ブラジルで損せぬ法 連載 202/203 7月号/8月号 山 下 晃 明
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実業のブラジル誌の長ロング連載読み物『ブラジルで損せぬ法』をリオの山下 晃明さんに送って頂きました。今回は、7月号/8月号の2ヶ月分です。使用ソフトの関係で3か月分が入り難く分割せざるを得ません。
陰陽自然学の飯田亨先生の説では8月8日からいよいよ新時代がはじまり世界大対戦はすでに始まっているとの事。世界の発電量、石油消費量、原油輸入量等の数字を元に世界経済地図を駆使しての説得力には納得させられる。
8月号では、ブラジル向きの産業として航空機生産会社EMBRAER社の見学記事が面白い。EMBRAER社創立は、1969年で1994年に民営化されてからの発展は目覚しく従業員12900人、ブラジルの輸出産品のTOPを締める世界第4位の民間航空機メーカーに育つとは誰も想像もしていなかったとのこと。
写真は、山下さんの住むリオのポンデアスカールから見たボッタフォーゴの海浜の景色を使いました。
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ブラジルで損せぬ法 連載 202 7月号 山 下 晃 明
いよいよ新時代が始まる
世界対戦はすでに始まっている
陰陽自然学の飯田亨先生の説ではこの8月8日からは未来志向となり、過去を立ち切った時代の流れとなる。
世界大戦はすでに始まっている。ただし最初は国と国ではなく相手はテロ、食糧、エネルギー、環境問題、すなわち[2-5-8]と土と水の事象だと飯田先生は言うが、 最近テロ側は米英の他にも爆弾でロシア、スペイン、インドネシアに続き、誘拐者処刑で韓国やトルコにも宣戦布告したことになる。
第二次大戦の経済的要因は日本の急速な工業化で急増した石油資源需要とABCD包囲網が原因と思うが、今回は中国の急成長が、問題になる可能性が高い。
世界のグローバル資本主義経済とその供給製造国になった中国の構造バブルはエネルギーや食料消費を急増させており、次に人口の多いインドも経済成長を続けている。食糧問題が従来と大きく異なるのは、援助で消費規模が小さいのではなく、世界一、二の人口の消費国が出現するのだから大変だ。余ったものの提供ではなく、自分のところの食糧を分けて与えなくてはならなくなることを意味する。
当然従来受け取っていた国で受け取れない国が出現することになる。さらにこれは、その一回限りで解決するのではなく、一度不足状態になると、来年分も確保しようとするだろうし、以後毎年級数的に増えていくのであるから、不足に拍車がかかり、最後は命がけの奪い合いにならざるを得ない。
資源の量を一定とすると、無限の拡大政策は何時か限度を越えて破綻する。ある規模に達した経済はエネルギー資源の供給が無ければ国の維持ができないから、最悪は軍事力を使用しても資源を獲得するであろう。現に中国は海軍力など軍備も強化しつつある。海洋資源調査も単に尖閣列島の領土問題ではなく、彼らにとってはその海底資源が必要なのであり、死活問題なのである。
したがって規模的に見ると最終シナリオとしては、資源獲得競争は二大筆頭消費国、おそらく米国と中国が当事者になり、その他の国はそのどちらかに付く戦いとなる可能性が見えてくる。
中国のエネルギー需要は、5年前は世界13位
電力需要も10年前はアメリカの1/4であったのが、世界2位米国の半分に迫りつつあり伸びの勢いは止まらない。
ブッシュのイラク侵攻もイラクの民主化は名目で実は石油資源の安定供給源確保が目的とされる。マスコミはブッシュの趣味で戦争をしているような感を与えているが、そうではなく、影にちゃんとした戦略マンがいるのである。北朝鮮などはエネルギーや食糧紛争では世界レベルから見ると大した問題ではなく、米国にすると単に核を保有して脅迫したりするのがやっかいなだけではなかろうか。
一度エネルギー不足が起きると、世界中が供給源を求めて血みどろの戦いとなり、軍事力のある国は刀の柄をたたいてネゴをするだろう。この戦いに負けた方は、経済発展を止め、経済レベルを一世代前のレベルに落とさねばならならず、最悪は国民が餓死することになるのである。
昨日まで続いていた食料や燃料の供給が、有る日パタリと止まる可能性があるわけで、日本の野党のごとく、他国は関係なしに日本だけが戦争を放棄して平和維持できる思想は極楽トンボと言うか夢の話であり、もはや奇麗事を言っている場合ではない。食糧生産に関して、農林水産省の権益とかを主張するのも意味は無い、直ちに省を解体して国をあげて取り組まねばならない大問題なのである。
