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今東光 和尚の【南米漫遊記】丸善石油高等工学院の学院便り15号から転載(1)
私たちのあるぜんちな丸第12次航の神戸移住斡旋所における船待ち講習会に当時南米旅行(ブラジル、アルゼンチン)から帰国間もない人気作家の今東光和尚が馬の餞(ハナムケ)として我々を激励して下さった事実が当時の朝日新聞の記事として残っており(高根健次郎さんの寄稿文前編参照)当時の様子を覚えている同船者(神戸より乗船した人達)も多数いるようです。何とかこの今東光和尚の講話が残っていないか方々手を尽くして調べて頂いた結果、大阪府箕面市にあった丸善石油高等工学院という工業専門学校の学院だより 15号に南米から帰国後すぐの時期に春の教養講座として話された原稿が残っていました。学院だより 第15号から転載させて頂きました。写真は、今東光和尚の在りし日の英姿です。


【今東光和尚南米漫遊記】
春の教養講座から
<ヴェノスアイレス空港に到着の今先生>

禅大流行のアメリカ

 南米から帰って、はじめて皆さんにお目にかかる。きょうは一つ南米の話をいたしましょう。
 あなたがたはいま余暇に座禅をしている。たいへんこれはよいことです。私は昨年の暮れ、まずアメリカに行きました。ところが驚いたことに、ニューヨークの町で若い学生が、読んではいないけれども、禅という厚い本をみんな持っているんです。ことと右折のニューヨークの若い人がですよ。禅という本を持たないと、女お子にもてないんだそうです・・・・・。これには驚きました。いまアメリカでいろんなイデオロギーの先端をゆくものは、マルクス主義とか、民主主義とか、そんなものではない。禅なんです。鈴木大拙先生とか、山田レーリー君なんて、いま私どもの知っている禅坊主が行っているが、このときとばかり、禅坊主が稼ぎに行っている。私がアメリカへ行きますと、すぐに禅についての話が聞きたいと、もう非常に禅が流行している。
 なぜそんな若い連中に、そういう傾向があるかといいますと、一つにはフランスの小説家、サルトリが、実存主義をいい出して、それにカミュとか、あるいはボヴァーなどの女流作家らがいい出している。ところがこのフランスの実存派というものが、変っていて、若い奴がカストロのようにアゴヒゲなど生やしていて、何か無精たらしい恰好をして、実存の哲学というものをやっている。
 その実存の哲学というものは、その実存というものを追究してゆきますと、ゼイデン、ケルキゴールという北欧のドイツ系の哲学者の方にゆきます。けれどもケルキゴールをさらに押してゆきますと、禅の境地・・・・・“無”という境地に達するというんですね。どういうわけかわからないが。そして実存派は、その禅が分らないというと、何だあいつはヒヨッ子だ。禅を読んでおらんということになる。だから禅を読んで、禅の本を持っている者は、女の子にちょっといかす兄さんね−ということになって、読んでも、読まなくても、分っても分らなくても、この頃のニューヨークは、若僧がアゴヒゲをはやし、禅という本を持って歩いている。
飛行機に乗り遅れ命拾い

 私はアルゼンチンから飛び立つときに私の一つ前の飛行機が、アルゼンチンで落ちましてね。英国のコメットという飛行機なんですけれども。この前日本に来ましたフロンデスという大統領の先発隊で、政府の高官が5、6人乗っていた。それが全部死んじゃった。私もそれに乗るつもりでいたんですけれども、私がぐずぐずしゃべったりしているうちに、乗りおくれたんです。仏典の護願がありまして乗せないようにしてくれましたので命拾いをしました。
 しかし電通と産経は、僕がアルゼンチンで落ちたらしいと非常に心配したらしい。ところが、無事に帰ってきたもんですから、実に人騒がせな坊主だといわれた。・・・・・助かっておこられているんだから馬鹿らしくてしようがない。私なんて飛行機で死んでくれたらよいと思っているのが、大分いるでしょうが・・・そうなるとなかなか死ねませんよ。
アマゾン河は川にあらず

