「日系企業に社会的責任への姿勢を見る」サンパウロ新聞廣居あゆみ記者 四回連載。
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サンパウロ新聞社で研修生として現場で取材、署名入りの記事を書かせて貰う機会に恵まれ頑張っておられる鹿児島県人会の呼び寄せ研修生の廣居あゆみ記者が四回に渡り自分の足で取材、日系企業の社会的責任と云う大事な視点からNSK(日本精鋼所)、味の素、丸紅/イグアス社、ブルーツリー(ホテルチェイン網)の四社を取材上手く纏めています。日本からの進出企業は、最近では、大なり小なりCoporate Social Responsibility 社会的責任と言う観点から対応して行く必要があるとの認識が高まっており廣井記者がその代表的ケースとして4社を取り上げています。各社共、独自の形で社会的責任を果たそうと努力しており参考になります。
写真は、第三回に取り上げられている丸紅/イグアスコーヒー社の欄で掲載さえていた写真をお借りしました。〔写真:イグアスコーヒーの河野社長(中央左)と中村丸紅ブラジル社長(中央右)、高橋基金理事長(右端)〕
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日系企業に社会的責任への姿勢を見る@ 環境や人権への配慮も サンパウロ新聞WEB版 9月26日
企業の社会的責任= Coporate Social Responsibility
経済のグローバル化とともに企業が社会全体に持つ影響力が広がり、企業が単に営利を行動基準とするのはなく、環境や人権、雇用などの社会問題に配慮し、社会的責任を持って行動することを求められるようになった。日本では、雪印食品の偽造牛肉事件や三菱自動車の欠陥隠しなどの不祥事がきっかけとなり、CSRが重視されはじめ、企業の利益追及とCSRの実践の両立が企業の持続的発展に不可欠な要件になってきた。また、CSRへの取り組みを基準として、投資先を選定する社会的責任投資(SRI)が注目されてきている。
《利益追及だけでは生き残れない》
近年、企業は単に利益を追求するだけでなく、企業活動に環境や人権への配慮、地域貢献などを組み込んでいく「企業の社会的責任=CSR」が強く求められている。しかし、ブラジルにおいて「日本の進出企業はCSRに対して意識が低い」、「CSRをしていてもアピールがない」という声をよく耳にする。ブラジル日本商工会議所(田中信会頭)は二〇〇六年三月に同会議所会員企業に対し「企業の社会的責任」の取り組み状況を調査するためアンケート実施した。約二百九十社にアンケート用紙を配布したが、回答とした企業は二十社にとどまった。ブラジルに進出している日本企業のCSRの実情を知るため、同商工会議所マーケティング広報担当で日本精工ブラジル社長の杉村秀一郎氏に話を聞いた。
「欧米と比べたら、日本企業のCSRへの取り組みはまだ遅れている」と杉村氏は断言する。「欧米にはもともとボランティア精神というものがあり、それがない日本でCSRが根付くには時間がかかる」という。また、「CSRを収益や競争力につながる投資と考えるより、コストとして捉える傾向があり、このことがCSRの浸透を遅らせているのかもしれない」と話す。
「ブラジルに進出している日本の企業は工場を拠点とし、部品などを作っているメーカーが多い。こうした企業の場合、大半が進出当初から工場のある地域への貢献活動を実施している」と実情を語る。地元の病院の建設資金提供や学校への教材の寄付などを例として挙げた。「しかし、それらの地域貢献活動を、欧米の規模、視点の大きいCSR活動と比較すると、どうしても小さく見えるためにアピールがないのかもしれない」と分析する。