米国とも中国とも両方と通商をして仲良くすれば良いと考える人もいるが、それは食料なりエネルギーが足りている場合にのみ通用する方式で、一度不足となって、相手が力づくで自国の消費分の獲得を始めたとき、一体どちらが日本の面倒を見てくれるだろうか。
国会議員選挙の主要テーマが年金問題になるなど、現下の世界状況では考えられない自国主義の日本は甘い考えを改める必要がある。
世界の発電量
2000年の発電量(億KW/h)統計によると
1位 米国 40,303
2位 中国 13,556
3位 日本 10,915
4位 ロシア 8,778
5位 カナダ 6,053
6位 ドイツ 5,714
7位 インド 5,423
8位 フランス 5,407
9位 英国 3,749
10位 ブラジル 3,492
となるが電力で見る場合、現在の送電線主導で共同送電可能な地理的条件を考えて勢力図を書き直すと、こと電力に関する限りは東南アジアは島国が多いので、まとまるのは極めて困難で日本は量的にも孤立する可能性すらある。
1位 米国、カナダグループ 46,353
2位 EUグループ 29,325
3位 日本 20,703
4位 中国 13,556
5位 ロシアと旧ソ連 12,722
6位 インド 5,423
7位 MERCOSUL 4,382
参考まで南米全部で7,643
残りの地域は残りのアジア全部 9,791
中東全部 5,609
アフリカ全部 4,405
オセアニア全部 2,474 となる。
米国とEUは未来エネルギーの研究と需要予測を始めており、一番やっかいなのは需要も発電設備もどこまで伸びるか予測困難な中国の急成長であろう。今の調子で中国の消費が伸び、アメリカに接近し追い抜き、さらに成長を続けるとしたら、もし供給が追いつかねば、残念ながら間違いなくエネルギー源獲得競争となる。仮に中国側にロシアと旧ソ連、インド、パキスタン、北朝鮮、韓国(地理的に可能性はある)、などがまとまると35,902億KW/hとなって巨大勢力となる。
先進国はそれまでに、特に島国の日本は、未来技術発電、新エネルギー源、宇宙マイクロ波送電のような地球のどこにでも送電するシステムと徹底的な省エネ家電を急遽発明する必要がある。
石油消費量
2000年石油消費量(万リットル)
1位 米国 76,734
2位 日本 20,536
3位 中国 17,499
4位 ドイツ 11,763
5位 ロシア 8,904
6位 インド 8,838
7位 フランス 8,477
8位 韓国 8,243
9位 カナダ 7,863
10位 ブラジル 7,842
2000年原油輸入量(万リットル)
1位 米国 48,414
2位 日本 21,084
3位 韓国 12,255
4位 ドイツ 10,368
5位 フランス 8,546
6位 イタリア 8,365
7位 中国 7,027
8位 インド 6,702
9位 スペイン 5,748
10位 オランダ 5,467
1999年の中国の原油輸入は3,661万リットル日本の数分の一にすぎなかったのが、1年で倍増、10年以内に日本を抜くといわれている。中国は2020年にGDPを2000年の4倍にする計画があり、GDPでも日本を抜くといわれているが、「元」の切り上げがあるとこれが早まるであろう。
つくづくブラジルに住んで良かったと思うのであるが、我がブラジルの石油自給率は本年83%とのことで、順調にいけば2006年で完全自給になる。電力事情は不足が予想されているが、石油や天然ガスの火力発電は比較的短期に建設できるので見込みがある。水資源も食糧供給にも問題がないのと、地球上の主紛争地域から離れた場所にあることが非常な利点となるだろう。
再び輸入PIS/COFINSの騒動
輸入PIS/COFINSは5月1日から施行されたが、小企業の推定利益方式で所得税を納税する(LUCRO PRESUMIDO)企業は、従来方式でPIS 0.65%、COFINS 3%を納税するが、輸入を行った場合、輸入PIS 1.65%とCOFINS 7.6%も納税する。
これはその後の再販時に控除できず、すなわち輸入した時点では、単純計算で9.25%+3.65%で合計12.90負担になる。輸入PISは納税コード5602と輸入COFINSは納税コード5629で、従来のPISコード8109とCOFINSコード2172と異なり、名前は同じだが、まったく新しい税金として取り扱われる。
