あらゆる管理や流通に使う話しが進んでいる。一方でDVDのシネマが2秒で転送できる超高速無線、データ転送技術をNECなどが開発したと聞いた。 
 2ミリ角であれば耳たぶにも貼りつけ可能で人間にも電子コードがつけられる。スーパーなどで使われているバーコードは過去の遺物になるだろう。
 教育の分野で、工学部や経済学部の試験は今でも関数電卓の使用が許可されているが、そのうち専門データバンクや百科辞典、図書館やホストコンピュータのデータバンクを使うのは当たり前になろう。
 もちろん電子カンニングなどはいとも簡単に出来て、この時代になると、学校教育と試験のやり方は根本から変えねばならない。暗記つめこみ教育がまったく役に立たなくなることだけは間違いない。
入試も、暗記力計算力のある過去の秀才型を選別するのか、どんな新しい機械でもマニュアルも見ずに臨機応変に使いこなす007みたいな天才型を選別するのか、コンピュータなどを支援機械に使って実力を発揮できるアイデアマン型を選別するかであるが、従来方式の試験では選別不可能なことは間違いない。
 コンピュータをふんだんに使う工業は別格として、個人の職業でも例えばグラフィック・デザイナーでパソコン無しには仕事できないデザイナーが増えてきた。他にもコンピュータが無いと無能になる職業は、大学研究者、翻訳家、計理士、金融デイーラー、航空旅行案内など急速に増えつつある。近い将来に医者、弁護士もそうなるだろう。
データ転送のスピードが上がるということは、簡単なソフトであれば、使用直前にソフト丸こと瞬時にダウンロードすれば良いので、ソフトを意識する必要がなくなりソフトの価値も変るだろう。今でも時間をかければ出来るが、辞書を丸ごと瞬時にダウンロード出きれば何語でも読めることになる。
 産業グローバル化に反対する人はあるが、コンピュータチップが小さく安くなりデータ通信スピードが高速になると、例え好まなくても商品コードの共有が起り、一度統一したら元に戻ることはなく、グローバル化は誰も推進者がいなくとも自動的に進むと考えられる。
 部品供給はJUST IN TIMEが当たり前、メーカー、下請け加工、素材メーカーの相互統一データ管理は当然の結果となり、商業でもメーカーと流通業が相互統一データ管理で必要な量を自宅に届けるのが当たり前、銀行は全銀行相互乗り入れホームバンキングが当たり前となると、すなわち時間が経過するとどうしても世界グローバル化になる。
グローバルの欠陥は一位のみが生き残り、さらに今日の一位は明日の一位ではないことで、グローバル時代の脱落者の損失規模はどんどん大きくなるだろうが、それでもグローバル化は進む。
 家庭では、日本でテレビのデジタル化が始まったが、本年末ごろから大型壁スクリ−ンが普及し、ホームシアターが当たり前、壁スクリーンによるインターネット対話も当たり前、電子本も当たり前、紙の新聞はもうだめだ。スクリーンとパソコンは無線でつながるようになるだろう。
 政治面で今、中近東紛争諸国で起きつつあることは、後に歴史的に見れば、宗教と政治の分離の動きであろう。アフガニスタンとイラクの場合は米国が引き金を引いたとしてもリビア、イラン、シリア、北朝鮮なども変化が起きつつある。IT通信産業が進んで、刻々他国の動きを知ると、変革への連鎖反応のスピードを上げることになるだろう。