 一口にブラジルといってもね・・・戦前の級日本の22倍半、そこに全日本の人口(約一億として)の半分足らずの人口がちらばっているんだから・・・本当に道を歩いていて、どこに人間がいるのだか分らない。
 まあ、リオデジャネイロとかサンパウロとか、昔からの都市にゆきますと、人間が沢山いますけれども、今度新しく都をこしらえているブラジリヤ仁ゆきますと、ほとんど人間がいない。どうなることだろうと思って、人ごとながら心配しました。実に広いもんですね。だから人間がどこにいるんだか分らない。町にちょっと人間がかたまっているにすぎない。
 ブラジルという国は、飛行機で見ると全く広いジャングルでしょう。地球ができてから、だれも人がいったことのないという森が一面大陸につづいている。私はサンパウロとかリオデジャネイロで原稿を書きながら、しゃべったり、いろいろ用をした。まぁまぁ、せっかく日本からいらっしゃったのなら、アマゾン河を見ていらっしゃいというので、アマゾン河にいくにはどのくらいかかりますかと聞くと、サンパウロやリオデジャネイロからブラジリヤにいくのにジェット機で4時間、ブラジリヤからアマゾン河まで7時間ぐらいかかるという。すると、東京からハワイぐらいなんですね。皮なんて地べたの低いところを水が流れているんでしょう。だからわざわざ時間と金を使って馬鹿面して、見に行く人があるもんですか・・・・・馬鹿々々しいから止めましょうと私は断わった。
 しかしだいたい日本人というのは、がんこだから、そういわんで、すなおに言っていらっしゃい。イグワスという滝がある。これはナイヤガラより大きい滝だから、それも見ていらっしゃいなどという。しかし滝というものは、高いところから水が落ちているだけだからね。京都の清水に行くと、音羽の滝といって昔からいろんな歌にも詠まれた有名な滝がある。わたしは有名な音羽の滝とは、どんなもんかと見にいったら、音羽の滝というのは、馬の小便みたいなもの・・・こんなトイからちょろちょろと・・・何が滝だか分らない。けれどこれは昔から名高い滝だというから、ははあ、えらい滝でございますと見てきたことがあります。
 それでいかなる夏の日照りでも、水がきれたことがないというんだから音羽の滝・・・・・。あたりまえだよ、馬の小便みたいなものが渇れてしまったら、もう滝でも水でもないんだから・・・・・。だから昔からこのくらいの滝なら、雨水が溜まっていても滝になるだろう。
 まぁ、そういうものしかわれわれは知らないから、イグワスの滝も高いところから水が落ちているだけだ。あほうらしいから見に行かれるものか。とわしは行かなかった。けれどアマゾンだけは見ろ見ろとみんなで飛行機に無理に乗せるものだから、あまり強情をはるのもいけないと思って、まあ行くことにしまして、アマゾンの河口にあるベレムの町に行ってみた。
 翌日セスナという小さな飛行機をやといまして、アマゾン見物だ。飛び上がってみると、とにかくまっ黄色の泥のようなものが流れているのです。水らしいブルーとか、グリーンとかいうものは一つもない。ただ黄色なもの、ようかんのかたまる前のようなものが、ドローンとあるんですよ。おどろいたことに、大西洋から60キロのぼると、やっとこさに河口の町があるのです。日本で大和川を160キロのぼったら大和川どころか、奈良のどこかの馬の小便のようなところに行ってしまうでしょうね。
 この辺から、そろそろど肝を抜かれましてね。三角州がいっぱいある。それがみんなジャングルで、すっかり緑におおわれている。名前の分っているのが千百いくつあるそうです。名前のついていないものは、もう無数にあります。そのデルタは所有者は、あるような、ないようなもんですから、・・・・・先生が欲しければそれでも好きなものをお取りくださいといううんです。
 えらいことをいやがるこいつ、大統領のようなことをいうなあ、えらそうなことをいうなあと思いつつ、僕はムーっとしながら見ていた。そうするとしばらくして、向こうにジャングルにおおわれたところが見えてきたんで、僕はとうとうアマゾンの対岸を見たと思って、あれは対岸ですかといいますと、いや、あれはデルタだと・・・・・どこまで行ってもデルタなんですね。いったいあの大きなデルタはどのくらいの広さがあるんですかときくと、一番大きいので約九州ぐらいありますと・・・・・。どうだね君、これには驚いたね、僕は。そして所有者ははっきりわからない。そんなら僕があっちへ行って日の丸の旗を立てて、今東光島と名乗ってもよいんですかと聞くと、はあどうぞかまいません・・・・・。
 けれど九州ぐらいのところで、ガスも水道も何もないんだから、こいつはどうすることもできないからね。だからだれも行かないだけのことです。とにかくこれには恐れ入った。川の幅は東京・浜松間ぐらい。ギュッーと、ゴムのように伸ばしたら長さは東京〜シンガポールぐらいになるといいよる。どうも話があわない。これは川じゃないよ・・・われわれのいっている川というものは、もっと清潔で美しくて、川らしいものが川だ。・・・・・sれはもう河馬みたいなもので、“カ”ではなくてニゴリを打ってガ馬ですね。川の化け物である。それで私は、はじめてこうして見ると、日本という国は、小さくて可愛らしい・・・・・まあデルタのようなもんだなあと思って、つくづくわが国の小ささを感じたわけです。



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