さらに5月8日発令の細則で複雑方程式が発表され、輸入時の納税額は対CIFに払うのではなく、輸入引き取り時に払う諸税を含めた額の外から見て9.25%を納税、すなわち新税だけを見ても9.25%は1/0.9075で計算されるとCIFの10.19%になる。しかも5月1日に遡って適用され、納税していなかった場合37.5%の延滞罰金というから輸入業者は大変だ。
また計算式は誰も理解できなかったので、5月半ばに収税局は納税者に計算用のソフトまで配布したのであるから、恐れ入ってしまう。
ブラジルで損せぬ法 連載 203 8月号 山 下 晃 明
ブラシル向きの産業、EMBRAER社の見学
会議所のEMBRAER社見学に参加した。1969に創立されたころ、所得税の一部で同社の株式を取得できるD.L.157という法令があった。そのころはブラジルに先進技術の航空機産業など育つのかと疑問に思っていた。実際、株価は額面の10%以下を低迷し、当時はプロペラの練習機くらいしか製造していなかった。
それが1994民営化してから急成長し、9.11事件の前年には307機を製造、今まで5500機製造し、1999と2000年と二年連続1位の輸出企業となった。40ヶ国に輸出する世界4位、従業員12900人で米国、ヨーロッパ、オーストラリア、中国、シンガポールに支店を持つ民間航空機メーカーに成長したのである。
2003年の結果は売上214億ドル、利益1.4億ドル、資本金117億ドルで、構成は34%が普通株でその内訳はBOZANO 20%、PREVI 20%、SISTEL 20%、ヨーロッパ連合20%、BOVESPA 19.2%などでまた66%が優先株でその内訳はNYSE 55.6%、BOBESPA 14.9%、BNDES 10%、PREVI 13%、BOZANO 6%とのことだ(3月31日現在)。
最新の195シリーズは110人乗りで航続距離4400kmのジエット旅客機(写真)など含めて15種を製造する。
米国の地方路線にはサンパウロ・リオのポンテ・アエレアよりも小型の両側二人席の小型旅客機が多いが、あれはブラジル製だったのかと改めてブラジルを見直した。
今回の見学で発見したことがある。航空機組み立て作業はブラジル向き産業なのだ。
一般に輸出商品開発では工場の所在地と市場との距離すなわち運賃が問題になるのであるが、飛行機の場合は輸出商品が自ら飛ぶから距離は問題にならないのである。
試験飛行も兼ねて飛べば一挙両得で、地理的に市場から遠いところで製造しても問題ない。スペヤー部品も運賃を払わずに運べるのである。
近代技術の粋の飛行機も、機体の構造が出来た後の内装の組み立て工程は殆ど手作業で、ロボットなど使っておらず、湿気が少ない気候で技術系の優秀な人材が手に入れば、意外と先進国よりも人件費の安い国向きの産業なのである。
EMBRAERは本年前半、145シリーズ39機、170シリーズ23機、社用機3機、軍用練習機1機、計66機とのことで、現在月10機程度の生産とすると、1機完成に3ヶ月かかるとのことであるから、30機を並べて組み立て作業をしているのであるが、遠くから見ると、大きな飛行機を人がドライバーで組み立てているように見えた。
見学時に面白いと思ったのは、車輪を付ける前の工程で機体をささえる台が、せいぜい大型ボート台くらいの簡単なものだと、もっとも空を飛ぶのだから機体そのものは軽いのであろうが、妙なことに感心した。機体がひっくり返らないためか、翼の上の作業は人間が天井からロープで中ずりになって仕事しているのがおかしかった。
インフレ加熱の傾向
6月の中銀発表の統計では、支払い手段M1が月1.4%増、過去12ヶ月20.1%増、一方インフレはFGVのIGPで月1.29%、過去12ヶ月10.13%となった。
5月にちょっと地方に資金が流出して、選挙の年だから10月までは更に緩むであろうから、このまま推移するとIMFとの約束の6.4%では収まらない恐れがでてきた。
輸入PIS/COFINSがどの程度値上げに影響を与えるか不明だがインフレ上昇に加担するのは間違いない。
この税の影響は、輸入商が通関後引き取る時点でCIFの10数パーセントの出費になり、資金繰りより払えないので、輸入額を減らすという輸入商の話しを聞いたが、ブラジルの税は最終価格に上からかかるが、正規の税金ではない変な諸税を含めると最終売上の約14%を、例え赤字でも払わされる世界で最も重税の国になったと思う。
ある日突然、所得税で言えば300%もに相当する増税を課せられて、反対運動もしないで黙って納税するこの国の実業家はいったいどのような感覚なのかと思う。
