山下晃明のブラジルで損せぬ法(212)(213) 実業のブラジル 2005年5月、6月号及び7月号より。
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長ロングランの山下さんの【ブラジルで損せぬ法】の5月、6月号及び7月号の2編を収録して置きます。ブラジルの為替、金利、税金と言った大きな歪みを内臓する諸問題を取り上げて真っ向から挑戦、その問題点を指摘、解説している。ブラジルに長年住み、自ら経済界でBUSSを実践している山下さんならではの切り口は、大いに参考になる。長ロングランの息の長い連載の理由であろう。
写真は、リオの国際空港ガレオンリオに着陸寸前に右手の席に座っている時に見えた20万人収容の世界最大のサッカー場マラカナンの航空写真です。少しピントが合っていませんが、素人写真でお許し下さい。1950年のワールドカップ最終戦が行われブラジルがウルグアイに負けた歴史に名高い古戦場です。
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山下晃明のブラジルで損せぬ法(212)
為替と金利がおかしいぞ!
為替と金利がおかしい。誰が見てもレアルと金利が高すぎる。原稿を書いている現在の1ドル2.372を米ドルそのものがデバリューしているからと正当視する人でも、それではレアル紙幣を米国に大量運び出してこのレートでドル札に換金できるかというと、それは無理なことを知っている。すなわちレアル通貨には平価(paridade)がなく、国際的にそんなに価値はないのである。さらにブラジルは年率で10%弱のインフレが続いているから、為替は切下がって普通でありレアル高になるのは経済的に不自然な現象である。非公式な情報では現在40%ほどレアルが高く評価されているとされている。
もう一つの見方、あなたが海外の投資家とする。利率が世界一高くとも、レアル高のブラジルに無制限に定期預金する決断が出来るかどうかだ。ユーロ高は信用しても、レアル高は今R$2.372で預金して絶対切り下げはないと確信が持てないだろう、満期にはR$3〜3.50に切り下がっているかも知れない不安を感じないだろうか。したがってレアル高はまだ本物ではない。中銀総裁殿、パロッチ蔵相殿、「インフレ対策は利率だけでなく為替も調整をしてください。放置しておいて後で一度に為替を切り下げる事態だけは絶対に避けてください。」
貿易収支は大黒字で市場にはドルが余るが政府には助ェなレアル通貨がないの理由で買上げないから為替レートが上がらない。貿易収支の大黒字の最大要因は対アルゼンチン貿易である。アルゼンチンに外貨が入らず部品の輸入が出来ないから国内市場向け製造もブラジル向けの輸出も増えず、代替のブラジル工業がアルゼンチンに供給して貿易収支が大黒字になる。アルゼンチンの輸出が正常化すればブラジルの大幅黒字も減り、レアル価値をもう少し下げないと輸出が出来なくなる道理だ。
政策的には、為替レートを保てば輸入品物価の上昇が抑え、インフレ率の高騰やそれにスライドする給料の高騰を抑えられ、またドル建GDPも大きく侮ヲされて好都合だろうが、実際のインフレは進んでいるから、2002年来の記録的なレアル高になり中小の輸出業者、特に靴や家具の業界が破綻しつつある。不自然に抑えているものはいつかは大幅調整をせねばならなくなる。皆さんご用心だ。
為替調整のきっかけとなるのは、アルゼンチンの輸出経済が復活して特に大型輸出品の自動車などがブラジルに大量入り始める時点、もう一つは何らかの理由で外貨準備が急減したときが危険だ。
政府は本年1〜3月のみで100億ドルほど買い上げてIMFなどの外債を優先的に決済している。3月輸出が月92.5億ドルとして、その40%、が余剰とすると毎月36億ドル規模の政府が市場介入が必要だ。税収は記録的好調だが、何処かへ消えてしまう分もあるので、そのためのレアルの資金源がないだろう。
税収を上げドルレートを低めにきめてドルを買い上げて借金を返す行為は、株式市場での自社株の値を低く誘導して買い上げる操作にも似ている。この場合損をするのは株主だが、前者は輸出企業などドル収入を得る人たちだ。
利率にインデグゼーションの不思議な国