また、消費者の手に渡る最終商品を作っている企業にとってはCSRによって企業イメージが上がり、商品の売れ行きが伸びるというはっきりとしたメリットがある。しかし、「メーカーなど最終商品を手掛けない企業にとってはそのような戦略がないため、CSRのアピールがないのでは」と杉村氏は考察している。
杉村氏は、工場を持つ企業の大多数が地域貢献活動をしているという一方、CSRが販売促進に繋がるという明確なメリットを持たない企業においては、従業員の働きやすい環境づくり、環境への配慮など法令順守の枠を超えた取り組みが見られないのが現状だという。
昨年二月に「企業の社会的責任分科会」を設立したブラジル日本商工会議所が実施したアンケートには、公園への桜の植樹、職業訓練校へのパソコンの寄付、慈善団体への運営資金の寄付など様々な分野におけるCSR活動が見られる。その中で、教材の寄付や貧しい子供たちへの補完教育を行う機関への援助など教育の分野への活動が最も多い。「ブラジル社会の必要性を反映したもの」と杉村氏はいう。
日系の病院や福祉施設、文化団体、学校への協力や寄付は、アンケートに回答した多くのの企業が実施しているが、杉村氏は「企業によって日系団体への寄付をCSRと捉えるところと捉えないところがある」と説明する。要するに日系コロニアに対する寄付はCSRではなく、「お付き合い」として支出している側面が強いようだ。
また、日本進出企業のCSRの特徴として全体的に短期間で実施されるものが多く、杉村氏は「進出企業の責任者は四年、五年で任期を終えて帰国するので中・長期のプロジェクトが実現できない」と指摘する。
ブラジルの日本進出企業のCSR活動のアピールについて杉村氏は「日本人の道徳意識から、良い行いをアピールするということは難しい」という。社会貢献の取り組みをアピールすることは「勘定高い」とされ、逆にマイナスイメージを与えるという考えがある。
ブラジルにあるアメリカ、ドイツ、フランスの商工会議所では、CSRの普及のため各会議所会員企業のCSR活動を表彰する制度を持っている。杉村氏は「今後、他国の商工会議所のように、日本商工会議所でも会員企業のCSR活動を評価、表彰する制度ができる可能性はある」と話した。
(つづく 廣居あゆみ記者)
日系企業に社会的責任への姿勢を見るA 「食と健康を通じた社会貢献」味の素 サンパウロ新聞 9月26日付けWEB版
《事務所・各工場で地域社会に対応》
ブラジル進出して今年五十周年を迎えたブラジル味の素グループの社会的責任(以下CSR)への取り組みについて、味の素インテルアメリカーナの佐川ウンベルトさん(広報担当)に話を聞いた。
佐川さんはCSR活動は「世界的な一つの使命」だという。同社では「食と健康を通じた社会への貢献」を理念に置き、健康、栄養、教育、文化の分野でCSRへの取り組みを見せている。
「企業として成長を遂げ、社会的責任も生まれた」という佐川さん。同社は、一九九九年に社会貢献財団「インスチチュート・アシステンシア・味の素(IAA)」を設立。サンパウロ事務所、リメイラ、ラランジャ・パウリスタ、バルパライゾ、ペデルネイラスの四つの工場から挙がってくる要請をIAAが優先順位をつけ、実施している。
【サンパウロ事務所】
「専門知識を持つNGOとパートナーシップを図ることにより効果的なCSR活動を行うことができる」と佐川さんはいう。サンパウロ事務所では、アッサオン・コムニタリオ・ド・ブラジル(以下ACB)いう聖市内の貧しいコミュニティーで補完教育を行うNGOに対する支援を行っている。二〇〇一年には老朽化していたACBのコミュニティー・センターの改修を行ったほか、一年にわたり清涼飲料水、調味料を提供した。
また、三か月に一回、社内でボランティアを募り、ACBに通う子どもたちを動物園や科学センターなどの社会施設へ招待し、引率する従業員参加の教育プログラムを行っている。「ボランティアを募ると、毎回たくさん集まりすぎて、断らないといけないんです」という佐川さんの言葉から従業員のCSRの理解の高さが伺える。「プログラムに参加する従業員も子どもたちと接する機会を喜んでます。プログラムの実施を三か月から月に一回と頻度を増やしたい」と佐川さんは語った。