 ブラジル経済政策の二大問題

 ルーラ大統領が先進国もPISのような売上税を設けるべきと自慢げに推奨しているようだが、これはブラジルの思い上がりである。 
 前政権から引きついだブラジルの経済政策で二大欠点は、税収の不足を単に売り上げ比例税で徴収しようとしたこと、また金利にインフレを加算することが問題である。先進国と競争力をつけるには、何れも急ぎ撤廃せねばならない。
 だいたい所得税、流通税、サービスや商品税、輸入税などの徴収能力が無いのを棚に上げて、PISやCOFINS、CONTRIBUICAO SOCIALなど売上げや小切手振り出しに課税するCPMFを発明したのは間違っている。
 因みに大蔵省の昨年度の徴収額統計で
1位 所得税 33.99%
2位 COFINS 21.77%
3位 CPMF 8.42%
4位 IPI 7.19%
5位 PIS 6.34%
6位 CONT SOCIAL 6.12%
7位 輸入税 2.98%
  その他 13.19%
  計 100%
 収税金額でもCOFINSとCPMFが2位3位を占め、新設税(太字)が42.65%にもなる。すなわち税収総額の4割以上の売上新税を創設し、納税総額がGDPの30数パーセントにもなるような、苛酷な税金国家にしてしまった。
 この高い税金を払って海外との競争力が出るはずがないし、所得層に関係なしに売上一律課税を増やすと貧富の差は開く一方である。徐々に税率を下げるか税金を減らして諸外国なみのGDPの20数パーセント水準に戻すべきである。
 金利にインフレを加算するのも絶対に間違っている。これは特に声を大にして言いたいが、価値修正時代のなごりである。そもそもインフレは物価にすでに含まれているのである。値が上がるからインフレで、すなわち元金にインフレが含まれている。それに定率の金利をかければインフレ分は金利額ですでに徴収されており、金利率にインフレ率を加算するとインフレ分金利の二重取りになるのである。

 自然の浄化作用と環境改善デー

 先週の金曜日の夕方、セントロに行こうとしたら雨が降り出した。3時間ほどで降り止んで帰りは夜中であったけど、リオは雨が降ると車の数が減るので、帰り道はスイスイと走り道にほこりがなく実に快適であるのに気がついた。
 そしてその翌朝、快晴、暑いのだが空気が澄んですがすがしいのである。
 廃棄ガス公害と大気汚染があると言うが、工業が止まり、渋滞がなくなると、リオの海岸地帯の大気汚染は意外と簡単に浄化される。そう言えば連休はいつも良い空気である。自然の浄化作用はたいしたものである。
 考えてみれば人間が動くのを止めればたいがいの汚染は浄化される。「環境改善デー」という休日をこしらえて一日地球上の人類が何もしない日をつくるべきである。
 車が走らねば排気ガス汚染はない。交通事故もない。この時、興味深いのは汚染だけでなくて悪も一掃することが出来る。麻薬の売人が仕事しなければ麻薬の密売はない。密輸業者が休めば密輸はなく、殺人者が家から出ねば殺人もない。テロもお休み、戦争も休戦。役人が休めば汚職もお休み、だからブラジルは夜発展すると言われるが、役人が何もしないでコンピュータNETにまかせれば、無駄な長い行列は無くなり、世界に冠たるブラジル官僚主義も発揮できない。人間が何もしないと、すべてが解決する。何もしないことで如何に環境が良くなるかを実感することが出来ると思う。



山下晃明のブラジルで損せぬ法(199)
『実業のブラジル』誌に好評連載中(2004年3月号)