利率が月数%近くにもなると、先進国では高利貸し金利と言うのだが、ブラジルの消費者金利、カード金利、小切手金利では誰も驚かない。利子にインフレを上乗せするのに慣れっこになっているからである。これはハイパーインフレ時代に預金者保護のため発明されたシステムだが、この国の将来のためにはいつか廃止せねばならない。
利率にインフレ分を加算する前にインフレを止めるべきなのである。海外の預金者より見て今のブラジルの現象は金利以外にインフレ分も稼げるすばらしい国となる。金利にはインフレ為替損見合いを上乗せしてあるのに今の為替レートはインフレにスライドせず逆に下がっているからである。為替と金利は連動している。為替も自然に調整し将来の大幅切り下げを防がなければならない。
最近、業種別利益では銀行が最高の利益を計上するようになった。企業でも本業の利益よりも金融利益の方が多い工業が増え始めた。ブラジルの金利は世界でもトップクラスだ。
公定金利SELICが5月18日に年19.75%になったが、実金利は12.50%と言われており、残りはインフレ見合いで、利率にインデグゼーションのある不思議な国である。インフレが高進するほど金利を受け取る人は儲かるからインフレ奨励のしくみである。
金利にも税金がかかることと、消費者金融の踏み倒しリスクの多いことから、スプレッド(Spread)という本来は為替などの買値と売値の差で、差が大きいほど市場の流動性が不足しているとされるのだが、金利の場合はリスク対応のための上乗せ指数として使われており、現在は対法人貸付で年14%、対個人融資には年45%も上乗せされる。
したがって月数%とか先進国であれば高利貸し並みの懲罰的な利率になるのである。
高金利は世界第2位といわれる諸税公課を押し上げ、さらにインフレ高進させる要因となる。例えばブラジルの卸業はサイトつきの販売を行う商習慣がある。したがって売り値には金利が含まれているが、インフレが少しでも進むと、売値はコストや費用の上昇の上に、さらに金利にインフレ分が加わって上がってしまい、売値にかかる多くの間接税も跳ね上がり級数効果で一層インフレを進めることになってしまうのである。
金融筋の人に言わせると資金を海外、特にユーロで調達するとドルよりかなり高くなり、スプレッドもあって、その水準以上の利率でないと海外から預金が入ってこないと言うが、
商工業の世界では今や原価からの積み上げで売値を算出する会社は生き残っていない。金融界も新意識を導入すべきであって、インフレ分は為替や価格や市場の将来性でも調整するべきで、利率のみに上乗せすべきではない。また国内の資金の供給元はすべてが海外の金融機関というわけではない。自国で印刷する通貨もあり現に農業融資などは破格の安い利子で貸し出しがなされているのである。
金利と為替論
少し理論的な話をすると自国の通貨高は金利安に、また通貨安は金利高になる。レアル高は 輸入価格の低下、輸出低迷、外国資産の価値低下、国内景気の減退、 国内物価の低下 などで金利を低下させる。また、レアル安は輸入価格の上昇、輸出増加、外国資産の価値向上、国内景気の上昇、 国内物価の上昇などで金利を上昇させる。すなわち金利と為替は連動しているのである。
金利のみを高くする弊害の一つは中央銀行の利率による景気コントロールが機狽オなくなる。米国などのように年金利が数パーセントであれば中央銀行が0.5%動かして景気を左右できるが。年20%近い公定金利のときは中央銀行が0.5%程度動かしてみても何の効果もないだろう。
4月30日、現政府で初めてルーラ大統領が「インフレ抑制を金利だけで行うのは間違っていると発言」、金利高を問題視するようになった。その後各紙が高金利論議を始めたのはうれしいことである。ただし今のところ何も変化は見られていない。
中国人民元への切り上げ圧力
4月から米国の中国人民元への切り上げ圧力が急に高まっている。人民元の動きも最終的には全世界の通貨と貿易に大影響を与えるから注視する必要がある。
5月10日に米議会に中国人民元に制度改革を迫る法案が上下両院に提出され、13日には中国製品に緊急輸入制限、綿製ズボンなど中国製の繊維、衣料3品目について緊急輸入制限(セーフガード)を発動する方針を決め、同じ日、米通商代封煤iUSTR)のフリーマン代封竅i中国担当)は13日の米下院公聴会で、中国政府に摩擦回避への取り組みを急ぐよう警告した。同時にニューズウイークやCNNが「中国の世紀」といった特集を始めたが、スノー米財務長官は26日、上院委員会の公聴会に出席し、中国人民元の改革について秋までに実質的な切り上げが実施されることに期待を示したと報道された。さらに23日には綿ニットシャツ・ブラウス、綿ズボン、綿及び合繊製下着の3品目の今年いっぱい輸入量の伸びを前年比7.5%増までに制限する緊急輸入制限(セーフガード)を発動した。