【リメイラ工場・バルパライゾ工場】
リメイラ工場では、二〇〇四年に障害者の支援団体APAEと雇用契約を結び、同団体所属者の採用を行なっている。また二〇〇五年には、入所者の労働市場へのアクセスを容易にするためパソコンを寄付した。
さらに、二〇〇三年にはカンピーナス州立大学食品科学部教室を改修を行い、同学部とのパートナーシップを結んでいる。佐川さんは食品科学部へのスポットを当てた支援について「食品企業としての役割を踏まえたCSR」と話す。
バルパライゾ工場では地元市役所と連携し、貧しい地域の子供を対象に化学と食品学の教室を開設。また市が運営する職業訓練センター(CIT)の調理室を改修したたほか、料理教室のプログラム継続のため、調理器具やユニフォーム、調味料を寄付した。「工場は所在する地域と密着に繋がっているので、工場とコンタクトをとり、IAAが要請を検討します」と佐川さんはCSRの取り組みが実施にいたる過程を説明した。
【従業員に社会貢献のチャンスを】
このほかにも、味の素本社では従業員の個人のボランティア活動を表彰する「ボランタリーアワード」というシステムがあり、二〇〇五年度は全世界から十四人が表彰され、そのうち半数にあたる七人がブラジル味の素グループからだった。
佐川さんは今後の同社のCSRの展開として「個人ではできないことを味の素を通してできるように従業員にチャンスを提供したいと考えている」という。また「食品企業として、貧しい地区のコミュニティで、味の素で働く栄養士による食事の指導を行いたい」と話している。
(つづく 廣居あゆみ記者)
日系企業に社会的責任への姿勢を見るB 「教育支援が本当の社会貢献」丸紅 サンパウロ新聞
《昨年丸紅イグアスコーヒー奨学金を設立》
「教育への支援は、本当の意味での社会貢献になる」とイグアス・コーヒーの河野敬社長は、丸紅ブラジルと共同で創設した「丸紅イグアスコーヒー奨学基金」について語る。
昨年八月、創立五十周年を迎えた丸紅ブラジル(中村純一社長)は、傘下のイグアス・コーヒーと共に、貧困層子弟を対象とした職業訓練学校生への奨学金制度設立を発表した。
今年六月には聖市内の丸紅ブラジル内に奨学基金専用の事務所が完成し、来年度の新学期に合わせ活動開始できるよう諸手続きを進めている。
この奨学金制度を考案したのは、丸紅ブラジルの中村社長。中村社長がフィリピンに駐在していた一九八九年、「丸紅フィリピン教育基金」が設立された。「フィリピンでは、子供たちが学校に行かず、不衛生なゴミの山で空き缶やプラスチックのゴミを拾い集め働いている状況だった」という中村社長。丸紅は教育基金を設立し、孤児院の子供たちの学校の授業料援助を行った。「ブラジルにも子供たちに教育を受ける機会を提供できる奨学制があればと思った」と中村社長はブラジルでの基金設立の動機を語る。
この奨学基金は中期の教育支援で、年間数人の職業訓練校の学生を対象に授業料、教材費などに奨学金を充当し、学校を卒業後、就職するまで贈与する。奨学基金について説明してくれた丸紅ブラジルの伊藤聖治さんは「奨学制度によってブラジルの子どもたちの未来が切り開かれることを期待している」と話した。
環境、社会、文化など様々な分野での活動が展開されているCSRのなかで教育を重視した取り組みについて河野社長は「教育が十分でないために犯罪が起こる。全ての根源は教育にあるといわれるように、教育への取り組みがブラジルへの一番の貢献と思う」と語った。
また、河野社長は「人を育てるのは百年の計画だ」という。「イグアスコーヒーは今年で三十九年目を迎えるが、設立当初から現地の人間のなかから技術者を育成するなど、人材づくりに取り組んできた。現在、技術者は全員ブラジル人です」と自負する。