企業存続にはフィロゾフィーが必要

 先日、商工会議所の企業活動委員会主催のブルートリー社長の青木智栄子氏講演に感動した。コロニア企業には何か足らないものがあると、永年感じていたのだが、青木社長からその答えを得た。
 講演の冒頭に、ブルートリーはサービス業であるから、ブラジル人の幹部社員に日本伝統のサービス精神を、社内に茶室をこしらえて、茶の作法を通じて教えている。ブラジル人だから日本語はわからないが、日本に伝統精神があるということを理解し共感するし、日本的サービスの必要性も受け入れると言うのである。次にブラジルでのボランテイア活動の必要性を力説した。
 これは意表をつくものであって、実はもっと世俗的なホテル網設立の自慢話しだろうと思っていたのである。ブルートリーに後継者が育っているかどうか、内部事情は知る由もないが、企業フィロゾフィーがあることは新鮮なショックであった。
 今まで消えていったコロニア企業の場合、売り上げや利益など短期の数値目標はあっても、後継者に伝えて行く社是のような長期の社会的フィロゾフィーというものが欠如しているところが多かった。社名もOO商店とかファミリーの名前を付けたところが多く、社名のみでは社会的な目的すらわからない。したがって後継者に伝える思想はなく、ブラジル式に、社長が交代すると幹部社員も変わり、社の方針もすべて俺が・俺がとなるのである。
 二代目か二世の代で破綻したところが多いのは、ブラジルの政策急変の外部要因もあったが、後継者が引き継ぐ思想が無いから、少し外部状況が悪くなって、従来の事業の継続、すなわち守りの経営で競合との競争に負けると、頑張らずに身売りや閉鎖を選ぶ兆候があったと思われる。
 見渡してみても、後継者に意思を引き継ぐというのは、ジャクトの西村社長の農業高校 経営を除いては、フィロゾフィー的なことをあまり耳にしない。
 日系コロニアの二つの遺産といわれたコチア産業組合と南銀も、もし「世界への食料輸出基地をめざす」とか「日系人の創立した銀行をブラジルで育てよう」、など目標が長期フィロゾフィーで大義名分があれば、外人幹部社員や例え外資が入ろうと後継者がその意思を引き継いで、例え危機でも手弁当で立て直すとか別の動きが起きたに違いない。
 これを単に日系人の組織にすると、親子も含め日系人の権力争いの場になるであろうし、フィロゾフィーが無ければ、会長が変わればブラジル式に役員総替えで過去の貢献者は葬られ、まったく新しい事業方針に変わることになる。組織にはまず高きロマンと社会的目標があって、それへの最適人事とならなければならない。これは存続が危ぶまれるすべてのコロニア団体にも言えるのではないかと思うのである。
 
 未来志向に変えよう
 
 2004年からすべてが変わる。陰陽学の飯田先生の説だが、過去回帰から未来志向の時代に変わるのである。
東北大学院助教授牧原出氏の「10年を超える諸改革の一度清算」の提唱(讀賣新聞2月5日記事)今まで苦労してダメだったことは一度止めて「ゼロからやりなおそうよ」と言う声が出始めた。
一方過去を振り返らないで現状を見直そうという動きは太田市の清水市長メッセージ「みんな我慢の時代」が一言で表現している。
 科学技術研究はいつも未来志向だが、総務省所管の「日本学術会議」は長期、独創的な科学政策立案に政策提言能力を持つ責任ある科学者集団に脱皮させるため、会議法改正案を今国会に提出することをきめた。(同2月11日記事)はそれを強調する。 
 心理学でも、過去の栄光を捨て去ってゼロから再出発するのは非常に優れた処世術だと思う。今回の時代の変化はルネッサンスと産業革命が一度に来るというから、未来技術の動きは毎日インターネットで追い、また過去のルネッサンスは文芸から始まったから、文芸界の動きも注目している。
 芥川賞受賞二人の19歳の女性(ブラジルでは16才以上は少女とは呼ばない)の作品は画期的と聞いて、早速文藝春秋3月号を手に入れた。個人的感想としては石原慎太郎氏の「太陽の季節」の域を抜け出てはおらず、ヌーベルバーグとはいえないような気がした。おそらく近い将来、もっと斬新なものが出てくるだろう。

 インフレ再発危機 

 ルーラ政権の一年目、パロッチ蔵相の努力でハイパーインフレの再発は見事に食い止めた。1月末までは過去12ヶ月累積ベースでFGVのD.I.のインフレ指数6.22%、支払い手段M1が5.9%と模範的であるが、今回の暫定令164でCOFINSが増税になり、すでに物価の便乗値上げが起き始めている。
 さらにその上に給料の昨年インフレ調整が重なるから、暫定令の90日期限がくる5月1日以後インフレ再燃警戒である。
特に輸入品の通関時に税金の先払いが24%増となる。例えば引取り時に支払う輸入コストは