一連の出来事は、なんだか過去に日本が1985年にプラザ合意を飲まされ「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とおだてられ、USTRに繊維、鉄鋼、自動車などの輸出枠で徹底的にいじめられたシナリオの再現の感もあるが、今回の相手は「従順日本」ではない、「したたか中国」に同じ手が果たして通用するか、中国がどのように受けて立つか歴史的な見ものである。
また米国内の雑貨や繊維工業はすでに死に体で、保護してみてもいずれは淘汰される、「元」の価値を上げると逆に米国の輸入品コストをはね上げて被害を与え、中国人がドルで米国の固定資産を買いあさる結果になるだけかもしれない。ただし米国は、貿易量で輸入も輸出もすでに世界第3位となっている中国が軍事力でも米国を抜くことだけは許さないだろう。
山下晃明のブラジルで損せぬ法(213)
ブラジルの苛酷な税金
先月号の金利と為替に加えもう一つの問題にブラジルの税制がある。
本年第1・四半期の税収がGDPの41.6%になったと発浮ウれた。これは税収実額を単にGDPで割った数字であり、免税、節税、脱税をした人の分も含めた平均値だから、まじめに払っている人は当然それ以上の納税をしていることになる。対利益ではなくて、総売上の4割、どんな商売をしても100で売って平均40は政府に行ってしまい、残り60を原価、資本家、企業家、従業員で分けるという信じられない高税率である。ブラジルでは50数種の税金、基金などで徴収されるし、商品価格に含まれる税が多い。もし子供に何か仕事をさせて、40%ピンハネすると言ったらその子は絶対に働かないだろうが、ブラジルでは知らぬ間に徴収されている。
危機指数として平行ドルを見る
現蔵相パロッシの輸出奨励と引き締め政策は基本的に間違っていない、今回のブラジリアの汚職ショックも貿易収支の大黒字による為替安定がなかったらルーラ大統領も危なかったであろう。ブラジルの経済危機は先ず平行ドルが値上がりするから、これを一つの危機指数として見守ると良い。これが急激に変化したら、内部事情を知った人がドルを大量に買い始めたと見ることができる。
なお最近のブラジルは下記の現象で事情が変わって危機に強くなっている。
1)ドル余り現象
アルゼンチン工業が部品を輸入出来ず、ブラジル工業が肩代わりをしているので、消費財の同国向け輸出が好調で貿易収支が大黒字
2)中国への食品とエネルギーの輸出が急増。
3)石油の自給が近く石油高騰の影響が卵zより少ない。
4)エネルギー関連の開発輸出が見込める。
鉄鉱石の値上げ、石化ガス生産増、アルコール輸出など
5)税金の徴収がきびしく、すべての税金が、コンピュータ管理で徴収率が上がっている。
ただしこれで汚職が減っているかというと疑問である、1960年代GDPに対する税収総額が20%強のときも、やはり税収不足で、地方への支払い落Z不足、大汚職は存在したのである。FHC以後どんどん増税して税収がGDPの40%強になっても、まったく同じ状況であることに注目しよう。増税分はいったい何所へ行ってしまったのだ。
高税金の弊害
徴収方法は日本などとは異なり内税が多い
ブラジルの税金の恐さは、利益に課税されるのではなく、売上の頭から取られる「間接税」と「基金とか変な名前の税」が大変多いことと、また、その税率が異常に高いことである。
間接税が50数種GDPの43%もあってほとんどが販売額比例税のため、インフレと上記すべての要素が、未来インフレを上乗せする金利と級数効果となり、更なるインフレ高進圧力となることである。税制改革が掛け声だけで遅々として進まないが、これが今のブラジルにもっとも必要な根本問題であることに変わりない。この国の政治家は自分の事業を所有していないのだろうか、それとも彼らは税金を払っていないのだろうか。