イグアスコーヒーの工場があるコルネリオ・プロコピオは、人口三万人の町で約千人の雇用を生み出している。そのなか、託児所、孤児院、市営病院に対する資金援助、職業訓練校へパソコンを寄付するなど地域貢献に取り組んでいる。その仕組みは、地域の声を従業員を通して聞き、上がってくる要望に優先順位をつけ、その順に実施していくというものだ。
河野社長は「同奨学基金で育った人材のなかから、将来丸紅、イグアスで働く人物が現れたら嬉しい」と期待を語った。
(つづく 廣居あゆみ記者)
〔写真:イグアスコーヒーの河野社長(中央左)と中村丸紅ブラジル社長(中央右)、高橋基金理事長(右端)〕
日系企業に社会的責任への姿勢を見る・終 「先頭に立って社会に広める」サンパウロ新聞
《慈善団体への寄付が重点》
「先頭に立って企業の社会的責任(CSR)に取り組むことで、それを社会に広めることができる。そして良い社会を実現できる」とブルーツリーホテルグループの青木智栄子代表は熱い思いを込め語る。前回、前々回の連載でブラジルに進出している日本企業のCSRを紹介したが、最終回となる今回はブラジル地場の日系企業の取り組みを紹介する。
一九九二年にシーザーパークから独立し、一九九八年にブルーツリータワーと名称を改めた同社は、設立当初からCSR活動を展開している。
青木代表は「ホテルは大量に物を消費する。けれど、ブラジルには物が買えずに困っている人もいる。そう思ったとき、ホテルとしてのCSRを果そうと思った」とCSRに取り組むきっかけを話す。
活動にはホテル全体の取り組みと、二十七あるホテルがそれぞれ独自で取り組むものと二つに分けられる。
ホテル全体の取り組みの一つには「連帯プロジェクト」と呼ばれるものがあり、慈善団体への寄付を目的に金曜、土曜、日曜にホテルの宿泊客に二キロの食糧、もしくは一冊の本を持参してもらう。そのかわり、ホテルはプロジェクトに協力する客の宿泊料を通常料金の半額にするというもの。「ホテルにとって良い形でCSRを進めたい」という青木代表。プロジェクトを実施する前は、週末の宿泊客は少なかったが、このプロジェクトによって三十五%稼働率があがったという。集められた食糧、本は各ホテルが協力、連携している慈善団体に寄付される。
「ホテルは大量消費を生ずる」というだけあり、ホテルから出るゴミのリサイクルは徹底している。同グループは全ホテルでゴミの分別を厳守し、ペットボトルや空き缶などリサイクルできる物は全て再生業者に持ち込む。再生業者からリサイクル資源を売って得た利益は五〇%を慈善団体に寄付し、二〇%はCSR活動のための資金に使われる。
「社員一人、一人が何かできる、地域に影響を与えることができる、社会貢献できることを知って欲しい」と話す青木代表。このリサイクルプロジェクトも一人の社員の提案から初まった。
また、各ホテル独自のCSR活動はそれぞれ特徴があり、ブルーツリータワーズフォルタレーザでは、恵まれない子供たちへの補完教育、職業訓練を行う団体と連携し、ホテルで六か月間ホテル業についての無料の研修を実施している。このプログラムでは「従業員が教えるという立場に回ることで自身に自信を持つようになり、張り合いを持って仕事をするようになった」というよい循環を生み出しているそうだ。
その他に、サンパウロ市内にある八つのホテルでは、地方からガンの治療に来る子供とその家族にホテルの部屋を無償で提供している。「ピエロを呼んだり、子ども達の精神的なサポートを心がけている」と青木代表は話す。
今後の同ホテルのCSRの展開について青木代表は「物をあげるのは簡単なこと。これから教育を重視したCSR活動を行っていきたい」と話した。そして「社員に自分が得たものを社会に還元するという気持ちを持ってほしい」と思いを述べた。
(おわり 廣居あゆみ記者)
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