恐らくは経営者があまり良くわかっていないと思われるが、非常に恐ろしいのはこの税金の見合いの値上げをすると、すべての税金は最終価格に課税されるので、それらの税金も基準価格が上がって増税になることである。
日本の消費税や米国、英国の販売税などは売値に加算される税だがブラジルの税は、IPIを除き、殆どが売値に含まれる税で、最終価格の上からかかる税金であるからである。
さらにインフレが進むと金利率に予想インフレ率が加算され、金利が上がる、その金利増見合いを値上げでもしようものなら、再びすべての税金の支払い額が増える級数地獄になっているのである。
ある時点でこれ以上の税金は払えないと国内企業全部が不払い同盟を結び、もっと公平でシンプルな税法に変えてもらう必要があるだろう。
日本からの投資
6月のFIESP訪日に続き、8月始めアルキミン州知事が訪日する。今回は地下鉄4号線の建設工事の融資など国際協力銀行と調印も行う予定とのこと、一時は日本から完全に無視されていたが、少しでもブラジルに眼が向き始めたのはうれしいことである。
過去の投資で大きい成功例がないのが積極的に投資を引き出せない原因である。チエテ河の改修工事や地下鉄などに融資も良いが、現時点でブラジルの発展産業に直接関連する投資先を選んで投資すれば日本にとっても有効な投資となり、ブラジルは依然世界10指に入る重要拠点であると思うのである。
各種登録電子化の動き
本年始めよりCONECTIVIDADE SOCIAL と称して(MPS/MTE116)、企業のFGTSやGPS納税者の再登録義務が発生し、業務をINTERNET化する名目で実在の会社かどうかをチェックしている。
各企業の責任者本人をCAIXA ECONOMICAに呼びつけて会社定款と身分証明書を確かめ、面接の上サインさせる登録手続きが始まっている。登録義務期限はもう過ぎているがまだ受けつけてくれる。
収税局は個人所得の監査はCPMF(小切手税)で、法人は同じくCPMFとINPJによって電子的に監視するシステムは税収効果を上げている。
本年からは所得税申告のとき、医者や病院学校などの経費を控除する場合、CPFやCNPJを記載することが義務つけられた。また所得税とクレジット・カードの取引きとの照合も本年後半より、本格的に行うとのことで、がんじがらめに監視されることになるだろう。
FGTSやGPSの納税システム電子化の動きは、
受け取る側の個人のチェックが極めて困難のため、納税側の企業の監視から始め、将来滞納や違反があったとき企業責任者がこってり油をしぼられることになるだろう。
全伯的な不正の温床ともいうべくFGTSやGPSの管理システムを改善するには、まず納税者の存在確認から始め、ブラジル中の不正の原因となる公務員の手作業を無くさねばならないだろう。
現在ブラジルの諸税の納税額は38%程度で、今年はPIS/COFINSのの増税で39-40%になるだろうといわれているが、監視が厳しくなり、違反者の摘発が増えれば、減税の声がブラジル人の方から出てくる筈であるが、なぜか皆真面目に納税をしていて、反対運動の兆しが出てこないのは不思議なことである。
ICタグ
日本のHITACHIが開発した10円のICタグは日本のOSトロンを使用したもので、トロン改良の共同組織であるT-エンジン・フォーラムで規格統一を推進してきた。
これとは別に、国際規格の標準化をすすめている米国MITや米産業が中心のEPCグローバルという組織があり、日本の経済産業省も[響プロジェクト]として参加している。
違いはT-エンジンは商品の原産地からの生産履歴や仕様などを消費者に伝える媒体を目的にし、EPCは従来のバーコードの次世代規格として商品の移動を監視するのが目的で数メートルの距離でも読取れるようにUHFの電波を使用して5円のICタグを目標とする。
米国ではウォルマート、日本では10月半ばより三越日本橋本店の婦人靴売り場で実験開始となったようだが、来年からは在庫管理、物流の検品なども実験開始の模様である。
この種の技術は人員削減、管理作業の簡素化につながれば、短期間に世界中に広まるであろう。
ブラジルの場合、将来NOTA FISCALを廃止してICタグに変えれば発行の手間ははぶけるし、納税手配も自動化すればコンピュータにとって50数種の税金納税処理など何でもなく、ICタグはブラジル経済の救世主になるのではなかろうか。
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