因みに生産性の高い先進国の日本やアメリカの税金はGDPに対し25%程度で、すなわち総売上の1/4を政府に払い、残り3/4を原価、資本家、企業家、従業員で分けるのだから自然である。世界的に見てブラジル水準はドイツやフランス並で、これより高いのは揺りかごから墓場までの完璧社会保険のスエーデンやノルウエーぐらいのものである。他の中南米諸国は20%以下が普通であるからブラジルの41.6%はいかに異常であるかがわかる。スエーデンなどと大きく異なるのは、国の提供するサービス、とくに社会保険などは常に大赤字で機狽オたことがなく、ブラジルでは政府系企業でも幹部社員のために民間医療保険を並行して払っている。これがないと大病は患えないのである。
税金の取り立て電子管理
数年前の小額の税収不足額の請求が突然来ることがある。収税局は過去の納税額をコンピュータでチェックして数年以上前の計算の誤差などを時効前に請求してくる。泣きつけば数年払いの有利子分割払いにしてくれるが、知らずに放置すると国に訴訟される。それが例え1レアルであってもCNPJが「Irregular」になり、企業として身動きが取れなくなる。
さらにSERASAという消費者信用審査の組織があり、不渡り小切手の常習犯などを登録するシステムだが、ここへ連邦裁判所より通知され、「連邦政府に債務があって訴訟中」と記載され月賦で品を買うことが出来なくなる。
過去に何かの会社の出資社員(Socio)に名義を貸したことのある人はCNPJ(昔のCGC)を覚えておいて、ときどき調べて見ることをおすすめする。会社が変わっても役員が同じであると現在の会社に迷惑をかけることになる。
現在多くの税金の納税状況がWEBで見られるようになった。
法人税関連
Certidao Negativa de Debitos de Tributos e Contribuicoes Federais
Consulta Declaracoes Pessoa Juridica
CNAE - Classificacao Nacional de Atividades Economicas
CNPJ - Cadastro Nacional de Pessoa Juridica
Inscricao de Pessoa Juridica Domiciliada no Exterior
SERASA
自然人関連では
CPF - Cadastro Nacional de Pessoa Fisica
Certidao Negativa de Debitos de Tributos e Contribuicoes Federais
一時マック平価というのが注目された。
その国のマクドナルドのビッグ・マック一つの価格を基準にして為替レートを逆算比較するのである。
税金の高い国の輸入品の価格を比較する手法としてこの逆算為替レートは使えそうだ。ある商品や部品の同じモデルが先進国でUS$50で売っているとする。ブラジルでR$350で売っていると350/50=7だからUS$1=R$7とするのである。この価格には為替レート、関税、工業商品税、流通税などの税金が含まれているが、そのような面倒なものを無視して進出先の国の物価を比較することができる。
日本のセルラー
最近日本からの旅行者で、日本の電話番号そのままで、ブラジル国内でも使えるセルラーを持ってくる人が増えている。成田空港にもレンタル・サービスがあって、旅行前に借りて自分のセルラーのチップと入れ替えると日本国内と同じように旅先で使えるのである。
ブラジルに旅行中も日本から普通に電話がかかってくるし、ブラジルでも在住の知人にローカル料金で電話がかけられる。唯一用心せねばならないのは、ブラジルの側で、彼が横に座っていても彼のセルラーに電話すると国際料金を徴収される。
逆に訪日した場合はどうなるか。成田空港にレンタルはあるが、日単位で通話料と保険料を払うので一ヶ月も滞在すると3万円以上になる。「保険は要らない」と言うと、「もし紛失すると10万円いただきます」と脅される。日本の場合はレンタルよりもプレペイカードのセルラーを買った方が安くなるようだ。通話機狽セけのモデルなら「1円」からあるし、カメラがついてe-mailが送れる機種でも1万円程度から売っている。インターネットを時間制限なし日本国中で使えるパャRン用カードもハードは「1円」で売っている。こちらの接続料は月4500円ほど払えば良いのである。
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