 CIF US$1000のとき
 II 20%としてUS$200
 IPI 15%としてUS$180
 ISMS 18%としてUS$248.40
 税金合計 US$628.40

これにCOFINS 7.6%とPIS 1.65%は US$150.63で税金合計 US$779.03と 24%高になる。引取り時の輸入コストはUS$1628.40からUS$1779.03になるから9.3%高になる。
 外国貿易協会(AEB)などは原価が15%高くなると反対運動のロビー活動をしている。
 対売上に定率の課税はIPIやICMSやISSなどと2重課税になる可能性があり、違憲として納税拒絶手続きをとる法人も多く出て、今後混乱するだろう。
さらにCOFINSとPISで9.25%上がったからと値上げしたとする。売上が上がれば他の比例税はその分自動的に増額にもなるのである。

 CONFINSを考える

 7.6%をどうやって決めたかを考えてみた。
 価格を流通段階毎に30%減とした簡単なふざけた計算で7.6%とピタリ一致するのにはがっかりさせられた。

 小売価格 100 x 3%   3%
 卸価格  70 x 3%   2.1%
 工場価格 49  x 3%  1.47%
 部品価格 34.3 x 3%  1.03%
 合計           7.6%

 最初はどこかの工業会がCOFINSを流通段階毎に3%を何度も払わされるのは不利であると訴え、政府側は受けたが税収減にならないように今回の措置になったものと思われる。流通4段階がそれぞれ30%のマージンで売らないと、この図式は成立しない。製造業から小売の2段階流通では6%を超えることは絶対にないし増税となる。サービス業にとっては迷惑極まりない増税である。まさに「藪をつついてヘビ」の見本であると思われる。
 せっかく税制改革を行ってICMSを一本化し将来ISSやIPIを統合してみても、計算法が複雑怪奇で例外の多い課税方式の新税を多数設定させてはまったく意味がない。どんな形でも売上に比例する税金は一本にするべきで、その方がこの国の税金は異常に高いことが一般に理解しやすくなるだろう。

 科学は大事件を予知できるか

 マーク・ブキャナンという理論物理学の博士でネイチャー誌の特集記事の編集をしていた学者の本「歴史の方程式」。(水谷 淳訳 早川書房)を読んでいる。
 1987年にニューヨークのブルックヘブン国立研究所でパー・パク、チョオ・タン、クルト・ヴィーゼンフェルドら物理学者がテーブルの上に砂を一粒ずつ落とす実験を始めた。
 砂は砂山になり、斜面はどんどん急になり、次の砂粒が引き金になって雪崩が起きる。砂山は低くなり新たな場所に広がり、また山が高くなる。彼らはこれに規則性を発見できると考えていたのだが、あるときは大規模な雪崩になり、あるときは一部のみのがけ崩れになり、結局、規則性を発見できなかった。
 そこでコンピュータを使って仮想のテーブルの上に仮想の砂粒を落とすゲーム的なプログラムを作成し観察した結果、「典型的な」 雪崩のきっかけの規則性は存在しなかった。
 あるときは一粒のみ、あるときは10粒、あるときは100粒、1000粒が崩れ落ち、またあるときは何百万という砂粒が崩れ落ちて砂山全体が崩壊すると言った具合である。
 一つ分かったのは大きい雪崩は回数が少なく小さい雪崩は回数が多く数学でいう「冪乗則」があることだけで、大きい雪崩が起きる「きっかけ」はまったく突然である。
 例えば地震はプレートとプレートのずれが元に戻るショックだと分かっているが、それではどの点をつつけば(砂山のどこに次の一粒を落とせば全崩壊になるか)大地震が起きるかはまったく予想できないというのである。




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